ラブライブ!~μ'sとの新たなる日常 Anthology~【完結】   作:薮椿

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薮椿より

今回は
『砂時計 ~にこちゃんが素直になれるまで~』
を投稿している蒼陽さんの『新日常』をお送りします!


蒼陽さんより

初めましての方は初めまして!
お久しぶりの方はお久しぶりでございまする!
蒼い陽だまり、こと蒼陽にございます!

はい、というわけでね、基本まえがきあとがきを書いてこなかったのでとても緊張しております!
何を隠そう私ニコ押しでして、恥ずかしながら声マネが得意なんです!(照)
では茶番はこれくらいにして、本文間もなくスタートです!
それでは皆さん!にっこにっこに〜!っつってn


ドンドン!パフパフ!にこちゃんと二人でワクワクお泊まり会♡

「うっそぉ……」

 

 

「ふふん♪」

 

 

 

空港からの帰り道。

 

 

 

背中越しに誇らしげに鼻息を鳴らす小柄な少女。

髪をツインテールに束ねたその少女の名を呼ぶと、振り向いたその顔にはニヒヒといたずらっぽい笑みが浮かんでいた。

 

 

 

「約束は約束よ!ちゃーんと最後まで付き合いなさい♪」

 

 

「ったく……わかったよ」

 

 

 

フリルのあしらわれたスカートを翻し、道路の白い部分の上だけを縫って進んでいくにこを追って、蜃気楼で歪んで見えるコンクリートジャングルへと歩を進めるのだった。

 

 

 

これはとある夏の一日。

 

 

 

とーっても健全な少年、神崎零とちょびっとだけエッチな少女、矢澤にこの。

 

 

取るに足らない日常の、ほんの1ページである。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ンッ……あっ…はんっ♡……」

 

 

 

「ここがいいのかぁ……なぁ、にこ?」

 

 

「…うん…はぁ……ンッ♡…そこがいいッ…のッ……」

 

 

 

ベッドの上でビクビクと小さく痙攣していたにこの体は、零の最後の一撫でと共に大きく跳ねる。

 

 

 

「はぁ……はぁ……♡」

 

 

「おいおい、もう終わりか?拍子抜けだな」

 

 

「お、終わりなわけないでしょ!?次はにこの番よ!!」

 

 

 

そう言うとにこは零の手を振り払い、彼の頬に手を添え、耳元で囁いた。

 

 

 

「時間はまだたーっくさんあるんだから、慌てちゃもったいないにこ♡」

 

 

 

吐息が耳に当たり、ゾクゾクと背筋が震えるのを感じると共に、零の鼓動は自然と加速していく。

 

 

 

元より“健全”な彼にとって、トリガーを引くにはそれだけで十分すぎるのだ。

 

 

 

膝立ちになって零を見下ろすにこの頬を両手ではさみ、グイと引き寄せる。

 

 

 

「その無駄にてっかてかでプルプルないやらしい唇を……今から俺色に染めてやるよ!」

 

 

「ふぁっ、ふぁぁ!?ひみわかッ、むぐ?!」

 

 

 

どうしても自分のペースにならないことに納得がいかないにこは顔をそらしてなんとか抵抗しようとする。

 

 

 

が、その程度の抵抗は一騎当千の神崎零の前では最早無に等しい。

 

 

 

「んっ、…んん……〜〜っ!?」

 

 

 

閉じようとするにこの唇に無理矢理舌を滑り込ませ、絡ませる。

 

 

 

(……攻めてくる割に攻められるのは苦手なんだよな、こいつ)

 

 

 

零の思惑通りにこの抵抗は弱まり、次第に自ら舌を絡ませるようになった。

 

 

 

「れろ……ちゅっ……んっ♡」

 

 

 

2人の舌を絡ませる音が静かな部屋に響く。

 

 

 

(そろそろ頃合いだな……)

 

 

 

「ちゅっ……ふぇ……もう辞めちゃうの……?」

 

 

 

頬を真っ赤にしたまま、糸を引く唾液を拭うこともせずに、トロンとした目で物寂しそうに零を見つめるにこ。

 

 

 

もはや主導権は完全に零に渡っていた。

 

