本日も晴れ、鎮守府に異常無し《完結》   作:乙女座

47 / 48
番外編です

榛名と憲兵さんのお話

※内容が暗く、残酷な描写もあります。ほのぼのではありません


番外編 憲兵と榛名 前編

「被害を受けた艦娘は以上か?」

「はい…もう少し早く到着していれば…」

 

 机を挟み話をする男二人。一人は白衣を身に纏い椅子に座りながら手元の資料に目を通しながら険しい顔をしている。もう一人は後悔の念を滲ませ悔しそうな顔をしていた。

 ここは陸軍憲兵隊本部の艦娘ケア専門の部屋。今年発足され、鎮守府において提督から幾多の非道な扱いを受けた艦娘の今後をどうするかの決定をする場所である。椅子に座る男は十枚の資料を机に置きため息をつく。資料には潮、電、大鯨、鳥海、神通、熊野、鈴谷などの名前と経歴が書かれておりとある鎮守府で提督から肉体関係を強要されたり、暴力を振るわれたりなどの受けた事が書かれていた。

 

「悔やんでも仕方あるまい…これだけで済んでよかったと言うべきか…いや、被害にあった艦娘がこれだけ居るんだ。もっと早くに対応するべきだった」

「…」

 

 やるせない感情が勝り表情が曇る二人。今回は轟沈した者や、自ら命を絶った者が居ないだけで彼女達が受けた苦痛は計り知れない。資料を見ても分かるように今回捕縛された提督は気の弱い艦娘に対しての暴力行為及び熊野を人質に鈴谷へ肉体関係を強要した。少しでも憲兵の男が踏み入るのが遅ければ鈴谷には消えない心の傷を残す最悪の結果になっていたかもしれない。

 手に持っていた資料を机に捨て置き椅子から立ち上がる白衣の男。窓の外に広がる海を眺めながら深いため息をつく。

 

「本当に醜いな…我々人間は…欲望に駆られ命を賭けて戦う少女たちにこのような仕打ちを…滅ぼされて当然かもしれん」

 

その言葉に反論することが出来ない男を他所に白衣の男はゆっくりと男に向き直る。

 

「…鈴谷の様子はどうだった?」

「最初は震え怯えた様子でしたが今では落ち着いています。しかし…男性の提督への配属は難しいかと」

 

 憲兵が提督を取り押さえ助けた時、彼女は気丈に振る舞っていたがその瞳には涙が溜まっていた。無理もないだろう。姉妹艦を人質に取られ肉体関係を強要されたのだ。しかも暴力も振るわれている。怖くないはずがない。

 

「一年後、提督の職務に就く女性がいる。そこへ配属にする。それまではここで療養させながら鹿島に演習をしてもらおう」

「…他の艦娘は?」

「暴力を振るわれていた艦娘達は治療の後、他の鎮守府に配属する。姉妹艦がいる鎮守府だ。勿論ケアの為に女性の憲兵を同行させる。だが…彼女はそうはいくまい」

 

そう言って一枚の資料を憲兵に渡す。そこに書かれている艦娘は金剛型三番艦榛名の名前であった。

 

「あの鎮守府の唯一の戦艦だ。他の艦娘を庇い暴力を受け、食事もまともに取らされず出撃…よく沈まずに耐えてくれたが…酷く衰弱し、我々を恐れている。意識が回復した今でも彼女は医者や看護師を見たら酷く怯えている」

 

 男は鈴谷を保護した後に見た榛名を事を思い出す。薄暗い部屋のなかで衰弱し、死んだ目でうわ言のように出撃ですねと呟く彼女の姿。入渠もさせてもらえなかったのであろうか、服は破れていた。彼はすぐさま彼女を緊急搬送させるために本部へと連絡を入れた。その間も彼女は榛名は大丈夫ですと繰り返していた。

 

「彼女はもう戻れない…解体してやるしか…ない」

 

 非情な決定を下す白衣の男。彼も出来れば彼女を助けてやりたい。だが既に彼女の心は壊れていた。ヒステリックになり泣きわめき、暴れる。そしてもう楽にしてくれと泣く彼女は戻れない。

 

