ラブライブ!~μ'sとの新たなる日常 Anthology~【完結】   作:薮椿

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薮椿より

今回は
『μ's+ MUSIC START!!』
『ラブライブ!短編集(仮)』
を投稿しているkazyuki00さんの『新日常』をお送りします!


kazyuki00さんより

「新日常」の読者の皆様、お初お目にかかります。
ハーメルンにて、ラブライブ二次創作小説「μ's+ MUSIC START!!」を書かせて頂いております、kazyuki00(あやか)と申します。
この度は本企画に参加させて頂くにあたり、丁度真ん中、折り返しの位置での投稿という大役をおおせつかいました。

今回は、新日常の読者様に私の書いた短編を読んでもらえる機会をくださった主催の薮椿さんに、そして同じテーマでまた違った世界観を見せてくださる、本企画に参加してくださった他の作家様方に、無上の感謝を述べたいと思います。
名ばかりではありますが、副主催として、本企画を誰よりも心待ちにしていたという自負があります。
拙く長い文ではありますが、この企画に少しでも華を添えることができたら幸いです。
それでは、お楽しみください!


零くん最後の日

 

「ぐっ…………ぐぁ……あぁぁ…………

ううっ…………はぁっ…………」

 

 

「零君!?大丈夫!?ねぇどうしちゃったの!?零くん!!」

 

「零くん!?しっかりして!!ねぇ真姫ちゃん!零君はどうなっちゃってるの!?」

 

「わからないわ!とにかく保健室の先生を呼んできて!

ねぇ零!!聞こえてる!?返事をして!!こっち見て!!ねぇ零ってばぁ!!」

 

苦悶の表情を浮かべ、胸を押さえてうめき声を上げながら床をのたうち回る零。

そのあまりにも現実離れした光景に、その場に居合わせていた2年生3人は呆然としていたが、その異常性を察知してもがき苦しむ零の側に慌てて駆け寄った。

 

「何よ……一体なんなのよ……何があったのよ……ねぇ零!返事して!!」

 

先程――つい30秒前まで、4人で楽しく談笑していたはずだった。

それなのに――

 

「真姫ちゃん!?これ何かの病気!?さっきまで元気だったじゃん!ねぇ!?」

 

「大きな声を出さないで!零の意識がはっきりしないことには症状もわからないわ!」

 

「でも、このままじゃ零くんが……」

 

 

 

「がぁぁ…………かはっ…………」

 

 

「「零(君)!?」」

 

少しの間止んでいたうめき声が再びあがりはじめ、胸をかきむしりながら、その身体をリノリウムの床に押し付けるかのように悶絶する。

 

そして今日に限って、大学生組も、3年生も、1年生もいない。

 

よりにもよって。

2年生3人しかいないこのタイミングで、悲劇は起きた。

 

思い人が苦しんでいるのに、自分達は何もすることができない。

どうして。

一体何が。

どうしてこのようなことになってしまったのだろうか。

 

 

 

『~♪』

 

 

 

不意に、着信音と共に零のポケットが振動した。

 

花陽は今保健室に人を呼びに行っており、ここには零を除いて真姫と凛しかいない。互いに顔を見合わせると、小さく頷いた真姫がポケットから携帯を取り出す。

外部からの着信。相手は――

 

 

 

『あ、もしもし!零君!?よかったぁ出てくれて……』

 

「もしもし秋葉さん!?零じゃないです西木野です!

さっき突然零が苦しみだして、意識もはっきりしていなくて、とてもじゃないけど通話に出られるような状況じゃ……」

 

『真姫ちゃん!?そっかやっぱ遅かったかぁ……』

 

発信者は、零の姉の秋葉だった。普段は飄々として、零や周りの女の子をおちょくって楽しんでいる彼女だが、今日の声色からは、そんないつものお気楽な雰囲気は一切感じ取れない。

 

「教えてください!今の零はどうなっているんですか!?私達はどうしたらいいんですか?」

 

受話器の向こうにいる秋葉に必死に叫ぶ真姫。その瞳の端には、大粒の涙が浮かんでいる。倒れたままの零を挟んだその向こう側。凛も半泣きで零の身体に手を添えてこちらを心配そうに見つめている。

 

 

『……あのね、真姫ちゃん。落ち着いて聞いて欲しいの』

 

 

真姫の唇がぎゅっと引き結ばれる。

 

 

 

 

『このままだと……零君は死ぬわ』

 

 

カシャーン

 

真姫の手からスマホが滑り落ち、その細い腕が力を失いだらりと降りる。

 

レイガシヌ。

れいがしぬ。

零が死ぬ。

 

言葉の意味は理解できた。しかし、到底受け入れられるような言葉ではなかった。

 

 

音ノ木坂学院 アイドル研究部 部室

いつもとなんら変わらない、青春時代の思い出の1ページとなるはずだった今日。

たくさんの先輩や後輩、自分を慕ってくれる可愛い彼女。そんな人達に囲まれて過ごす、神崎零の幸せな日常。

それが突然、今まさに終わりを迎えようとしているなんて一体誰が想像できただろうか。

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

その出来事の契機は、体育の授業の終わりに起こった。

 

いつも通りに体育教師が号令をかけて、本来の終業時間よりも少し早めとなる解散。その時間を使って生徒達は着替えたり身支度を整えたりして、次の授業に備えるのだ。

 

「くぅ~~今日もたくさん動いたなぁ~!午後まで体力持つかなぁ……」

 

何事にも手を抜かず全力でやる主義の零は、体育の時間も力の限り走り回る。息は整ったものの、身体と体操服は犬のように散々ボールと戯れたおかげで汗だくだ。

 

 

「零くんっ!はいこれ」

 

「おぉ、ありがとうな」

 

ふらりと現れたことりによって横から差し出されたふわふわの真っ白なタオルを礼とともに受け取ると、顔を伝う汗を丁寧に拭っていく。

顔、首、手足。そして汗で重たくなった体操着を持ち上げてお腹と背中を軽く拭いた。

 

「ふいーさっぱりした。ありがとうな」

 

「えへへ、いいよー。むしろこのくらいならいつでもするから遠慮なく言ってね?」

 

隣に立っていることりは、零の感謝の言葉を聞いてはにかむように笑う。

 

「あんまり甘えるのも悪いから気持ちだけ受け取っておくよ。このタオルは洗ってか……」

 

最後まで言い切ることはできなかった。零の言葉を待たずして、ひょいとそのタオルはことりによって取り上げられる。

 

「別に気にしないで?このまま返してくれていいから。

むしろそうじゃないと困るっていうか……」

 

「お、おう……でも困るって?どういうことだ?」

 

ことりの真意を理解できず、首を傾げる零。それを尻目に、ことりは先程のタオルをどこからともなく取り出したジップ○ックに仕舞っていく。

 

 

「……おい、何してんだ」

 

「ん?何って、このタオルが外気に触れるのを防いでるんだよ?

