オーバーロード 四方山話《完結》   作:ラゼ

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プロローグ1

目の前には緑色をした醜悪な小鬼が首から血を流し事切れている。

 

いまだに慣れない、ゲームとは違う生々しさを感じながら報酬部位の耳を切り落としつつ男はこの世界に来た時の事を思いため息をついた。

 

 

<Dive Massively Multiplayer Online Role Playing Game>『ユグドラシル<Yggdrasil>』

おおよそ12年前に開始された体感型のRPG。

サービス開始時にはかなりの話題となり、最盛時には一世を風靡したといっても過言ではない程に膨大なプレイヤーがこのゲームを楽しんでいた。

 

とはいえ何事にも終わりはある。

オンラインゲームでは最大数のアクティブユーザーを誇っていた事もあるこの〈ユグドラシル〉も本日をもってサービスを終了する予定となっていた。

 

そう、なっていたのだが―――

 

 

 

 

 

「今日でユグドラシルも終わりか…」

 

鬱蒼と緑が生い茂った森に一人の男が陰鬱な気を纏いながら歩いていた。

 

「明日から何して過ごしゃいいんだよホント」

 

全身をゴッズアイテムで武装したその男はユグドラシルで最も多い人間種、そしてカンストプレイヤーであった。

とはいえサービス終了間際のゲームでカンストプレイヤー等珍しくもなく、それこそ掃いて捨てるほどに存在しているものではあるが。

 

そんなどこにでも居るようなこの男が何をしているかというと―――端的にいえばボーッとしていた。

 

「ここも久しぶりに来たけど変わってないなー」

 

男がいるこの森はユグドラシルでも序盤のフィールドでありそんな所にアップデートが入るはずもなく、となれば当然ゲームであるからして景色が変わっているわけもないのだが男はサービス終了のやるせなさに気落ちしているため深く考える事もなく見たままをそのままぽつねんとつぶやいていた。

 

「7年間くらいか、思えば結構やってたんだな」

 

途中別の体感型のRPGやソシャゲ等に浮気することもあった男だが結局はユグドラシルに戻るのはこのゲームが性に合っていたということなのだろう。

 

〈ユグドラシル〉の最後を何処で過ごそうかと考えていた男であったがギルドにも所属せず、たまに野良パーティと狩りに行く程度の人付き合いしかしていなかったためこれといった場所もなく適当に移動していたらこのフィールドに来ていたのだ。

 

「あと5分か…」

 

別に人付き合いが嫌いな訳ではなく、さりとて進んでギルドに入ろうという性格でもなかった。惰性でソロを続けていただけではあったがそれが嫌だという性格でもなかった。

 

ギルドに誘われなかった訳ではなく幾つかのギルドから勧誘されたりもした男だが、個人的な付き合いの部分はともかくギルドそのもので気が合いそうなものがなかったのである。

 

異業種を狩る事に精をだすギルド―――PKに否定的な訳ではないがそこまで情熱を傾ける程でもなかった。

 

ひたすら可愛いものを愛でるために存在するギルド―――まあ自由度の高いゲームなのでやりたいことは人それぞれである。

 

異形種のみで構成されたギルド―――個人的な付き合いのある連中はいるがそもそも条件を満たしていない。

 

結局機に恵まれなかっただけなのだろう。

それでも充分楽しんでいた、楽しめていた。

満足はしているのだけど寂しさは拭えない。

しかしなにより男が気にしているのは。

 

「課金した30万円返ってこないかなー。…ちくしょう」

 

みみっちい男である。

 

趣味に掛けた金額が7年間で30万円。それを高いととるか安いととるかは人それぞれではあるが、月額使用料金1500円と合わせれば一つのゲームに掛ける金額としては中々ではある。

 

後悔はしていない、だがそれだけお金を掛けたデータが自分の都合以外の要因で消えてなくなるというのは悲しくなるのが人情というものであろう。

 

セコケチなのは変わらないが。

 

「あー終わる、終わる、終わっちゃう。20、19、18…」

人生の4分の1近くを共にした〈ユグドラシル〉の終わりである。何かしなければ、何をすればいいのかとよくわからない焦燥感に駆られる男。

 

ちなみに今から26年前の西暦2100年の時分、5歳であったこの男は世紀を跨いだ瞬間机から大ジャンプをすることで「その時地球にいなかったんだぜ」と100年前からある阿呆な行動を大発見とばかりに満面の笑みで実行した挙げ句、捻挫で新年早々に病院に迷惑を掛けたことのある大馬鹿者でもある。

そんな男がとった〈ユグドラシル〉最後の行動とは。

 

「《フライ/飛行》」

 

まったく成長を感じさせない行動である。

 

そして―――カウントが0を刻む。

 

美しい眺めと共に有終の美を飾ろう、等と所謂「ちょっと感傷に浸ってる俺ってカッコいい」とちょいナルシーな阿呆加減を発揮した結果。

 

「はっ?ちょまっ!?」

 

突然変わった景色、いきなり感じた高所であるが故の強風、終わる筈だった世界の継続に対する混乱。

それらがもたらすのは当然―――

かつて世紀を跨いだジャンプより遥かに高い所からの墜落であった。




常識はあるけどちょっとだけアホな感じの主人公です。

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