この話で本編は終了です!
では最終話どうぞ!
エピローグ
「本日の訓練は以上です。お疲れ様でした」
本日の訓練が終わり訓練生へ号令を掛ける。私の後に続きありがとうございましたと返事をする訓練生を後に本部へ今後の訓練内容の変更を伝えに戻る。
今年憲兵隊に入隊した隊員達は皆素晴らしい素質の人物が多い。初めて彼ら、彼女らの前に出たときは何故かサインや握手を求められたりもしたが今は落ち着いている。しかし、女性隊員から買い物や飲み会の誘いが今でも多い。若い隊員が多く親元を離れている隊員が多いから寂しいのだろう。
「今日もダメだったね」
「もっと頑張らないとね…」
今日の訓練の内容の話だろう。女性隊員には少しきつい訓練内容ですから…彼女達にも立派な憲兵になってもらいたい。そうこう考えている内に陸軍憲兵隊育成科の部屋まで着く。ノックをし部屋の中に入ると資料が積み上げられ倒れそうなデスクで死にそうな顔をしている人物と目が合う。私を見るや否やずれた眼鏡を掛けなおすこの男性。彼こそがこの憲兵隊総司令の九条直木総司令である。
「おお…君か…てっきり迎えが来たのかと思ったよ」
「本日の訓練が終了しました。こちらが資料となります」
「おぉ…仕事が早いと言うか熱心と言うか…君は実に面白い人物だね…五年前の表彰式で見たときから君には注目していたからね」
「ありがとうございます」
さあさあ座りたまえよと言い来客用のスペースへと案内される。総司令が座るのを確認した後断りを入れ椅子へと腰を下ろす。
「おーい。五月雨くんお茶を持ってきてくれるかい」
「了解しました!少し待っていて下さい!」
元気に返事をしてお茶を入れに行く五月雨さん。少し嫌な予感がするが今は置いておく。
「今期の訓練生は皆合格できるね。素晴らしい働きだよ横山教官」
「お褒めいただき感謝します。しかし、私一人の力ではありません。全員が努力した結果であります」
「そんなに謙遜しなくていい…それにしても君が来てからもう二年か…早いもんだね」
廊下からキャーと五月雨さんの声が聞こえるが大丈夫だろうか…
「そうだ…以前君が担当していた桜村鎮守府だが、深海棲艦と話をすることが出来たらしいよ。これは人類平和への大きな一歩になる…」
「彼女達がですか…」
「ふふふ…君の元へ週に一回のペースで桜村の鎮守府から手紙が来ているからね。気になるだろう?」
気にならないと言えば嘘になる。あそこには私の大切な娘達、そしてかけがえのないヲ級とイ級がいる。
そうか…もう二年も経っているのか。
「そんな君に私からプレゼントを用意した!少し待っていなさい」
ごそごそと山積みの資料から何かを取り出す総司令。その間にびしょびしょになった五月雨さんがお茶を持ってくる。私は彼女にハンカチで顔を拭くように言い、水で濡れて少し透けている服では目のやり場にも困る以上に可哀想だと思い彼女に私の上着を渡し、これを羽織って部屋まで戻り服を着替えて来るように指示をする。五月雨さんはすみませんと言いながらそそくさと部屋へと向かっていった。
「あったあった!これだ!」
「長期休暇?しかも一ヶ月もですか?」
「君はここに来て二年間ほぼ休みなく働いている。少しは羽を伸ばしてきなさい。これは上官命令だよ?いいね?もし隠れて働いていたらあの山積みの資料の片付けを手伝ってもらうことになるよ」
話は以上だ。部屋に戻って休みなさい。総司令はそう言い自身のデスクに戻っていく。私は頭を下げ部屋を後にするのだった。部屋から出る前にやっぱり手伝ってくれないか…と言う声が聞こえた。
◇
4月1日
電車に揺られること一時間。見慣れた駅が見えてくると同時に車内放送が掛かる。
『次は桜村、桜村です。お降りの際は足元に注意して忘れ物のないようお願いします』
電車のドアが開きホームへ降りる。二年前と変わらず綺麗な駅である。二年前、この村の住民の人達が『憲兵さんありがとう!いつでも遊びに来てね!』と横段幕を用意してくれていたときは泣いてしまった…少し恥ずかしい。
駅の改札口を出ると桜並木の道が出迎えてくれた。変わらない。しばらく道なりを進むといつも買い出しをしていた商店街が見えてきた。
「あれ…あんたぁ憲兵さんじゃねぇか?!」
「ご無沙汰しています。源さん…お元気そうで何よりです」
「おーい、サチ!憲兵さんだぁ!憲兵さんが帰ってきたぞ!」
彼の通るような声と共に商店街の人が次々と店から出てきて私を出迎えてくれた。
「おめぇ帰ってくるなら連絡の一つくらいよこしやがれ!」
「あれだ!今日採れた野菜やるから!」
「あんた!少し痩せたんじゃないかい?!向こうでも働きっぱなしだったんだろ?ほら揚げたてのコロッケ持っていきな!」