やだなぁ零くん、ジップ○ックの使い方も忘れちゃったの?」

 

「そんなことを聞いてんじゃねぇよ!どうして俺が使ったタオルを密閉するのかって聞いてんだよ!」

 

「だって……こういうのは鮮度が大事でしょ?」

 

「どういうのだよ!?

……さてはお前、このタオルを使ってまた変なことしようって魂胆じゃねぇだろうな!?」

 

「変なことなんかに使わないもん!帰ったら、お部屋のベッドでこのタオルの匂いを嗅ぎながら自分を慰めるのに使うだけだもん!」

 

「それを世間では変なことって言うんだよ!あんまり大きな声を出すんじゃない!」

 

ことりの悪びれもしない、使用済タオルをオカズにする宣言に、もはや文句を言うのも諦めてため息をつく。

 

「はぁ……もういいから。勝手に服とか持っていかれないだけでもましか……

ってゆーかことり、タオルといいソレといい、そんなものどこに仕舞ってたんだ?」

 

「女の子にそんなこと聞いちゃうの!?やだもう、零くんのエッチ」

 

「場所聞いただけじゃん!?何でタブーみたいになってるわけ!?

それとお前にだけはエッチ呼ばわりされる筋合いないからな!?」

 

スクールアイドルたるもの、もっと上品に粛々としていなければならないのではないだろうか。

清楚や清純といった言葉に永遠の別れを告げてきたかのような、自らの欲望に忠実に生きる彼女に、零はある種の身の危険をいつも感じている。

 

 

「あーっ!ことりちゃんずるーい!穂乃果も零君のタオル欲しい!」

 

「穂乃果ちゃんにはあげませ~ん。早いもの勝ちですよ~」

 

ことりとそんなことをしていたら、やりとりの一部始終を見ていた穂乃果がすさまじい速さでこちらに向かってきた。この2人は、ふたりきりでいる時に限って恐ろしいほど積極的になる絵里やにこと違い、どこででも零を求めてくるオープン主義だ。「好きなんだから、遠慮する必要がどこにある」というのが持論らしい。その情熱的なアプローチは男冥利に尽きるが、少しはTPOをわきまえてもらいたいとも思う。笹原先生に見つかりでもしたら、それに巻き添えを食らって怒られるのは目に見えているからだ。

 

「えーずるーい!穂乃果も零君の使用済み欲しい~!

零君もっと汗かいてよぉ……。」

 

「さすがにもう出ねぇよ。教室は涼しいし……」

 

「じゃあもっと別の液体でもいいからぁ」

 

「別の液体ってなに!?表現婉曲させすぎて逆に生々しいわ!」

 

ことりと同様、己の欲望がままに喋る穂乃果に苦笑いしつつ、零は自分の鞄をごそごそと漁る。

 

「……気持ちは嬉しいんだけどなぁ……

なぁ、海未からもなんか言ってやってくれよ」

 

 

「そうですね……」

 

声をかけられた海未は一瞬考えるような顔をして、タオルの所有権をめぐり未だに口論している穂乃果とことりに向き直ると、その整った眦を吊り上げる。

 

「穂乃果!それにことり!あまり零を困らせるようなことはしてはいけません!

タオルなんかで口論して……浅ましいですよ!

私達は零の彼女である前にスクールアイドルでもあるんですから、もっと言動には気をつけなさい!」

 

「おぉいいぞ!たまにはガツンと言ってやってくれ!」

 

「大体タオルごときで争っていて恥ずかしくないのですか?

 

 

 

私は零の体操服をもらう約束をしているというのに!

タオルに付いている零の成分なんて、ほんの微量――残滓にしかすぎません。

それを手に入れるために色々画策していたのでしょうが、私はそんな努力をあざ笑うかのように、45分間フルに零が染込んだメインディッシュを簡単に頂けるわけです。前もってお願いしていましたからね。

……どうです?そんなハシタな物のために自分の努力が――」

 

 

 

「タンマ。ちょっとタンマ。

タイム、タイムアウトです。審判時間止めて」

 

海未の両肩に手を置き、そのまま教室の隅へと誘導する。

 

「あっ、零……こんなところで……みんなが見てます……」

 

「別にそんなんじゃねぇから!

そんなことより、何だよさっきのアレ!?お前とそんな約束なんてした覚えはないぞ?

ほら、見てみろよ穂乃果とことり。目からハイライト消えちまってるじゃねぇかよ。あれ完全に嫉妬に狂った顔だぞ。あんなこと言ってどうすんだよ!?」

 

「記念回ですし、たまには少しはしゃいでみてもいいかなと。

それに、今回の私達の出番はここで終わりだということらしいので」

 

「何の脈絡もなく突然メタ的なこと言うのやめてくれる!?

いくら記念短編だからって、やっちゃダメなことくらいあるよ!?」

 

 

真顔で、ある意味ではあの2人以上にとんでもないことを言った海未に、あの痴女コンビを過剰に刺激するのはやめるようお願いして、着替えもそこそこに自分の席にどっかと腰掛ける。

この数分で、体育の授業よりもどっと疲れた心地だ。

 

 

「……にしても、散々動いたから喉渇いたな……」

 

「!!

零君!穂乃果の持ってきたお水飲む!?」

 

「あっ、ずるいよ穂乃果ちゃん!零くん、ことりのお茶がいいよね?なんなら、口移しでもいいよ?」

 

「零、私謹製の飲み水はどうでしょう?私が手ずから飲ませてあげます。さぁ、一緒にお手洗いに」

 

「だから海未ははっちゃけるにも程があるだろ!?お前後半まで新日常での出番が少なかったからって薮椿さんになんか恨みでもあんのか!?」

 

海未までボケ倒してくる凄惨な光景に、零はついに突っ込むのを放棄することにした。

彼女達に断りを入れ、自分の鞄から褐色の小さな瓶を取り出す。

 

「ありがたいけど、気持ちだけもらっておくよ。今日は家から持ってきたのがあるんだ」

 

「なぁにそれ?栄養ドリンク?」

 

「そうじゃないか?冷蔵庫にあったのを勝手に持ってきた。まぁ恐らく楓か、大穴で秋葉が買って来たやつだと思う。疲れてるし丁度いいよな」

 

