遅くなってごめんなさい…
本編どうぞ!
最終日
12月31日
朝8時
「荷物はこれで全てですね…」
朝早くから荷物をまとめる憲兵。もともと私物がほぼなかったので荷物を纏めるのに一時間と掛からなかった。自身の私物が無くなった部屋を見渡す。2年間過ごしたこの部屋とも今日でお別れである。明日の朝にはこの鎮守府から遠く離れた本部での勤務となる。
「……」
椅子に腰掛け目を閉じる。目を閉じれば瞼の裏に広がるのは騒がしくも穏やかな日々。こんな自分を受け入れてくれて、共に過ごしてくれた彼女達の顔が浮かぶ。ゆっくりと息を吸い、そして吐く。
「最後までしっかりと仕事をしましょう」
最終日だからこそ今まで以上に気を引き締め作業に取りかかるのであった。
◇
朝 10時 鎮守府中庭
「あ!憲兵さん!おはようございます!」
「おはようございます吹雪さん」
中庭の手入れをしようとした憲兵が目にしたのは軍手を着けて作業をする吹雪の姿だった。
吹雪には自分の居なくなった後のこの中庭の世話をお願いしていた。顔に泥を付けてにっこりと微笑み挨拶をする吹雪。憲兵はポケットからハンカチを取り出し泥を拭き取る。
「じっとしていてください」
「くすぐったいですよ~」
えへへと笑う吹雪につられるように優しい顔をする憲兵。そんな彼らを見つけて近づいて来る人影があった。
「憲兵さーん!吹雪ちゃーん!おはようっぽい!」
「おはよう憲兵」
夕立と時雨であった。
「おはようございます時雨さん。夕立さん」
「最後まで真面目だね…」
「憲兵ですから」
ぶれない憲兵に笑う一同。憲兵と三人は中庭の作業をしながら沢山話をする。昨日の演習ではMVPを取ったと話す夕立。
昨日は鳳翔さんに料理を教えて貰いおせち料理の手伝いをした時雨。昨日は川内に夜戦の話を延々と聞かされたと笑う吹雪。彼女達の話をしっかりと聞き、心に彼女達の笑顔をしまう憲兵であった。
「げっ!憲兵」
声が聞こえ振り向く憲兵の目線の先にはいつものように服を着崩した天龍が立っていた。
「…」
「…」
声を発することなく見合う両者。沈黙が二人の間を支配していた。
先に動いたのは天龍だった。自分が歩いてきた道を走って戻る。その後を物凄いスピードで追いかける憲兵。
「待ちなさい天龍さん!貴方は最後まで!」
「う、うるせぇ!今日という今日は逃げ切るからな!」
「待ちなさい!」
「やだね!」
「あらあら天龍ちゃんったら…相手してほしいからって」
追いかけられている天龍を見てそう呟く龍田。ちげーし!と声を挙げながら走る天龍。
いつものように追いかける憲兵と追いかけられる天龍。そしてそれを見て笑う龍田と吹雪達。この雰囲気は好きであると再確認し天龍を追いかけまわす憲兵であった。
◇
お昼 13時 食堂
「憲兵さん!ご一緒しましょう!」
昼食時に声を掛けてきたのは空母組の艦娘達だった。赤城に手を引かれ席に座らせられる憲兵。隣には蒼龍が座っておりぴったりと肩が触れあうほどの距離まで椅子を近づけてくる。
「蒼龍さん…近いです」
「嫌ですよ…今日は最後ですからね!」
えへへと笑う蒼龍を見る憲兵はその笑顔を見ていい笑顔ですと伝える。蒼龍は意外なカウンターパンチを喰らい顔を真っ赤にさせながら俯いてしまった。
「憲兵さん…」
向かいに座っている赤城がおずおずと自身のトレーを彼の前に差し出す。
「今まで沢山食べ物を頂いたので…好きなおかずを食べてください…」
辛そうにぷるぷると震えながらそう進言する赤城。憲兵はふっと笑い差し出して来た皿の上に今日のメインであるしょうが焼きの豚肉をそっと置いた。驚いた顔をする赤城。
「私は美味しそうにご飯を食べる赤城さんを見るのが好きなので遠慮せず食べてください」
それを聞いた赤城はまるで神様を見るかのような瞳で憲兵を見つめる。
「憲兵さん…愛しています」
号泣しながらしょうが焼きを口に運ぶ赤城。それを見た加賀がふふふと笑っていた。
「いつも通りですね憲兵さんは」
「おかしいでしょうか?」
「いえ…それが貴方のいいところですから」
