やはり俺の文通生活はまちがっている。   作:発光ダイオード

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あざと可愛い後輩へ
四月十二日


拝啓。

 

こんばんわ、突然の手紙で申し訳ない。

春爛漫の好季節を迎え、毎日お元気でご活躍のことと存じます。二年生へ進級し、クラス替えもあり、後輩もでき、新しい環境に期待する反面、不安なこともあるでしょう。特に一色はそのあざとい性格ゆえ、男子からの受けは良いが同性からの評判はすこぶる悪い。新しいクラスでいじめられてやしないかと心配です。

けれどお前は去年の半年間、一年生ながら生徒会長を勤めてきた。それにクリスマスやバレンタインの企画を成功させた実績もある。きっとクラスメイトもすぐに「こいつ、ただあざといだけのヤツじゃないぞっ」と一目置いてくれることでしょう。

生徒会では、日々職務に追われ忙しく過ごしているみたいですね。先月から卒業式、入学式、始業式と立て続けに行事が行われるうえ、これからさらに、部活動説明会や進路説明会もある。

いくら生徒会長と言えど、まだ二年生に進級したばかりなのにそれ程までに頑張る一色の事を、俺は本当に凄いと思います。お世辞とか抜きにして、本気でそう思っているのです。

だからお前がお見舞いと称して、俺の病室まで息抜きに来る事は別にやぶさかではありません。俺は病院でずっと寝てるだけで暇だから、学校の話とか色々と聞けて結構楽しかったりします。

 

だが、さすがに毎日は多くないか?

確かに「いつでも来ていいぞ」と言ったが、あくまで方便だ。それを真に受けて、毎日来るとは思わないだろ。そのせいで俺は、フロア担当の小林さんから「比企谷君の彼女可愛いね」とか「今日も彼女来るの?」とか、毎日言われる様になってしまった。彼女いない歴=年齢である俺としては嬉しい勘違いであるが、それと同時に、全力で否定して俺を振る一色の姿も想像できる。告白してもいないのに何回振られるんだ俺は。

なので俺は自ら「彼女?なにそれ?おいしいの?」と言って、女子の手すら握った事がない事を説明しなきゃならない。

全く、傷口に粗塩を擦り込む思いだ。

それにお前が好きなのは葉山だから、身勝手な噂に振り回されるのは嫌だろうしな。

 

お前の所の副会長に聞いたんだが、放課後の生徒会の仕事をサボってるそうだな。

「今週はわたし暇じゃないですかー」なんて言いながら、舌をぺろっと出すあざとい仕草に誤摩化されていたが、よく考えたら全然暇じゃないだろ。今週の部活動説明会の準備はどうした?

入院して手伝ってやれない俺が言うのもなんだが、こんな所にまで来て油を売っている場合じゃないぞ。

 

一色の事だ、来るなといって言う事を聞くようなやつじゃない事はわかってる。むしろムキになって余計に張り切るまである。

話は変わるが、先日小町から大量の封筒と便箋を渡された。話を聞くと母親が知り合いに貰ったらしく、さらにそれを譲り受けたそうだ。小町曰く「この機会に日頃お兄ちゃんがお世話になってる人達に感謝を込めて手紙を書きなさい」ということらしい。勿論俺は断った。だが小町はお前同様、一度言い出したら俺の言う事なんて聞かない。抵抗するだけ無駄と悟り、結果お兄ちゃんらしく妹の頼みを聞いてやる事にした。

まぁ小町の可愛いさには勝てない、これが真理だ。

 

なので一色よ、俺とお前で文通をしよう。学校での出来事を手紙に書いて送ってくれ。そうすれば今まで通り情報交換ができるし、お前も毎日見舞いに来て生徒会をサボる必要もなくなる。

最初は面倒かもしれんが、手紙を書き進めるうちに相手の言動を理解し適切な言葉を選べる様になるだろう。人と会わずしてコミュニケーションをとることも思いのままだ。きっと将来何かに役立つ。例えば、前に言ってた編集長になるのにも必要なスキルだろう。

それに、一色のプラスになることだってある。文通の腕を磨けば相手の心を射落とすラブレターだって書けるようになるはずだ。俺を含めラブレターを貰って嬉しくない男子なんていないだろうし、葉山もまた然りだ。

 

それではよかったら返事をくれ。受け渡しについては小町に頼んである。何か悩み事があれば相談にも乗ろう。

 

 

匆々頓首

比企谷八幡

 

 

一色いろは様


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