「…待って下さい…私が責任を持って彼女を助けます」

「…できるのか貴様に?」

「…必ず」

 

睨み付ける白衣の男の目を真っ直ぐと見て返事をする男。数分の沈黙の後、白衣の男はため息をつきながら頭をがしがしとかく。

 

「やれるだけやってみなさい」

「感謝します…では失礼します」

 

そう言って男は部屋から静かに退出していった。白衣の男は椅子に座り直し資料を纏めながら先程話していた男について考える。

 

「横山明弘…憲兵隊のトップの成績の男か…」

 

 

 病院のとある一室の扉の前に憲兵は立っていた。中からは医者と看護師の声と泣き叫ぶ女性の声が聞こえていた。ノックをして中へ入ろうとした彼だったがタイミング良く中から医者と看護師が出てきた。憲兵は頭を下げる。医者の男も頭を下げる。

 

「憲兵隊第一部隊隊長横山明弘です。彼女に話があるのですがよろしいでしょうか?」

 

面会の許可を取ろうとする憲兵。医師は最初睨み付けるような顔をするもすぐに普段の顔に戻る。

 

「憲兵隊か…ダメだな。彼女は軍関係者を見ると暴れるほど怯えている。会わせる訳にはいかん」

「五分だけでいいんです。お願いいたします」

 

真っ直ぐと医者の男の顔を見る憲兵。そして頭を下げた。医者は仕方なく看護師同伴と言う条件で面会を許可した。憲兵は頭を下げノックをして部屋の中へと入る。

 入室した彼の目に入ったのは病室のベッドの上で丸まって震えている一人の少女だった。髪の毛はぼさぼさになり目元には酷い隈。そして何より彼を見ている瞳が恐怖に染まっていた。

 

「…ッ!」

「はじめまして…今日から貴方の担当になる憲兵です」

「…榛名をまたあそこへ連れていくつもりですか?」

 

震える声でそう問いかけてくる彼女。憲兵は静かに首を横に振り否定する。

 

「貴方を…職場に復帰できるように」

「解体してください」

 

彼の声を遮る榛名から出てきた言葉。

 

「榛名は…役立たずの艦娘です…榛名は…お姉様達みたいに活躍できませんでした…許してください…許して!いや来ないで!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

 

悲鳴を挙げ暴れだす榛名。彼女を落ち着かせる為に看護師と外で待機していた医師が部屋に駆け込んでくる。医師は看護師に榛名を押さえつけるように指示をする。そして呆然と立っていた憲兵を睨み付け出ていくように指示をする。憲兵は重い足取りで病室から出ていくのであった。

 

 

 

 数分後、待合室で待っているように指示を受けた憲兵。彼は先程の彼女を見て本当に元の生活に戻してやれるのかと不安に思っていた。

 

「待たせたね…」

 

そこへ先程の榛名の担当医である医師が現れた。

 

「先に自己紹介をしておこう。私は彼女の担当医である金元康だ」

「私は憲兵隊第一部隊隊長の横山明弘です」

 

 互いに自己紹介を終え、話はすぐさま彼女の事に移る。

 

「見ての通りだ。彼女は心が壊れている。悲しいが解体してやった方が彼女の為でもあると私は思う」

 

本部での判断と同じことを彼に告げる金元医師。

 

「…私が彼女を元の艦娘に戻します」

「…できるのか?先程彼女が暴れたときに何も出来なかった軍人が?」

 

棘のある言い方をする金元。彼は深く深呼吸をし話を始めた。

 

「私がここに配属されてどれだけの艦娘を見てきたと思う?どれだけの艦娘が自ら命を絶ったと思う?お前たち軍人は彼女たちへどれだけの仕打ちをした…どうせ彼女達を兵器の一つとしてしか考えていない。そうだろう?軍人はどいつもこいつも同じだ。私はね…命を救うのが仕事だ。君たちは命を守るのが仕事だろ…なのにあのような姿になるまで酷使する君たち軍人は…人間ではない」

 

これ以上はやめておこう、今日は帰りたまえと促される憲兵。唇を噛み締めながら病院を後にする憲兵であった。




感想、評価、アドバイスお願いいたします。

※間違えて途中で投稿してしまいました…申し訳ありません!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。