 

 

「従者が御主人様にお願いする時どうしなきゃいけないか……教えたはずだよな?」

 

 

 

「ふぁ、ふぁい……御主人様、だめだめなにこをたくさん調教してくらはい♡」

 

 

 

 

チェックメイト。口元をニヤつかせ舌なめずりをすると、零はその魔手をにこへと伸ばすのだった。

 

 

 

……なぜこんなことになってしまったか。

 

 

 

他のμ′sメンバーはどこに行ってしまったのか。

 

 

 

それは約一週間前に遡ることとなる。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「あ。にこ、これやるよ」

 

 

 

2人で次のライブに使う材料を買い揃えていると、零は突然思い出したかのように財布から数枚の紙切れをにこに手渡した。

 

 

 

「福引き券……?」

 

 

「あぁ、なんか秋葉がくれたんだけどさ。もう俺はあの異星人の施しは受けないことにした」

 

 

「すごい言い方ね……」

 

 

「それだけのことをされてんだよ、こっちは」

 

 

 

零に言われて再度紙切れをじっと眺めるにこ。

 

 

 

「一等はハワイペア旅行か〜……まあこういうのってほんっと当たらないわよね〜」

 

 

「そんなこと言ってたらそりゃあ当たらねえだろ。……じゃあその福引き券で一等4回当てたらミューズのほかのメンバーに譲ってその間一秒も離れず傍にいてやるよ」

 

 

 

「よ、4回!?ちなみに1回当てたら……?」

 

 

「俺はいかない♡」

 

 

「はぁぁ!?この鬼畜っ!変態っ!」

 

 

「褒め言葉だな。苦しゅうない」

 

 

「そうよね……知ってた」

 

 

 

本人は呆れ顔のつもりなのだろうがニヤニヤを隠せておらず、どこか期待しているのが見て取れた。

 

 

 

とは言うものの、さすがの零も、もし万が一にこが一等を当てたなら一緒に行くつもりだった。

 

 

 

こんな普段はツンツンしたちんちくりんでも彼の愛する彼女の1人。

 

 

 

そう、行くつもりだったのだ……

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「いやー、スッキリしたなぁ!」

 

 

 

掌をお日様に見せるように両手を掲げて伸びをする零の顔は、いつもに増してツヤツヤしている。

 

 

 

「アンタだけでしょ……?にこはもうぐったりよ……」

 

 

 

その反面、零の隣を歩くにこの顔はげっそりとしていた。

 

 

 

「さすがの俺も生でアヘ顔見たのは2回目だったぜ」

 

 

「してないわよっ!……って2回目!?どこの誰よ!」

 

 

「四回連続で一等当てた時のお前だよ…」

 

 

「……多分してたにこ……」

 

 

 

往来の真ん中でがくりと項垂れる。

 

 

 

そう、彼女は一等を4回当てるという奇跡にも等しい偉業を成し遂げてしまったのだ。

 

 

 

他のμ′sメンバーは渋々ながら三泊四日のハワイ旅行へと旅立ち、邪魔者は居なくなった。

 

 

にこにとってこれは神様が授けてくれた至福のいちゃいちゃフィーバータイムなのである。

 

 

 

「はぁ、とにかくちゃっちゃと今日のご飯だけ買って帰りましょ」

 

 

「まだヤり足りないのか〜、にこちゃんったら へ ん た い ♡」

 

 

「あのねぇ〜〜!アンタが猿みたいに発情するから足腰ガクガクでさっさと帰りたいだけよ!!……あ」

 

 

 

零の安い挑発に乗り、商店街のど真ん中で自らの叫号によって恥辱を受けることとなるにこ。

 

 

 

正に……愚 の 骨 頂。

 

 

 

「……ちょっと離れて歩いてもらえますか?」

 

 

 

真っ赤になるにこを見るや否や追い討ちをかけるかのようによそよそしい態度になる零。

 

 

 

正に……冷 酷 無 残 。

 

 

 

「こら!約束と違うわよ!!ちゃんとくっつきなさーい!」

 

 

「へーへー……あ、そういえば家族とかはいいのか?さっきは居なかったけど」

 

 

 

