ラブライブ!~μ'sとの新たなる日常 Anthology~【完結】 作:薮椿
今回は再び
『ラブライブ!平凡と9人の女神たち』
を投稿しているちゃん丸さんの『新日常』をお送りします!
ちゃん丸さんより
2回目です!はい!2回目です!
謎テンションすみません。書きたい気持ちを抑えきれなかったので2回目を書かせていただきました(笑)
今回は「恋する乙女になりたいの!」の続編ということになりますが、別に前の話を読んでなくても話は理解できると思うので、お気楽にご覧ください。
零君に“恋”をした数日後、時刻はまだ早朝。私はあの時と同じように研究室に籠っていた。
理由としてはものすごく単純。
ただ単に外に出る気になれなかったから。
かと言って。
ここにずっと籠っている理由も無い。
だからか、さっきから妙にイライラしてしまう。
「...とりあえず楓ちゃんで発散したし、まぁいいか」
この間の仕返し(恋する乙女になりたいの!参照)として私は楓ちゃんの寝床に侵入してある薬を彼女に飲ませた。
夢の中で、ただひたすら零君に罵倒される薬を。
いま現在でも、零君は楓ちゃんに対して罵倒とまではいかないけどきつい言葉を浴びせたりすることもある。
だけどやっぱり、その言葉にはまだ“愛”がある。それを楓ちゃんもわかっているから、特に気にせずイチャイチャしたがる。
その“愛”を取り除いて、ただひたすら零君に罵倒されれば、きっと彼女も参るんじゃない?
ってことでその次の日に血眼になって作ったってわけ。
ちなみになんで私が研究室に居るのかというと、彼女の寝床に侵入して任務を遂行した私は、特に家に居てもすることがないから研究室に帰ってきたというだけ。
これもまた特に理由は無い。
それにしても...
『秋葉』
...何考えてるのよ私は。この間の“あれ”が楽しかった、なんて。
だけど、
「...もう...一回ぐらい...」
恋の味を一度覚えてしまうと、何度も何度も経験したくなる。決してそれが叶うとかそういうわけでは無いのに、恋をしているというだけで世界が輝いて見えるぐらいふわふわとした感覚を覚えたのだから。
世の中の女の子が『恋したい〜』なんて言っている意味が少しわかってしまった自分に嫌気がさす。
けれども。
「...作りましょ。改良版」
特にすることも無い。
だったら今後に活かせるような薬を作っていた方がまだいい。結局、改良版を作ることにした私は、とりあえず体を起こして机に向かうことにした。
〜2時間後〜
「...出来た。割と早く出来たわね」
かなり集中してしまい、思いの外早く完成させることが出来た。決して失敗作ではないと、そんな確信を持って。
私は充電し忘れた携帯を持って電話をかける。相手は...
「おはよー♪零君」
『朝からうるせぇな...なんだよ』
朝の9時前。零君は眠そうな声でそう言ってくるから、正直全然びくりともしない。
なんで私が零君に朝から電話をかけたのかと言うと、単純に予定を聞いておくため。せっかくやるんだから零君にも合わせてもらわないと。
あっ、彼には拒否権なんて無いからね☆
「それで、今日は部活?」
『あぁ...?そうだけど?なんだよ...また茶化しに来るのか?』
「違うわよぉ!」
そうやってすぐに私が来るのを嫌がる。だけどそれを差し置いて無理矢理にでも遊びに行くのがすっごく楽しいんじゃない。
ま、今回は別だけど。
「部活のあと、お暇??」
『はぁ...?』
「ちょっと付き合ってよぉ?」
『嫌だ』
あ?嫌だ?...そう。だったら...