野菜や果物、そして食べ物などを私に持ってきてくださる皆さんの暖かさに私は涙を堪えきれなかった。歳のせいか…
そんな私に懐かしい声が聞こえた
「あ!憲兵さん!お久しぶりです!」
「憲兵さんのおじさん!」
手には今日漁で取れた魚が入っているであろうクーラーボックスを持ちこちらに向かってくる爽やかな青年と少しばかり背が伸び、赤いランドセルを背負った少女。間違いない、あの兄妹だ。
「お久しぶりです…義弘さん、小夏さん」
「憲兵さん!お久しぶりです!」
「おじさん帰ってきたんだ!」
体つきが良くなった義弘さん。前より可愛らしくなった小夏さん。一ヶ月の長期休暇が出たことを伝える。また遊んでもらえるとはしゃぐ小夏さん。
「…憲兵さん!俺!憲兵さんから貰ったお守り大事にしてます!」
「小夏も持ってるよ」
義弘さんは首からお守りを下げ、小夏さんはランドセルにお守りを付けていてくれた。
「…」
「あれ?憲兵のおじさん泣いてる?」
「ど、どうしよう!」
焦る彼を見た村の人々は笑っていた。村の人々の優しさに包まれていることを実感し流れる涙が止まらなかった。
◇
「懐かしいです…二年前のことですがこの道を歩くのは」
「憲兵さんが居なくなってから寂しかったですよ…少しの間小雪さんも元気無かったですし…」
「小夏も寂しかったよ~」
私は青年と共に鎮守府へと向かう。小夏さんと手を繋ぎながら歩く鎮守府への道。変わらない道のりを進んでいく。義弘さんは二年間の間のことを私に話してくれた。驚いたことに深海棲艦と交信に成功したのは彼が初めてであった事にも驚いたがそれ以上に共に暮らしていることには驚いた。
「もうすぐですよ!」
「ええ…見えてきましたね」
目の前には二年前と変わらぬ門が見えてきた。
「皆驚きますよ!」
「…少しこの荷物を少し見ていてくれますか?」
私は荷物を義弘さんに預け
「ま、待って下さい~天龍ちゃん」
「だー何だよ!俺の勝手だろ?!」
二年前と変わらずスカートの丈が短い天龍さんが秋山隊員に追いかけられている姿を見つけた。
「だ、駄目ですよぉ…横山教官から天龍ちゃんには少し厳しくするように言われてるんです~」
「もう居ないんだからいいだろ?!」
「まだ直っていないんですね…天龍さん…」
「は?」
追いかけられている姿を見てた私は彼女に声を掛ける。すると立ち止まり壊れたブリキのおもちゃのようにぎこちなくこちらを見る。私と目があった瞬間滝のように汗が流れていた。
「…」
「…」
しばしの沈黙の後天龍さんが走り出した。久しぶりだが体は鈍っていないはず。私は全力で天龍さんを追いかけた。
「だああああああ!何で!?何でお前が居るんだよ?!」
「待ちなさい天龍さん!」
全力で逃げる天龍を追いかけ回す。すると騒ぎを聞き付けたのか多くの艦娘が集まってきた。
「憲兵さんが帰ってきたっぽい!」
「oh!久しぶりネー!」
「司令官に報告してくるのです!」
続々と集まってくる皆さんを他所に私は天龍さんを追いかける。
「な、なんか前より早くないか!」
「二年間教官として訓練生と共に鍛えてきました…秋山隊員!挟み撃ちです」
「了解しました!」
「ギャー」
秋山隊員と天龍さんを捕まえスカートの丈を長くする。ふと彼女の顔を見ると少し嬉しそうに見えた。
「憲兵さん!」
後ろから声が聞こえ振り向くと二年前よりも大人になり白い提督服を着た女性が立っていた。その他にも軍手を着けた吹雪さんと曙さん。泣いている鈴谷さんと榛名さんと蒼龍さんを慰める比叡さんや霧島さんや飛龍さんと最上さん。おにぎりを食べている赤城さんや優しい微笑みを浮かべる加賀さん鳳翔さんや間宮さん。笑顔で帰ってきたのねと言う瑞鶴さんや翔鶴さんや金剛さん。跳び跳ねて喜んでいる夕立さん、雪風さん。落ち着いた様子で私を見ている大和さんと時雨さん。そして龍田さん。その他にも沢山の艦娘の皆さんが揃っていた。
背中に飛び付いてきた人物を確認する。そこには笑顔で私を見つめるヲ級がいた。私は優しく彼女の頭を撫でる。足元にはイ級の二匹が居た。
「お久しぶりです。皆さん」
頭を下げ挨拶をする。
「おかえりなさい憲兵さん」
提督が笑顔でそう言ってくれる。その後に続き艦娘の皆さんもおかえりなさいと言ってくれた。
笑顔で私を出迎えてくれる皆さんを見て確信する。
私の居場所はここなのだと
本日も晴れ、鎮守府に異常無し fin…
最後まで読んでいただきありがとうございました
皆さんのアドバイスや暖かい感想のおかげで何とか書き上げることができました。ありがとうございます。
本編はこれで終わりですが番外編を何編か考えているのでよろしければまた見てください!
では、またお会いしましょう!