これ以上注目を浴びてはたまらないな。

 

 

 

そう判断した零はにこの思うがままにさせようと腕を組んでやる。

 

 

 

「ふふーん♪ このにこにーがそぉんなヘマすると思う〜? ちゃーんと予定は調整済みよ!」

 

 

 

そう言って自慢げに胸を貼るにこ。

 

 

 

「そうかそうか、じゃあ今日はヤリたい放題だな」

 

 

 

「ま、まさかまだやり足りないの……?」

 

 

 

「当然! こんなに可愛い彼女ならいくらいじめても物足りないに決まってるだろ!」

 

 

 

ここに来て爽やかな笑顔を見せる零。

 

 

 

「……ほんっとにずるいんだから……」

 

 

 

「ん?なんか言ったか?」

 

 

「なんでもないわよっ!ほら……さっさと材料買って帰るわよ!」

 

 

「了解。」

 

 

 

ボリボリと頭をかくと、ツインテールをせわしなく揺らして走っていくにこに引っ張られていくのだった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

??「こちらコードネーム“bracon”。聞こえますか〜。どうぞ」

 

 

 

??「えー、こちらコードネーム“秋葉”〜、聞こえてるわよ〜、どうぞ」

 

 

 

真夏だというのに真っ黒なコートなコートにマスク、そしてサングラスを装備した怪しすぎる二人組。

 

 

 

「ちょっとお姉ちゃん!真面目にやってよ!」

 

 

「ふぁぁ……そんなこと言われてもこっちも徹夜なのよー?テンションもさがるっちゅーの」

 

 

「むぅ……まあいいや、例の薬、出来てるんだよね?」

 

 

「もちろーん☆ そのために徹夜したんだからね。はいこれ。じゃあ私もう帰って寝るから〜〜」

 

 

「ありがとう!……ふふふ、にこさん。覚悟してくださいね……」

 

 

 

普段の佇まいからは想像できないような、およそ地上波では放送しかねるほどの鋭い眼光は、しっかりと彼女を捉えていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「んー、さて。今日は何にしようかしら」

 

 

「やっぱりこういう時は精のつく食べ物だろー。すっぽんとか」

 

 

「これ以上勢いづかれたらにこの身が持たないわよっ!」

 

 

「お二方、こちらなど如何でしょうか」

 

 

 

思う存分にいちゃいちゃしながら献立を話し合っていると、割烹着に身を包み、おまけにマスクにサングラスをつけた小柄な女性から声をかけられる。

 

 

 

「ラブフルーツ……?」

 

 

「なになに……カップルのうち女性の方が先に食べ、後に男性の方が食べると永遠に離れられなくなる……?怪しすg」

 

 

「かっ、買う!買うわ!」

 

 

 

恋する乙女の前では多少の怪しさなどなんの意味もなさない……らしい。

 

 

 

とりあえず鍋にすることとなり、ラブフルーツは食後のデザートにしようということで、さっさと鍋の材料を買い揃えると二人はようやく帰路に着いた。

 

 

 

「結構食材って重いんだな」

 

 

「だからにこが半分持つって言ってるじゃない……」

 

 

「馬鹿野郎。彼女に荷物もたせるワケにはいかねーだろ」

 

 

 

そう言ってビニール袋を肩にからいなおすとニコリと笑って見せる。

 

 

 

「アンタってほんっと良く分からないところで意地張るわよね……」

 

 

(……まあそこも好きなんだけど)

 

 

 

「どうせ女にはわからないねえよ。」

 

 

「あっはは、なぁにいじけてんのよ。良くわかんない時はたまにあるけど、にこ達のことを一番に考えてくれてるのはよーくわかってるわ。だからその、大好き…よ//」

 

 

「はは、まだ甘いな!俺はにこを愛してるぞ!」

 

 

「なっ、だったらにこはアンタのことすごーーく愛してるんだから!」

 

 

 

2人でいる時の胸が暖かくなるような感覚は、付き合い始めた頃と何も変わらない。

 

 

 

まあ9股もしておいて飽きる、だなんて言えば世の男達にどんな目に合わされるかわからないが……

 

 

 

