落第騎士の兄の戦嗜譚【一時凍結】   作:倉月夜光

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この世界の日常

「さぁ!!今日も今日とて我らの戦いは続きます!!」

 

 

 

 競技場にマイクからの声が響く。

 その声はドームの各地に設置されているスピーカーから響く。ドームは半球状に出来ているので天井が高くできており、外周に近づくほど天井が近い。そのことから円状に外側に存在する観客席は比較的上を見上げればすぐに天井を見ることが出来る。そのいたるところにあるスピーカーが互いに音を反響させて、一つ一つが実際に発生させている以上の音量を観客へ届けている。

 

 そのドームの中央には二人の人影。

 それぞれの手には得物、つまるところは相手を傷つけるための道具が握られている。

 

 

 片方の男の手には武骨な日本刀、無駄な装飾は無く、本当に敵を切り裂くということに重きをおかれた刃である。

 もう片方の女の手には手を保護し、相手を殴るナックル、拳打の攻防に特化するその武装を所持するのは小柄な少女。その姿はそのような物騒なものを持つような物ではなく、オシャレが似合うような可憐な姿をしている。

 

 

 が、

 

 

 

「黒鉄君だよね!!アタシの名前は兎丸恋々っていうんだ!ヨロシク!!」

 

 

 同時に活発そうな姿もしている。

 服装は下が足の動きを全く妨げないような超短パン、俗に言うブルマのような物を履いている。上は当然のごとくノースリーブ、脇が全て観衆の目にさらされるような少しばかり目に明るい格好である。

 彼女の肌は目に映るすべてが日によく焼けており、活発かつ健康な肢体が多くの男たちの目を引き付けて離さない。

 

 

「知ってますよ。というか、この学園であなたを知らない人はいないでしょう?この学園最強の集団、生徒会四人のうちの一人、速度中毒(ランナーズ・ハイ)の兎丸さん」

 

 

 そう、彼女こそがこの学園でトップ5、片手の指に入る実力者と言われるほどの使い手であり、生徒会のメンバーでもある兎丸恋々(とまるれんれん)である。

 

 

 なお将季も生徒会に誘われたことはあるのだが、仕事がめんどうだという理由で断った。強者という一点では文句無しなのだが、責任ある立場に縛られるのは御免という結論になったのだ。特待生として入学してもらったという学園側の妥協もあり将季の機嫌を損なわないように、入るということは強制などもされず将季は一般生徒のままである。

 

 

「いや~~、黒鉄君みたいに強い人と戦えるのは嬉しいかな。正直お兄さんの方は強すぎてね……。アタシは近づくことも出来ないのだ」

「アハハ、僕も本気でやられたら無理ですから……」

 

 

 あの兄の能力は継戦能力と言うか、生存能力については本当にチート染みている。

 

 あの人が本気で戦うとしたら確実に近付けない、剣を当てることが不可能だ。そもそも彼我の距離を単純に数キロメートル離されればそれだけで詰む。例えれば戦闘で絶対に敗北しない能力とも言えるだろう。流石に因果操作系の能力者には負けるかもしれないが、自力も高水準のあのハイスペックな存在に勝つ姿があるというビジョンがなかなか見つけられない。

 

 長距離(ロングレンジ)の攻撃を持っていたとしても、その射程範囲まで近づけない。しかも本人の攻撃は射程距離無しと来た。彼は対象が見えて、空間が連続して繋がっていれば確実に攻撃を通せると言っていた。流石に壁やガラスを隔たりすれば攻撃を通すことは出来ないが、それでも十二分に強力な異能(チカラ)である。避けることは可能だが、一方的に攻撃を続けられるのは精神的に辛い。というか永遠と避けることは肉体に貯まる疲労的に不可能である。ほんとどういうラスボス性能をしているのだろうか。

 

 

「ああ、そういえば黒鉄君は同年代なんだろう?敬語とかは気にしなくていいぜ?」

「そうかい?じゃあ、そうさせてもらうよ」

 

 