「断るならμ'sのみんなをまたヤンデレにしちゃうけど?今回は特別にヤンヤンヤンヤンデレもどきぐらいにしてあげるわよ?」
『やめろ。それになんだそれ。もはやただ俺を潰したいだけじゃねえか。しかもなんだデレもどきって。せめてデレにしろ。っていや、真に受けなくていいからな!』
ひとりで会話してるし...。
ということは動揺してるみたいね。これで彼はうなずくはずよ。
『はぁ...わかったよ』
ほらね☆
零君も身の振り方っていうのを私の前でいかんなく発揮してるわね。いいこと、いいこと。
『はぁ...めんどくせぇ。今日の練習、15時ぐらいに終わるからな』
「りょーかーい♡それじゃまた後でねぇ」
そう言って電話を終える。本格的に充電が足りなくなってきたため充電器を差して再び席に着く。
薬を飲む前に連絡しておいてよかった、なんて思っちゃう自分がいる。薬飲んじゃうと連絡どころじゃなくなるはずだし。
でも、今回はある意味確信犯。
前回のようにはいかない。しっかり“いまの”私の感情を残すことが出来る...ように作ったから。たぶん。
いつもなら、「たぶん」なんて微妙な表現をすることはまずない。だけど、前回のことがあるから変に自信を持てなくなってる。全く...本当になめてたわ...“恋”を。
でもでも。
これほど上手く使いこなせるようになれば面白いものはないっ!いままで以上に零くんを虐めることが出来るし♪
まだ時間あるけど...もう飲んじゃおっかな。
時刻はまだ朝の9時。約束の時間までまだ6時間あるけど私は前回と同じ見た目の薬を手に取る。
あ、それとだけど。
前回の反省を活かして、薬の効力が切れるのは、飲んで24時間経つか。
それとも、
「零君と...キスするか」
やっぱり、いまの私はものすごく弱気。びっくりするぐらいに弱気。こんな予防線を張ってしまうなんて。
でも、万が一ということがある。姉弟という間柄で一線を越えてしまうわけにはいかない。いくら私でもそこはしっかりしてるつもり。
さてと。
私は研究室の冷蔵庫から水を取り出してその薬を流し込む。ゴクリと喉を通る感覚が、少しだけ気持ち悪い。
どくん。
来た。
...でも前回よりだいぶ落ち着いているわね。一度経験していることがやっぱり大きいみたい。
とは言っても、やはりこの胸のドキドキ感が気分を高揚させる。...案外悪くない。
ふと、研究室に置いてある鏡に映る自分の姿を見る。白い研究着にボサボサの髪。それに度の強い眼鏡。
...最近は特に自分の容姿にかける時間が減ってる気がする。このままだと零君引いちゃうかな...。
どくん。
ちょっと...恥ずかしい...。
...って。
早速、薬の効果が...。
でもまあ、このまま行くのはさすがにきつい。少しお手入れでもしようかな。かなり久々だけど。
立ち上がって、とりあえず白衣を脱ぐ。何かいい服を置いてなかったか、研究室の押し入れの中を探す。
そんな時だった。
研究室のドアをコンコンと、2回ノックする音がする。ガサガサと押し入れを漁っている音だけが響いていたため、バッチリとその音が聞こえた。
にしても、いったい誰だろうか。こんな朝早くに。生徒?教員?どちらにしてもめんどくさい。
「はいはい。開いてますよ〜」
だからと言って無視するわけにもいかない。仮に大事な仕事の依頼だったりすれば、私自身の評判に関わってくる。
私は朝とは思えないようなテンションでそう投げかけると、ドアの向こうから「失礼します」との声とともにドアが開く。
「おはようございます。秋葉さん」
「って絵里ちゃんじゃない。どうしたのよ、こんな早くに」
顔を覗かせたのは零くんの彼女、絢瀬絵里。現在、私が所属している大学の1年生。そして零くんの彼女でもある。...何人目の彼女になるんだろ。8人目?9人目?ま、いいか。
私が理由を聞くと、彼女は苦笑いを浮かべ「今日休みなんですけどね」なんて言いながら話す。
「あはは...実は零に頼まれちゃって」
「なにをよ?」
「『何か企んでいるだろうから、秋葉の様子を見てきてくれ』と」
「ひどぉい。そんなことないのにぃ☆」
そんなことのために自分の彼女を使うなんてね...。そして彼のお願いを聞いてしまう彼女も彼女よ、ほんとに。すっかり零くんに調教されちゃってるし。
「にしても...何か雰囲気変わりました?」
「そお?」
「それに洋服漁ってるみたいですし...お出かけですか?」
「まぁね☆ひとりでぶらぶらしようかなって –––」
どくん。
「...秋葉さん?」
「え、えっと...お、お昼からちょっと大事な用があって...何と言うか...デートと言うか...」
「で、デート!?秋葉さんが!?」
薬の効果で零くんのことになると嘘がつけなくなってきてる...。このままだと彼女たちにまでからかわれるじゃない...。ほんと何ていうタイミングで来たのよ...。
「お相手は誰なんですか?」
ものすごくキラキラした瞳でそう問いかけてくる彼女。笑われるなんて思っていたから、その反応は少し意外。
「...零くん」
「............なにを企んでるんですか?」
「ひ、ひどいじゃない!何も企んでなんかいないのにぃ!」
が。
彼女は私が彼の名前を出した途端に思いっきり表情を変える。この間の楓ちゃんと全く同じ反応に、思わずイラっとしてしまう。
絵里ちゃんがそう言う理由はわかってる。いつもいつも私が零くんで遊んでいるから、きっと今回もその部類なんだろう。なんて思っているに違いないから。
「...でも雰囲気変わりました?」
「えっ?私?」
「はい。なんか...柔らかくなったと言いますか...本当に女の子みたいな雰囲気」
「失礼ね...前から女ですけど」
「冗談ですよ」なんて言って笑う絵里ちゃん。そんなことを言うような子だったなんてね。そこそこ付き合いもあるけど、初めて知った一面かもしれない。
ともかく、これで彼女の用が済んだはず。早く帰ってもらいたい。
なのに。なのに!
