木漏れ日の中、目覚めるという、初めての体験をした私は、朝食の準備を進める。
[ここが、何処かも分からないから、携行食は節約しなくちゃね]
森の中を見渡すと、小動物らしき影を知覚することが出来る。
遠目に見える、その動物たちはゲーム内では見ない種類だった。
[やっぱり、ユグドラシルの世界じゃなく、別世界なのかな?]
[まぁ、別世界だったとしても、暫くはサバイバル生活かな?]
[すぐ移動するにしても、食糧が確実に手に入る保証もないし、保存食でも作っておこうかな?]
[まっ!私一人しか居ない世界なのか、他にも人間が居るのか調べるのは、もう少し時間がいるわね]
一応の先行きを自身のなかで、決定したファントムは、少し温くなったコーヒーを一口飲み、空を見上げ伸びをした。
ファントムは、野営道具を片付けていく。
この場に、自分が存在したという痕跡も消していく、だが暫くは、この地を拠点として行動してく心つもりなので、ポイントマーカーだけは設置しておく。
ポイントマーカーの作動をバイザーモニターで確認後、
パワードスーツを操作し、周りの景色の中に溶け込んだ。
そして、ファントムは、この世界での本格的の一歩を踏み出した。
基本飲み水が確保出来る、小川沿いの調査をするつもりだ
今までの任務による偵察ならマップデータがあるので、数時間で半径数キロの調査は済むのだが、未開の地であり、食糧の確保などの付帯条件があるので遅々として進まなかったが、彼女には焦りなどの感情は無く、ユグドラシル内で初めて体験するフィールドを冒険した時の、昂揚感に包まれていた。
[でもな~、ユグドラシルのスキルなんか使えたら、もっと楽に調査なんかも出来るし、楽しそうなんだけどな~]
数日間の森林調査で、代わり映えしない景色だけで、そんな昂揚感も無くなっていた。
最初の野営地に設置したポイントマーカーと現在地の位置情報を確認し、野営の準備を始めた。
装備をテントの中に置き、軽装で夕日が沈むさまを眺めていた時、鳥たちが一斉に飛び立った、その瞬間森の中から何かが飛び出してきた。
[子供?]
その生き物は、体高100センチ程であったが、逆光の中その生き物の右手に握られ振りかぶられていた物が、夕日に反射し鈍い金属色に輝いている。
ファントムは、目を凝らしその生き物を観察する。
「ゴブリン!」
声を上げ、体勢を整え、右手を地面に這わす。
普段ならいつも手元に置いている拳銃を取ろうとするが、無い
その場にあったのは、刃渡り10センチ程の食事の準備の為に用意していたナイフのみだった。
ナイフを握り体勢を整えるが、ゴブリンに見える生き物は、その1人だけでなく、
続けて森の中から5人の似た生き物が飛び出してきた。
一瞬だけ握り締めたナイフに視線を送ったファントムは、
[不味いわね]
もし今襲ってきている生き物がゴブリンなら、こんなナイフ一本では、太刀打ち出来ない。
ゲーム時代のゴブリンなら、皮膚は金属製の軽鎧並みの硬度だったはずだ。
本能的に逆光の不利な位置から移動した彼女は、敵と認識した生き物に意識を集中させた。
「なんで、ゴブリンなんか居るのよ。」
襲ってきている生き物の姿を確認したファントムは、小さく声にしたが、直ぐにその意識を切り替える。
[先頭のゴブリンの攻撃を避けて後ろに回られたら、包囲されて終わりよね]
先頭のゴブリンに対して、更に集中した時、ファントムの意識の中で何か文字列の様なものが流れた。
[えっ!なに?今の?]
ゴブリンとの距離が2mを切り、相手の武器である両刃斧の間合いに入った時、
「
自然と口にした言葉は、ユグドラシル時代のスキルだった。
≪亡霊の祝福≫…このスキルはゴースト種族を選べば付属してくるスキルだ。
効果はただ単に、自身が装備している武器の攻撃力アップ・貫通力アップしかないが、
基本初期のゴーストは人魂であるので、装備出来る武器など、今、ファントムが手にしてる様なナイフなどしか装備出来ない為の救済処置のスキルだった。
夕日に白く反射していたナイフが、更に青白く輝く。
横一線の青白い光が走ったかの様に見えた瞬間、先頭のゴブリンの上半身が地面に落ちた
身体が切断された事に気付かなかったのか、下半身のみが数歩分だけ前進して崩れた。
ファントムは、今起こった事を、頭の隅に押しやり、更に襲いかかろうしていた、残りのゴブリンの集団へと突っ込んだ。
地面へと両膝をつけ脱力したファントムの周りには6匹のゴブリンの死骸がある。
周囲が少し血臭いが、先程まで行われた戦闘を思い出していた。
[確か、あれはユグドラシルのスキルだったわ。]
[まさか!ゲームでのスキルが使えるの?]
[もしスキルが使えるなら、魔法はどうなのかな?]
先程の様に、意識を集中してみた、すると頭の中に、また文字列が走る。
[魔法も使える?]
その文字列はユグドラシルで覚えた、魔法の一覧だった。
ゴブリンの死肉や血の臭いで、他のモンスターや肉食獣を呼び寄せない為に、魔法を詠唱した。
「≪火球//ファイヤーボール≫」
指先から出た小さな炎が、生命活動を停止したゴブリンの身体を跡形も無く燃やし尽した。
「魔法も使えるなら」
魔法の発動を確認したファントムの次に行う事は、アイテムボックスを意識することだった。
手を胸の前に持って行った瞬間、手首が靄の中に吸い込まれる様に消えた。
指先の感触からは、武器・防具・クリスタルなどゲーム時代に貯め込んだアイテムの感触があった。
「あはは、ユグドラシルのスキルに、魔法に、アイテムまであるなんて」
一通りの確認を済ましたファントムは、≪ワンマンアーミー≫を発動させてみた。
ゴースト系種族の特典で夜間では、能力値が3割程上昇するので、Lv100の分身も13体呼び出せた。
その分身に周囲の偵察を命じて、念のためにテント周りに魔法で結界を張り、今晩は眠る事にした。
テントの中で、ふと思ったのが、ゴースト種族はアンデンッド種族と同じく睡眠や食事など不要であったはずだが、今の自分は、睡眠も食事も欲求として有るのが不思議だった。
[ゲームの世界じゃないのね、やっぱり]
百年ほど前に流行り、現在でも一部熱狂的なファンがいる、異世界転移物の小説みたいなどと考えながら、眠りに落ちた。
翌朝、分身達が戻って来たと感覚で察知したファントムは、テントから出て
≪ワンマンアーミー≫のスキルを解除すると、13体の分身はファントムの体内に吸い込まれるようにして消えた。
それぞれの分身体が偵察してきた内容は、スッとファントムの頭の中で再生されていく。
「南に街がある?」
脳内での再生が終ったファントムの行動は早かった。
「町かぁ~、人に逢える。」
森の中を移動しながらも、ファントムは魔法・スキルの確認を行っていた。
その確認作業は、出会うゴブリンやオーガに肉食の猛獣に対してだったのはいうまでもない。
だがファントムの足取りは、この世界に来た当初と同じく軽快なものだった。