拝啓。
手紙ありがとう。こうやって返事をもらうと、先日由比ヶ浜から手紙で怒られたことを思い出す。そういえば一色が初めて見舞に来たときも怒られたっけな。あまりにも大声出すもんだから、看護師さん達が何事かとわらわらやって来て、お互いすごく恥ずかしい思いをしたな。
まぁ、連絡先を知らなかったとはいえ心配かけて悪かったな。直接会うと言えなさそうなので、手紙で伝えることにする。
決して自分から連絡するのが面倒くさいとかそういうのじゃないから、それは念を押して言っておく。
放課後は生徒会の仕事をする様に考え直してくれて何より。とは言っても、それが普通なんだけどな。
それと、副会長のことをそんなに悪く言うのは止めてやれ。あいつは思いのほか阿呆という事が発覚したが、お前や生徒会のことをそれなりに真剣に考えてるんだ。余計なお世話とか言ってやるな。
どちらかと言えば、お前が気を利かして“書記ちゃんとふたりきりにしてあげた”なんて方が、よっぽど余計なお世話なんじゃないだろうか。
部活動説明会の準備も順調に進んでいるならいいが、それよりも気になるのは来月の進路説明会だな。卒業生として雪ノ下さんが話をしに来るそうだが、あの人卒業した高校に頻繁に顔を出し過ぎじゃないか?大学は大丈夫なんだろうか。平塚先生も“優秀だったけど優等生じゃなかった”って言ってるくらいだから、人当たりも良くて友人も多いのかもしれないが、あの穿った性格からキャンパスライフを純粋に楽しめてないのかもしれないな。
それと、雪ノ下さんに俺が入院してる事をちゃんと話しておいてあげるな。安心して下さらない。むしろ不安だ。それにあの人、昨日見舞に来たし既に知ってるから。
とにかく、お前はくれぐれも余計な事を言わない様に注意してくれ。
一色がクラスで嫌われてない事を聞いて安心はしたが、別に“お前のこと気にしてるんだぜアピール”なんぞしてない。どう読んだらそんな解釈できるんだ。俺の文通能力もまだまだという事だろうか。
ていうか、何で俺がお前にラブレターなんて渡さなきゃいけないんだ。全然意味わかんないんだけど。いくら毎日見舞に来てくれたり周りから勘違いされたからと言って、俺もそこまで頭ん中お花畑じゃねぇよ。ぼっちは常に相手の行動や感情の裏を読むのだ。覚えておくといい。
それに一色だってラブレターなんて貰い慣れてるって言ってる割に、俺が手紙渡したとき顔真っ赤にしてたじゃねぇか。おかげでこっちまで変に意識しちまった。今時はメールかもしれないが、お前ホントはラブレター貰った事ないんじゃ……?
そう言えば、一色は今まで小町と会った事がなかったんだな。全然紹介してくれなかったなんて言われても、そもそもそんな約束した覚えないんだけどね。
まぁ、お前が小町を可愛いと思う気持ちはよくわかる。小町の愛らしさを表現するには手紙がいくらあっても足りないが、仮に世界妹選手権があれば、間違いなく日本代表に選ばれるはずだ。お前が“小町ちゃん先輩に似てなくてよかったですねっ”と言うのも、まぁその通りだろう。
だが、小町はうちの妹だ。一色がいくら小町を妹にしたいと言っても無理な相談だ。いいか、人の悩み事には二種類ある。努力したらどうにかなることと、努力してもどうにもならないことだ。悩むだけムダという点でこの二つは同じである。なので一色よ、もう悩むのはよせ。
何にせよ、故意的に紹介しなかった訳じゃないが、俺の中のあざとさランキングトップ2のお前たちが一緒にいるなんて、想像しただけでノイローゼになりそうだ。頼むから面倒になる事だけはするなよ。そのしわ寄せは俺に来る事になる。
匆々
気苦労の多い比企谷
俺的あざとさランキングNo.1 一色いろは様
追伸
明後日はお前の誕生日だったな。
最近一色も色々と頑張ってるみたいだし、今年は特別にお前の頼みをひとつだけ、今の俺ができる範囲で聞いてやろう。何でも言ってみろ。
まぁ俺は入院中だから大抵の事はできないけどなっ。
その辺りも踏まえて、よく考えるといい。