本日も晴れ、鎮守府に異常無し《完結》   作:乙女座

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遅れてすみません!



二十四日目

12月Ⅰ日

 

朝 10時 鎮守府多目的室

 

 12月に入り本格的に冬の寒さとなり誰もが服を着込む季節となった。この鎮守府の艦娘達も寒さ対策のため服を衣替えし任務や演習、遠征へと向かうようになった。そんな中、提督から朝から多目的ホールに全艦娘が集まるように放送が掛かり艦娘達は何事かと思いながらホールへと集まっていた。

 

「何が始まるんだろ?」

 

「さぁ?」

 

集まる時間になり不安になる駆逐艦一同。吹雪の疑問に答えられず不安になる時雨。ざわざわと騒がしくなる中、提督と秘書艦の電、そして憲兵とヲ級とイ級ブラザーズがホールに入ってきた。彼らはホールの壇上に上がる。静まり返るホール。艦娘が見つめる中提督が話を始めた。

 

「…朝から集まってもらってありがとう。実は報告することがあります…」

 

今にも泣き出しそうな提督の声を聞きただ事ではないと感じる艦娘達。そして提督の口から告げられたのは

 

「憲兵さんが今月末からこの桜村鎮守府から憲兵隊育成のため陸軍本部へと異動になります…」

 

しんと静まり返るホール。そんな中提督と代わるように今度は憲兵が艦娘の前に立った。

 

「…突然の事で申し訳ありません。実は以前から育成教官として声が掛かっており、今回その話を受けることにしました。私の後には秋山隊員が代わりに配属されます。なので何も心配することなくいつも通りに過ごして…」

 

淡々と説明をする憲兵だったが彼の話を遮るようにホールに声が響く。

 

「そんなのいや!嘘だよね?憲兵さんがここから居なくなるなんて!」

 

鈴谷だった。彼女の言葉を皮切りに他の艦娘から抗議が始まった。

 

「う、嘘ですよね?憲兵さんが居なくなるなんて…榛名は大丈夫ではありません」

 

「笑えない冗談ねぇ~…」

 

「やだよぉ…憲兵さんが居てくれたから私は戦えたのに」

 

ざわざわと騒がしくなり収集がつかなくなるホール。提督が何とか落ち着かせようと声を掛けるも騒ぎが収まらなかった。その時だった。

 

「話を聞いてください!!」

 

普段温厚な憲兵が声を荒げ艦娘達を黙らせた。話を聞いて貰える状態になったことを確認し話を続ける。

 

「私は皆さんに沢山の物をいただきました。私の妻と子供が亡くなったことは以前の旅行の時に話を聞いてると聞きました。私は10年前、妻と子供を亡くしました…どうにもならない苦しみに、怒りに、悲しみに心と体を苛まれながら過ごしてきました…」

 

当時のことを思い出しながら話をする彼の言葉を静かに聞く一同。

 

「でも…私は…貴方達…艦娘と提督…そしてこの子達に出会いました」

 

側に居たヲ級の頭を優しく撫で話を続ける。

 

「私は…貴方達に救われたんです…死んだように過ごしていた私を救ってくれた…だからこそ…人を、国を守っている艦娘にできる事をしたいと思い憲兵隊育成教官としての任を引き受けました。後進に続く憲兵を育て貴方達を支えたいと思ったんです」

 

所々からすすり泣く声が聞こえるホールを見渡す憲兵。鈴谷や蒼龍は姉妹艦である最上や飛龍に泣きついている。後ろでは号泣する提督と静かに泣く電。

 

「…残り僅な間ではありますが手を抜くこと無く全力で仕事をします。貴重な時間を割いて私の話を聞いてくださりありがとうございます」

 

頭を下げ後ろへと控える憲兵。涙でぐしゃぐしゃになりながら前に出てきた提督が以上で終わりです。業務に戻って下さいと声を掛け解散するのであった。

 