『さあ!そろそろ試合開始時間です!!解説の将季さん!この試合はどう見ますか!?』

『いやぁ、負けたら我が弟をしごき直さなきゃいけないよね』

 

 

 何故かこちらが危険を一身に背負っているような気がするのだが気のせいだろう。目の前、対戦相手の女の子さえこちらへ憐憫の目を向けているのは気のせいなのだ。……そう、思いたい。

 

 

 初日からずっと、将季は一輝の試合があるスタジアムの解説役を引き受けていた。

 同年代の騎士の解説ということで親近感を持つことが出来るし、そもそも彼以上に武芸に秀でているものは世界中を眺めても少数しかいない。そのレベルの人物なのである。三歳の頃から剣を振り続けているのは伊達ではない。

 

 

 まぁ、兄が何を言おうが自分には関係ないことだ、と一輝は意識を切り替える。

 

 

 

 ―――どちらにしろ、自分は負ける気は全く無いのだ。

 

 

 

 意識を研ぎ澄ます、ここからは戦闘だ。

 

 

「おっ?やっぱり、いいネ……!!」

 

 

 あちらも意識をこちらに集中、外の音が二人の間からは消えていく。

 

 

 

 

 

 

『試合開始ぃぃ!!!!』

 

 

 その瞬間から、二人は他の全てを置き去り、動き出す……!!

 

 

 

 

 

 

     ☆

 

 

 

 

 

 

 この試合で一輝が気を付けることはそう多くない。

 

 兎丸の能力は特に一輝にとって脅威ではないからだ。

 兎丸の能力は確かに速い。だが、それだけだ。武芸に通じている人が集中して見れば目で追うことも出来るのだ。ある程度の距離を取っていれば、一輝レベルの武術の達人ならば集中していれば空気の振動の変化で攻撃の瞬間を感じ取ることまで可能なのだ。

 

 だが、あえて一輝は相手に向かって自分から突っ込む。

 

 兎丸が弱いと言っている訳ではない。むしろ、兎丸の実力は同年代の騎士ではトップレベルだ。だてに生徒会の一員に選ばれている訳ではない。その実力が買われて生徒会に抜擢されているのだ。

 相手が近接戦闘型の騎士ならば、自分の間合い(クロスレンジ)で負けることはできない。速さ特化の、学生騎士の中ではトップレベルの実力の持ち主が目の前にいるのだ。

 

 

 

 ならば、()()()()()()()()()()()()!!

 

 

 

 

 

 

 兎丸は試合開始と共にその場で小さなジャンプを刻み始めた。

 

 自分の速度は時間が経つにつれて最高速に近づいていく。

 ならばその速度に到達する前に攻略するという戦い方が、自分に挑んでくる相手の心理だろう。その想定通り、対戦相手の黒鉄一輝はこちらに向かって突っ込んでくる。

 

 だが、

 

 

(そんな当たり前のことに対策していない訳ないよね……!!)

 

 

 恋々とて生徒会の一員、日々上を目指して努力を続けてきているのだ。

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

 普通に走り出す速度も普通の相手ならば十分だが、恋々は()()()を知っている。

 

 

 

 黒鉄将季

 

 

 

 あれは本当に何なのだろうか。

 

 近距離用の抜刀絶技(ノーブルアーツ)の持ち主でもないのに近、中、遠距離全ての戦闘に秀でている。

 

 近、中距離は自分の固有霊装(デバイス)で対応可能、遠距離は能力で完封。近距離での戦闘は刀術、これは黒鉄家で雇われた師範に一通り習い終わってからも自身で改良を続けている。中距離戦での銃術、これは魔力でできているからか射撃の反動も小さく、狙いをしっかり固定して射撃すればよい。遠距離は能力での無双。

 

 本当にラスボスかよと言いたくなる。しかもまだ現在も戦闘に関しては成長しているそうだ。彼はどこを目指しているのだろうか。

 

 そして、目の前の相手はその化け物の弟だ。それも実力的に目を掛けられているレベルの。その男が弱いわけがない。なぜ留年したのかは詳しく知らないが、その実力はこの学園の中でも上位に入るのだろう。