「わかりました。応援させていただきます。“デート”を」
「そ、そんないいわよぉ!用が済んだのなら帰ってちょうだい」
「そんな地味な格好に、ボサボサの髪の毛のまま行くつもりですか?」
ぐっ...。
私が唯一危惧していたところをズバッと突かれたから、思わず言葉が止まってしまう。それを見た彼女は、ニンマリと笑って、
「私がコーディネートしてあげます!ふふっ」
あぁ最悪。
気持ちは嬉しいけど、正直いまは迷惑でしかない。思いっきり自分の表情も「やめろ」と言わんばかりに歪んでいる。
「可愛くしてあげますから」
..................可愛く。
可愛く..................。
『秋葉、めっちゃ可愛いな』
「............だったらお願い」
「はいっ!ふふっ。秋葉さん、早速可愛いですよ?」
「う、うるさいわね...」
はぁ...。何を言ってるんだか私...。
薬の効果と素の自分の感情がごちゃまぜになってもうわけわかんない。
「早速行きますよっ!」
「えっ!?ちょ、ちょっと...!」
「急がないと約束間に合いませんよっ!」
どうして絵里ちゃんがそんなに楽しんでいるのかは一切わからないけど。
ともかく!
絵里ちゃんによるコーディネートで私は零くんとのデートを迎えることになった。いや、なってしまった。
☆☆☆
「まずは服装ですね。イメージをガラリと変えて可愛らしい服にしましょう」
「...えらく楽しそうね」
「当然ですよ。あの秋葉さんがデートって...ぷっ」
「...今度思いっきり“遊んで”あげるわね」
絵里ちゃん...あなた、覚えておきなさいよ...散々からかいやがって...。
『秋葉』
...あぁもうっ!どうしてこんな時に零くんの顔が浮かぶのよ!
「秋葉さんならこういうワンピースとか似合いそうですね」
「ワンピースなんて着たことないんだけど」
私たちは電車でちょっとのところにあるショッピングモールに来ていた。10時から開店ということもあって、タイミング的にはベスト。だけど休日ということもあってひとはかなり多い。人酔いしそう。
その中のある洋服屋で、私と絵里ちゃんはぶらぶらと適当に洋服を漁っていく。彼女は慣れているのか、何のためらいもなく店内を物色する。
一方の私はこんな雰囲気のお店に来ることはまずない。つまり、ものすごくキョドっているということです。はい。
「普段着ないからいいんじゃないですか。ふふっ。ワンピースはやめて...これと、これ。はい、試着してきてください」
「えぇ〜...めんどくさいわよ〜...」
「そのままなら零に嫌われますよ?」
どくん。
「わ、わかったわよ...」
「ふふっ。秋葉さんスタイルいいので絶対似合いますよ」
彼女が選んだ洋服一式を仕方なく受け取る。そして彼女の言われるがままに試着室に。
鏡の前に立って改めて自分の姿を見る。相変わらず疲れた表情してるし...。誰のせいだか、いや自分のせいか。あぁわけわかんない。
彼女から渡された服を見てみる。
ワンピースではなく、紺色のロングスカートに、白色のシャツ、そして薄い緑色のカーディガン。まさしく森ガール?といった感じかしら。
「秋葉さーん。まだですかー?」
「ちょ、ちょっと待ってよ!いまから着替えるから...」
試着室のすぐそばにいるのだろうか。逃がしてくれないってことね、はいはい。
そそくさと着ている服を脱いで値札が付いたままの着づらい服を着ていく。明らかにいつもと違う自分の姿に、気持ち悪さしか込み上げて来ない。
「うわっ...」
いざ着てみて鏡を見ると、明らかに服に“着られて”いる。ともかく、早く出よう。絵里ちゃんも痺れ切らしてるだろうし、外からいろいろ言われるのもうるさいし。
「お待たせ...」
「...ちょっと秋葉さん!すごく似合ってますよ!」
「そんなことないでしょ...」
絵里ちゃんは私のこの服装を大絶賛。そもそも、そこまで褒める必要はないのに。
はぁ...早く脱ぎたい。普段着ないせいもあるけど、やっぱりこの服装の雰囲気というか、なんというか...ともかく、早く脱ぎたい。ただそれだけ!