女の子は、普段こういったものをあまり飲まないらしい。興味津々といった体でこちらを見つめる視線を感じながら、零は瓶の蓋を開けて中の液体を一気に呷る。思った以上にどろりとしており、市販のものよりずっと甘ったるい。

むせそうになるのを堪えて一息に飲み干すと、手の甲で口元を拭う。

 

「うぇ、甘……これじゃ逆に喉渇きそうだな……

でも濃度は高そうだったから、効き目は期待できるな」

 

空になった瓶をゴミ箱に放り投げ、着替えるために鞄を持って教室を出て行った。

 

「さて、午後も寝ないように頑張らないとなー……」

 

効能を確かめるようにぐるぐると肩を回しながら、自分に言い聞かせるように呟く。

 

そうして、その日の授業は何事もなく過ぎていった。

今日も今日とて、何気ない日常の一幕。そう信じて疑わなかった。

 

 

いや、意識してすらいなかった。

 

 

 

 

 

 

その後全ての授業がつつがなく進み、迎えた放課後。いつものように零は部室へと向かっていた。穂乃果達3年生組は、今度ある学校集会に向けての大切な会議に行ってしまった。絵里や希、にこも今日は遅くまで講義が入っているらしく、部室に顔を出すことは難しいらしい。そして楓たち1年生組は、たまには新しい刺激を、ということで、他校のスクールアイドルとの合同練習を行うために校外へと出てしまっている。

 

ということはつまり――

 

 

「うーっす。そっか、今日はこれで全員か……」

 

「こ、こんにちは零君」

 

「零くんおつかれさまにゃー!」

 

「何よ、そんな辛気臭い顔しちゃって。私達だけじゃ不満なわけ?」

 

花陽

真姫

 

二年生に進級して、どこか大人っぽくなった彼女達が出迎えてくれた。

 

「別に不満なんてねぇよ。こんな美少女達を独り占めしているという喜びに、改めて打ち震えていただけだっての」

 

「……まったく、調子いいんだから」

 

わずかに頬を染めながらそっぽを向く真姫を笑いつつ、自分もパイプ椅子に腰掛ける。

 

人数が集まらないので、今日は練習はお休みだ。

適当におしゃべりをして、駄弁って、好きな時に帰る。

まさに青春の体言。モラトリアムが許す最高に贅沢な時間。

 

これがずっと続けばいいのに。柄にもなく、零はそんなことを考えた。

自分を囲んで笑いあう美少女達を眺めて、無意識のうちに笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

そして、事件は起こる。

3人とおしゃべりに高じていた零が、突然体勢を崩し、床に倒れ伏したのだ。

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

「新薬の試作品?」

 

『そうよ。国から依頼されていてね。ラボで作っていたものがようやく形になったから、一旦家の冷蔵庫で保管しておいたの。それを零君が間違えて持っていっちゃって……

気付いた瞬間に慌てて連絡したんだけど、どうやら遅かったみたいね……』

 

そして話は、冒頭へと戻る。

保健室の養護教諭の手を借り、零をどうにかベッドに寝かせることができた。しかし、相変わらず良くなる気配はい。熱に浮かされているかのようなうわ言が口から漏れ出ており、意識も未だ定まらないままだ。

凛と花陽はその隣で椅子に座り、心配そうな表情を浮かべて零の手を握っている。

 

「ね、ねぇ真姫ちゃん。穂乃果ちゃん達にも連絡した方が……」

 

花陽が、握った手にきゅっと力を込める。

 

「待って!今この場に人を増やしたところで、状況はよくならないわ!

みんなにはみんなの大切な用事がある。まずは秋葉さんの話を聞いてからにしましょう!」

 

「でも……」

 

零の手を握る花陽の手ごと、凛の掌が優しく覆う。

 

「真姫ちゃんの言うとおりにゃ。私達の中で一番病気に詳しいのは真姫ちゃんにゃ。

真姫ちゃんがわからないことが、私達にわかるわけ無いにゃ」

 

そう言いつつ、その手は小さく震えていた。鼻をすすりながらも、はっきりとした口調で花陽を諭す。

 

 

「零がなぜ苦しみだしたのか、その原因はわかりました。

でもこれは、どんな薬の副作用なんですか?」

 

逼迫した状況とは裏腹に、スマートフォン越しに秋葉に話しかける真姫の声は冷静そのものだった。「人を治す医者たるもの、どんなときでも冷静たれ」という父の教えを守っての行動である。

 

しかし、本当は泣き出したい気持ちで一杯だった。

想い人が苦しんでいる。でも、自分は何もすることができない。焦りや恐怖心を心の底に押し込めて、努めて落ち着いた態度を取ろうとしていた。

 

『副作用、ねぇ……。いや、違うわ。

その症状は、おそらく新薬の本来の効能故に起こっているの。言うなれば、主作用ってやつになるのかしら』

 

「こ、これが本来の効能ですか!?秋葉さん一体どんな薬を作ったんですか!?」

 

まさか化学兵器の類ではなかろうか。

今までの秋葉の行いを思い出せば、そんなもののひとつやふたつ、十分に作る可能性はある。

 

『……えーっとね。その薬なんだけど……』

 

回線越しに、秋葉の言い澱む雰囲気が伝わってくる。

 

「この期に及んで隠すようなことがあるんですか!?

こうしてる間にも、零の命が危なくなってるんですよ!?」

 

『そうだったわね……でも、言ったところで本当に信じてくれるかどうか……

 

 

 

 

 

その薬ね…………媚薬なのよ』

 

 

「……は?」

 

 

ビヤク。びやく。媚薬。

媚薬って、アレだよね?