 

昼 12時 食堂

 

「…」

 

「榛名…ご飯食べないと元気が出ないヨー」

 

「榛名…気持ちは分かるけど憲兵さんの気持ちも分かってあげようよ…」

 

「…それにしても突然でしたね。憲兵さん」

 

話題はやはり憲兵の話であった。多くの艦娘は彼がこの鎮守府から離れることに最初は反対であった。提督も反対し、執務室で憲兵と口論した。しかし、彼の話を聞き自分達の為に何かしたいと思い決断した事に反対はできない。受け入れ、残りの時間沢山の思い出を作ろうと心を切り替えようとしていた。しかし、切り替えれない榛名のような艦娘もいた。特に鈴谷は部屋に閉じ籠り泣いていると同室の最上が不安そうにしていた。

 

「榛名は…反対です……行ってほしくないです」

 

「何を言ってるんですカー?」

 

「え?」

 

金剛が少し怒りながら榛名の言葉に反応する。

 

「榛名は憲兵さんが好きなのは知ってマース。行ってほしくないと思うのは当然デース。でも本当に好きなら彼を応援して送り出すべきだと思うヨー」

 

優しく榛名に言い聞かせるようにする。しかし、心の余裕が無かった榛名はキッと金剛を睨む。

 

「勝手なことを言わないで下さい!好きだから行ってほしくないんです!反対です!絶対!」

 

「勝手じゃないネ!今の榛名の方が勝手デス!相手に自分の意見を押し付けようとしているだけデース!そんなのダメデース!憲兵さんだって悩んで出した結論デース!」

 

「榛名落ち着いて」

 

「お、落ち着いてくださいお姉さま」

 

比叡と霧島が止めに入るがヒートアップする二人。

 

「お姉さまには榛名の気持ちなんか分かりません!知った風に言わないでください!」

 

「分からないデス!ただ後ろばっかり見て前を向こうとしない榛名の気持ちなんて!好きなら残りの時間素敵な思い出を作って彼を送り出して上げるべきデス!」

 

喧嘩が始まり周りの艦娘達も二人を止めようとする。そこへ騒ぎを聞き付けた提督が食堂に入ってきて二人の間に入る。

 

「二人とも落ち着いて!どうしちゃったの!?」

 

何とか二人を落ち着かせようと事の原因を聞こうとする提督。しかし榛名は私は反対です!お姉さまなんて大嫌いと言い食堂から走って出ていってしまった。

 

「榛名ちゃん!」

 

「は、榛名…」

 

「わ、私追ってきます!」

 

 

 

「金剛お姉さまなんて…嫌いです」

 

村を見下ろせる山の上でベンチに座り一人泣いている榛名。この場所は榛名がこの桜村へ来た時に憲兵に連れて来てもらった場所であった。不安でいっぱいだった彼女の不安を和らげるため彼が連れてきてくれた場所。貴方ならできますと言ってくれた彼のために頑張ろうと決意した場所でもあった。考えれば考えるほど彼の思いでが甦ってくる。

 

「憲兵さん…」

 

「…やっぱりここだったんですね」

 

「憲兵さん?!」

 

後ろから声がし振り向くと彼がいた。息を切らせ肌寒い季節なのに汗をかいている憲兵。走って探していたのがすぐわかった。

 

「鈴谷さんの説得している最中で鈴谷さんと話をした後に喧嘩の事を後で聞きました…残りの僅かな時間全力で仕事をすると言ったのにこれじゃあ駄目ですね…」

 

困った顔をしながら榛名の隣に座る。

 

「懐かしいですね…貴方を連れて鎮守府に行く前にここに来ましたね」

 

「…はい」

 

村を見ながら話をする憲兵。返事はするが榛名はずっと下を向いている。

 

「…喧嘩の原因を聞きました…私が移動することを反対して喧嘩になったと」

 

「…」

 

「正直…私は嬉しかったです」

 

