やはり俺の文通生活はまちがっている。   作:発光ダイオード

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四月二十七日

拝啓。

お手紙ありがとう。あれから手紙が来なかったのでどうしたものかと心配していたが無事に解決できたようで俺も安心している。結局お前の後輩はクラスメイト二人から別々の部活に誘われていたというおおよそ予想通りの状況だったわけだが、そんな事よりも俺はお前が思い切った行動をとった事に驚いている。いや、単純に褒めているのである。まさかお前にそんな度胸があったとは思いもよらなかった。

後輩の教室に一人で行ったお前は勢いよく扉を開け中に入っていく。そして教壇に立ちクラス中の視線を一身に集める中、後輩を生徒会に入る様に勧誘したという。ここまでされれば生徒会に入るのも自然だろうし、クラス公認になったことで二人のクラスメイトも諦めがついただろう。直球もいい所だが実に効果的である。

て言うか一年C組って小町のクラスだろ。あいつに相談した方が早かったんじゃないだろうか…。

ともあれ無事に解決できて良かったな。こっちはお前がもたもたしているせいで自力で解決するはめになったが、無事とは言えなくともなんとか解決することができた。尚、負傷した俺の心が癒えるのには一ヶ月ほど時間を要するので当分この件には触れないでほしい。

 

お前の助けは借りられなかった訳だが、お前から受け取った手紙には「色々助けてもらったから今度は比企谷の方を手伝うよ。人という字は人と人が支え合ってるなんて言うしね、お互い助け合おう。」と書いてあったな。実に良い心掛けであるが一言いわせてもらおう。人という字は支え合ってると言うが、あれはよく見ると片方が寄りかかっている。スクールカーストの低い人間が高い人間、つまりぼっちがリア充の犠牲になることを容認してるのが人という概念だ。そんな言葉をもって助け合いなどと言っても言葉の意味が薄れるだけだ。対して俺の名前にある“八”という漢字を見ろ。お互いが干渉する事無く絶妙な距離感を保ちそれぞれが自立している。この非接触こそ、理想の人間関係と言えないだろうか。“人”という漢字は“八”という形になる途中のいわば未完成な漢字で、なんなら“八”を“ヒト”と読んでもおかしくないのかもしれない。

要するに何が言いたいのかというと、リア充爆発しろ、と言う事だ。

 

また話が逸れてしまったが、しかしお前の申し出を無下に断るのも気が引けるので、別の案件だが少し手伝ってもらいたい事がある。奉仕部にとって重大な事だ。一色が部室に顔を出す様になってから奉仕部も賑やかな雰囲気に変わり、そして今年からは入院した俺と入れ替わる様に小町も入部した。俺のいない奉仕部の様子が気になったので小町に聞いてみたところ、連日の様に女子トークが繰り広げられているらしい。詳細は分からないがこの間四人で見舞いに来た時の様子をみると、すでに女子たちだけの世界が形成されている様だった。見舞に来ているはずなのにほとんどあいつらだけで会話が完了し俺の存在を小指の先程も気に留めていなかった。

特に小町は俺が部室に居る所を知らないし、なんなら「お兄ちゃんは部室に居なくてもいいかな〜」なんて言われるまである。

このままでは非常にまずい。俺は奉仕部での居場所と存在価値を守る為に行動しなければいけない。作戦は既にあり、後は実行するだけだ。ついてはお前の協力を必要とする。

今度の祝日に病院まで来てくれ。詳しい事はその時に話す。

 

草々

孤高の軍師 比企谷

 

大胆不敵 生徒会副会長 本牧様

 

 

追伸

先日お前に出した手紙だが、あの時の俺はどうかしていた。あんな恥ずかしい物は無い。あの手紙はこの世に存在させてはいけない物だ、必ず人を不幸にする。お前には、あの手紙を十字に切り裂き火をつけて灰にし、未来永劫記憶の彼方へ封印する事を勧める。


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