あの、興奮作用のある、薬。

 

死角から思い切りぶん殴られたような拍子抜け具合に、再び真姫は電話を取り落としそうになる。

 

「秋葉さん……流石に冗談はちょっと……」

 

『やっぱり信じてない!いい、落ち着いて聞いて!』

 

 

曰く、日本で深刻化しつつある少子高齢化。それを打破するためのプロジェクトが今、国家レベルで秘密裏に進んでいるらしい。現状、最も手っ取り早い方法は、「出生率を上げる」の一択で落ち着いている。子供が生みやすいように法律や制度を整えるのはもちろん、肝心の子供を作る機会そのものを増やすためには、という部分にまで議論は及んでいる。

しかし、国民に向けて国が「たくさん作ってください」と安直にお願いするわけにはいかない。

 

では、どうすればよいか。

 

お願いするのではなく、自主的に機会を増やすようにお膳立てをすればよいのだ。

その意見が出たことにより、興奮・催淫作用のある薬――媚薬を国家予算で作る計画が動き出した。

そこで開発責任者として白羽の矢が立ったのが、国内――恐らく世界的に見てもトップクラスの科学力をもった人物――神崎秋葉である。

 

今までの媚薬は、服用者の性的興奮を高める効能に特化していた。いかに強い発情を誘発するか。薫香に端を発する媚薬の歴史は、その強さを追い求める遍歴と言って差し支えない。

しかし、稀代の天才科学者である秋葉はそこにメスを入れる。

 

彼女によって新しく開発されたその媚薬は、端的に言えば「相手を求める薬」だ。

服用すると、従来の媚薬と同様、強い催淫効果を引き起こす。秋葉が手心を加えたものということもあり、その効果は既存のものとは桁違いだ。

 

そしてその症状の沈静方法が、「異性との粘膜接触、及び体液交換」というもの。時間で治まるのではなく、相手が居ることによって初めて成立する治療法。

つまり、平たく言えば「ヤらなきゃ治らない」のだ。

 

行為に及ばなければ決して解消されない性的衝動。これまでの常識を覆す革命的な新薬。これを用いつつ司法インフラを改善すれば、少子化の歯止めに少しは期待できるのではないか。

零が栄養ドリンクと誤って飲んでしまったのは、そんな薬だったのである。

 

 

 

 

 

「…………命に関わるような媚薬なんて、本末転倒なのではないでしょうか?」

 

手短に秋葉から話を聞いた真姫が、もっともなことを口にする。

 

『本来は1000倍に薄めて使う薬よ?零君が飲んでしまったのは原液なの。どんな良薬でも、服用量を間違えたら危険なのはあなたもよくわかっているでしょう?』

 

「いっ……」

 

薬において濃度というのは非常に重要なファクターだ。数倍、時には数%の誤差でも、病気を治すはずのものが、死に至らしめる毒物に成り得る。

適用量の1000倍。それがどれだけ絶望的な数値であるか、医者志望の真姫であるが故に理解してしまった。

 

 

「かは……っ。ぐぁ…………あぁぁぁ…………」

 

 

「零くん!?真姫ちゃん!零くんが、零くんがぁ……」

 

肺から空気を搾り出すように、再びうめき声を上げる零。それを隣で見ていた凛が泣き声で真姫を呼ぶ。

 

「零!?

秋葉さん!教えてください!零を助けるために、私達は何をしたらいいんですか!?」

 

思わず涙が出そうになるのを必死でこらえ、悲鳴のように秋葉へ訴える。

 

『今すぐにでも私がそこに行けたらいいんだけど、最悪なことに今海外にいるのよ。

あなたたちでは、今の零君を完全に元に戻すのは不可能だわ。

でも、延命治療で発作を遅らせることはできるはず』

 

「何でもやります!どうしたらいいんです!?」

 

 

『例え命に関わるような濃度でも、媚薬は媚薬ってことよ。私が開発したのは、時間経過ではなく異性との接触によってのみ、その効能が解消される』

 

 

 

「…………その……つまり、私達が零と…………」

 

 

 

 

『そう。要はヤっちゃって、ってこと。

別に行為そのものではなく、体液交換とかでも大丈夫だから』

 

 

 

「や、ややや…………」

 

私達が、零と……

思わず顔が赤くなる。

 

『もちろん、それだけじゃ完治はしないわ。今から急いで帰国して、セットで作っておいた中和作用のある薬を持ってそっちに行くから。

そうね……3時間……いや、2時間持たせて頂戴。そうすれば、零の命は助かるかもしれない』

 

 

「……わかりました。

 

あの……その……た、たた体液って、何でもいいんですか?」

 

『零君は男だから、基本的には女性のものであれば何でも大丈夫なはずよ

それじゃ……零君を頼みます』

 

そう言って、電話は切れた。

 

 

「真姫ちゃん!?」

 

「真姫ちゃん……」

 

ベッドの上で苦しんでいる零の隣で、泣きじゃくる凛としゃくりあげている花陽が、通話を終えた真姫に縋るような視線を向ける。

 

「秋葉さんが今海外に居て、戻るまで2時間くらいかかるって。それまでの間、私達が何とかするしかないわ」

 

「何かできることがあるの!?」

 

飛び掛らんとする凛をなだめつつ、真姫は秋葉に言われた延命治療について簡潔に説明する。

 

 

 

 

 

「び、媚薬の原液なんて……」

 

「た、体液って……うぅ……」

 

話を聞いた2人は、秋葉から聞かされた時の真姫と同じように頬を染める。

 

「い、今更恥ずかしがるのはナシよ!むしろ合法的にイチャイチャできるものだと思えばいいわ!」

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

「い、いい?今からするのはれっきとした治療行為なんだからね?決して私にやましい気持ちがあるとか、全然そんなんじゃないんだからね?大体、零が栄養ドリンクと間違えて飲んだのが悪いのであって――」

 

「真姫ちゃん、わかったからはじめるにゃ!自分への言い訳はもういいから!」

 

「零君、しっかり……真姫ちゃん、頑張って!」

 

養護教諭に簡単に事情を話し、席を外してもらう。窓にブラインドを下ろし、ベッド周りのカーテンを閉める。

こうして、保健室には4人だけの密室が完成した。

 

息荒く、ベッドに横たわる零。極限にまで濃縮された興奮作用によって肌は上気し、額にはうっすらと汗が滲んでいる。

私達、これから零と――

今置かれている状況を再認識して、2年生3人は思わず生唾を呑んだ。

 

零の彼女は9人居る。それだけいれば、当然あまり構ってもらえない人も絶対に出てきてしまう。

零自身μ'sの全員がわけ隔てなく好きだし、そこに優劣をつけることはない。

しかし、彼女がひとりではない以上、零が人間である以上、彼女達全員に本当に等しく愛情を注ぐことは不可能なのだ。

 

普段から所構わずべったりな穂乃果やことりに煮え湯を飲まされていることもあり、大義名分を得た今、これは絶好の機会であるとも言える。

――そう、これは治療行為。零を助けるためにしなければならないことなのだから。

人の命が懸かっている非常事態だということはわかっている。しかし……

 

 

「(ごめんなさい、零。あなたの命がとても危ないのはわかってる。

それでも私、今こんなにもドキドキしてる……)」

 