「じゃあこのまま行きましょう!」
「えっ!?ちょ、ちょっとそれはどうかな?」
「せっかくお似合いですから。値札もそのまま切ってもらえばいいですし」
「いやそういう問題じゃなくて...!」
「つべこべ言わないでください。いつもならもっとノリノリじゃないですか。零に嫌われますよ」
「そう言っておけばいいって思って –––」
どくん。
「...わ、わかった。このまま...行く」
「ふふっ。それじゃお会計しましょ!5000円以内に収めたので」
意外と安いわね。もっと取られるかと思っていたけど、ただがむしゃらにコーディネートしていたわけでもないみたい。その優しさを違うところに遣って欲しかったよ。
はぁ...。間違いない。彼の名前を出されたら私の負け。こうなってくると、もはや嫌がるのも時間の無駄になってくる。かと言って素直に受け入れるのも嫌。
私は店員さんに着たまま値札を切ってもらい、さっきまで着ていた服をカバンに詰め込んでお店を出る。
ようやく解放される...。疲れた...。約束まで研究室で寝ていたい。
「今日はありがとう。それじゃあね」
私は彼女にそう言ってその場を離れようとする。
が。...が!!
「まだですよ?次は髪の毛です」
このロシアン...。力強く私の腕を掴んで離す気ゼロ。私は引きつった笑顔で断ろうとした。
けど。...けど!!
『零に嫌われますよ』
「...そ、そうね。手入れしてなかったし...」
「やけに素直ですね...」
私は彼女の隣について、再び歩き出す。
はぁ...。もうどうにでもなれ。早く零くんに会いたい。
...あ?零くんに会いたい?
...あぁ薬の効果ね。はいはい。そろそろ本格的に二重人格なりそう。一時的とは言っても。
「ねぇ絵里ちゃん」
「はい?」
「零くんが私とデートするのに、怒らないの?」
そもそも。
なぜ彼女はここまで協力的に動くのだろうか。自分の彼女が姉とは言っても、ほかの女とデートするというのに。嫌じゃないの?
絵里ちゃんは少し微笑んで、
「怒るわけないですよ」
はっきりとそう話す。自信に満ちた、なんて言い方はおかしいかもしれないけど、そんな感じの表情に見えるから仕方ない。
「どうして?」
あえて、理由を聞いてみる。
「だって零はμ'sの全員と付き合っているんですよ?今さらそういうことでは怒らないです。あ、ほかの女の子だったら怒りますけど」
...確かに。自分のほかに彼女が8人もいるなんてただのハーレム。ムカつくぐらいのハーレム野郎じゃん。ま、私には関係ないけど。
「そう。ありがと」
再び前を向いて歩き出す。
彼女の言葉を聞いて、どこか安心してしまう自分が居たのだから。
☆☆☆
「秋葉さん...やっぱりすごく綺麗ですね」
「そ、そんなことないわよ...」
そんな心の底から言われると、私としても照れてしまう。そんな自分がとてつもなく気持ち悪い。
私は彼女に連れられ、とある美容室に。髪の毛を少しだけ切って綺麗に手入れをしてもらった。少しパーマもかけて、毛先がくるくる。めっちゃ女の子じゃん。おえっ。
時刻は1時。思いの外美容室で時間を取られてしまった。だけど彼との約束までにかなり時間がある。
そんな私を見てか、彼女は電話を取り出して誰かに電話している。
「あっ、零?ちょっといいかしら」
れ、零くん...?
