本日も晴れ、鎮守府に異常無し《完結》   作:乙女座

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今回は残酷な描写があります




過去:一人の副隊長の話

$◇月○日

 

「作戦の概要を説明をする。今回は本土に迫ってきている深海から現れたunknownの攻撃から沿岸部の住民を避難させる作戦だ。現時点で避難はかなり遅れている。君たち530から540番隊は敵を海岸部で食い止めることが任務となる。危険で死ぬかもしれない。しかし、ここで我々が逃げ出せば多くの住民が、君たちの愛する人、家族…そして未来を作る子供たちが犠牲になる。我々は今までこの国を守るために訓練してきた。それは力無き者たちを守るためだ。海軍は先の作戦で壊滅状態だ。彼らの最後の通信、『敵は海の底からやって来た。言葉も通じない。人の形をしたもの達ではない。彼らから本土を守ってくれ』という言葉を心に刻み作戦を遂行してほしい。では諸君。作戦開始だ」

 

おお!という声と共に2000人近い陸軍が行動を開始する。私は532番隊の隊長と仲間たちと共に指令本部から出て輸送トラックへと向かう。ここの支部だけでない。日本各地の支部で我々以外の陸軍が行動を開始した。

 

私は隊長及び部隊を合わせ200人の部隊の副隊長としてこの作戦に参加した。輸送トラックに乗り込み作戦地域へと向かう。トラックが発進しピリピリした雰囲気の中、一人の隊員が私に話しかけてきた。

 

「副隊長……俺死ぬんですかね?」

 

一番若い隊員が体を震えさせながら尋ねてくる。彼は一年前に結婚したばかりで、子供は今年一歳になる娘さんがいる。この作戦に参加したのも避難地域に家族がいるからだ。それでも愛する家族を置いて死んでしまうのではと思ったのだろう。私はただ………彼に大丈夫だと、作戦は成功し誰も死ぬことはないと言うことしかできなかった。不安が紛れたのか彼は大丈夫、生きて帰るんだと到着するまで自分に言い聞かせていた。

 

 

 

 

 

トラックに揺られて一時間ほどで作戦が開始される沿岸部に到着。塹壕や指令テントなどが建てられ、戦車部隊も配備されていた。何時もなら活気に溢れた漁師達がいる町も今は避難中で民間人の不安の声しか聞こえない。

 

「副隊長。後一時間ほどで敵が姿を見せる。それまでに各自銃の点検及び作戦の確認をさせろ」

 

この部隊の隊長が私にそう指示をした。彼にも今年7歳の息子とお腹の中に新しい命を宿した奥方がいる。今日が出産予定なのだがこの作戦地域に家族がいるためこの作戦に参加している。わかりましたと返事をし、部隊に指示を出す。その間隊長は水平線を眺めていた。私は自分の銃や装備の点検、隊員とどう敵と対応をするかを話しながら過ごしていた。

 

 

 

 

 

「敵見えないですね」

 

予想時刻になっても現れない敵に各隊員は動揺していた。違う進路をとったのでは?各々がそう言っていた。進路を変えてどこか違うところに行ってしまえと私自身も考えていた。私にも守るべき――――が……彼女が死ななければそれだけでよかった。避難はまだ半分と言ったところだ。あと30分。このまま現れず避難が完了してくれればいい。そう考える。

 

 

だが

 

 

 

現実はそううまくいかないものだった。

 

 

突然の爆音。

 

揺れる大地。

 

飛び交う怒号。

 

悲鳴。

 

吹き飛ぶ人の一部と思われる赤い塊。

 

先程まで話していた隊員を見ると上半身に無数の破片が突き刺さり事切れていた。

 

「敵の砲撃だ!」

 

誰が叫んだか分からない。

「撃ち方始め!」

 

 

沿岸部から戦車の砲撃を開始。

 

 

敵の攻撃は凄まじく砲撃が雨のように降り注ぐ。

 

 

塹壕も吹き飛ぶ。

 

 

血に染められていく海岸。

 

 

どれくらい経ったのか分からない。短時間だったのか、それとも長時間砲撃に晒されたのか、私には分からなかった。圧倒的な攻撃に晒された私達の心はいとも簡単にへし折られたのだ。敵の砲撃が止み静かになる。私は何とか部隊を点呼する。我々の523部隊には200人の人間が居たが今では半数になっていた。隊長とは連絡が取れず、戦車部隊は全滅。他の530,533 ,537の部隊は壊滅。他の部隊は何とか被害をまぬがれていた。私は通信兵に現段階でどれ程の住民に被害が出たかの確認をした。避難中の民間人にも被害が出たらしい。これが我々を滅ぼそうとするunknownの力なのか。私は手が震えていた何もできない。そう心で思ってしまった。

 

ふと水平線を見ると無数の敵が近づいていた。人の形をしたものではない。異形の者達。鯨のような体に大きな口から大きな砲を出し近づいてくる。上陸するつもりなのだろう。

 

逃げてしまえ。

 

そう思ってしまう。

 

しかし、出撃前に震えていた部隊の若い隊員が私に近づいてきた。

 

「副隊長!指示を!我々がここで負けてはいけません!我々の背後には守るべき命があります!」

 

 

 

 

 

 

『死なないでね……私がおばあちゃんになっても守ってくれるんでしょ?お腹の子供の名前も決めてるんだから』

 

 

 

 

 

 

そうだ。ここで諦めてはならない。

 

私は部隊に攻撃の指示を出す。隊長がいない間は私が指示を出す。陸軍の誇りを胸に一歩も引くな。戦い、勝ち、愛する者の元へ帰ろう!そう部隊に言い我々は戦闘を開始した。

 

 

 

住民の避難が完了するまでの時間30分。人生で一番長く、そして絶望した時間が始まったのだ。

 

 




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