大尉とオーバーロード   作:まぐろしょうゆ

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更新は気が向いたらでいいという優しいお言葉貰いました。
じゃあいっかー、と気を楽にしまくってたら書けたので投下。

恋愛?回


キャットファイト

守護者達は皆”至高”(モモンガと大尉)に忠実だが少々過保護なのが玉に瑕で、

特に心配性の同格の友人モモンガの要請も相まって彼は外出を自粛している。

無理矢理外に行こうとするとこの群れのリーダーの髑髏顔が

何やらしょんぼりしたような表情になる……錯覚がはっきりと見える。

ので、大尉は

「大尉がいればナザリックはそれだけで約束された難攻不落のお家になるんです!」

との言葉を受け入れてやってこうして自宅でゴロゴロしているのであった。

群れのアルファリーダー公認のニート生活である。

ちなみに、どうでもいい話だが

群れのポジションとしてはモモンガはアルファ牝、大尉はアルファ牡に相当する。

もちろん母性気質、父性気質を持っている最上位というだけで

大尉とモモンガがそういう関係どうこうというわけではない。

 

暇ではあるのだが、こうしたのんびりした時間もこの人狼は嫌いではない。

老いさえも楽しむ……とはどこぞの吸血鬼狩り機関のバトラーの言葉だが、

暇さえも楽しむ、のもなかなか悪くない。

 

先日、大尉に相談のもと、こちらに来ているかもしれないギルメンへの周知のため

アインズ・ウール・ゴウンと改名したモモンガは、

大尉を頑なにナザリックにお留守番させている割に、

”情報収集”

”アインズ・ウール・ゴウンの名声を高めるため”

”大尉の狩り場(ナワバリ)を確保する”

などの名目でほいほい外出している。

彼曰く、

「俺はいいんですよ。

 例え俺が死にそうな目にあっても大尉にコールすれば一発で解決しますから。

 でもその逆だと俺が大尉を救えないかもしれない………。

 そんなこと…想像しただけで………!! あ、スゥ~っとなった」

らしい。

精神異常耐性オーラを放ちながら

冒険者モモンは従者ナーベを引き連れ喜々としてお出かけに精を出そう……としたら

アルベドが大層反対し「連れて行くなら是非自分を!!」と凄まじい剣幕で嘆願した。

アインズは最初、「アルベドはナザリック運営に必要な人材だから」とか

「帰る家を守っていて欲しい」とかそれらしいことを言って宥めていたが、

余りにもアルベドが食い下がるので

(まぁ、大尉がナザリックにいてくれるからいいか)

とアルベドを受け入れた。

その日、アルベドは歓喜の涙を流しながら「くふーーーーー!!」と珍妙な叫びをあげて、

後日それを聞いたシャルティアが「っざっけんなこらーー!!」と嫉妬の咆哮をあげたとか。

ともかく……、

大尉が残留すると聞かされた守護者達は割りと快く

アインズを送り出していた。(それでも渋々である)

彼としても心身が身軽な状態で冒険にいけてWin-Winといったところだろう。

大尉は割を食っているが。

(一番いいのは大尉と二人旅なんだけど……昔みたいに。)

と思うアインズだが、さすがにそれは我侭か…と自粛している。

 

 

 

 

つまり、今現在大尉は実にのんびりした状況であった。

彼はナザリック地下大墳墓第6層にて、人工の木漏れ日に包まれながら

大樹の太い太い枝の上でアウラの大狼フェンリルを枕にして目を閉じている。

大尉が眠る大樹の根本には、

モモンガから”彼専属”と指名されたルプスレギナ・ベータが

嫉妬全開の視線をフェンリルに送りながら直立不動で待機している。

(なんで……なんで私が枕じゃないんすか!

 あんな駄犬に大尉様の枕という至上の幸福と使命を奪われるなんて!!)

彼女は独りジェラシーMAXの思考をぐるぐるさせていて

直立不動の体も若干ぷるぷるしている。

駄犬に駄犬と言われてフェンリルも気の毒だが、

今、このケモノは至福に包まれていてそれどころではない。

ナザリックの不動の上位者である階層守護者。

その騎乗モンスターという名誉を賜っている大狼が、

栄光の守護者の更に上位……

ナザリックの神とも言うべき”至高の御方”の枕となっているのだ。

これは並大抵の幸せではない。

まさに(もう死んでもいい)と思える幸福であった。

 

そして、その幸福を分けてもらおうと画策している少女が一人……

大尉の眠る大樹に忍び寄っている。

大尉を起こさぬようにソロリソロリと近寄るダークエルフの少女に、

 

「アウラ様、何やってるっすか。

 大尉様のお昼寝を邪魔するんならアウラ様だって容赦しません」

 

イライラの雰囲気を隠しきれていないルプスレギナが目ざとく彼女を発見し告げた。

いきなり声をかけられて うわっ、と肩をビクつかせたアウラだったが、

 

「……いやぁー、私のフェンが大尉様に粗相してないか監視しなくちゃ!