仰向けに寝ている零に覆いかぶさるように、真姫がベットへと登る。こうして彼を跨いでいると、なんだか自分が零を組み伏せているような気分になる。前髪をふわりとかきあげて、そっと彼の額に手を当てた。

緊張のせいか、真姫の掌は汗が冷えて驚くほど冷たかった。零の内に秘めた熱を冷ますように、ひんやりとした手で彼の顔を優しく撫でていく。

 

こうして至近距離で見ると、本当に辛そうなのがよくわかる。そんな恋人の姿を見て、彼女の心もまたひどく痛んだ。

普段は女の子にだらしなくて、自分をからかって遊んではセクハラばかりする零。ことりや穂乃果のオープンスケベにも甘いし、実の妹にまで鼻の下を伸ばしている始末。彼と一緒にいると、楽しい時間よりもイライラしている時間の方が多いのではないかとも思う。

 

でも、それは彼が自分以外の女の子を見ている所為。

嫉妬しやすい、自分の我が侭。

 

己を蝕む苦しみと闘っている零が、今はこんなにも愛しい。

時折眉根を寄せて顔を歪ませる零を見て、彼女も羞恥心と折り合いをつける決心がついた。

 

「今、楽にしてあげるわ……」

 

小さく呟くと、その小さく開いた唇に、自分のそれを重ねた。

 

 

 

 

 

「き、キスで大丈夫なのかにゃ……?」

 

突如始まった延命治療という名の公開イチャイチャショーに、凛と花陽は赤くなった顔を互いに見合わせた。

 

「粘膜接触でもいいって言ってたし、唾液でもたぶん平気なんだと思う……」

 

零の彼女であれば、他の女の子が彼とイチャイチャしているところを見るのは決して珍しいことではない。しかし、普段は零にされるがままになっている彼女達は、自分から仕掛けないといけないという事実に恥ずかしさを隠せないでいた。

 

「ね、ねぇ……これ凛たちいないほうがいいんじゃ……」

 

「それはダメだよ凛ちゃん。何かあったときにすぐ動けるようにしとかないと……」

 

首まで真っ赤になっている花陽だったが、ベッドの上でぎこちなく舌を絡ませている真姫と零から視線は外さない。

 

「(真姫ちゃん、あんなに一生懸命に……花陽までドキドキしてきちゃうよぉ……)」

 

「キスなんて無理だにゃ……恥ずかしいよぉ……」

 

初心な凛は直視できずに、耳まで染まった赤面を俯かせた。

可愛い。いやいやと首を横に振る凛を見て、不覚にも花陽はそんなことを考える。

 

「た、体液って……液体だったら何でもいいのかにゃ?」

 

水音だけが響く密室の中、顔を下に向けたまま不意に凛が尋ねた。

 

「う、ううん……真姫ちゃんの言い方だと、たぶん……」

 

「……そしたら、凛ちょっと出てくるにゃ!すぐ戻るから!零くんと真姫ちゃんよろしく!」

 

「あっ、ちょっと凛ちゃん!?」

 

呼び止めること叶わず、凛は脱兎のごとく保健室から出て行ってしまった。

一体どうしたというのだろうか。

 

「凛ちゃんってばぁ……もぅ……」

 

ため息をついた花陽は、預かっている零の携帯が再び震えていることに気付いた。

 

「ふえっ!?あ、もしもし――秋葉さんですか?」

 

 

 

 

 

「んっ…………あむ…………ふぅ、ん………………ちゅ……」

 

未だ目覚めない零の両頬に手を添えて、真姫は一心不乱に彼と熱いベーゼを交わしていた。

女の子かと見まごうほど薄く瑞々しい唇に舌を這わせ、念入りに唾液をまぶしていく。彼の口内は身体よりも熱く、舌が火傷してしまいそうな錯覚を覚えた。

 

「んんっ…………ちゅるっ」

 

口の端からこぼれる涎を舌で掬い、再び彼の舌と自分のを絡ませた。最初のぎこちなさはなりを潜め、彼の口内をただひたすらに舐め回す。零の舌を追いかける姿は、上気した顔と相まってただただ情熱的だ。

意識の無い零は、彼女の口腔愛撫を受け入れるがままになっている。

まるで、自分が無理矢理零を襲っているかのよう――

そんなことを考え、真姫の身体も激しく熱を帯びる。繭を作る蚕のように、零と自分の口に銀糸を架けながら、溜めた唾液を彼の口に流して嚥下させていた。

 

「(心なしか、顔色が良くなってきたような気がするわ……)」

 

零の唇を食みつつ、血色に平静さが戻りつつあることを感じ取った。やはり、秋葉の見解に間違いはなかったようだ。こうして粘膜同士を触れ合わせ、唾液交換することは有効らしい。そう冷静に分析しつつも、身体は本能のままに彼の口を貪っている。

このまま行けば、秋葉の到着を待たずしても落ち着かせることができるかもしれない。

そう考えていた時だった。

 

治療行為であるが故か、それとももっと別の理由か――とにかく真姫は、零とのキスに夢中になりすぎていた。

 

だから、気付かなかった。

体同様、ベッドに横たわっていたはずの零の両の手が、ゆっくりと持ち上がっていたことに。

花陽が異変に気付き声を上げるも、既に手遅れだった。

 

 

 

「!?真姫ちゃん!!」

 

 

「!?んむぅ!?んんっ――!?」

 

 

そしてされるがままになっていたはずの零が突然、舌を真姫の口内にねじ込もうとしたのだ。意識外からの思わぬ不意打ちに、反射的に首を引っ込めようとする。

しかし彼女の頭は、いつの間にか伸びていた腕によってしっかりと捕らえられてしまった。口を閉じてとりあえず拒もうとするのだが、抱きかかえられるようにがっちりとホールドされた真姫は成す術もなく零の侵入を許してしまう。

 

「(れ、零!?意識が戻ったの!?)」

 

思わず目を見開くが、彼の瞳が開かれる気配はない。

 

「(まさか……私の唾液で発作がおさまってきたから、媚薬の本来の効果が表れてきてるの?

