やはり俺の文通生活はまちがっている。   作:発光ダイオード

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雪ノ下雪乃へ 失敗書簡集
失敗書簡(其の一)


四月十日

 

拝啓。

桜花爛漫の候となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。総武高校最上級生となりクラス替えも行われ何かと不安もあろうかと思いますが、雪ノ下であればそんなものはどこ吹く風とばかりに今までどおり歯に衣着せぬもの言いで己の道を切り開いている事でしょう。

 

現在俺は市内のとある病院の一室で足を固定されたままごろんと横になり、窓の外を見ては物想いにふけるという生活を送っています。もう知ってると思いますが交通事故に巻き込まれたのです。奇しくも一昨年、犬を助けようとして車に轢かれた様に。我ながらまるで成長していないと思います。一ヶ月程入院する事になり、普通の学生なら四月という始まりの月を学校で過ごせないのはクラスからの孤立を意味する程致命的な出来事ですが、既にぼっちとしてできあがっている俺にはそれ程ダメージはありません。

そういえば俺が何処に入院しているのかも知らずに部室を飛び出そうとした由比ヶ浜をなだめ止めたそうですね、その冷静さに感服します。

 

雪ノ下の事だがらこんな俺に呆れ、「いい機会だから、ついでにその腐った目と捻くれた性格も治してもらってはどうかしら」などと言うかも知れません。

ですが今の俺はまさに、その目と性格をはじめ全てのマイナス要素を克服しようと奮闘しているのです。その証拠に、毎朝七時に起きて九時に寝るという規則正しい生活をしています。そして大学受験の為に何度も過去問を解き、動かせない足の代わりにダンベルなどで上半身を鍛える。おかげで頭脳明晰、筋肉はむきむき、身長も伸び、コミュニケーション能力抜群の男に生まれ変わりました。

病院内ではそんな俺を見た、なんと半数以上の人が「比企谷八幡は将来ビッグになる」と回答しています。イルクーツク国立大学のソロボッチ博士(脳科学者)の名著『孤独を経験した者』によれば俺の様にぼっちを経験した者こそ、二十一世紀の日本社会を先導するに相応しい人間になるのだそうです。次はあなたがこの新生比企谷八幡の効果を体感する番です。そうすれば、希望大学に一発合格、就職したその年で年収は一千万を超え、休日のたびにデステニーランドを貸し切り、お肌ツルツル髪サラサラの悠々自適な生活が(中断)

 

【反省】

真面目な手紙を書こうとすると、どうも相手との距離感がおかしくなる。雪ノ下に対して少しへりくだり過ぎだろうか。

前半はそれ程おかしくないと思うが後半に行くにつれ何とも怪しい文面になってしまった。自分に秘められた願望でもあったのか、コミュニケーション能力とか将来ビッグにとかのたまい、しまいには深夜の通販番組の様な胡散臭い文章まで出てきた。こんな手紙じゃ雪ノ下に罵られるのは明らかだ。少しでも立派に見られたいと思っても嘘は良くない。

それにしても「イルクーツク国立大学のソロボッチ博士(脳科学者)」とは、いったい誰だ。自分でもなんのつもりで書いたか全くわからない。どうかしていた様だ。

もっとキッチリと書こう。大言壮語するのは良くないが、真面目で頭のいい雪ノ下ならばもっと節度ある折り目正しい文章を好むだろう。それを意識して書けば、手紙もおのずと誇り高くなるのではないだろうか。


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