 と思ってさ。 まぁそういうわけだから」

 

失礼するねぇ~、と大樹に飛び乗ろうとしたのを、

 

「だめっす!」

 

はっし!と空中で足を掴んで妨害した。

ビターンと地面に鼻からつっこんだアウラ(とルプスレギナ)は

互いに鼻をさすりながら起き上がると、

 

「ったぁーー! 何すんのさ!」

 

「大尉様は気持ちよくお休みになっています。 どうかお引取りを」

 

目が据わっているルプスレギナは丁寧なメイド口調だ。

しかしアウラも、

 

「……あのさ、ルプスレギナ。 その手を放してくれない?

 何やってるか分かってる?」

 

言外に、至高の御方に次ぐ上位者である自分にメイド如きが干渉不要。

そう言っている。 

基本的には至高の存在に創られた者達は

役割の違いがあるだけで上下関係や貴賎はないのだが、

守護者達は至高の41人から大きな指揮権とレベルを与えられている。

やはり階層守護者はナザリック内で大きな存在で上位者と呼んでいい。

しかしルプスレギナには強みがある。

退く気はなかった。

 

「分かってるっす。

 でも私達プレアデスは至高の御方に尽くすための存在っすから。

 それに私はアインズ様から大尉様付きの専属メイドの役を仰せつかったっすよ」

 

階層守護者には敬意を払っているし

ナザリックでのヒエラルキー上位に位置しているのは認めるが、

時と場合によってはプレアデスこそが干渉を受け付けないのだ、と主張する。

実際、アインズと大尉の直接的な身の回りの世話はプレアデスを始めとするメイド達の役割だ。

 

「ぬぐ……」

 

「ふふん」

 

アウラが言葉に詰まる。

彼女が言う通りアインズ直々の命令というのは正に錦の御旗。

アインズは、暗にアウラとルプスレギナの2人へ

大尉への伽を命じた(と皆は盛大に勘違いしている)が、

玉座の間で明瞭な言語で”大尉専属”を命じられたルプスレギナは大尉に一歩近い。

しかも同じ人狼で、彼女は大尉に愛撫(匂い嗅ぎと頬舐め)を受けていて更に一歩。

二歩近い。

(二歩……! たかだか二歩……たったの二歩よ!)

いや、貧相な彼女の肢体に比べてルプスレギナの肉体の豊満なことを鑑みて更にもう一歩。

 

「うわあああ! さ、三歩だぁーーーっ!!」

 

アウラが頭を抱えてしゃがみ込む。

自分はまだ幼く発展性が大いに期待できるが、

即効性はルプスレギナに軍配が上がる。 圧倒的に上がる。

何が三歩なのか、頭にハテナを浮かべているルプスレギナだが、

 

「ふふん」

 

よくわからずとも勝ちを確信してさっきと同じ得意げな笑みを浮かべて背を反らす。

豊かな胸がぷるんと揺れた。

 

「うわあああああああ!!」

 

それを見て更にアウラが奇声をあげると

地に膝を付けて完全に項垂れて、

 

「ルプスレギナのばか! あほ! まぬけ! 駄犬! おっぱいだけ女!

 私は…私はシャルティアなんかとは違うもん! 成長するんだからぁー!!」

 

早口で捲し立てるとそのまま瞳に涙を浮かべ、うわぁぁぁん、と走り去り、

地味にタイマン最強の女吸血鬼が風評被害を受けた。

ダークエルフを見送った赤髪の駄犬は、

 

「ぷふーー! 負け犬の遠吠えっす! ぜーんぜん悔しくないっすよー」

 

お手々をひらひらさせて格上の階層守護者を見送る。

普段の厳格なロールの違いとレベル差が嘘のようなやりとりだが、

そんなものはメス同士の熾烈な争いの前には霞むのだ。

 

「それにおっぱいは

 大尉様との赤ちゃんをいっぱい育てるんだから大っきい方がいいんすよ~」

 

勝者の余韻に浸りルンルン気分は鰻登りで、

ついつい調子にのり自制を失って大樹をするすると登り始めたルプスレギナは、

 

「くふふふふ♪ アウラ様もいなくなったしアイツも追い払うっす。

 ご主人様と同じように尻尾巻いて逃げるっすよ。 枕には私がなるっす」

 

どこぞの守護者統括のサキュバスのような笑いを漏らしていた。

幹の中程でぴょん、と跳んだ雌人狼は

そのまま気配を消して雄人狼の仮寝所に忍び込み……

ひょこっと大尉の上に顔を出す。

(フェンリル………さっさと消えるっす!)

