やはり俺の文通生活はまちがっている。   作:発光ダイオード

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四月二十一日

拝啓。

お手紙ありがとう。あまりに返事が早くてびっくりしている。

入院をしてから数人と文通をしているが、今回お前から受け取った手紙はその中でも群を抜いて枚数が多い。他の追随を許さない程だ。しかも内容はと言えば土曜日の話の続きだろうかお前とお前の後輩の思い出話が延々と書いてあるだけなので、これは苦行かと思うほどなんの面白みも無く読むのに大変苦労した。とはいえこんな話を面会終了時間まで聞かされてはたまらないので、それを考えれば手紙で良かったとも思える。

まぁどちらにしてもどうでもいい話ばかりだ。“放課後目隠しリレー”のくだりなどツッコミだしたら限りがないが、お前が思っていたよりも阿呆な事と、中学でも後輩と一緒に生徒会に入っていて仲が良かった事はよく分かった。確かに手紙を読む限り後輩は生徒会に入りたいと思っているだろうし、お前も入って欲しいと思っているのが分かる。

では何故後輩は自分の本意ではない事を言ったのか…お前が何について悩んでいたのか理解したし、乗りかかった船でもあるから協力はしよう。だが、その前に一言言わせて欲しい。

 

お前は色々と悩みを抱えていて大変かも知れないが俺の方がもっと大変だ。いや、大変というよりまじでヤバい。お前が突き放す様に知らないと言った本を巡って、強化外骨格を纏った魔王をはじめ関係者各位から謂れの無い疑いをかけられ、さらに弁解する暇もなく雨霰と飛び来る罵詈雑言に身をやつしている。足を骨折していなかったらすぐにでも逃げ出しているところだ。この逃げるに逃げられない状況…差し詰め無実の罪で死刑勧告を受け、刑の執行を待つ囚人の気分である。何故俺の人生はこうも過酷になってしまったのか……。

若干話がずれてしまったが、分かりやすく要約するとお前の事を手伝ってやるから問題が解決したらお前も俺を手伝ってくれ、という事だ。

ちなみにこれは決定事項であり、異論があればことごとく却下だ。

 

まず何故後輩は自分の本意ではない事を言ったのかだが、考えられる理由として自分より上の立場の人間に命令されるという事がある。例えば親や教師、はたまたお前以外の先輩などから当部活へ入れと言われる。もちろん部活は強制ではないため普通なら断ればいいがおまえの後輩は気が弱いので人の頼み事を断れない。その事は“校門人間アーチ”の話から明らかだ。そしてそんな性格故に同級生からの誘いも断れない可能性がある。まだ入学したばかりで相手がどんな人間かも分からないから、下手に断ればそれが原因でクラスから孤立するかもと考えたのかも知れない。普通の人間からすればなるべく避けたい事案だろう。

 

しかし、あくまでも推測で理由は本人に聞くしか分からないが、はっきりしている事がひとつある。

それは生徒会に入って欲しいとお前自身が思っている事だ。他に確かな事がない以上これが唯一の武器となる。お前はこれをもって自分の気持ちをしっかりと後輩に伝えるんだ。そうしなければ、きっと“昼休みプリキュア事件”の二の舞になるだろう。

言ってどうにかなる保証は無いが言わなければどうにもならない事は保証できる。

人とはすれ違う生き物で、言わなくても分かり合える関係も、何でも言い合える関係も、相手を理解できる関係も、全て理想であり望んでいるだけでは手に入らない。何も持たない俺たちがそれを望むのなら必死にならなければいけない。そして必死になって行動した時に初めて理想を手に入れるチャンスが生まれる。おそらく一度では手に入らないだろうが何度も繰り返すうちに少しずつ近づいていつか、本物になるだろう。

 

とまぁこんな事を言っているがなにも考えが無い訳じゃない。お前が後輩に自分の想いを伝えそれがクラスに知れ渡ったとしよう。例えば後輩を誘ったのがクラスメイトだとすれば、クラス中が生徒会に入ると思っている中で誘い続ける事はおそらくないだろう。学校という閉鎖されたコミュニティの中で上級生というのはそれなりの力を持っているものだ。ましてお前は生徒会副会長。形式上この学校で二番目に偉い生徒だ。そうなれば自然と身を引くだろう。

そして上の立場の人間だったとしても、それが教師であればこちらの意見を聞いてくれるだろう。生徒の自主性を重んじるのが教師であるし総武高校はそれなりの進学校でもあるので、大学入試の際にアドバンテージになる生徒会での経験をむしろ応援してくれるまである。

また、二年の先輩だったとしてもお前は三年だから全く問題はない。相手も三年の場合は少し面倒だが、話が縺れるようなら教師に仲裁に入ってもらう手もある。先ほどの理由からもこちらの味方をしてくれるだろう。

 

何れにしてもお前が行動してこそだ。前にも言ったが冷静に行動しさえすればお前は立派な副会長だ。健闘を祈る。

 

 

 

久しぶりにいい事を言った気がする比企谷

 

放送室でスイッチが入っているのに気付かずプリキュアのオープニングを口ずさんだ本牧様


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