それも無意識に……?)」

 

未だ意識が戻ったわけではない零の動力源は、突き動かされるような湧きあがるリビドーのみ。

こんなものでは足りない。

どうしようもなく乾く。

もっと、もっと……

 

 

「(やっ……そんな、激しすぎ……っ!)」

 

暴力的な愛撫を受け、真姫の身体がびくりと跳ね上がった。

頬の裏、舌の根元、歯の裏側。爆発的な欲求のままに、零の舌は彼女の口内を蹂躙する。別の生き物のように蠢く舌は、真姫のそれを獣のように追い回し、絡め取った。

じゅるじゅるとはしたない音を立てて舌を吸われながら、彼女の身体からは徐々に力が抜けていった。

 

あぁ、私は食べられてしまうんだ。

 

まるで猛禽類を目の前にした小動物のような心地だ。捕食者によっておいしく頂かれてしまうという現実を、本能的に悟った。

真姫が抵抗をやめたのを察したのか、零の責めはさらに苛烈を極めた。彼女の薄桃色の可憐な唇をしゃぶりつくし、感じやすい口内を余す所無く舐め回し、小さな舌を容赦なく啜り上げる。これまでにないほどの激しさに、真姫の身体は限界を迎えようとしていた。

 

「(やっ、ダメっ……これ以上されたら、私……わたしぃ……)」

 

脚はがくがくと痙攣し、雪崩のように押し寄せる快楽の波に視界が塗りつぶされ、リミッターの針が振り切れる。開いた口の端からは、溢れた涎が涙のように流れ落ちていた。しかしそれさえも、零によって舐め取られてしまう。

そして残った唾液を全て搾りださんと、一際強く吸われた瞬間――

 

 

「(あっ、ああっ。ダメ、ダメよ。こんなところで私…………あっ。

無理、もうむりぃ……れいぃ、わらしぃ。もうらめらのぉぉぉ)」

 

 

「――――――っ!」

 

脳内の何かが弾け、言葉にならない悲鳴を上げた真姫は、何度か大きく痙攣した後、零の腕の中で意識を手放した。

 

 

 

 

 

「(ま、真姫ちゃんが失神しちゃった……)」

 

真姫が零によって昇天させられる様を、花陽は目の前で見てしまった。真姫の意識が戻らない以上、次に「延命処置」を施さなければならないのは花陽だ。しかし――

 

「ひぅ……っ!」

 

気を失った真姫を横に寝かせ、ゆらりと上半身を起こした零に対して花陽が感じたのは――恐怖だった。自分も彼女と同じように、あんな風にめちゃくちゃにされながら体液を奪われるのだろうか……

怖い。ふらふらとおぼつかない足取りでこちらに向かってくる零を見て、ぎゅっと身をすくませる。

おそらく、まだ意識は戻っていないのだろう。本来の薬の作用が引き起こす強烈な欲求が、彼の歩を進ませている。

今の零は、異性を啜る怪物と化していた。

 

「だ、誰かたすけてぇ……」

 

今にも零の手が花陽の顔に触れそうになった瞬間――

 

 

 

 

 

「かよちーん!!ちょっと待っててー!!」

 

 

全速力で駆けてきた凛が、零の身体に飛びつき、そのままベッドへと押し倒した。

 

「凛ちゃん!!もうっ、どこ行ってたのぉ!?」

 

突如戻ってきた凛に、涙声で花陽は尋ねた。

 

「ごめんね!ちょっと走ってきたんだにゃ!」

 

「……走る?」

 

零に馬乗りになった凛が、その隣で力なく横たわっている真姫を見下ろしながら答える。

 

「凛は真姫ちゃんみたいにき、キスするのはちょっと恥ずかしいにゃ……

でも女の子から出るものだったら何でもいいんだよね?だから走ってきたんだよ!!」

 

 

そう言うと、おもむろにリボンを外し、ボタンを外していく。スカートも、ジッパーを下ろして器用に上から脱いでしまった。

 

「ふぅ……流石にあっついにゃぁ……」

 

そうして飾り気の無いスポーツブラとショーツ、靴下だけの姿となった凛の肌には、珠のような汗が大量に浮かんでいた。

 

 

 

「はい、零くん!ひいちゃわない内にどーぞ!」

 

そうして自分の首元を、零の顔へと近づけた。

むせ返るほどの濃密な凛の匂い。それに刺激された零の本能は、無意識のうちに舌を動かしていた。

 

 

 

「あ、汗……?」

 

「んっ……そうそう。これなら……っ、別に、恥ずかしく無いかなって……凛あせっかきだし……

んひゅ、にゃん!?へへ、ちょっとくすぐったいね……」

 

実は誰よりも乙女な凛にとっては、人前でキスをすることがどうやら耐え難いものだったらしい。

それにしても、半裸で自分の身体を舐めさせることの方がよっぽど恥ずかしいのでは、と内心思った花陽だったが、黙っておくことにした。

 

陸上で鍛えられた、程よく筋肉の乗った凛のスレンダーな肢体。ハリのある瑞々しい柔肌を、零の舌がざらりと舐め上げる。首筋からうなじにかけて、浮かんだ大粒の汗を丹念に舐め取り、鎖骨の窪みに溜まっているのも残らず啜る。狭い空間に満ちた彼女の香りが麻薬のように、彼の本能にダイレクトに作用する。飢えから解き放たれた獣のように、零は凛の身体にむしゃぶりついた。

 

 

 

「あっ、零くんそこは……そんなところまで……」

 

若干焦るような声色を乗せて、凛の顔に赤みが増す。

今零が舐めているのは、腕と身体の付け根の部分――つまり腋。汗腺が非常に多いその部分に、凛を感じ取ったのだろう。丹念に舌を這わせ、音を立てて吸い上げた。

 

「にゃぁ…………恥ずかしいよう……はうぅ……」

 

押し寄せる羞恥と、零の舌から伝わる奇妙な感覚に、熱いため息が出る凛。これ、実はキスなんかよりもずっと恥ずかしいのでは……。そう考えていた時、零はもう片方の腋に顔を埋めていた。

 

「にゃぁ…………かよちぃん、見ないでぇ……」

 

零に腋を吸われながら、赤く染まった顔で力なくいやいやと首を横に振る凛。そんな彼女を見ていると、なんだか自分まで変な気持ちになってくる。

 

「(零君に舐められて恥ずかしがる凛ちゃん、すっごく可愛い……)」

 

親友の懇願も叶わず、花陽は凛の痴態から全く目を離すことができなかった。

 

「もぉ……だからみないでよぉ…………うひゃっ!?」

 

また新たな刺激に、思わず身体を仰け反らせる。零の頭は、凛の首、鎖骨、腋と下っていき、お腹に達しようとしていた。細い腰に腕を回され、臍に舌をねじ込まれる感覚に、段々と余裕がなくなっていくのを感じた。

 

「れ、れいくぅん……それ以上はぁ……」

 

下腹部を舐める彼を引き剥がそうとするが、散々身体をしゃぶられて弛緩してしまっている力では、頭に手を添えるだけにしかならなかった。

 