「秋葉さん、別に何も企んでなんかなかったわよ。純粋にあなたとの“デート”を楽しみたいみたい」
笑顔で話す彼女。『嘘だろ?』なんて笑いながら言っている彼の姿が想像出来る。
どくん。どくん。
...なんなのこの気持ち。
「あはは。零ったら疑いすぎよ」
...。
「ほんとよ。それでね、零。いまから駅前に来て。約束の時間をずらして欲しいの」
「...そう。部活には代わりに私が行くから。手伝いなら任せて」
彼女は電話を終えて、私に向き合う。
「零、いまから来ますので!」
「えっ...?」
「約束の時間、ずらしました。せっかくこんなに綺麗になった秋葉さんを早く見て欲しくて」
そんなこと...。
「秋葉さん?」
「な、なに?」
「...嫉妬してるんですか?」
「し、嫉妬...?私が...?」
嫉妬。
そんなわけない。...なんて思ったのはほんの一瞬で。
あぁそういうことか。と素直に受け入れる自分が出てくる。ここまで素直に受け入れると、ほんと怖さすら感じる。
「零と楽しそうに電話してる私を見て、嫉妬するなんて。可愛いですねっ、秋葉さんっ」
「ぐっ...」
にしてもこいつ...じゃなかった絵里ちゃん...。なんで私がこんな風になってるか聞かないのかしら。
いつもとは明らかに違うこの私。なにも言わないほうがおかしいと思うけど。
「ねぇ絵里ちゃん?」
「なんですか?」
「今日の私、ちょっといつもと違うと思わない?」
別にどうでもいいけど、気になったから聞いてみる。
「変だとは思いますけど...。それに背中がむず痒くなる感じですね」
こいつ言いたい放題言ってんな。どこが賢い可愛いエリーチカよ。暴君じゃない。私は別にいいけどね、いいけど!零くんもある意味大変かもね...。
どくん。
その分私のほうが...姉弟だけど...。付き合いやすいというか...。
「秋葉さん、私そろそろ行きますね。今日は楽しんでください、“顧問”」
「わ、わかったから早く行きなさいよぉ!」
はぁ...彼女にからかわれるなんて。本格的に悲しくなってきた。
そんな私を尻目に彼女はμ'sの待つ音ノ木坂学院へと向かった。わざわざ私のために、本当ご苦労なこと。
時計を確認すると、時刻は13時を過ぎている。予定よりも2時間も早い。さっきまで振り回され続けてたから、心の準備なんて出来るはずもなく。
––– ピリリリ
き、きたぁ!零くんからの電話...!!
どくん。どくん。
ふー。ふー。と、2回深呼吸をして電話に出る。
「も、もしもし」
『秋葉。いまどこだ?俺改札のところ着いたぞ』
どっくん。
あぁ零くんの声...。聞き慣れた声だけど、そんな彼の声が全身に染み渡る。心地が良い。
「い、いま改札のところまで行くわね」
『はいよ。見つけたら声かけて』
そう言って短い電話を終える。
ふぅ...緊張しちゃった...。短い会話なのに。
とりあえず零くんを捜さないと。
改札のところと言われても、ひとが行き交っているなか見つけるのは難しいはず。
なんて思ってた。
「...ってすぐわかったし」
大きなあくびをしながら、改札を出てちょっとしたところにある柱に背中を預ける零くんを発見。制服じゃなく私服の彼に、どきんと胸が鳴る。
でもなんというか、もっとロマンティックな出会いがよかったような、そうでないような。
さてと。行きますか。
彼に近づく。一歩、また一歩と。
そのたびに私の胸の鼓動が早くなる。
「お、お待たせ」
「...」
「れ、零くんってば」
「えっ?お、俺ですか?」
...なに?今日はそんなキャラで接しようというわけ?放置プレイってやつ?良い度胸じゃない。
...って思いの外冷静な私が居ることに驚く。
ごほん。改めまして、目の前を見てみましょう。
そこには私の想いびと。
「な、なんですか?それに...あなた誰?」
...こいつまたヤンデレ地獄に叩き落としてやろうか。
ま、彼の言い分もわかる。
だって普段の私とは全く違うんだから。
「えっと...あ、秋葉ですっ☆」
「............ええええええええっ!!??うそ!!??」
...やっぱりこいつヤンデレ地獄に(以下略)
「お、驚きすぎよぉ!!」
「だって...えっ?えっ?ほんとに秋葉?でも声は秋葉だし...見た目は...ちょっとわかんないし...はっ?はぁっ?」
「と、とりあえず落ち着いてよぉもう」
相当驚いてるみたいね。そこまで驚かれるとこちらとしてもどう対応すれば良いかわからない。
...っていうか。さっきから“普通の”ことしか返してない。
いつもみたいに彼を茶化さないとペース掴めないじゃない。
どくん。
...なんだよね。そうしたくても、いまは出来ない。だって、あなたに恋しちゃってるんだもん。うふふ。
...うわっ。なに考えてんだ私。いまのは薬のせいだよ!薬のせい!絶対!ほんと絶対!零くん好きっ。
...あぁぁぁ!!出てくんな!!自分で飲んでおいてあれだけど、やめて!
