オーバーロード 四方山話《完結》   作:ラゼ

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悪魔が笑う

「その顔を見ると随分な成果があったようだが、詳しく話してもらおうか」

 

ジルクニフの私室に呼び寄せられたフールーダに向かって親しさを含んだ声が掛けられる。

 

「それはもう、ここ百年の研究よりもなお有意義であったと言えましょうな。たった一日で位階が上がるとは夢にも思いませんでしたぞ」

 

興奮冷めやらぬといった風に語気を強めて成果の一部を報告するフールーダ。彼にとってはまさに夢のような時間であったのだ。

 

「それは…くくっ、じいが言ったことでなければ信じることも出来んなまったく」

 

容易く余人に力を与えたまう。まさに神の如くと言ったところかと、若干の呆れを含んだように笑うジルクニフ。

 

「それで内部の規模や人数などはどうだった? まあそこまで把握させてもらえはしないだろうが、少しは何か掴めたか?」

「……」

「……」

 

二人しか居ない部屋に静寂が訪れる。先程メイドが持ってきた紅茶は既に湯気を上げることもなくなり、冷めている。

 

「コホン、それでですな、驚くことにあの地下深くに閉じ込めているデス・ナイトを召喚することが出来るように…」

「おい」

「…」

 

その沈黙が雄弁に語っている。そんなことは忘れていたのだと。

 

「まったく、魔法のことになるとそうなるのがお前の悪い癖だ。まだ何度も行くことになるのだろう? 次はしっかり頼んだぞ」

 

何者にも替えがたい主席魔法使いだけに、だだ甘な裁定である。自分の師でもあるゆえだろう。

 

「申し訳ありませんな、陛下。それと進んだ研究等については門外不出ということになりました。契約により研究の成果の漏洩、及びそれによって帝国に利益をもたらすことは出来なくなりました」

 

「ふむ、まぁそうだろうな…予想の範囲内ではある。これまで通りに教導する分には問題ないのだろう? 主席魔法使いが格段に強くなるだけでも充分な成果だ。今のところは問題ないな」

 

なんの対価も無しに技術を提供してもらえるなどとは露ほども思っていないジルクニフ。むしろ考えていたパターンの中では充分過ぎるほどの成果だ。

 

「勢力そのものの情報も多少制限されると思っていたがな。余裕か、それとも…」

 

材料が少ないため推測もしづらい状況に難しい顔で唸るジルクニフ。ここまで感情を顕にするのもフールーダの前だからこそといえるだろう。

 

「これは私見になりますが…そこまで警戒をする必要はないと思いますぞ。少なくともトップのアインズ殿は外見がアンデッドでなければ人間としか思えない程に、感性を同じくしていました」

 

フールーダはアインズと初めて対面した時の紳士的な態度を思いだし自らの見解を話す。

 

「ほう? …ふむ、成る程。フールーダ、その実力や種族というファクターを抜いた状態で考えた時、アインズ殿はどういった人物だった?」

 

目の前の人物がそういったことを測るのが苦手としているのは知っているジルクニフだが、あえて問い掛ける。

 

「…ふぅむ。そういったことを測るのは不得手なのですが…あえて言うならば至って普通の人物といったところでしょうかな」

 

オーディンと馬鹿な掛け合いをしているところや自分から冗談を言うような場面も見ているフールーダはアインズをそう評価した。

 

「そうか。…オーディンの事を考えればそういうこともあるか…? いや、なんにしてももう少し時間を掛けるべきだな」

 

思考に沈むジルクニフを見て首を捻るフールーダ。彼は政治的なことや人間関係などのことになるとまったくのお手上げなのだ。

 

「次の研究会には手紙を持っていってくれ。もう少し様子を見たかったが、意外となんとかなるかもしれんな」

「了解しました陛下。先程も申し上げましたが、敵対しなければ問題は無いと思いますぞ」

「ああ、解っている」

 

ジルクニフの頭の中では幾つもの推測が矢継ぎ早に浮かんでいく。アインズに関して聞いた話の全てが演技の可能性もあれば―――例えば神の力を持っているだけの普通の人物といったものまでだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラァッ!」

 

女らしからぬ威勢のいい声が上がる。そしてその声が上がる度に血飛沫が舞い、村を襲う魔物達が数体まとめて死んでいく。

 

「ふぅ…これで22匹目。やっぱ異常じゃねえか?」

 