ともかく二人はいちゃつきながらにこの部屋へとたどり着き、荷物を下ろした。

 

 

 

「ふぅ……さすがにちっと腰に来るな……」

 

 

「そうね…じゃあ私鍋作っちゃおうかしら」

 

 

「んー、鍋もいいけど甘い物が食べたい気分だな……疲れた時はやっぱ甘い物に限る」

 

 

 

手でパタパタとシャツを仰ぎながらうわ言のように呟く零。

 

 

 

「んー、じゃあさっき買ったラブフルーツだっけ……先に食べる?」

 

 

「おー、そうしよう。確か先に女が食うんだったっけ」

 

 

「そうだったわね……じゃあにこから食べるわ」

 

 

 

そう言ってかぷりと果実に歯を立てるにこ。

 

 

 

「うまい?……ってにこ?おーい?」

 

 

「うぇ……あっ……はっ、あ……」

 

 

「お前……大丈夫か……?」

 

 

突然目を白黒とさせ、慌てだしたので何事かと肩に手を置く零。

 

 

 

「ひゃうん!?……あッ…いやぁぁぁ!」

 

 

「なっ、どうしたにこ大丈……え」

 

 

 

肩に触れた途端に体を大きく揺らし、ギュッと目を瞑るにこ。

 

 

 

ただ事ではない……そう感じ、熱がないか確かめるために近づこうとついた膝に、冷たい感覚。

 

 

 

見るとにこの周りにはうっすら黄色がかった水たまりが出来ていた。

 

 

 

「み、見ないで……いや……なんで…グスッ……」

 

 

泣き出してしまうにこに何も言うことが出来ず、とりあえず片付けてしまおうとタオルを取り出したところで、ケータイがメールの着信を知らせる軽快な音楽を奏で出す。

 

 

 

「クソッ!んだよこんな時に!……秋葉…?」

 

 

 

画面を指で大きく擦り、本文を目に入れる。

 

 

 

その画面にはこんな文字が映し出されていた。

 

 

 

《ハロー☆ 君の大好きなお姉ちゃん、秋葉でーす♪ ある人がどうしてもっていうのでちょびーっとだけ危ないお薬を渡したから念の為に症状を書き出しておきます♡

 

〇まず初めに微量でも口にすれば体に電撃が走るような錯覚を覚え、失禁します☆

 

 

〇体に異様な負荷がかかり、発熱を起こします。

 

 

〇性格がちょびっと変わります☆ お姉ちゃん実験してないからここ良くわかんない♡

 

 

じゃ、そういうことで♪ ばいび〜☆》

 

 

 

 

 

………。

 

 

 

 

「秋葉ァァァァァァ!!!」

 

 

 

なにさらしてくれてんの!?うっそでしょ!?ねえ!?なんでそんな意味のない薬作って人に渡すん!?ありえへんやろ!!?

いやつうか書くべきは治し方やろ!!こんのポンコツ!!!

 

 

 

あまりの衝撃に脳内でのツッコミが関西弁になる零。

 

 

 

が、時は残酷であり、既に目の前のにこの体は次の症状を引き起こしていた。

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 

 

スカートがびしょ濡れのまま顔を赤らめ、荒い息をするにこの姿にまた零の性欲が暴走しかけるが、そんな場合ではないと首を振る。

 

 

 

(とにかく今はこいつを着替えさせて寝かさなきゃな)

 

 

 

そう判断し、とりあえず彼女を抱きかかえようと彼女の顔から視線を外したその瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視線を下ろす零。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その目はにたりと笑うにこの顔を捉え……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー薄れゆく意識の中……視界の隅にはみぞおちに突き刺さるにこの細い指が写っていた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「くっ……一体何が……」

 

 

 

目に入る光に怯みながらもなんとか目を開く零。

 

 

 

手足に力を入れると鈍い痛みが走ることに気付き、チラと目線を向けるとどうやらベッドに鎖によって縛り付けられているらしい。

 

 

 

「お目覚めかしら?」

 

 

 

ヒタヒタという足音の方に視界を向けると、そこには初めてのライブで使った衣装に身を包んだにこがいた。

 

 

 

 

「……どういうつもりだよハニー?」

 