「お、お〜い...秋...葉だよね?」
「そ、そうよぉ!もうっ!やっとわかったのぉ?」
はぁ...。ひとりで勝手に格闘していると、零くんが様子を伺うように話しかけてきた。理解するの遅すぎ。それでも好きっ。
...もういいや。
えっと。ようやく彼が私だと理解してくれたから、これからのことを決めないと。全く決めてなかったし。
「いまからなにすんだ?いきなり約束の時間を絵里にずらしてもらったぐらいだから決まってんだろ?」
「い、いや...そ、それは...」
彼は当たり前のように聞いてくる。
私が何の予定も無しに呼び出したなんて思ってもいないみたい。いままでもそうだったから、なおさらね。
「特に決まってなくて...」
「ま、マジ?ほんとに秋葉なのか?」
「う、うん」
「...はぁ。そういうことか」
彼は呆れた表情を見せてため息をつく。
「なんか薬でも飲んだのか?新作の」
「そ、それはぁ...」
何度も何度も実験台にされてる彼だからこそ、会って5分足らずで“何か違う”その“何か”に気づくことができる。
さすが、私の弟ね。いえ、恋人ね。
ご、ごほんっ。
正直バレてしまったら隠す理由もない。
私は正直に言う...つもりだった。
どっくん、どっくん。
「そんなことないわよ?ちょっと気分転換」
「はぁ...?...ま、いいや。それでなにする?」
納得はしていないようだけど、彼は素直に引いてくれた。いまの私は思っていることと放つ言葉が違う。だけど、放った言葉にそのうち納得してしまう自分が居る。
「...とりあえずご飯食べたいな」
「そっ。だったらどっか適当に入るか。なんか食べたいもの、あるのか?」
「なんでもいいよっ。零くんにおまかせするっ」
「お、おう。なんか...気持ち悪いんだけど」
「あ?」
「なんでもねっす」
一応言っておくけど、これは神崎零と神崎秋葉の会話だからね。私のキャラがもうわけわかんなくなってるけど許してね。これも薬のせいだから、そう薬の。
とりあえず私たちは、腹ごしらえをしようということでその辺をぶらぶらと歩くことに。
楽しみ...だな。なんとなく。零くん好きっ。
...あぁっ!
☆☆☆
「ふわぁ〜。眠気が...」
「零くん。お疲れ?」
時刻はもう夜。20時過ぎ。私たちは結局その後近くのファミレスで他愛もない話をして、それから映画を見ようということになって甘々の恋愛映画をふたりで見ることになった。
もう映画の内容は甘すぎて目を背けたくなっちゃうぐらいだった。でも零くん好き。
その後、時間もいい感じになったということでふたりで夜ご飯を食べに来ていた。お洒落な雰囲気の居酒屋さん。
もちろん、零くんはお酒はダメ。
私も少しだけお酒を嗜んで満足満足。酔いは全然ないけど。
「なあ秋葉、どうでもいいこと聞いていいか?」
「なに?」
「秋葉の初恋っていつなんだ?」
初恋?
零くんが空いたテーブルに残っていた枝豆を食べながらそんなことを聞いてくる。
初恋ねぇ...。いつだったかしら。
...まずい。本気で思い出せない。
「わかんないや☆」
「うざっ!その言い方うざっ!」
「うふふ」
特におかしくもないのに笑いが出てしまう。酔ってるのかな?いや、でもそんな感じはしない。
どうして?
目の前を見る。
「どした?」
彼の...前だから?
「...ううん」
「...そっ」
沈黙。
店内のBGMだけが、私たちの間に響く。
さっきまでお互いにそこそこ明るく話していたのに、どうしていきなり黙るのだろう。
その沈黙を破ったのは、
「...そろそろ帰るか」
彼だった。
「そ、そうね」
『帰るか』
その言葉が私の胸に刺さる。
これも、どうして?再び自問。
「秋葉?」
「あ、あぁごめん。帰りましょ、疲れたし」
自答する前に、彼が遮ってしまった。
私たちは会計を済ませてお店を出る。
時間はまだ20時ということもあって、ひとはそこそこ多い。
「今日は疲れたな」
「そう...ね」
「大丈夫か?酔ってないよな?」
「だ、大丈夫よぉ」
彼は変態、変態と言われているけど、いやほんとに変態なんだけど。時々無意識に見せるそんな優しさが心に沁みる。μ'sのみんなが彼に惚れてしまう理由も十分にわかる。
「ほんとに大丈夫か?」
「だ、大丈夫だって。...きゃっ!!」
「おっと...!」
大丈夫、なんて言ったのに。
つまづいてしまい、こけそうになったところで。
ぎゅっ、と私の体を抱きしめるもの。
「なにやってんだよ...」
「れ、零くん...」
私が思っていた以上に大きい体にしっかりとした腕。優しく包み込んでくれる彼の匂い。
どっくん、どっくん、どっくん。
私の心臓がこれ以上ないくらいに鼓動を早める。
彼は私を起こして肩を掴んだまま話す。
「ほら、肩貸すから」
「ほ、本当に大丈夫!さっきはたまたまつまづいちゃっただけ...」
どっくん、どっくん。
私の胸の鼓動はまだ治らない。
どっくん。
まだ...。
どっくん。
キュッ
「ん?秋葉?」
「ねぇ...零くぅん...」
「どうした。裾なんか引っ張ってきて」
「まだ帰りたくない...」
もっとあなたの近くに居たい。
ふたりきり...で。
☆☆☆
「どうしてこうなった」
どうして私はホテルにいるのだろう。どうしてシャワーを浴び終わってベッドに座って待っているのだろう。
答えは簡単。
薬のせいだよっ!ファイトだよっ!