「え?」

 

憲兵の言葉に驚く榛名。顔を上げまだ村の景色を見る憲兵の横顔を見る。彼は少し恥ずかしそうに話を続ける。

 

「提督も反対してくれまして…駆逐艦の皆さんや大和さん蒼龍さんもあの後私に行かないでほしいと言ってくれました…まさか引き止められるとは考えていなかったので…不謹慎ながらも嬉しかったです」

 

そう言って頬をかく憲兵。そして視線を榛名の方へと向け優しく話す。

 

「普段優しく温厚な貴方が怒ってまで反対してくれたのはとても嬉しいです…ありがとうございます」

 

「は、榛名は…憲兵さんに居てほしいです…ずっとこの鎮守府で榛名を見守っていてほしいです…」

 

「…はい」

 

「やだ…やだよぉ…行ってほしくないよぉ」

 

わんわん泣きながら憲兵に抱きつく榛名。彼は黙って彼女の頭を撫でながら落ち着くまで胸を貸すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着きましたか?」

 

「…ごめんなさい」

 

謝る榛名に気にしないで下さいと声を掛ける。

 

「目が赤くなってしまいましたね…綺麗な顔が台無しですよ」

 

そう言ってハンカチで榛名の涙を優しく拭き取っていく。

 

「グスッ…憲兵さん」

 

「何でしょう?」

 

涙に濡れながらもしっかりと彼の目を見て告げる。

 

「向こうでも…頑張ってください」

 

今まで助け続けてくれた彼への期待と信頼の言葉。その彼女の言葉を聞き拳を握りしっかりと答える。

 

「わかりました…皆さんの恥にならぬように尽力させていただきます。それと約束します」

 

「?」

 

「困ったことがあれば呼んでください。すぐに助けに行きますから」

 

「…はい!!」

 

笑顔の戻った榛名を見て安心する憲兵。二人で仲良く帰路につくのであった。

 

 

 

榛名の前を歩く彼の背中を見ながら後ろから着いていく。今なら金剛お姉さまの言っていた事が理解できます。好きだから…大好きだから彼には悔いの残らないように頑張ってほしい。きっと憲兵さんなら優秀な人材を育てて皆を助けてくれる人を育てることができると信じます。

 本当なら今すぐにでも彼に想いを伝えたい…でも彼の心には10年前からずっと奥さんが居る。想いを伝えれば優しい彼を困らせてしまう。いつか…彼の隣に寄り添える女性になるまでは……

 

 

 

 

「はるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

「お姉さま!?」

 

鎮守府に着くと金剛が号泣しながら榛名の胸に飛び込んでいた。相当心配していたのか力強く榛名を抱き締めていた。

 

「ごめんねぇぇ。榛名に酷いこと沢山言っちゃったネェ…ごめんねぇ」

 

「…榛名もごめんなさぁぁぁい」

 

 

わんわんと泣く二人を見てホッとする憲兵に提督が近づいてくる。お疲れさまでしたと憲兵に労いの言葉を掛ける彼女に頭を下げる憲兵。

 

「あと…1ヶ月だけだけど…私たちを見守ってくださいね」

 

「えぇ」

 

 

 

 

 

 

 

本日の主な出来事

 

 

ホールにて私が異動することを告げる。

 

 

鈴谷さんの説得。榛名さんと金剛さんが食堂で喧嘩をしたらしく榛名さんが鎮守府から出ていくも、話をして連れ戻す。

 

一言

 

私に行ってほしくないと反対してくれた…私の居場所はここなんだと再確認できた。皆様の期待を裏切らないように残りの1ヶ月を過ごし、本部での業務に全力を尽くす。必ず…

 

最後に

 

本日も晴れ、鎮守府に少しの混乱あり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は何度も何度も書き直して完成させました。
あと少しではありますがよろしくお願いいたします。

感想、評価、アドバイスなどあればよろしくお願いいたします。

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