降りしきる雨。その中を傘をさすこともなく歩く一人の男。目は虚ろになりフラフラと歩く。行き先などない。どこに向かっているのかも分からず足を動かしていた。
「……どうして」
ぽつりと呟く言葉は悲しみと悔しさを含んでいた。
「………どうして」
怒り。己に対しての怒りだった。
「どうして側にいてやれなかった!」
自分を愛してくれていた彼女。微笑みかけてくれた彼女。一人だった自分に温もりを与えてくれた彼女。病室のベッドの上には冷たくなり、話すことも、抱き締めてくれることも出来ない彼女が横たわっていた。何度呼びかけても、何度彼女の手を握っても、何度頭を撫でても…
以前のように微笑み返してきたり、抱き締めてくれたり、顔を赤くして照れることもなかった。まるで人形のようだった。
「神よ………どうして……あんまりではないですか!」
雨が降る空に向かって叫ぶ。彼は自身の怒りをどこにぶつけたらいいのか分からなかった。
彼女とお腹の子供のために戦った。
三人で過ごすことさえできればよかった。
結婚記念日には花とケーキを買う予定だった。
幼稚園、小学校、中学、高校、大学と成長していく子供を彼女と二人で見守ってやりたかった。
だが
残されたのは彼、横山明弘ひとりだった。
◇
一ヶ月が過ぎ大きく世の中、そして世界が変わった。まずは艦娘との共同戦線。そしてunknownとされてきた物は『深海悽艦』と呼ばれ人類共通の敵となった。そして、新たに設置された『鎮守府』と呼ばれる施設。艦娘と彼女たちを指揮する『提督』の配備。初代鎮守府には本田雅史海軍大将が就いていた。破壊された町の復興も始まり、傷だらけではあるが日本はゆっくりと元の静けさを取り戻していった。しかし、彼にとってはそんなことはどうでもよかった。彼女が居ない生活。葬式では何を話したのか、何をしたのかも覚えていない。ただ、火葬場へ運ばれていく彼女と子供を見ているだけだった。
結婚をしてたった一年。今年21になる彼は新しく三人で住む予定だった家で一人過ごしていた。
「絵里………君の言った通りだ。少し広すぎるな…この家は」
結婚した後に買うことにした家。彼女は広すぎるよと何度も彼に言っていたが、彼は広いくらいがいいんじゃないのか?子供も増えるだろうしね。と言い彼女のお腹を撫でたのを昨日のことのように思い出す。やるせなくなり彼は前線に行くときに持っていっていた荷物の片付けを始めた。
「…………なんだこれは?」
ふと荷物の中に布の袋があり中を確認すると手作り感満載のお守りと手紙が入っていた。
『明弘くんへ
恥ずかしくて直接渡せなかったけどお守り!下手くそだけど頑張って作りました!これがあれば明弘くんはきっと生きて帰ってくると信じています!私を一生守ってくれると言ってプロポーズしてくれたんだから絶対に帰ってきてね!明弘くんは皆を守ってくれるヒーローだから元気に帰ってきて平和になってから町の皆やお腹の子供を守ってね!明弘くんの誰かを守ろうとしている姿が大好きだよ!でも守ってばかりの明弘くんがこれから先辛いこととか悲しいことがあったら私が守ってあげる!だから絶対に死なないでね。約束だよ。 絵里より』
手紙にポタポタと溢れる涙。お守りを握りしめ泣く。
「許してくれ………守れなかった……側にいてやれなかった……痛かっだろ…怖かっただろ……」
言葉にしても届かないと分かっていても彼にはそう言葉にするしかなかった。
◇
7年の歳月が流れる。
陸軍施設のグラウンドには緑の服と帽子。腰にはサーベルと拳銃を下げ、鋭い目付きで列を作る男達。
「おはよう諸君!君たちはこれから世界海軍連合の鎮守府に配属されることになる」
陸軍大将の男が話を始めた。
「一年前にとある鎮守府において提督が艦娘に対して肉体関係を強要。その艦娘は姉妹艦を人質にされ仕方なく従い性欲の捌け口とされ追い詰められ自ら命を絶った!」
殺気に包まれるグラウンド。日本を脅威から守ってくれている艦娘を自殺に追い込んだことに対しての怒り。
「一ヶ月前には、休みを与えられず酷使され命を散らした艦娘がいた」
ここにいる緑の服の男達の殆どが先の本土防衛作戦の生き残りである。
「こんなことが許されていいのか?!我々を死地から救いだしてくれた彼女達をこのままにして!?だから我々がここにいる!3年間苦しい訓練を乗り越えた君達に私から言うことは一つだ!
艦娘を守れ!」
◇
「あんたに従えば熊野には手を出さないのね?」
「あぁ…君が私の言うことを聞けばだがな?」
執務室で向かい合う男女。一人は白い服に身を包んだ提督。もう一人は重巡洋艦の鈴谷。
「まずは服を脱いでもらおうかな?」
「………」
睨み付けながら服のボタンを外していく。それをニヤニヤしながら見ている提督。
「脱いだよ」
「反抗的な目付きだな?」
そう言って鈴谷の頬をビンタする。
反抗すれば熊野が危険な目に遭う。そう思い歯を食い縛りながら我慢する鈴谷。握りしめられた手は爪が食い込み血が流れていた。
「まぁ、いいさ。さて楽しませて貰おうかな」
そう言い自身のズボンを脱ぎ、彼女に近づいていく。
体を許すなら好きな人にしたかったなと考え目をつぶる鈴谷。するとドアが勢いよく開けられ一人の男が入ってきた。
「な、なんだ!」
「艦娘保護法第10条。艦娘に対し同意もなしに肉体関係を強要する事を禁ず。これに違反した場合提督の地位を剥奪。連行させてもらいます」
殺さんとばかりの目で提督を睨む。男は自身の緑の軍服を鈴谷に着せ、もう大丈夫ですよと優しく声をかけた。
「誰なんだ貴様は!」
「本日より各鎮守府に配属されることになりました。日本陸軍特別組織憲兵隊です」
鈴谷を背に隠すようにして立ちはだかる男。
皆を守る姿が好きだと言ってくれた彼女と生まれてくるはずだった子供に恥じないように生きていくと決意した。
「初めまして提督。憲兵です」
一人の憲兵さんのお話。
次回からはほのぼのに戻ります
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