私の分身が見付けた街を目指して、森の中を移動する。
途中森の外縁部に、草が刈られ締め固められた街道の様なものを見付けたので、
その道を利用する事にした。
途中には、そこに村があったのであろう、瓦礫に埋もれた廃墟があった。
村の中を、一応警戒しながら通り抜ける。
[なにかに襲撃をうけたみたいね]
その村は一方的に蹂躙されていた。
日も暮れかけた頃、街まで数キロの森の中で《遠覚視の鏡》を取りだし確認をしようとしたがのだが、上手く操作が出来ない。
ゲーム時代の《遠覚視の鏡》なら、鏡の横に各操作ボタンが表示され、そのボタンを操作すれば、視点の移動やズーム等の機能が使えたのだが、傍で誰かが見ていたら、今の私は、白雪姫の物語に出てくる、魔女の鏡の様な意匠を施された鏡の前で、盆踊りの練習をしている感じであろうか。
一人、羞恥心と闘かいながら続けていたが、イライラ度もマックスになり、投げやり気味に両手を振り上げた。
「あっ!動いた~。」
嬉しさのあまり、声を上げてしまった、私はキョロキョロと周囲を確認する。
その時、威厳ある執事であろう格好をしたナイスジェントルマンに拍手で賛辞を贈られているという幻を見た気がしたのだ。
視点を、暗闇の中、淡い光に包まれた街に移動した瞬間、鏡面に無数のヒビが走った。
【攻勢防壁】
「ちっ!ミスったわ!」
自分の他に、ユグドラシルのプレイヤーなど居ないと思い、ろくな対策もせずにアイテムを使用してしまった、兵士としても安直な行動をしてしまった、
自分にイラつきファントムは、どのような反撃魔法が発動するか不明のために、その場から退避しようとしたが、頭上にメッセージが流れ出した。
=貴方は、ユグドラシルのプレイヤーですか?もしプレイヤーなら、街の中心部にある大聖堂の前に来てください。=
対抗魔法も発動せず、メッセージは消え、鏡も元に戻った。
この後の行動をどうするか思案する、攻勢防壁をかけたであろう人物は、
本当にプレイヤーなのか?
プレイヤーだったとしても敵とは決まってはいないが、もちろん味方であるとも決まっていない。隠れるにしろ、戦闘になるにしろ、こちらの位置は、攻勢防壁に組み込まれてるだろう位置探査魔法で確定されてる事、相手の人数もレベルも不明な事と、不利な状況に陥ってしまった自分の行動を後悔したが、気持ちを切り替えるが、最悪な事はPKされる事、蘇生ポイントは、ナザリックに設定しているので、この世界にはナザリックは存在しないようなので、蘇生アイテム・蘇生魔法を使用しても、戦闘場所での蘇生になればリスボーンキルをされるだけだ。
そもそも蘇生出来るかも不明なのだが。
死というものには、現実世界での職業柄覚悟はしているが、強制ログアウト出来ない
現時点では、デスペナであるレベルダウンで、Lv1で生かされ奴隷の様な扱いを受けることが最悪だ。
しかし時間をかける事は、今の自分の置かれた状況では、最も愚策となると判断した、
ファントムは≪ワンマンアーミー≫のスキルを使用し1体の分身を作成し、
その分身に自身のアイテムである、白金の全身鎧を装備させ、
自身はパワードスーツの光学迷彩を発動させた。
この方法で上手くいくかどうか不安はあったが、魔法やアイテムでのゲームでの不可知化ではないので、相手は察知出来る事はないだろうと考え、ファントムは行動を開始した。
その街は、急遽作成されたであろう木製の壁に周囲を囲まれていた。
街の中は、石造りの堅牢そうな建物や木造の建物等統一感のない雑多な印象を受ける。
分身体を先行させ数メートル後ろをついていく。
街の中心部に、周りの建造物に比べて、一際異質感に包まれた建物があった。
その大聖堂の前に、5人の人物の影があった。
「初めまして、我々は、ギルド《サザンクロス聖騎士団》と申します。」
ギルドネームだろう名を名乗った男が、続けて
「俺は、このギルドの統括をしている、海のリーハクです。」
「私は、山のフードゥ」
「俺は、雲のジュウゾウ」
「自分は、炎のシュリン」
「俺は、風のヒューヤン」
リーハクの名乗りの後に続けて、残りの4人も名乗った。
「我が名は、ファントム」
女である事を誤魔化す為に、音声変換機能を使用する。
「ファントムさんですか、どうぞお入り下さい。」
リーハクに続いて建物の中に入る。
通された部屋は、テーブルと椅子のみという、質素の一言につきる。
彼等との会話で分かったことは、彼等はユグドラシル最終日サーバーダウン時刻がきてもゲームが終らず、ギルドホームごとこの世界に来ていたとの事だった。
ギルドホームごとの転移と聞き、私はナザリックとモモンガさんの事を思い出す。
確かに彼も最終日ギルドメンバーとの挨拶を済ますためにログインしていたはず
[もしかしたら?ナザリックごとモモンガさんもこの世界に。]