...穂乃果ちゃん的なノリで言っても無駄だった。
ともかく、シャワーを浴びてハッと我に帰った私は、ホテルに置いてあったバスローブを着ずに、さっきまで着ていた買ったばかりの服を着直した。
こうすれば、まだ自制が効くかもしれない。
なんて思ったから。
「ふぅ。いい湯だった」
「おかえり零くん」
「...なぁマジで一緒に寝るのか?」
「...うん」
いや、うんじゃない!うんって言いたいけどそうじゃない!あぁ今日何回目の「わけわかんない」だろこれ!
「はぁ...わかったよ。それじゃ、電気消すぞ」
私もダブルベッドの片側に横になって、彼がその私の隣に横になる。お互いに背を向けて。
どくん。どっくん。
落ち着いて...。大丈夫...大丈夫...。
でも。ふと零くんのことを考える。
今日、なにも言わずに付き合ってくれた彼のことを。
どうしてだろう。
いつもなら、もっと文句が出てきてもおかしくないのに。
「ねぇ零くん。起きてる?」
「...おう」
「...どうして今日は付き合ってくれたの?」
何の偽りのない、“素”の私が彼にそう問いかける。
すると彼は、茶化すことなく、
「秋葉が楽しそうだったから」
そう答えた。
どくん。どくん。どっくん。どっくん。
「ごめんね零くん。私、また薬飲んで遊んでたの」
いまの彼には本当のことを言っておきたい。申し訳なさとかじゃなくて、ひとりの女として、嘘はつきたくない。なんて思ったから。
すると彼はくすっと微笑んで。
「知ってたよ」
やっぱり、零くんはなんでもわかるんだね。私のことだけじゃなくて、楓ちゃんのことも、μ'sのみんなのことも。
...もっと近くに。
近くに...。
「零くん...」
「秋葉?」
「ぎゅってして。なんて言ったら...気持ち悪いよね...」
あぁ薬の力を借りてこんなこと言っちゃった。
でも、そこには後悔なんて一切無くて。
私に向き合ってくれる彼に、私が彼の胸に顔を埋めるのも、恥ずかしさなんて無くて。
彼の心からの優しさが、私を包み込んでくれる。
暖かい...。
どっくん。どっくん。
もっと...零くんに近づきたい...。
薬の力だってことはわかってる。でも、そんなこといまの私には関係なかった。
心の底からあなたが欲しい。
姉弟とか関係無しに、零くんが欲しいという欲望が私の胸を覆い尽くす。初めての感情。
「零くんが...欲しい...」
「秋葉...」
お互いに顔を見つめる。
少しずつ近づいていく。
––– キスをするか
ハッとなった私は彼の肩を掴んで、ぐっと押し戻す。
「な、なんだよ秋葉...覚悟決めてたのに...」
「そ、その...薬が切れちゃうから...キスすると...」
正直に話した。薬が切れれば元の私に戻ってしまうこと。だけどいまは戻りたくない。もっとこうしていたいということを、素直に彼にぶつけた。
すると彼は、少し考えて。
「わかった。だったらこうすればいい」
「こうって....っ!!!はぁ...!!」
彼がいきなり私の首筋に噛み付いて来た。もちろん甘噛み。そして、
「...れろっ」
「んっっ...!!!」
「キスをしなければいい」
彼は私に覆い被さる。
優しく、何度も何度も、口づけを繰り返す。吸い付くように彼の暖かい舌が私の首筋を甘く刺激する。
「んっ...んんん...」
「声、出していいんだぞ?」
「は、恥ずかしいから...はぁっ♡」
彼の首筋攻撃に思わず出てしまったいつもよりも艶やかな声。その声を聞いた彼は気を良くしたのか、少し激しく責める。
「ちゅっ...ちゅぱっ」
「んっ...んっ...!!あ、あぁん...♡」
「いい声出すな...」
彼の手は私の胸元に伸びる。器用に服をはだけさせながら下着の上から優しく揉みしだいていく。
「あっ、あぁん♡れ、零...くぅん...激しい...あぁっ...!!」
「直接、触るぞ...」
「あ、あぁぁぁ...♡はぁ...はぁ...あっ...」
「秋葉、スタイルいいからもっと素直になれよ」
Sっ気全開のセリフを放つ彼。
そのセリフに、いままでとは違う胸の鼓動。
もっと責められたい。なんて思いが込み上げてくる。
そして、どうしてそんなに触るのが上手いのだろうか。彼は私を感じされるポイントを一発で掴んだみたいにピンポイントで責めてくる。
だけど。
性欲を満たしていくのに、心が寂しさを覚える。
どうして?