 

 

ただならぬ雰囲気を肌で感じ取り、なるべく余裕を見せようとおどけてみせる零。

 

 

 

 

が、彼女は既にいつものにこではなかった。

 

 

 

 

「ふん……」

 

 

 

 

不機嫌そうに鼻を鳴らすと零の頬を撫でる。

 

 

 

 

「お、おい……」

 

 

 

「……ねぇ、私達別れよっか」

 

 

「……は?」

 

 

 

脳天を金槌で思いきり殴られたような錯覚を覚え、思わず耳を疑った。

 

 

 

空耳で、あって欲しかった

 

 

 

「別れようって言ってんの」

 

 

 

「な、なんで……」

 

 

「にこもね、前々から思ってはいたの。9人もいたら、1人ぐらいいなくても何も変わらないでしょ、って」

 

 

「んなわけねえだろ!?」

 

 

 

にこがどこか遠くに行ってしまう。

 

 

 

そう感じた零はにこを抱きしめようとするも薄暗い部屋に虚しく鎖の擦れる音が響くだけだった。

 

 

 

「……まあいいわ。ちょうどしばらく邪魔が入らないんだもの、ゆっくり考えなさい?」

 

 

「……俺の気持ちはもう決まってる」

 

 

「焦ることはないわよ、じっくり考えなさい」

 

 

 

窓から差し込む月の光がにこの唇と瞳を妖しく照らす。

 

 

 

いつもの明るく優しくて、暖かな笑顔などそこには微塵も感じ取れなかった。

 

 

 

にやりとした笑みを漏らしたかと思うと部屋から出ていくにこ。

 

 

 

「お、おいッ!」

 

 

 

咄嗟の叫びも虚しくドアは固く閉ざされ、零は孤独な闇の中に取り残された。

 

 

 

「なんで……なんでだよ……」

 

 

 

うわ言のように呟く零の言葉に、今宵は優しい言葉など返ってはこない。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

二日目:6:00

 

 

 

「うっ……ぶっ?!?!!」

 

 

 

たたき起こされる原因となった、口に感じる異様な痛みが熱さだと気付くや否や、差し込む朝日の中でニヤニヤと笑う彼女の姿を視界に捉えた。

 

 

 

「あら、別に寝ててもいいのよ?食べさせてあげるから」

 

 

「おでんって!!馬鹿じゃねえの!?ダチョウ倶楽部か!!」

 

 

「え〜、にこがせっかく気を利かせてあげたのに……」

 

 

「微塵も感じられなかったわ!!ごめんな!?」

 

 

わざとらしく口を尖らせるにこに若干……いや正直かなりの苛立ちを覚えながらも、全て秋葉のせいだと自分を抑える。

 

 

 

「それで?一晩で結論は出た?」

 

 

「……なに、お前俺に嫌われようとしてんの?」

 

 

「……なぁんのことかにこわかんなーい。じゃあ片手だけ鎖外してあげるから、それ自分で食べなさい?」

 

 

 

そう言うとにこはベッドの上に鍋を置き、ポケットから鍵を取り出し、右手を開放してくれる。

 

 

 

「ありがとうな、最高に愛のこもった料理を」

 

 

 

出来るだけ笑顔で。爽やかにそう言い切った。

 

 

 

「……ふん」

 

 

 

再度不機嫌そうに鼻を鳴らすと、にこは部屋を後にした。

 

 

 

(さてと……)

 

 

 

自由になった右手で左手の鎖をいじってみる。

 

 

 

が、どうやらかなり頑丈な作りなようで外れそうもなかった。

 

 

 

「どこでこんなもん買ってきたんだ……ん?」

 

 

 

ようやく落ち着きを取り戻し始め、改めて部屋を見渡す。

 

 

 

その部屋には、壁中にμ′sのポスターが張り巡らされていた。

 

 

 

「なんで……なんでだよにこッ!!」

 

 

 

突然、零は涙混じりの叫び声をあげた。

 

 

 

 

冷静だったはずの頭はまた一気に熱くなっていく。

 

 

 

 

ーーー床に散らばったμ′sのポスターからは、にこだけが綺麗に切り取られていた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