まるで貴方のことは全て分かっている雰囲気で静かに食事をする加賀。憲兵もゆっくりと食事を進めていく。そんな時だった。
「憲兵さーんこれあげるー」
飛龍が憲兵の皿にプチトマトを乗せてくる。
「…好き嫌いはいけませんよ」
「えぇ…お願い!この通り!」
頭を下げてお願いする飛龍。憲兵はため息をつきながらプチトマトを食べる。それを見ていた瑞鶴が憲兵さんは飛龍に甘いよねと呟く。
「そうでしょうか?」
「時には厳しくするのも必要よ?ねぇ翔鶴ねぇ」
「そうね…でも瑞鶴も嫌いなもの私のお皿に乗せることあるわよね?これからは自分で食べてね?」
「…やっぱり厳しくするのなしね…憲兵さんも甘やかしてね」
「それは違うのではないでしょうか」
笑いが起こる食堂。瑞鶴は恥ずかしそうに食べ進め翔鶴はごめんごめんと瑞鶴の頭を撫でていた。
◇
昼 14時 鎮守府正門
「そうですか…今日で憲兵さんとお別れですか…」
「えぇ…明日の早朝にこの村から本部へと異動になります。大変お世話になりました。おじいさまとおばあさま、そして小夏さんにも伝えて下さい」
正門ではいつものように魚の差し入れをしに来る青年と憲兵が話をしていた。
「小夏…寂しがると思いますよ」
寂しそうに呟く青年。妹の小夏だけではない。こうやって魚を差し入れする度に話をする青年にとっては彼は短い間であったが亡くなった自分の父親に重ねていることもあり色々と相談したりしていたため彼が居なくなるのは寂しさを感じる。
彼の心情を読み取ったのか憲兵は彼にあるものを用意していた。
「…ささやかな気持ちではありますがこれを」
「これは…お守り?」
憲兵が差し出したのは桜の刺繍で彩られたピンク色のお守りであった。
「どうかお二人の未来が安全でありますようにと…迷惑だったでしょうか?」
申し訳なさそうにする憲兵。しかし、青年は目に涙を浮かべ憲兵に頭を下げた。
「大切にします…向こうでも頑張ってください!小夏も喜びます!」
「えぇ…あなた達の未来に幸あれ」
憲兵は陸軍式の敬礼を青年にする。青年も憲兵に今までの感謝の気持ちを込めて敬礼を返した。
「…やはり似ている…」
「え?」
「いえ…なんでもありません」
彼の目には青年の敬礼した姿がかつて自分の部隊の隊長であった矢沢義信大尉の姿に重なって見えた。
◇
昼 15時 執務室
「本日の業務はこれにて終了です。提督。一年最期の業務お疲れさまでした」
執務室では大晦日ということもあり通常の業務は早くに終わらせていた。椅子に座りながら体を伸ばす提督。
「一年終わっちゃうのか…」
「早かったのです…」
「早かったですね…」
しみじみと窓の外を見る提督と電。そして憲兵。
「覚えていますか?私が初めて憲兵さんと会ったときのこと…」
提督が憲兵に話しかける。
初めて提督とそして電と出会ったときのことを話す。
「あの時は憲兵怖かったよ」
「なのです」
「…申し訳ありません」
ばつが悪そうに謝る憲兵を見てふふふと笑う提督と電。
「でも…今は憲兵さんが好きだよ」
「電も憲兵さんが大好きなのです」
そう微笑みながら憲兵に伝える二人。憲兵は恥ずかしいのか表情は変わらないが照れながら頭を下げる。
「私も…提督、そして電さんを初めとする艦娘の皆さんのことが…その…なんといいましょうか…」
瞳をきらきらさせながら見ている二人。憲兵は顔を明後日の方に向ける。
「その大好きですよ…」
顔を真っ赤にする憲兵を初めて見た二人。憲兵は帽子を深く被り直し失礼しますとそそくさと執務室から出ていく。出ていく途中にこけそうになる憲兵。提督と電はきゃーきゃーとはしゃいでいた。彼のこの言葉は妖精さん作の小型マイクで拾われ鎮守府全体に流されており全艦娘が聞いていたのはまた別の話である。
◇
夕方 17時 広場
「憲兵さんおそいー!」
「こっちだよけんぺぇさん!」
「ヲー!」
「ま、待ってください…」
厚着をした島風と雪風を追いかける憲兵。業務がなくなった憲兵は駆逐艦達、そしてヲ級、イ級ブラザーズと鬼ごっこをして遊んでいた。その姿を榛名、比叡、鹿島、鳳翔、大和、曙が見ていた。
