やはり俺の文通生活はまちがっている。   作:発光ダイオード

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四月三十日

拝啓

 

小町の依頼の件お疲れさま。とは言っても依頼者が自分で解決したという事だから奉仕部としては何もしてないな。結局どちらの部活への誘いも断ったそうだが、まさかその理由が生徒会に入りたいからだとは思わなかった。小町が生徒会長の一色と知り合いだという事を知らなかった事から奉仕部を利用しようとした訳じゃないだろうが、無理矢理連れて来られたにしても自分で断れるなら何故奉仕部に頼んだりしたんだろうか。自分を取り合う二人の言い争いに耐えきれず我慢していた気持ちを言ってしまったのか、それとも自分の本当の気持ちを伝える決心がつく様な出来事があったのか…。

よく分からない部分もあるがいずれにしても依頼は解決したんだ、これ以上深く考える必要はないだろう。ひとつ言える事は小町も奉仕部部員としてまだまだという事だな。これは俺が兄として、先輩として色々と指導してやる必要があるだろう。

 

入院した頃は一面に淡いピンクの花を着けていた桜の木も五月近くなれば花も落ち青々とした葉が涼やかな風に揺れている。時間が経つのはあっという間で、最初は何をして過ごそうかなどという呑気な事を考えていた俺の入院生活も気付けばもう終わりを迎える。明日、俺は退院する。お前に手紙を書くのもこれで最後だろう。今まで付き合ってくれてありがとう。一ヶ月近く手紙を書いてみたが、当初の目的だった文通の技術だとかコミュニケーション能力だとかそんなものはまったく身に着かなかった。それどころかお前たちの起こす不測の事態に対応するのが手一杯でそんな事考えている余裕が全くない。手紙を書くのがこんなにも大変だとは思わなかった。お前たちに振り回されてよく分かった。やはり俺の文通生活はまちがっていると…。もう今後手紙を書く事はないだろう。

だが、まぁ確かにお前の言う通り悪いことばかりではなかったとも思う。顔を合わせて話すとその場ですぐ受け答えしないといけないが、手紙なら相手の言葉をちゃんと理解し自分の気持ちをしっかり考えて伝えるための時間が持てる。お前がどんな事を思っているのかとか、自分が本当は何を伝えたいのかとか考える事ができたし、普段思っていても言えない様な事も言い合えた気がする。やはり言葉にするのと文字にするのじゃ違うんだろう。だから、普段と違うお前の事を知れた様な気がしてよかったと思う。

それと、お前が気にしていた雪ノ下への手紙だがさっき書き上げたところだ。どの程度のものを書けたかは分からないが、きっと雪ノ下ならどんな手紙でも呆れた様にため息をつきながら笑い「比企谷君、まったくあなたって人は…」なんて言ってくるだろう。まぁそれで良いと思う…大した事を書いた訳じゃなくただ思っている事を書いただけだからな。

 

さて、ゴールデンウィーク明けからまた学校に行く事になるのだがひとつ気にかかる事がある。一色が奉仕部に頻繁に顔を出す様になり今じゃ普通に馴染んでいる。そして新年度になり入学した小町が奉仕部に入り、それと入れ替わる様に入院した俺。

みんなで見舞に来た時やお前の手紙を読んでいて思ったんだが、この短い間に奉仕部の雰囲気は変わってしまった様だ。悪いと言っている訳じゃない。ただ女子が四人も揃ったら奉仕部もそんなに賑やかになるのかと思っただけだ。俺が部活に復帰した時、女子トーク溢れるその場所に居続けられるか些か不安である。

確かに今の奉仕部は楽しいのかも知れない。だが忘れてはいけない、俺も含めて全員で奉仕部であるという事を。いや、別にお前たちが楽しそうにしているのが羨ましいとか、混ざって一緒に話したいとかそう言うのじゃない。ただ、お前たちの話を聞いていると落ち着かない。胸の奥がモヤモヤする。だから俺は退院したら奉仕部でのポジションを確保するために行動しようと思う。そうすればきっとこの胸のモヤモヤを振り払い落ち着きを取り戻せるだろう。

 

由比ヶ浜よ、心して待つといい。では、また学校で会おう。

 

 

早々頓首

決意を新たにした比企谷

 

心優しい由比ヶ浜様


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