本日も晴れ、鎮守府に異常無し《完結》   作:乙女座

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ぬいぬいぬいぬい


九日目

6月○$日

 

朝 10時 晴れ 執務室

 

「へぇ~これが深海棲艦ヲ級なのね」

 

「Oh~プニプニしてるネー」

 

「このイ級は食べられるのでしょうか?」

 

「赤城さん。何でもかんでも食べないでください」

 

「何か他の深海棲艦とは違いますね司令官。ヲ級は小さいですし、イ級は牙も無ければ何か丸っこいですし」

 

「…ヲ!」

 

「キュー」

 

前日に捕縛したヲ級及びイ級を提督の執務室に連れていった。連れていく際に暴れる様子は全くなく、あるとすれば建物の中を珍しそうに見ていたぐらいである。今は提督と、秘書艦の吹雪、そして金剛、赤城、加賀がヲ級とイ級を触ったり持ち上げたりやりたい放題している。

 

「どういたしますか?まだ大本営には報告してはいません」

 

「うーん………しばらく様子見といきましょう!報告は私の方から上手くつたえておきます!では、ヲ級ちゃんは私と居ましょうね~」

 

「ヲ!」

 

抱き締めようとする提督の手から逃れ、憲兵の後ろに隠れる。吹雪が持っていたイ級もヲ級に着いていく。

 

「……………」

 

「ヲッヲッヲッ!ヲオオン!」

 

ヲ級は憲兵によじ登り肩車してもらっている状態になり、持っていた小さな杖で憲兵の頭をぽこぽこと叩く。イ級は憲兵の足元にぴったりとくっついていた。

 

「………面倒は憲兵さんが見てください!」

 

笑顔で言われ断れることもできず憲兵は少し困った顔をして敬礼をした。

 

 

 

 

 

「困った顔の憲兵さんかわいい………青葉ちゃん!写真撮れた?」

 

憲兵が執務室から去った後に悶える提督だった。

 

 

 

昼 13時 食堂

 

憲兵とヲ級は昼食を取るため食堂に来ていた。ヲ級のことは鎮守府内放送で全ての艦娘に伝えられており特に驚いたりすることはなく珍しいものを見るような様子でヲ級を見る艦娘達。憲兵はやはり日替り定食、ヲ級にはお子さまランチを頼み席に座る。

 

「いただきます」

 

「ヲヲヲヲヲヲ」

 

手を合わせて挨拶をする憲兵の真似をして手を合わせるヲ級。憲兵は黙々と食事を開始。箸の使い方が分からず憲兵の真似をするヲ級。その姿は愛らしく敵であるはずなのだが多くの艦娘がハートを撃ち抜かれていた。因みにイ級は足元で米に食らいついていた。

 

「口元が汚れていますよ」

 

食べ終わったヲ級の口元を憲兵は持っていたハンカチで拭いていく。綺麗に拭いた後、憲兵は手を合わせてご馳走様と挨拶をし、やはりヲ級はそれを見て真似していた。

 

 

午後15時 正門

 

憲兵は何時ものように正門で警備をしていた。ヲ級も憲兵の服(明石作)を着て一緒に警備をする。イ級二匹はヲ級の足元で戯れていた。しばらくしてヲ級は疲れたのか休憩室へと入っていった。

 

「おはようございます憲兵さん」

 

「おはようございます」

 

鎮守府に訪れたのはあの青年だった。手には本日獲れた魚が入った箱を持ってきており差し入れで持ってきていた。

 

「今日もありがとうございます。提督も喜びます」

 

「いえいえ、何時も守って貰っていますし…それに小雪ちゃんが喜んでくれるなら」

 

本当にいい青年である。憲兵は箱を受け取り足元に置き青年と立ち話を始める。ふと青年の目にいつの間にか休憩室から出てきて箱の魚をつつくヲ級が目にはいる。

 

「この娘は?」

 

「深海棲艦のヲ級兼憲兵見習いです。挨拶をしてください」

 

「ヲ!」

 

「はぁ………へ?深海棲艦ですか?」

 

「ええ、先日この鎮守府に侵入してきまして捕まえました。しかし、抵抗することもなく害も無いと判断し、しかも他の深海棲艦とは違うので新種ではないかと考え保護しています」

 

「へぇ~……確かに10年前に見たのと違いますね。よろしくな」

 

「ヲ!」

 

すんなりと受け入れてくれた青年に敬礼をするヲ級だった。

 

 

夜 21時 憲兵寮

 

資料をまとめている憲兵が作業する机の横の布団の上でゴロゴロするヲ級とイ級。特に邪魔をすることがないのでそのままにしていた。時折艦娘寮からヤセーンヤセーンと聞こえるのは無視しておくことにする。以前注意しに行ったら朝まで夜戦の話を延々と聞かされたからである。

 

「ヲ………」

 

ヲ級とイ級二匹はいつの間にか寝ておりヲ級がイ級を抱き締める形で寝ていた。憲兵は拳銃を抜き寝ているヲ級達に向けた。しばらくそのままでスヤスヤと寝ているヲ級を見る。こうして見ているとかつて仲間を、大切な人を奪った奴らの仲間には見えない。憲兵は拳銃を下ろし眠るヲ級達に掛け布団を掛け、部屋から静かに立ち去った。

 

 

同時刻 時雨、夕立の部屋

 

時雨は布団の上で手元にある写真を見ていた。以前風邪を引いた憲兵を部屋に連れていき、着替えてるときにこの写真を手にいれた。写真に写る憲兵。そして着物の女性。家族か何かだと考えていたが見た目は全く似ていない。どのような関係なのかが気になって仕方が無かった。

 

「一体誰なんだろう………」

 

笑顔を見せたことのない憲兵。写真を一緒に撮るだけでここまで笑顔にさせる女性。その質問に答えてくれる人は居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

写真の裏に小さな字で書かれている文字を時雨は見落としていた。ほとんど掠れて読めないが1つだけ読める字があった。

 

 

 

 

―― ――。

 

横山 絵里

 

 

 

 

本日の主な出来事

 

 

執務室で深海棲艦の今後の話し合い

 

 

深海棲艦と昼食。知能は幼子のようである。イ級は犬に近い。昼食の後は警備。漁師の青年から魚の差し入れがある。

 

 

資料の整理。

 

一言

 

 

深海棲艦は謎が多いと聞く。無差別に攻撃するもの。逆に人を助けたのもいると聞く。できれば寝ているヲ級達も後者と信じたい。私の持つ銃をもう人に向けて撃たれないことを願う。

 

最後に

 

本日も晴れ、鎮守府に異常なし

 

 




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