やはり俺の文通生活はまちがっている。   作:発光ダイオード

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四月十六日

拝啓。

 

お手紙ありがとうございます。まさか今週中にもう一通手紙を書く事になるとは思いませんでした。て言うか俺の手紙を受け取った瞬間に封を開けて読み始め、そしてそのまま病室で返事を書くとかおかしくありませんか?しかも三十分程で書き上げてしまうなんて…おまけに字がとても綺麗だ。書いた時間よりも込めた気持ちが大事と仰るのは分かりますが、俺が何時間も掛けて書いた事を思うと若干の虚しさがあります。それに普通文通といえば相手のいない所で読むものでしょう。その場で読んじゃったらわざわざ書く意味が無い。だって直接話せばいいんだから。そのあたりの事を雪ノ下さんはどう考えているのでしょうか。

 

持って来てくれた小説少し読みました。何年か前に深夜アニメでやっていたのを見た覚えがあります。確か不毛な大学生活を過ごしてきた腐れ主人公が薔薇色のキャンパスライフを夢見て並行世界を迷い歩くという様な話だったと思いますが、何処か俺に似ている所なんてありますか?確かにぼっちである俺の高校生活は端から見たら不毛に見えるかも知れません。ですが俺はこの小説の主人公と違い自ら進んでぼっちの高校生活を謳歌しているので、たとえ現状が似ていてとしても捉え方が違えばそれは全く別物だと言えるでしょう。まぁ強いて似ている所を挙げるとすれば腐った部分を持ち合わせているという所ぐらいですかね。

リア充を遺憾なく発揮する雪ノ下さんには全く分からない感覚だと思いますが、雪ノ下さんは卒業した高校に頻繁に顔を出さずもっとキャンパスライフを楽しんだほうがいいと思います。一色に聞きましたが、来月の進路説明会に卒業生として話をしに来るそうですね。その打ち合わせを今日…もう夕方なので丁度今している頃でしょうか。高校に来る事に楽しみを見出すのは構いませんが、雪ノ下と合うたびに不穏な空気になる様子を、俺と由比ヶ浜が肝を冷やしながら見ているという事もお忘れなく。それに一色もこのところ入学式の挨拶やその他学校行事の手伝いなどで忙しそうです。明日には部活動説明会もあるし、来月には生徒総会もある。奉仕部も手伝っているそうですが、あまりからかい過ぎたり変な入れ知恵をしないようにして下さい。そういった時のしわ寄せは、何故かいつも俺の所に来ます。

 

前の手紙でも雪ノ下さんの情報収集能力の高さについて書きましたが、何故俺が雪ノ下に手紙を出せずにいる事まで知っているんですか。俺の情報はWikipediaにでも載っているのでしょうか。情報の出所を教えて下さい。そしてこれ以上俺の事を詮索しないで下さい。ここから先は法に触れる事になるでしょう。俺は雪ノ下さんを犯罪者にしたくありません。

確かに俺は手紙の書き方もろくに知らず、雪ノ下の事もちゃんと理解しているとは言えません。そんな中で手紙を書いてもきっと何も伝わらないでしょう。だから雪ノ下さんが雪ノ下の事を教えてくれると言うなら、それは素直に聞き入れようと思います。雪ノ下さんの妹自慢がどれほど手紙に影響するか分かりませんが、俺も可愛かったあの頃の雪ノ下というのには少しばかり興味があります。

ただ、こちらだけ一方的に教わるのも悪いので、代わりと言う訳ではありませんが俺も小町の事をお話ししようと思います。こう言っちゃ難ですがうちの小町もそちらの妹さんに負けず劣らず可愛い妹をしています。仮に世界妹選手権があれば、間違いなく日本代表に選ばれる事でしょう。

小町は小さい頃家に誰もいないのが嫌で家出したことがありました。その時は俺が迎えに行きましたが、それ以来俺は妹より早く帰るようになったのです。そんな小町を思い出して、俺は入院する事になった時「両親も帰りが遅いし、そのうえ俺までいなくなって家に一人で居ることになるが大丈夫か」と聞きました。すると「小町は大丈夫だよ。それよりお兄ちゃんは家の心配より自分の将来を心配したほうがいいよ」と応えました。妹の成長と自分より兄の事を思いやれる心に感動し、その日俺は病院の枕を濡らして…枕を高くして眠りにつきました。

話したい事はまだ尽きませんが最初という事もあるのでこのくらいにしておきます。雪ノ下さんの妹自慢楽しみにしています。ではまた日曜日。

 

 

匆々頓首

個人情報保護を求める比企谷

 

妹大好き雪ノ下様


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