今日何回目かわからない自問。
...キスしたい...から?
同じく今日何回目かわからない自答。
...女とは不思議な生き物。
性的な欲求を満たしている最中でも、単なる口づけがこれほどまでに恋しくなるなんて。
だけどキスをしたら、この時間が終わってしまう。
彼が私を“女の子”として見てくれる時間が。
そう思うと、とてつもなく寂しくなって。
「ぐすっ...零くぅん...」
「あ、秋葉?い、痛かったか?」
「違うの...」
「じゃあなんだ?」
手を止めて、私を見つめてくれる彼。
正直に話す。
「キス...したい...」
「でも...キスしたら...」
「そう。だから寂しくなって...もっとこの秋葉で居たい...零くんが女の子として見てくれてる秋葉で居たい...!!」
泣きながら話す私。
薬が完全に効いているためか、普段の私が思うような言葉が一切出てこなかった。
ぎゅっ。
えっ...?
「零...くん?」
「ばか。秋葉は秋葉だろ?俺のたったひとりの姉ちゃんでもあり、俺のことを想ってくれてる女の子だろ?いつもみたいに堂々としてればいいんだよ」
たったひとりの、姉ちゃん。
想ってくれてる。女の子。
「でもいつも遊んでばっかりで...」
「あはは。もう慣れたよ」
あぁ、そうか。
彼の優しさ、変態さ、たくましさ。
全てひっくるめて薬飲む以前に、私の心の底には、
––– 零くんが好き
そんな感情があるんだ。
それに気づけたから、いまは違和感なく、彼と向き合えてるんだ。
普段の私は、素直に表現できないだけで。
「ありがと、零くん」
「気にすんなって」
「...ねぇ」
薬が切れる前に、最後に聞かせて。
「もし私から笑顔が消えそうになったら、あなたは私の元に駆けつけてくれる?」
「懐かしい質問、だな」
彼は少し間を空けて、そう返答する。
そして –––
「当たり前だろ」
あの時と全く同じ答え。
それが聞けて安心した。
...そっか。
思い出せなくて当然。
あなたが、私にとっての“初恋”なんだ。
心の奥に眠っていた、恋心。気づかなかっただけで、ずっとこの想いを持ってここまで来てたんだ。
だけど、そんな私ともお別れ。
さよなら、だね。
「じゃあ、いいか。“秋葉ちゃん”」
「...うん」
後悔、なんてしてないよ。
この時間を過ごさせてくれた、零くん、絵里ちゃん。
そして、これまで私たちに関わってくれた、全てのひとに向けて、
これが、本当の私なの。
なんて、
心の中でつぶやいて。
さよなら、“私”
さよなら、“零くん”
さよなら、“私の初恋”
❇︎❇︎❇︎❇︎初恋キッス
ありがとうございました!
『新日常』とは違う秋葉さん、いかがでしたか?
今回の話を書くにあたって、僕の彼女に対する愛を存分に詰め込みました。重いですか?知ってますはい。
まぁそれは置いておいて(笑)
改めまして『新日常』100話突破おめでとうございます。
コラボを書かせていただいた立場として、非常に誇らしいです。
この企画も、いよいよ明日で終わりです。
どんな作家さんが来るのか、そしてどんな話を繰り広げてくれるのか、一読者として非常に楽しみです。
それでは、またお会いしましょう。
次回は僕の小説でお待ちしています(笑)