二日目:13:00

 

 

 

「……全部食べたのね。ほらこれお昼ご飯のカレーよ」

 

 

 

「……にこ、お前何考えてんだよ」

 

 

 

「……ここに置いとくわね」

 

 

 

「待てよッ!!」

 

 

 

皿を置き、部屋を出ていこうとするにこの手を掴んだ。

 

 

 

触れる。まだこの手は……届く。

 

 

 

「……痛いんだけど。離してくれるかしら」

 

 

 

「離さねえよ……お前何考えてんだ……俺達がやってきたことはなんだったんだよ!」

 

 

 

零の叫びはにこに響かなかったようで、彼女の瞳は冷たいままである。

 

 

 

「何……ですって?」

 

 

 

「そうだよ……皆でPV撮ったり……ライブやったりして、一緒に頑張ってきただろ!?」

 

 

 

「……にこはそんなものどうでも良かったのよ」

 

 

 

「は……?」

 

 

 

「全部暇つぶし。アンタとだってお遊び。これで満足かしら?」

 

 

 

「満足なわけ…ッ!?!」

 

 

 

突然体中に走る電撃。

 

 

 

それはにこの左手に握られたスタンガンによるものだった。

 

 

 

歯を食いしばり、なんとか意識を持たせようとするも、簡単にとばされてしまう。

 

 

 

「……馬鹿な人」

 

 

 

意識を失ってもなお、零の右手がにこを離すことはなかった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

二日目:19:00

 

 

「そろそろ離してくれないかしら。跡が残ると面倒なんだけど」

 

 

「離してたまるか……やっと掴んだんだ」

 

 

「にこが根負けして鍵を渡すとでも?」

 

 

「違え……あの日のお前と約束したんだ。もう二度と離さないって。だからこの手は絶対に離さない。」

 

 

 

まっすぐな零の瞳に、一瞬揺れるにこの瞳。

 

 

 

が、彼女はすぐに顔をそらすと不機嫌そうにため息をついて目を閉じた。

 

 

 

「なぁにこ」

 

 

 

「……なによ」

 

 

 

「覚えてるか?昔お前とこうして二人っきりになった時のこと」

 

 

 

「いつの話よ……覚えてないわ」

 

 

 

「お前が俺の膝に自分から乗ってきた時だよ、忘れたとは言わさねえぞ」

 

 

 

「……あぁ、ほんっと自分に都合のいいようにしか解釈できないのね。ほぼ脅しだったじゃない」

 

 

 

「まあな。それが俺だ。……なぁ、ホントにあの時のこともどうでもいいと思ってるのか?」

 

 

 

「何度言わせるのよ。どうでもいいって言ってるでしょ」

 

 

 

右手に感じるにこの体温が、いっそう冷たく感じた。

 

 

 

「そっか……全部俺のうぬぼれだったんだな」

 

 

 

「そうね」

 

 

 

素っ気ないにこの返事に、思わず涙が溢れそうになる。

 

 

 

「よし、決めた。にこ……聞いてくれ」

 

 

「なによ」

 

 

 

鼓動が一気に早くなる。

 

 

 

静まり返る部屋には俺とにこの2人だけ。

 

 

 

涙混じりの情けない声で、零は言い放った。

 

 

 

「別れよう、俺達」

 

 

 

「……そう」

 

 

 

そう言って立ち上がろうとするにこ。

 

 

 

 

 

 

 

 

唇を噛み締める零。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし刹那、彼はにこの右腕を引っ張り、振り向かせた。

 

 

 

 

「なっ……なんのつもりよ!」

 

 

 

振り向いたにこの頬には、涙の筋が出来ていた。

 

 

 

彼女も、泣いていた。

 

 

 

「まだ俺の話は終わってねえよ」

 

 

 

そう言うと零は、左手の鎖を無理矢理引きちぎる。

 

 

 

砕けた鎖の破片が、カランカランと音を立てる。

 

 

 

驚いた表情になるにこを、今度は両手で力強く抱き寄せる。

 

 

 

「俺と……付き合って下さい。」

 

 

 

「なっ……なにを」

 

 