王都の西側にあるとある村。トブの森からは程々に離れているこの村は、今まで魔物などの被害は村としてごく普通の範疇に収まっていた。

しかし最近西から流れてきたとおぼしき魔物が村を頻繁に襲うようになり、王都へ助けを求めたのだ。

それはこの周辺の村も同様であり、森に何か異常が発生しているのではないかと村の人々は怯えていた。

 

しかし今はそんな要請に応えられる状況ではない王都は、出せる兵も限られている。そうなってくると当然冒険者の出番だ。犯罪が極端に減り、街道の野盗の数も少なくなったため仕事がなかった彼等はこれ幸いとばかりに依頼を受諾した。

 

しかし依頼というのはお金がかかるものであり、貧しい村は冒険者を雇うことも出来ず自分達で村を護ることを余儀無くされた。だがそんな不幸の中でも救いの糸というものはあるものだ。冒険者チーム「蒼の薔薇」の一人ガガーランはそんな村の現状を知るや否や、義憤にかられ単身王都を飛び出し、無償で助け回ろうとしていた。

 

それに慌てて追いかけたのがイビルアイだ。ラキュースなどは貴族としての事後処理などで王都を離れられず、ティナとティアはイビルアイがつくなら大丈夫だろうと見送った。

 

「確かに通常ではありえんな。森の方でなにか起こっているんだろう」

 

ここ最近は何かと厄介事が多いなと溜め息をつくイビルアイ。ラキュースが動けない内に休めると思いきや結局これだ。溜め息も仕方のないことだろう。

 

「うし、じゃあ森の方も調べてみるか」

「おいおい…」

 

イビルアイはろくに休憩もとらずに奔走しているガガーランに呆れながら、一旦休むぞと後方にある村で休ませてもらうことを提案する。

 

「しゃあねえな……ん?」

 

村に向かおうとしたガガーランだが、南の方から村に向かっている数人の人影を発見する。魔物ではなさそうだが商人といった風にも見えず、この貧しい村にわざわざ冒険者が来るといったこともまずないだろう。少々怪しさを感じたガガーランはその一団が村に入る前に引き留め、話を聞こうと走り始める。

 

「よう、この村になんのようだ? 見ての通りなんにもない村だぜ。冒険者って訳じゃねえんだろ?」

 

随分立派な装備に身を包んでいるものの、プレートを下げていないため冒険者ではないと判断したガガーラン。ならばワーカーかとも思ったがなんとなく自分の勘が違うと告げている。

 

「我々はこの辺りで探し物をしていまして。何かこの周辺でおかしな物やおかしな事があったかなど、ご存じないでしょうか?」

 

集団の中でも一番年若く見えるリーダーらしき者がガガーランの言葉に応える。

 

「探し物、ねぇ。どんなもんだ? それが解らないんじゃ教えようがねえだろ」

「少々複雑な事情がありましてね…。具体的なことは申し上げられないのです。それより貴女は―――」

 

しかし言葉の途中で追い付いてきたイビルアイに遮られる。

 

「私も気になるな、ガガーラン。この情勢の王国に見知らぬ強者が揃いも揃って何をする気だ?」

 

吸血鬼ならではの身体スペックで離れたところからでも話が聞こえていたイビルアイ。ガゼフやラキュースに何か怪しいことがあれば報告してほしいとも言われていたため、あからさまに怪しいこの集団がクーデターと何か関わりがあるのかと問い詰める。イビルアイクラスともなれば雰囲気でなんとなくは強いかどうかは解るのだ。

 

「ガガーラン…か。ふむ、なんとも間の悪い…」

 

音に聞こえたアダマンタイトの冒険者の名前が出たことで目の前の女性の素性に気が付いた男。しかし面倒だという雰囲気はあれど怯えなどは微塵も無い。まるで自分の方が強者である、という風にだ。

 

「で、どうなんだ? おとなしく事情を話すなら穏便に事を運ぶのも吝かじゃないが」

 

無言で俯いている男に強気に話しかけるイビルアイ。しかし返された言葉は挑発と受け取るのが当然といったものだった。

 

「今の貴女方は…イグノニックに水をかける寸前で止まっているに等しい。これ以上詮索はしないというならばこちらも穏便に済ませますが」

「なに?」

 

イビルアイはそのあまりにも強気な態度を訝しむ。自分達が蒼の薔薇だということは気付いた様子であるにも関わらずこの態度だ。ハッタリか、それとも本当にこちらを打倒する手立てがあるのか。

一月前の彼女ならハッタリだと切って捨てていたが、ナザリックの存在を知り上には上がいるのだと思い知らされたイビルアイは少し迷う。

 