「ふふふ…憲兵さんったらあんなにばてちゃって」
「榛名も憲兵さんと追いかけっこ…いいかもしれません!」
「榛名…落ち着いて!」
微笑みながら様子を見ている鳳翔。榛名は榛名も追いかけます!と飛び出そうとしているのを比叡が何とか押さえていた。
「…ふん!何よだらしない!」
曙は憲兵がバテているのを少し面白くなさそうに見ていた。それに気づいた大和が曙の頭を撫でながら憲兵の話を始めた。
「曙ちゃん憲兵さんから貰った本大切にしてるのよね?」
「な、な、なんで知ってるの?!」
「大切にしている事を彼に言ったほうがいいと思いますよ?」
鹿島も曙の頭を撫でながら微笑む。曙は顔を真っ赤にさせながらうーと唸っている。そこへ走り疲れたのかへとへとになった憲兵が休憩のため近づいてきた。鳳翔は憲兵に汗ふき用の手拭いを憲兵に渡す。憲兵はお礼を言い汗を拭いていく。
「ふふふ…皆はしゃいでますね」
「さすがに体が持ちません」
「憲兵さん!雷がお茶持ってきてるわよ!」
雷に手渡されたお茶を飲みながら一息つく憲兵。ふと目に入ったのは大和と鹿島に撫でられて唸っている曙だった。
「曙さん?どうかしましたか?」
「な、なんでもないわよ…その…」
何か言い淀んでいる曙を見る憲兵。大和と鹿島が曙に今ですよと言う。
「その…本…大切に読んでるから…憲兵…さん」
顔を真っ赤にしながら憲兵に貰った本を大切にしている事を伝える曙。憲兵はそれを聞き少し嬉しそうに彼女の頭を撫でるのであった。
◇
夜 11時55分 桜村 桜花寺
鎮守府での夕食を終えた一同は新年を迎える為に桜村の桜花寺へと出向いていた。高台に設置されたこの寺は村全体を一望できる場所にある。そこへ村の人々も新年を迎えるために寺に集まっていた。憲兵はヲ級と手を繋ぎ他の艦娘達と共に人々の列に並んでいた。ヲ級は初めての体験からなのか目をきらきらと光らせていったい何が始まるのかとワクワクした様子で憲兵の手をぎゅっと握っていた。
「あと五分ですね」
腕時計で現在の時間を確認する憲兵。その隣で榛名がイ級ブラザーズを抱き抱えながら比叡と話をしていた。
あっという間の一年だった。そう思わずにはいられないほど早く時が過ぎたと思う彼は一年間を振り返っていた。ここに配属されてから二年。ただ仕事をこなした最初の一年とは違い彼女達と打ち解け楽しい時間を過ごした一年。本当にここに来てよかった。そう思える。これも提督や艦娘達のお陰であろう。十年前に無くした大切な物を彼女達のお陰で取り戻せた。
「あと一分だよ!」
吹雪のその一言で目を開ける。周りでは新年へのカウントダウンが始まった。憲兵はヲ級を村の景色を見えるように抱き上げる。ヲ級はしっかりと村を見ていた。この子と出会えたのもきっと何か意味があったのだろうと考える憲兵。
「ありがとう」
誰にも聞こえないようにそう呟く彼の言葉と共に時計の針が十二時を指した。その瞬間村の各所に設置されている灯籠に火が灯る。村を優しく包み込む光が新年の始まりを祝っていた。
「憲兵さん!」
提督に呼ばれ振り向くと艦娘達が居た。
「明けましておめでとう!」
新年を共に迎えることが出来たことを喜びつつ明日旅立つことに寂しさを感じる。だが、二度と会えないわけではない。終わりではない。新しく明日から始まるのだ。
「明けましておめでとうございます。提督、皆さん」
桜村鎮守府勤務最終日
主な出来事
朝
吹雪さん達と中庭の手入れをする。
昼
赤城さん達と昼食をとる
夕方
駆逐艦の艦娘の皆さんと遊ぶ
夜
桜花寺で皆さんと新年を迎える
一言
この報告書を書くのもこれで最後です。ここに来て本当によかったと思う。皆さんがこれからも幸せに過ごせることを祈りつつ彼女達を守るであろう憲兵隊を指導していく。
最後に
本日も晴れ、桜村鎮守府に異常なし
感想、評価、アドバイスお待ちしております!
本編はあと少し続きます!
番外編を二個ほど作ろうかなと考えてたり…まぁね
新作は皆さんのアンケートを参考に決めます!
次回もお楽しみに~