大尉の胸から上を預かっているアウラの騎乗モンスターを睨むが、

ここで強い敵意を滲ませればそれだけで大尉は起きてしまう。

殺気等でビビらせて追い払えない。

小突いて追い払うのも当然無理だ。

 

「う~~~~、フェンリルを追い払ったら大尉も起きちゃうっす………。

 仕方ないっすね……こうなったら大尉の寝顔を…………………、

 寝顔を………………………寝顔…………………ごくり」

 

見つめているうちにルプスレギナはなんだかムラムラしてきていた。

優れた人狼の嗅覚が強く逞しい同族のオスの匂いをたっぷりと鼻に届ける。

芳醇な香りがルプーの鼻腔の奥底に潜り込んで脳幹に直撃し、

ルプスレギナの褐色の肌が桃色に上気し始めて息が荒くなる。

 

「た、大尉様………まっすぐな鼻筋……意外に長いまつ毛………

 そして……………く、く、くくくくく唇………」

 

潤んだ金色の瞳の奥にハートが浮かんでいるよう気がする彼女は、

吸い寄せられるように徐々に大尉の唇へ自分の水気たっぷりの唇を寄せていき……

 

「こぉのバカ犬ぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

「へぶっふ!?」

 

唇到達までの道を閉ざす熱帯仕様オーバーコートの高襟に指をかけた所で

ルプスレギナの側頭部にアウラの鋭い蹴りが突き刺さった。

あぁ~~~~、と間延びした悲鳴が大樹の遥か下へ落ちていって、

一瞬前までルプスレギナがいた場所には金髪の男装美少女。

 

「ふぅ………まったく至高の御方になんてことを。

 寝ている内に唇を奪おうとするなんて不敬もいいとこだよ!

 ね、フェンもそう思うでしょ?

 次にルプーが寄ってきたら噛み付いていいからね。

 あ、でも大尉様を起こしちゃダメだよ?」

 

直ぐ様気を取り直して戻ってきてよかった……と心底胸を撫で下ろす。

もともと至高の御方には絶対の忠誠と揺るがぬ信仰を抱いている彼女らだが、

アウラは特に大尉に対してはユグドラシル時代から頭を撫でられたり、

惚れ惚れするような見事な毛並みの狼っぷりに見惚れていたり、

アインズから大尉の食事に同伴するよう名指しで言われたり、

等が積み重なって特別な感情が発生している。

デミウルゴスからアインズの真意を聞かされた時には

「まさか私が!?」

と驚いたアウラであったが、今ではすっかり

 

「……………………………大尉様の………く、くくくくくく唇」

 

駄犬や万年発情処女淫魔と同じような言動を発するぐらいになっていた。

乙女として立派な成長を遂げたようだ。

76歳だがダークエルフである彼女は見た目通りまだまだ子供。

しかしその身でオトナの大尉を受け止めるのは不可能ではない。

疼く女の器官も立派に機能し始めているのだ。

 

「た、大尉様………」

 

頬を桃色に上気させた彼女は、

普段の男装快活なイメージから一転して充分に女の子であった。

少しずつ大尉の唇に引き寄せられていくと、

 

「……………人を蹴り飛ばしておいて何してるっすかアウラ様」

 

「う、うわぁぁルプー!?」

 

ワーウルフの身体能力を存分に活かして

速攻で戻ってきたルプスレギナが冷え冷えとした目線でアウラを見つめていた。

 

「聞こえたっすよ……不敬だとか何とか言ってアウラ様も同じことしてるっす。

 私と違って確信的な不敬っす。 至高の御方の寝込み襲ってるっす。

 言ぃーーーってやろ言ってやろ!

 アルベド様に言いつけてやるっす!」

 

「な、なななな!! あんただって他人の事言えないでしょ!?

 それを言ったらルプーもただじゃすまいわよ!

 プレアデスの身も弁えずに大尉様の唇の貞操ねらったんだから!!」

 

うがーうがーと大尉の真横で取っ組み合いを始めた2人は、

片や子供、片や精神年齢子供ということもあって

なかなか激しいキャットファイトの模様を呈し始めていた。

 

目を閉じていただけでずっと意識のあった大尉は、

自分の唇如きで騒ぐ彼女らを不思議そうに薄目で見た後、

また目を閉じて我関せずとばかりにフェンリルに身を預けて日向ぼっこを続ける。

フェンリルは煩い主人を尻目に幸せそうであった。

勝者はフェンリルらしい。

 


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