「前はお前からだったからよ……やっぱり男なら自分から、じゃなきゃな」

 

 

 

涙を拭うことすらも忘れ、ぽかんとするにこの頬に手を添えて、月明かりの中、今迄で一番深いキスを結んだ。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ったく……ほんと一時はどうなるかと思ったぜ……」

 

 

「あはは……怪しいものは買うもんじゃないわね……」

 

 

 

三日目の朝。

 

 

 

告白の後二人とも疲れからこっくりと寝てしまったのだが、起きるとにこはすっかり元に戻っていた。

 

 

 

「まさか突然倒れて1日眠って過ごすなんて……せっかくの2人っきりなのにぃぃい!!……はぁ……」

 

 

 

そう、記憶のないらしいにこには本当のことを言っていない。

 

 

 

本当はμ′sのポスターについて問いただそうとも思ったが、部屋の隅に丸められた雑すぎる合成ポスターを見てなんだか馬鹿らしくなってしまった。

 

 

 

「はは、まあそう言うなよ。1日添い寝出来たんだ。俺は好き勝手できて楽しかったぜ♪」

 

 

「なっ……アンタまさか変なことしてないでしょうねぇ?!」

 

 

「安心しろ!2人っきりの時間はまだ1日ある!今日ぜーんぶ再現してやるからよ!」

 

 

「なっ……い、いやぁぁぁ!!?」

 

 

 

悲鳴をあげるにこ。

 

 

 

しかし、その顔にはすっかり元に戻って……いや、1日前よりももっと暖かくなっていた。

 

 

 

「ん?あ、悪いにこ。ちっと秋葉から電話きたから話してくるわ」

 

 

「……タイミング悪いわねぇ……」

 

 

「ん?にこ?」

 

 

「な、なんでもないわよ!さっさと行って帰ってきなさいよね!」

 

 

 

顔を真っ赤にして可愛らしいことを言うにこ。

 

 

 

何故か久しぶりに再会したように思えて、ひどく愛おしくなってしまう。

 

 

 

携帯とにこの背中を交互に見て、1つため息を落とす。

 

 

 

携帯に表示されたボタンのうち赤い方を押し、着信を切ると、にこを抱き寄せ、膝に乗せて包み込むようにして座った。

 

 

 

「……電話はいいの?」

 

 

 

首だけを回し、不審そうな表情で、しかしどこか嬉しそうに零に問いかけるにこ。

 

 

 

零は少しだけにこを抱く手の力を強めると、柔らかく微笑んだ。

 

 

「……やめた。せっかくにこと二人きりなのに電話なんてもったいねえしな」

 

 

 

「ほんっとに馬鹿なんだから……//」

 

 

 

窓から差し込む陽の光が、二人を祝福しているかのように一層眩しさを増すのでした。

 

 

 

めでたしめでたし♪

 




はい、皆さん如何でしたでしょうか。

あとがき、なんて言われましても自分について書くようなことございません!
しかし書けって言われたら書きますよォ!はい!

さて皆さん、フトモモ科って言葉ご存知でしょうか。
なんでもユーカリの他熱帯果実のグアバ、レンブなどなどが属する科ならしいのですが…



コ ア ラ っ て 主 食 フ ト モ モ な ん



あっ、いえわかってますよ。流石にこれはコアラに対するとんでもない風評被害ですよね。

こら!コアラだけに!っつってね。

しかし言いたいのはこれだけではないのです。

コアラが主に生息するオーストラリアですが、是非。街の真ん中で乾杯、と叫んでみましょう。


……恐らく周りから苦笑。もしくは通報されると思います。

なんでもオーストラリアには“cream pie”という単語があるらしく……(自主規制)


つまりオーストラリアではフトモモを貪る可愛らしいコアラを眺めながら飲み物でも片手に(〜自主規制〜)!と叫ぶというなんとも素敵なシチュエーションが出来上がるんですね。

さて、長くなってしまいましたがここまで書いて自分がどれだけ書き手として未熟なのか痛感しました(遅い)

今回、遅刻してしまったのにチャンスを与えて下さった薮椿様。

また他の参加者。

そして一読頂いたすべての読者様に感謝の意を込めて。

cream pie!
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