本日も晴れ、鎮守府に異常無し《完結》   作:乙女座

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十三日目

8月%日

 

朝 10時 鎮守府中庭

 

本格的に夏に入り太陽が照りつける中、中庭では作物に水をやったり、収穫する憲兵。春先に植えたキュウリやトマト、茄子などの夏野菜が見事に実をつけていた。そして近くのベンチで作業を見つめる榛名と曙。憲兵は額から汗を流しながらえっさほいさと作業を進めていく。半分の作業が終わり休憩に入る憲兵の元へ榛名は駆け寄り飲み物を渡す。ありがとうございますと言い飲み物を受けとる。よく冷えた麦茶が喉の乾きを潤し、先程までの疲労感が和らいでいく。

 

「暑い中よくやるわね」

 

「えぇ、野菜は栄養価が高いものが多いので皆さんに味わってもらおうと」

 

「ふーん……あ、トマト」

 

曙の表情が変わる。曙はトマトが大の苦手らしい。榛名からその話を聞く憲兵。すると憲兵は収穫したトマトから2つ取り上げそれを冷水で綺麗に洗う。そしてそれを曙と榛名へ渡す。

 

「食べてみてください」

 

「え……」

 

「いいんですか?」

 

「他の人には内緒ですよ」

 

手渡されたトマトを見つめる曙。榛名はいただきますと手渡されたトマトを食べる。

 

「甘くて美味しいです!」

 

「え」

 

「ほら、曙ちゃんも食べてみてください!美味しいですよ」

 

そう言ってトマトを食べ進める榛名。それを見た曙は恐る恐るトマトにかじりつく。

 

「あ、美味しい」

 

いつも食べている市販の物とは違う甘さ。曙は無意識に笑顔になりながらトマトを食べ続ける。それを憲兵は微かではあるが微笑みながら見ていた。トマトを食べ終わりふぅと息をつく曙。そして

 

「ま、まぁいいんじゃない?美味しいわよ」

 

そっぽを向きながらそうトマトの感想を述べる彼女に憲兵と榛名は顔を見合わせて微笑むのであった。

 

 

 

昼 13時 鎮守府埠頭

 

昼食を済ませた憲兵は埠頭に来ていた。理由は勿論煙草を吸うためである。最近は提督に体に悪いからともう1つの理由で吸わせてもらえなかった。しかし、今日は門の警備をしているときに近所のおじいさんから一本煙草を譲り受けたので楽しみにしていた。

 

「…………」

 

火をつけて煙を肺に満たす。特に美味しいわけではない。しかし、この煙草を吸っている時間だけはなにも考えなくて済む。煙を吐き出しホッとする憲兵だったが

 

「あ、憲兵さん!」

 

あぁ、見つかってしまった。そう心で愚痴る憲兵。手を振りながら近づいてくる提督。煙草を吸っているのはバレていない。憲兵は速やかに煙草の火を消し携帯灰皿へ捨てる。そして提督に向き直りお疲れ様ですと頭を下げる。

 

「ん?………」

 

近づきクンクンと憲兵の臭いを嗅ぐ提督。憲兵冷や汗を流しながら硬直する。この場面を他の憲兵隊に見られたら即に連行される。憲兵は煙草以前にそちらの方が気になり固まる。そんな憲兵の心配など露知らず提督は憲兵の服を嗅ぐ。

 

「煙草の臭いがします」

 

「………すいません」

 

「煙草は肺癌の原因になるからやめないと!天龍ちゃんが俺も吸いたい!って駄々こねてるんですよ!」

 

憲兵は出来るだけ艦娘や提督の目に入らないように煙草をたしなんでいたが、運悪く天龍が煙草を吸っている憲兵を目撃し俺も吸いたい!と言い出したのだ。理由はかっこいいだろ?と言っていたらしい。それもあり提督は憲兵に煙草はだめ!と禁止令を出したのだ。

 

「し、しかし、煙草は私にとっても大切な物の一つであり害しかないわけでは!」

 

「だーめ!」

 

むぅと頬を膨らます提督。憲兵は勝てないと察知し渋々禁煙をすることになるのであった。

 

 

夜 21時 憲兵寮廊下

 

晩御飯を提督と第六駆逐艦達と食べ、仕事を終わらし今日は早めに眠りにつけると思い軽い足取りで自室へと向かっていた。読みかけの小説でも読もうかと考え部屋の扉を開く。

 

「お帰り!鈴谷にする?鈴谷?それとも鈴谷?」

 

そう言って部屋から飛び出し胸に飛び込んできたのは鈴谷だった。突然のことに困惑した表情になる憲兵。最近胃薬を飲む事が多いのは年齢だけではないのかもしれない。

 

「鈴谷さん。離れましょう」

 

「やだ!」

 

すりすりと鈴谷は憲兵に頬擦りをするが、憲兵の精神はガリガリと削られていた。このままではまずいと考えた憲兵は鈴谷を抱き上げ艦娘寮へと向かう。

 

「自分の部屋で寝ましょう」

 

「えー!一緒に寝ようよー」

 

「勘弁してください」

 

 

 

 

 

鈴谷を部屋に戻し、再び自分の部屋へと戻ってきた憲兵。自室の扉を開けてようやく一息つく。憲兵は服を着替え本を手にベッドに腰かける。手に持っている本のページを開き読み進める。本の内容は一人の戦闘機パイロットの話である。主人公のパイロットは戦争で焼かれた家族の敵討ちの為に敵国と戦いながら、もがき、苦しみ、最終的には自身の命と引き換えに敵討ちを果たす内容である。憲兵はこの本の作者が好きで作者の本をすべて揃えている。

 

「……敵討ち」

 

憲兵が読んでいるページには、主人公の村を焼き払い、富と名声を手に入れた男が主人公に撃ち殺された場面だ。

 

「………」

 

もし自分が仇討ちに燃え、このような殺人マシーンになったら彼女は何と思うのだろうか。仇討ちを終え彼女のもとへ行った時に彼女は何と言ってくれるのだろうか。恐らく拒絶されるだろう。何より人を傷つける事が嫌いだった彼女は仇討ちなど。思考に更ける憲兵。

 

「ヲ!」

 

いつのまにか部屋へ侵入していたヲ級。憲兵の背中に飛び付き読んでいる本を覗き込んでいる。憲兵は優しくヲ級の頭を撫で少し待っていてくださいと言い、持っている本を仕舞い、新しい本を取り出した。憲兵はベッドに座り直し膝の上にヲ級を座らせ本を読み聞かせていくことにした。花と青い鳥が表紙に描かれている本。悲しくも優しい物語のこの本を憲兵はヲ級に読み聞かせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

本日の主な出来事

 

 

曙さんと榛名さんと中庭で育てていた作物の収穫。

 

 

禁煙をすることに

 

 

多少のトラブルがあったが問題なし

 

一言

 

『花と青い鳥と少女の物語』は何度読んでもいいものだ。この作者の他の本を今度探してみようと思う。

 

最後に

 

本日も晴れ、鎮守府に異常なし




お、お気に入りが凄いことに

ありがとうございます!

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