9月**日
朝 11時 正門
九月の中旬を過ぎ、暑さが和らぎ日中涼しく過ごしやすい季節になる。暑さから解放された艦娘達は各々作戦や遠征、演習、訓練に没頭していた。そんな中、大和はるんるん気分で憲兵がいるであろう正門へと足を運んでいた。運用するには莫大な資材を必要とする大和。暇な時は憲兵と過ごす。今日はお昼の食事を誘うために彼に会いに来ていた。
憲兵の姿を確認し笑顔になる大和。しかし彼の隣には先客がいた。
「榛名さん…その…近いです」
「榛名は大丈夫です」
正門には憲兵の横にぴったりとひっつく榛名がいた。憲兵は離れようとするが榛名は憲兵が逃げないように彼女は腕を絡ませ憲兵の肩に頭を預ける。離れようにもガッチリと捕まえられている憲兵は逃げることができなかった。
あの旅行から榛名の憲兵に対する態度が一変した。いつも一歩引いた所から彼の姿を目で追ってきた彼女だったが、旅行の後は積極的になっている。控えめな彼女があそこまで積極的になったのは恐らく彼との間になにかあったのだろう。
ちくりと胸に痛さを感じる大和。それがなんなのかを分からない彼女ではない。嫉妬…彼を取られてしまうかもしれないという焦りからかもしれない。しかし、自分の思いを伝えることが果たしてできるのか。自分は艦娘で彼は人間。しかも奥さんと子供がいた。亡くなってはいるが彼の心にはいつも奥さんと子供がいる。そこに入り込むことなんてできるのかと…
そんな考えに支配され俯き動けなくなる大和。以前なら自分も彼に抱き付くくらいのことをしていたが動けない大和。彼女は憲兵に声を掛けること無く来た道を戻っていくのだった。
◇
「憲兵さんに話し掛け辛い?」
自室に戻る途中大和だったが、落ち込んでいる様に歩く彼女を見つけた提督により執務室につれていかれた。
「はい…提督は憲兵さんが好きなんですよね?」
「うん…大和ちゃんもでしょ?」
「…はい。でも彼の心には奥さんがいます…振り向いてくれるか分からなくてその…怖いんです。本当はなんとも思ってないかもしれない…仕事だから優しくしてくれているかもって思っちゃうと…」
次第に声が小さくなり、俯き泣きそうな顔をする大和。
「それでも、私は憲兵さんが好きだよ」
そんな彼女に提督ははっきりと言った。
「仕事だから優しくしてくれるって大和ちゃん言ったけどそんな器用なことできる人じゃないもん。憲兵さんは不器用だし、嫌いな食べ物が出たら顔しかめるし、恥ずかしいことがあったら赤くなるしね…奥さんが居たことには驚いたよ…子供も居たのはビックリだったし…でも好きなんだもん。仕方ないよ」
「提督…」
「だからさ、大和ちゃんも難しいこと考えずにね!」
そう言って微笑む提督の笑顔。大和は頑張ってみますと言い、執務室から飛び出していった。
「私も憲兵さんと晩御飯食べよーっと!」
仕事に取りかかる提督だった。
◇
昼 12時 鎮守府正門
「憲兵さん!」
「な、何でしょうか大和さん」
警備をしていた憲兵に詰め寄る大和。憲兵は何かしてしまったのかと焦る。
「その…お昼御飯は食べましたか?」
「いえ…まだですが」
「な、なら一緒にどうですか!」
お昼のお誘いであることにホッとする憲兵。
「私でよろしければご一緒させてもらってもよろしいでしょうか?」
「ッ!はい!」
そして大和は憲兵の腕に抱き付く。
「大和さん…離れましょう」
「ふふふ…駄目です」
悪戯な笑みを浮かべる大和。少しだけ強くなった大和であった。
◇
夜 19時 憲兵寮 自室
提督と電と食事をした憲兵は自室に戻り書類の整理を終わらせていた。各鎮守府の情報などを共有するモノもあり、一通り目を通していた。
ふと目にした資料。そこには『第二期憲兵育成期間』と書かれていた。現在憲兵隊は配置している憲兵隊員が少ないのではないかと言われており、新たな憲兵隊員を募集、育成を始めていた。来月の頭に1ヶ月間研修で新しい憲兵隊の研修生が配備される主が書かれている。そしてここの鎮守府に来る研修生の名簿に目を通した。
「…女性?」
憲兵隊では珍しい女性隊員だった。年は二十歳。ショートカットに切られた黒の髪の毛。瞳も綺麗な黒色であった。
「…」
「その人誰?」
ふと背後から声が聞こえ振り向く憲兵。そこには不機嫌な鈴谷が立っていた。どうやって中に入ったのかと思ったがそれより機嫌の悪い鈴谷をどうやって宥めるかを考える。
「もしかしてお見合い?」
「違います。新しい憲兵隊員の名簿です」
「…ほんと?」
「ほんとです。来月の頭に来るそうですのでその時はよろしくお願いいたします」
「なーんだそうだよね…安心した」
そう言って憲兵のベッドに腰かける鈴谷。どこかいつもとは違う様子でそわそわして落ち着きがない。何かに怯えているようにも見える彼女を見て何かを感じる憲兵。するとおずおずと鈴谷が口を開いた。
「ねぇ…憲兵さん」
「何でしょうか鈴谷さん」
「その…今日…一緒に寝てくれない?」
資料を纏める憲兵の動きが止まる。
「それは…なぜでしょう?」
「……昨日ね…アイツに襲われそうになる夢を見たの」
憲兵は鈴谷を見る。顔色も悪く、震え、いつもの明るい彼女の姿がそこには無く、怯え、震え上がった少女がいた。
「怖い…あの時憲兵さんが助けてくれなかったらって…だから側にいてほしい…我が儘なのはわかってるけど…」
震える手を見る鈴谷。すると大きな手が優しく包み込む。顔を上げると心配そうな顔をする憲兵がいた。
「今日は特別に許可します。ですが、一緒には眠れませんが側にいますので」
「ありがとう」
鈴谷はその日、憲兵の部屋のベッドで眠る。その傍らに椅子に座り手を握る憲兵。その日鈴谷は悪夢を見なかったらしいが、翌日は恥ずかしく憲兵を見ることができなかったのはまた別の話。
本日の主な出来事
昼
榛名さんと話をする。大和さんと食事をする
夜
資料のまとめ。鈴谷さんの側にいることに。
一言
新たな憲兵隊員が配備されるらしいがどのような人物なのだろうか。
そして鈴谷さんに少し気を配らなければ…
最後に
本日も晴れ、鎮守府に異常なし
感想、評価、アドバイス、誤字脱字などなにかあればお願いします。
夏になり動きが鈍くなる作者を許しておくれ