 

「ふにゃ!?ちょ、ちょっと……そこはぁ……!?」

 

上半身を蹂躙しきった零は、次の獲物へと狙いを定めた。脚の付け根はそこそこに、ほっそりとした内腿へと舌を這わす。

今までとは段違いの別種の刺激に、凛の身体は一際大きく跳ねた。

 

「にゃぁ……りんがれいくんなおさないといけないのにぃ……これじゃぁだめなのにぃ……」

 

もはや抵抗もせず、凛は自分の身体に与えられる快感に、指を咥えて身体を震わせながら耐えることしかできなくなっていた。

そして零は、凛の白いハイソックスに手をかけ――そのまま引っ張った。

短距離走者特有の、細くてしなやかな凛の脚。零はそれを掴むと、何の躊躇もなくその先端を口に含んだ。

 

 

「――っ!れいくんだめぇ!そこだめぇ!」

 

凛の脚の指を咥える零。その感覚と恥ずかしさに、頭の中で火花が散った。指の付け根に舌を這わせ、凛の身体を余すところなく舐めまわす。

初めての未知なる刺激に、凛も耐えることができなかった。羞恥心と快感が頭の中でスパークし、体内でオーバーヒートを引き起こす。ブリッジと見まごう程身体を仰け反らせながら、許容範囲外の快楽に、遂に限界を迎えた。

 

 

 

 

 

「にゃぁぁぁぁ!だめ、だめぇぇぇぇ!!

れいくんっ、れいくぅぅぅぅぅん!」

 

脚がぴんと伸び、大きく身体を振るわせる凛。目を見開き、口をだらしなく開きながらしばらくビクビクしていたが、やがて動かなくなった。

 

 

 

 

 

「(り、凛ちゃんまでノックアウトしちゃったのぉ!?)」

 

真姫に続き、凛までもが堕とされてしまった。

四肢をくたりとベッドへ投げ出した半裸の凛。真姫と同じく意識を失ってしまっているようだ。

まさに、女殺しの権化。その才能を遺憾なく発揮した零は、次の獲物へと標的を移していた。

まだ、足りないというのか。その底無し具合に、花陽は戦慄する。

 

「(で、でも……私ががんばらないと……!)」

 

他の2人が散っていった今、零に処置を施せるのは花陽しかいないのだ。

覚悟を決め、ポケットからあるものを取り出した。

 

「危険物注意」のラベルが貼られた、怪しさ爆発の小瓶。先程の秋葉からの着信で、保健室の薬品棚にあると教えてもらったものだ。どうしてこんなものを秋葉が作って保健室に置いたのかは不明だが、とにかくやるしかない。

蓋を開けて、鼻をつまんで一気に飲み干す。言うほどまずくはなかったが、薬特有のなんとも言えない苦味に思わず顔をしかめた。

 

「(うぅ……にがいよぉ……)」

 

効果はすぐに表れた。胸がずきずきと痛み出し、急激に血が巡っていくのが感じられる。むずがゆくなるような感触に耐えながら、ブラウスのボタンを震える指でひとつひとつ外していく。

 

「(すごく恥ずかしいけど……誰も見てないし、我慢しなくちゃ……)」

 

そうして上半身は、可愛らしいブラを身に着けているのみとなった。背中のホックに手をかけて一瞬躊躇うものの、それも外して、するりと紐から腕を抜く。そうして露になったのは、小柄で着痩せする彼女からは想像もつかないくらい豊満な双丘。今日は薬の影響で、一段と張っているようにも見える。トランジスタグラマーという言葉に相応しい柔肌が、淫獣と化した零の目の前に晒されていた。

 

 

「(うぅ……我慢、がまん……)」

 

何かを羽織りたくなる衝動をこらえて、上半身を起こした格好でこちらを凝視している零の脚の間に、自分のそれを割り込ませた。膝立ちで向かいあうような姿勢。彼の視界は、彼女の胸によって一杯になっていた。

 

「は、はい……零君……ど、どうぞ……」

 

花陽は顔を真っ赤にしながら、零に自分のを「咥える」よう促した。

 

こんなに甘美な果実を目の前に吊るされて、今の零に抗うことなどできはしない。

本能が欲するままに、その先端に勢い良く吸い付いた。

 

 

「ひゃうっ!?ら、乱暴すぎるよぉ……」

 

想像以上の強い吸われ方に、思わず声を上げる花陽。

そんな彼女を気にも留めず、零は花陽の胸をしゃぶり、吸い上げ――溢れ出てくるものを嚥下していく。

 

 

「ほ、ホントに出てるんだ……」

 

秋葉の薬の効果と女体の神秘に、花陽はドキドキしながら目を白黒させていた。

 

 

 

 

 

人間の体液というのは、そのほとんどが血液から作られている。

涙然り、汗然り。

そして母乳も、血液を精製して作っている。

秋葉が以前戯れで開発したその薬は、乳腺の量を一時的に増大させ、擬似的な授乳を可能にするものだった。

勿論、花陽にはまだ母乳を作るための身体はできていない。そのため、出てくるものも乳児に必要な栄養素などはまるで含まれておらず、血液を濾しただけのために色も無色透明に近い。

しかし、女の子から分泌されているものに変わりはないため、使ってみたらどうかと秋葉が電話越しに提案してきたのだ。

なんでこんなものを作ったのかは甚だ疑問だが、これで零が助かるのなら……

胸に顔を埋める零を抱きながら、花陽は彼の頭にそっと手を乗せる。

 

まるで赤ん坊みたい――

夢中で彼女のを吸う零を見て、花陽はその頭を優しく撫でた。

 

「よしよし。もう大丈夫ですよ……」

 

まるで自分が母親にでもなった気分だ。こくこくと擬似母乳を飲み下す零をあやすように、一定のリズムで背中を叩く。このまま何事も無く、無事に秋葉が来てくれればいい。喉を動かす音だけが響く静かな密室で、そんなことを考えていた。

 

 

 

「れ、零君……?ちょっと吸い過ぎじゃない……?」

 

しかし、この赤子は遠慮というものを知らない。あればある分だけ、欲しいものは欲しい分だけ、強欲に吸い尽くそうとしてくるのだ。

 

「ひゃんっ!」

 

花陽の物言いに抗議するかのように、零の吸い方が激しくなる。その容赦のなさに、彼女は自分の意識が段々と薄らいでいくのを感じた。

 

「(嘘……なんかふらふらする……どうして……?)」

 

