世界の中心で愛を叫んだ十六才   作:荒地

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縦書きにすると変になると気づいたので、サブタイ変えました。


急襲/少女 -2

 男は、見えない壁にナイフを突き立てたまま、怒りをその顔に爆発させていた。唇がめくれ上がり、歯を潰れそうなほどに食いしばり、目が飛び出て、顔中に青筋が立っている。ぶるぶると体が震えている。地響きのようなうなり声まで聞こえる。鬼の形相に、体が凍りつく。体がひどく震える。女の子は、それに対峙しても、怖じず、なお不敵な笑みを浮かべたままだった。俺に抱きついた姿勢のまま、右手を男のほうへ掲げた。

「帰ってください」

 男の顔がさらに歪んでいく。

「さもないと、ね」

 男は女の子から目を離さず、ぎりぎり歯軋りしたままで、ナイフを引いた。箪笥から離れていく。女の子が掲げた手を下げた。ドアの向こうに男が消えても、女の子はその方向を見つめていた。それからしばらく経って、ふっと息を吐いて気を緩めた。一仕事終えたというような表情だ。いつからか女の子の服の裾をぎゅっと握り締めていた。手が動かない。その固まった手に女の子の手が重なる。女の子が俺の方に向き直る。さっきと違う、輝くような満面の笑み。嬉しいって感情が心と心で直接伝わってくるような顔。すこし体の力が抜けた。心に余裕が戻ってきて、気づいた。美しい顔が目の前にある。俺と女の子との距離の概算は五センチメートルほどか。顔に血の気が余分に戻ってきた。

「さあ、行きましょうか!」

 どこへ。と、問いかける間もなく、女の子が俺の胸に飛び込んできた。腰に手を回される。きつく体を抱きしめられる。その軽い体重が、たぶん、同じくらい軽い俺の体重によりかかる。そのまま、箪笥の中に敷いた布団に押し倒される。きっと俺の心臓の早鐘が、女の子によく聞こえていることだろう。恥ずかしくなって、背後に横目を使う。あるはずの布団が無かった。影というには黒すぎる、一切の光の無い闇が広がっていて、体を支えようと反射的に伸ばした右手がその中に吸い込まれていって、「ふぁ!?」とか変な声を出しながら女の子と一緒に箪笥の中へ落ちていった。

 体中にまとわりつく不快な浮遊感に耐えられず、自分の胸の上に感じる女の子の頭を抱きしめた。「ふにゅ」とか変な声が聞こえて、女の子の腕に力が篭る。顔を上げると、ずっと上の方に小さな明かりが見えた。あれが、箪笥だろう。そこから真っ暗闇が広がっている。何だかよく分からない物体が、いくつか見える。泳ぐ魚のように漂う青い五線譜。上へと沈んでいく乳白色の自由の女神の頭。赤い一万円札が目の前を通り過ぎたと思ったら、それが弾けて、中から赤色が広がっていく。一瞬にして、世界が真っ赤になった。内臓の浮遊感が止まらない。気持ち悪くなってきた。

 俺たちはさらに(おそらく)十数分落下し続けた。その間に背景色が何度も変わって、最後はまた黒に戻った。謎の漂流物が無くなって、無数の光点が現れた。星みたいだと思って眺めていると、腕の中にいた女の子が顔を上げた。

「先輩、そろそろですよ」

「何が?」

「地面です」

 女の子が腕の中からするりと抜け出し、軽やかに着地する。俺は尻餅をついた。一瞬体が強張ったが、痛みもなければ、衝撃もなかった。長い距離を落ちてきていたはずなのに。

 手を突いて立ち上がると、手のひらに灰色の砂がこびりついた。尻をはたいて、砂埃を落としながら、辺りを見回す。頭上に広がるのは、ネットに転がっている画像でしか見たことのないような、輝く銀河に星々。今、俺たちが立っているのは、一面灰色の砂で覆われた土地。ところどころ、クレーターのようなへこみがある。月面写真に似ている。何となく振り返ってみると、逆さになった箪笥が、浮かんでいた。ここは、

「どこだ」

 夢でも見てるんじゃないかと、今になって思った。目の前にいる、夢みたいな女の子が、かわいらしく首を傾けて笑った。

「超現実へ、ようこそ先輩」




ところで、この作品、同じ荒地作品のひっちゅーと一部設定を共有しております。内容は全く違うのですが、出発点は大体同じです。
ところでところで、ハーメルンて、次話投稿、保存押したらすぐになされるんですね。
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