そんな都合の良い思考の海の中を漂って呆けている私を疲労していると勘違いした、
リーハクの言葉で、私の意識は現実に戻った。
「我々に、我々のしようとしている事にお力を貸しては頂けないだろうか?」
「はい?」
間の抜けた私の返答に、
フードゥが「おい!こんな夜更けだ相手もお疲れだろう、明日にでも詳しく話そうじゃないか」
「それもそうだ」と残りの4人も同意し、私の為に部屋を用意してくれた。
部屋に案内された後、一応の防御系魔法をかけ安全を確認後、スキルを解除しパワードスーツの機能をオフにする。
偽装工作を見破られなかった事に安堵し、ベッドの隅に腰を落とし、深い溜息を吐く。
昨日、今日で事態が一気に進み過ぎ、混乱する思考を整理していく。
自分の他にもユグドラシルのプレイヤーが存在する、それもギルドごと複数人も
サーバーダウン時なら、いくら終了する寂れたゲームであったとしても、国内で最大の人気を誇ったコンテンツだったので、最終日だけでも最盛期に近い数万人のプレイヤーがいたはず。
だがいくらなんでも最終時間までプレイしていた全員が転移してる確率はほぼゼロのはずだ、もしそんな多数のプレイヤーがこの世界に居るのなら、もうすでに何人ものプレイヤーと遭遇している筈だ。
ベッドに横になり、霧の中を手探りで歩いてるような思考の中、眠りに落ちてしまった。
翌朝、朝食の並んだテーブルを挟み食事をしながら会話をする。
彼等は、この地に転移後直ぐに、私がここに来る前に見た村がモンスターに襲われてるのを助けたらしい、そしてその村の住人が彼等のギルドホームの周辺に新たに村を造ったそうだ。
「我々と同じくユグドラシルのモンスターも移動してる様なのですが、一部は特殊な進化をしてるようです。ゲーム時代のAI行動ではなくそれぞれの個体が我々人間の様に思考し独自な動きをしています。」
リーハクの言葉に、私が初めてゴブリンに襲われた時のゴブリンの動きを思い出し納得した。
「ユグドラシルのモンスターが現れた為に、この世界の人類は絶滅の危機に陥ってるみたいなのです。」
続けられたリーハクの言葉に、私の心は、矮小な生き物がどうなろうか関係ない事と理解した事に、一瞬戸惑った。
[この心情は、もしかしてユグドラシルの種族特性が出ている?]
「で私は、人類を救おうと考えてまして、仲間達も賛成してくれてるのですが、我々はゲーム時代生産系でのプレイを信条にしてまして、キャラビルドも生産系がメインでして戦闘そのものが苦手なのです。」
「昨晩の攻勢防護魔法の中に組み込んだ魔法で、あなたの能力・スキルを視させて頂きまして、お手伝いいただけないかと、どうでしょうか?」
「「「「お願いします。」」」」
「すまない、暫く考えさせて貰えないだろうか?街もよく見ておきたいので」
「ええ構いませんよ、いい返事を下さい。」
私は、その場を退席し街を探索することにした。
一回りした私は、聖堂の階段に座り、ぼんやりと眺めていた。
街を行き交う人々に悲壮感を殆ど感じなかった。
通り過ぎる人の会話など聞こえてくるのは、彼等≪サザンクロス聖騎士団≫の働きを称賛する言葉が多く聞き取れた。
≪生命感知≫などの魔法で人々を視れば、殆どの人々はLv1程度だ
街を巡回してるのだろう鎧装備の騎士らしきものは、よくてLv10程だ。
「一応、彼等を訓練してるのですよ。パワーレベリング等も併用して。」
私が、騎士らしき者を視線だけで追っていると、背後からフードゥが答えをくれた。
「隣よろしいですか?」
フードゥが横に腰掛け、話し始めた。
「まあ、Lvとしての数値が分からないのでなんともですが、モンスターを倒せば経験値は入るようです。強くなる為に必要な経験値が私達プレイヤーが、ゲーム時代に必要だった数値よりは3倍以上はいるようです。」
「魔法に関しては、現在使用できる者はいないですね。」
行き交う人々はフードゥの姿を確認すると、尊敬の眼差しを向け挨拶していく。
「尊敬を集めてるようだな?」
「あぁ、少し照れてしまうがね。」
「ふむ、では先程の話の続きをしようか」
私は立ち上がり聖堂の中へ向かった。
ファントムは、後ろに続いたフードゥには聞こえない小声で呟く。
「私の新たな、冒険の始まりかしら。」
≪サザンクロス聖騎士団≫との会話で、大体の行動方針を決めた。
この世界の人間の活動範囲を拡大する。
この世界の人間で人間を守れるようにする。
「まあ、おおまか過ぎる方針だが、行動はやり易いと思う。」
「そうだな」
「全員の同意も得られたので、行動を開始しようか」
「その前に、これから行動を共にするので…」
私は、兜を取り素顔を晒す。
「え?あ!女性でしたか、男だと思い不躾な対応をしてまして、申し訳ない。」
リーハクが代表して謝罪する。
「いえ、謝らないで下さい。私も隠して大柄な対応をしてましたから。」
私達6人の、冒険がはじまった。