本日も晴れ、鎮守府に異常無し《完結》   作:乙女座

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本編どうぞ!




十六日目

9月*●日

 

朝 10時 鎮守府正門

 

「おはようございます!憲兵さん」

 

「おはようございます。いつもありがとうございます」

 

「アリガトウ!」

 

「喋った!?」

 

いつものように魚を届けに来る青年。ヲ級が喋ることに驚いていた。しかし、驚いたかと思えばすぐ笑顔になりヲ級の頭を撫でる青年。すごいなお前と優しく声を掛け、ヲ級を抱き上げる。ヲ級は嬉しそうに青年を抱き締め返していた。

 深海棲艦と分かり合える日がくるきっかけじゃないかと青年は言う。青年の考えに憲兵は賛同していた。旅行先で榛名とヲ級が触れ合っているのを見ていた。榛名の裏のない笑顔とヲ級の笑顔、そして今目の前で触れ合っている笑顔の青年とヲ級。いつの日か深海棲艦との戦争も終わり、深海棲艦も艦娘も人間も仲良く暮らせるのではないかと…しかし、それは夢物語なのかもしれない。でもほんの少しの可能性に掛けてもよいのではないのだろうか。希望がなければ心を持つ者は生きてはいけないのだから。

 柄になく未来の事を考える自分の変化に戸惑いながらも、憲兵は青年と談笑していた。

 

「…あれなんですね。憲兵さんも笑うんですね」

          

「え?」

 

「2年前の憲兵さん…失礼ですけどすごく怖かったですよ…その何て言ったらいいのか…」

 

なんと言ったらいいのか、言葉が出てこずあたふたとする青年。憲兵は彼が言わんとしていることをなんとなくだが予想できていた。

 

「その…この人、生きているけど死んでるって思ってました」

 

「……」

 

予想していた言葉を言われ、黙ってしまう憲兵。青年が謝ってくるが気にしていないと彼は答える。

 生きてるけど死んでいる。正にその通りの生活を当時していた憲兵。2年前だけではない。彼女と子供が死んだ日から、ただひたすらに自身に課せられた仕事だけをこなしてきた。そこには彼女の死と子供の死から逃れる為だったのかもしれない。守ると約束した妻と子供を死なせてしまった自分が許せなかったのかもしれない。そんな彼はいつの間にか死んでいたのだろう。

 先に死んでしまった彼女と子供に恥じないように生きていくつもりで憲兵になったはずなのに…

 

「でも憲兵さんは笑っているほうが素敵ですよ。凄く優しそうで…」

 

「ありがとうございます」

 

「あ!憲兵さん!…それとお魚くれる人!」

 

そこへ提督がやって来たのだった。青年は提督の顔を見て挙動不審になる。どうしたのだろうと心配する憲兵。心中穏やかでない青年そして憲兵のもとへやってきた提督。

 

「いつもありがとう!お魚とってもおいしいし皆喜んでるよ!」

 

「え、あ、そのき、気にしないでくだしゃい!」 

 

顔を真っ赤にする青年。好きな女の子の前ではこんな顔をするのかと少し微笑ましく思う憲兵。熱でもあるのと青年の顔を覗きこむ提督。これがいけなかった。至近距離で好きな子の顔を見た青年はおかしな悲鳴を挙げながら走り去ってしまった。

 

「んー?」

 

「…」

 

取り残される二人だった。

 

 

夕方 18時 中庭

 

夕方になり中庭の花に水をやる憲兵。そこへ曙がやってきた。いつものように無言で憲兵の手伝いをする曙。手伝いをはじめてしばらく経ち曙が憲兵に話しかける。

 

「く、くそ憲兵!」

 

「何でしょうか曙さん」

 

「えっと…その…い、一緒に晩御飯…たべない?」

 

次第に声が小さくなり最後の方はほとんど聞こえないぐらいの声の大きさだった。

 顔を真っ赤にして俯く曙。憲兵は曙の近くまで行き、目線を合わせるためにしゃがむ。

 

「本日の仕事は終わっていますので私でよければ夕食をご一緒させてもらいます」

 

憲兵を夕食に誘うことに成功した曙は嬉しそうに顔をあげるが憲兵が目の前にいるのに気づきすぐに仏頂面に戻る。

 

「約束だからね!私は先に席取ってあげるから!」

 

そう言って走り去っていく曙の後ろ姿を娘を見るかの様な目で見る憲兵だった。

 憲兵が見えないのを確認した曙は嬉しそうにスキップしながら食堂へと向かうのであった。

 

 

「席を確保してもらいありがとうございます」

 

「き、気にしなくていい!」

 

食堂で二人仲良く夕食をとる憲兵と曙。今日の夕食はオムライス。ケチャップは鳳翔が憲兵の育てたトマトから作ったものらしい。愛の結晶みたいですと赤城が言ったのを聞いた鳳翔が顔を赤くしていたのは別の話だが…

 美味しそうに食べる曙。憲兵も食べるのを進めていくがあることに気づく。

 

「曙さん頬っぺたにケチャップがついています」

 

「え?ど、どこ?」

 

「じっとしていてください」

 

憲兵はお手拭きで曙の頬っぺたに付いているケチャップを優しく拭き取る。

 

「じ、自分でできたわよ!」

 

「す、すみません。出すぎた真似でした」

 

年頃の娘にすることではなかったと反省する憲兵。しかし、憲兵の考えとは逆に曙の頭の中はパンク寸前だった。子供扱いされるのは嫌だが、好きな異性にこうして気に掛けてもらうのは悪くはないなと考える曙だった。

 

 

夜 21時 艦娘寮ロビー 

 

「アルバは水の神オストラヴァの助言通り、肥やした土の近くに湖の水を運びました。そしてアルバは光の神ソラールのもとへと向かうのでした」

 

ロビーでは例の本を艦娘達に読み聞かせる憲兵の姿があった。物語も終盤に入ろうとしていた。

 

「本日はここまでにしましょう。消灯時間まであと一時間なので」

 

「もうすぐ七色の花がでてくるのです!」

 

「頑張れアルバ!」

 

物語の感想を言う艦娘達を見る憲兵。膝の上ではイ級を抱き枕にし、うとうととするヲ級。憲兵はヲ級を優しく抱き上げ自室へと戻ろうとロビーから出る。

 

「…アルバ、ガンバレ」

 

憲兵の耳に聞こえたのは微笑みながら眠るヲ級から発せられた言葉だった。

 

「いい夢を見てください」

 

 

 

 

 

本日の主な出来事

 

朝 

 

青年と話をする

 

夕方

 

曙さんに中庭の手入れを手伝ってもらった後、夕食を取る。

 

 

艦娘の皆様から本を読んでほしいとのことで艦娘寮のロビーにて本を読む。

 

一言

 

深海棲艦と分かり合える日が来るのを切に願う。

 

最後に

 

本日も晴れ、鎮守府に異常なし

 

 

 




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誤字脱字が多い作者ですが見捨てないでぇ!(比叡)



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