 

 

 

 一輝の正面から接近すると彼は剣を体の横に構える。それが当然の対処だ。自分に向かって今の勢いのまま剣を振り切ればその分のスピードが剣のエネルギーに変換されるのだから、体を一刀両断するには十二分な力を斬撃に乗せられる。

 

 

 だが、甘い。

 

 

「―――っふ!!」

「――――――!!」

 

 

 ―――急加速

 

 

 その場から一瞬で1()0()0()()()()加速した兎丸は、一輝の後ろでUターンする。

 

 一輝はその動きに目が付いていかない。

 単純なことだ、人間の脳は急な変化に弱い。ただ、人間の反応速度では反応しきることが不可能な加速をしただけである。

 

 当然だが、この技術にも欠点が存在する。

 加速するだけであって、細かい走路の決定が出来ないのだ。急な加速は自身に大きな負荷をかけることや、自分の意識が未だについていかないこともあり、加速しながらの攻撃などは未だにできない。

 

 だから、一輝の後ろに回り込んだ。

 相手の視界の外に入っているだけで得られる戦闘でのメリットは多い。人間が周りの状況を把握する際に視認情報を頼りにする割合は、一般的に80パーセントと言われている。それだけ、相手に情報を与えないということだ。訓練しだいでその割合は変わるが、それでも視覚による情報入手の量は非常に多い。

 

 

 そこからドームの円状の周に合わせて加速を続ける。黒鉄一輝と戦うのは自身の最高速に乗ってからだ。

 それは彼と言う一騎士を認めているから以外に理由がない。

 

 

 

 一輝は兎丸が加速に入ったことを理解した。

 

 その速度に追いつくことは自分では不可能だ。いくら武術を修めたと言っても人間の肉体的に成長限界点は存在する。人の出せる速度に限界はあるし、兎丸の場合それを魔力を駆使して超えているだけだ。魔力の少ない自分がその手段をとることは出来ない。

 

 そして、あの急加速は今まで使用したことは無かった。つまりこちらに過去、今まで晒していなかった手札を晒したということはそれだけこちらを認めているということだ。それだけで非常に嬉しい。

 

 だが、今回の勝負は自分も負けられない。

 

 

 

 一輝はその場にとどまり、目を閉じて集中する。

 

 視覚が情報入手手段のほとんどと言っても、聴覚や触覚を侮ることは出来ない。その感覚を研ぎ澄ませば視覚に頼らずとも日常生活を送れるようにもなるのだ、武術を修める者にとって聴覚は必ず重要視されるものである。

 

 兎丸の走っている場所は音で判断をすることも出来る。速度は超一級だが、自然と発生してしまう足音を消すことは出来ていない。あえて視覚を遮ることで、聴覚から情報を取り入れることに集中する。

 

 

 

 

 

 

 ───やがて二人が交差し、

 

 

 

 

 

 

 ───この試合の決着がついた。

 

 

 

 

 

 

      ☆

 

 

 

 

 

 

「今日もありがとうございました~~!!」

「おう、また次回な」

 

 

 将季は解説担当だった放送部の生徒に手を振りながら道を歩く。

 

 今日も一輝の連勝は止まらなかった。

 対戦相手が生徒会の一員だということで校内では連勝もここでストップだろうという話が流れていたが、そんな噂は知らんとばかりに今日も危なげなく快勝したのだった。

 

 決め手は将季の知っている勝ち方とは変わらなかった。

 接近してきた兎丸の服を掴んで回し投げ、地面にたたきつけて気絶させ終了。スタートの動きが違っていたので何か変わるかとも思ったが、やはり斬ってしまえば相手の命に関わってしまうという考えがあるのだろう。

 

 

(その辺の認識はまだ甘いかな)

 

 

 将季は()()()()()と言うものを良く知っている。外国を回る際に危険に陥ったことや自分から突っ込んでいった回数は両手の指では足りない、というよりも

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