もともと不足気味の血液を無理矢理かき集めて、擬似的に母乳を精製しているのだ。それを続けていれば、血が足りなくなるのは当然の帰結だろう。

つまり、花陽は貧血を起こしかけているのだ。

 

「れ、れいくんっ……!そんなに強く……これ以上されたら、私倒れちゃうよぉ……」

 

 

ごくり。

ごくり。

 

花陽の抵抗も虚しく、零の吸血は止まらない。まるで命を吸い上げるかのように、彼女の身体から体液を奪っていく。

 

 

 

「あぁ……もうだめぇ……れいくぅん……」

 

そして、意識の限界が訪れた時。

糸が切れた操り人形のように、花陽はくにゃりとその場に崩れ落ちた。

 

 

女の子3人の屍の山。

それの上に座してもなお、彼の本能はおさまらない。

 

もっと。

もっと。

 

 

 

 

 

「…………そんなに欲しかったら……私のをあげるわよ……」

 

外に向こうとした零の意識を、ベッドの上に身体を引き倒すことによって引き止める。失神から復活した真姫が、再び彼の唇を奪った。

 

「んっ……ちゅ……ちゅるっ…………」

 

力の入らない身体で無我夢中に舌を絡ませ、彼のそれに自分の唾液をまぶしていく。

他の女の子に零の毒牙が向いたりでもしたら大変だ。そうならないよう、私達が「面倒」を見なければならない。

だって私達が、零の「彼女」なのだから――

 

 

 

 

「ん――――っ!!」

 

ものの数分で、再び天国に連れて行かれる真姫。すると、今度は凛が立ち上がる。

 

「ま、まだにゃ……れいくん……」

 

 

そうして凛が失神すると今度は花陽が。それを繰り返して、彼女達は秋葉が来るのをただひたすらに待った。

 

 

 

 

 

「あっ、れいくぅん!そんなとこ吸っちゃだめぇ!」

 

 

「ああっ、すごいっ!すごいのぉ!こんなの、こんなのだめぇ!」

 

 

「まって……まってってばぁ……少し休ませ……ひゃっ!?そんなところまでぇ!」

 

 

「とんじゃう。わらひぃ、もうとんじゃうろぉ……」

 

 

「もうでないよぉ……もうすわないでぇ……」

 

 

「やめてぇ!そんなところなめないでぇ!?もうぺろぺろしないでぇ……!」

 

 

「ひぬ……もうひんじゃう……」

 

 

それからしばらくの間、保健室には女の子のあられもない嬌声が響き渡っていた。

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

「…………んっ……ここは……?」

 

 

「良かった。意識が戻ったようね」

 

零が目を覚ますと、そこは日もすっかり暮れた保健室。隣を見ると、いつの間にか来ていたらしい秋葉が微笑を浮かべながら椅子に腰掛けていた。

 

「秋葉……?どうしてここに……?

そもそも、ここは保健室?俺は今まで一体何を……?」

 

記憶が混濁しており、零は今日今までの出来事がうまく思い出せない。

 

「いつも通り授業を受けて、部室に寄って、2年しかいなくて……

ダメだ。全然思い出せねぇ……」

 

「零君。アンタ、これに見覚えは?」

 

そう言って秋葉が取り出したのは、事の発端となったあの褐色の瓶。これが開発中の新薬であることを説明すると、治療法については伏せつつ、これまでの経緯を説明した。

 

 

 

「…………そんなことが……」

 

「ちゃんと書かなかった私も悪いけど、安易に家のもの飲んだりしちゃダメよ?

真姫ちゃん達に感謝しなさい」

 

我が身に起こったことを知らされ、今更に青ざめる零。

 

「……あぁ、気をつけるよ……

にしても、でかい借りができちまったな……凛たちは?」

 

「人を使って私がそれぞれの家に送っておいたわ。ちゃんとお礼言っとくのよ?

それはそうと、何か身体に異常はない?」

 

秋葉の問いかけに、改めて零は自分の身体を見る。特段、おかしなところは何も無いように見受けられた。唇がなぜか少しかぶれているくらいだろう。

 

「……心配ない、と思う」

 

「そ、何かあったらすぐに連絡してね?

とにかく、あなたの命が無事でよかったわ」

 

そう言って秋葉は養護教諭に難点か指示をした後、足早に学院を出て行ってしまった。

忙しい人だなと、その後姿を目で追いながら、零は2年生の3人に心から感謝した。

 

「ありがとう。そしてごめんなさい。もう出所が不明な我が家の液体は絶対に飲みません。

今度ラーメンご馳走してやろう……」

 

彼女達の家に向かって、深く頭を下げた。

こうして、零の少しだけ日常から外れた1日は、無事に終わりを迎えることとなった。

 

 

 

 

 

余談だが、しばらくの間、零が2年生に挨拶しようとすると顔を真っ赤にして逃げられ、しばらくの間はまともに会話が成立しなかったそうだ。

 

さらに余談だが、実はこの薬、原液だから飲んだら死ぬというのは真っ赤な嘘で、秋葉が試作品の実験のためにわざと零の目のつきやすいところに置いておいたものらしい。

あそこまで効果が強いことは予想外だったが、全ては彼女の手の内であったことにみんなが気付くのは、秋葉がうっかり口を滑らせたもうしばらく先の話。




……ハーレムモノって、思ったより難しいですねw
私自身は真姫ちゃん推しなのですが、やはりというか、どうしても他のキャラクターと比べると描写に力がこもってしまい、本当の意味で等しく愛情を注ぐことができていないように感じます。
その点薮椿さんは、(キャラの登場回数にこそ違いはありますが)そういったことなく、全てのキャラクターを魅力的に可愛く淫猥に描かれていて、とてもすごい作家さんだと思っております。箱推しの椿さんだからこそ、可能なことなのでしょう。

それを置いておいても、薮椿さんはハーメルンの中で私が心から尊敬している作家さんの1人です。
常日頃からアンテナを巡らせて、話のネタになりそうな情報を探し、キャッチしたら、それを即座に実行に移す。
思いついたことをすぐに形にできるのは、決して誰にでもできることではありません。
それをコンスタントに200話以上。本当にすごいことです。

後書きではありますが、この場をお借りして、新日常100話到達の祝詞をあげさせて頂きたいと思います!
薮椿さん、本当におめでとうございます!
一読者として、これからも益々のご活躍をお祈りしております!

企画はまだまだ続きます!
私の後ろにも、まだまだ他作家様の記念短編が控えております!
もしかしたら、みなさんも知っている方の作品もあるかもしれません。
今後とも、どうぞお楽しみにしていてください!
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