「…お前達はこの国の者か?」

「…話せません」

「この国に何をしにきた?」

「探し物を」

「これからどこに向かう?」

「この周辺になにも無ければ、森に沿って探っていくことになるでしょう」

「この国に害を為すか?」

「受け取り方次第、でしょうか」

 

短い問答。嘘をついているかどうかはわからないが、最後の質問でイビルアイの腹は決まった。

 

「悪いがやはり見逃せないな。拘束させてもらう」

「…人類側の戦力を削りたくはないのですが、ね」

「ほざけ」

 

やれやれといった様子で槍を構える男。後ろの者達は動く様子がない。

 

「ドラァッ!」

 

イビルアイが下がりガガーランが前に出る。二人では陣形もなにも無いが、戦士と詠唱者の基本的なパターンだろう。前衛が抑えている内に高速で詠唱を始めるイビルアイだったが、それは悪手だった。

いや、悪手というならば敵対を選択したことがそもそもの間違いだったのだろう。

 

「がっ…!」

「ぐぅっ…!」

 

一瞬でガガーランが吹き飛ばされ、いつのまに距離を詰めたのかイビルアイの目の前に現れた男がそのまま槍で凪ぎ払う。そしてその衝撃でイビルアイの仮面が外れ、外套が捲れ上がった。

 

「…!」

 

そしてその瞬間に、男の雰囲気が変わる。

 

「まさか最高の冒険者チームと名高い蒼の薔薇のメンバーに吸血鬼が混じっているとは思いませんでした。殺す気はなかったのですが…」

 

人類を護るのが吸血鬼など、あってはならぬと初めて殺気を滲ませる。

 

「くっ…! 最近は本当にどうなっているんだろうな!」

 

気絶したガガーランを掴んで離脱をはかるイビルアイだが、それを許される筈もなくあっけなく脚を貫かれ地面に転がる。後退り、迫り来る男を見詰めるイビルアイ。

 

「…ガガーランは見逃してくれないか?」

「悪いが、もう遅い」

 

せめて仲間だけはと一縷の望みにすがるが、一言で断ち切られる。

槍の穂先が眼前に迫り死を覚悟するイビルアイ。思えば長いようで短い人生だったと走馬灯が駆け巡る。望まず吸血鬼になり、たった一人で孤独を彷徨う日々。蒼の薔薇に入ってからの悪くない日々。色々とあったが最期はあっけないものだと目を閉じて死を待った。

 

「……?」

 

だがいつまで経っても訪れない最期に、そっと目を開いて何が起きているのか確認するイビルアイ。そして目に入ったものは―――

 

「状況はよく解りませんが…一度ナザリックに招待した方をみすみす死なせることは出来ませんね」

 

三つ揃えのスーツに黒髪をオールバックにした、丸眼鏡をきらりと輝かせる悪魔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アインズに休暇を言い渡されたデミウルゴス。しかしこれほど長い息抜きなどしたこともない彼はナザリックの外に出た後、行き先も決めず気儘に空を飛んでいた。

 

「考え無しに行動してみるというのも中々興味深いですね。…しかし無闇に姿を見せる訳にもいかないというのは少々面倒ではあります」

 

自分の姿を考えると人の居るところには行けば騒ぎになるのは想像出来るため、降下する場所も考える必要があるのだ。

 

しかし上空から俯瞰してみると魔物と戦う冒険者をちらほらと見掛ける。とるに足らない弱者がちまちまと戦っている光景を見て、中々に滑稽だと嘲笑うデミウルゴス。たまに食い殺されている人間の悲劇などはいい暇潰しだと新しい楽しみを発掘していく。

 

「おや、あちらは人間同士の戦いでしょうか? なんとも愚かで、滑稽で―――」

 

愛おしい。と口の端を歪ませながらその観劇をよく見ようと近付いていくデミウルゴス。しかし近付くにつれ両者とも知った顔だと気付く。

 

「あれは…?」

 

ナザリックに招かれた客人と、招かれざる客人。冒険者チーム「蒼の薔薇」と法国の特殊部隊「漆黒聖典」だったかと記憶から情報を引っ張りだした。

 

「ふむ…どうしたものか」

 

思案している内に終わりが近付いている様子を見て仕方ない、と横槍を入れるべく急降下していくデミウルゴスであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…?」

 

呆けたように固まるイビルアイ。しかし命を散らす間際だったことを考えればそれも当然だろう。

 

「ホワァッ!?」

 

呆けたように固まる漆黒聖典隊長。しかし命を散らす間際であることを考えればそれも当然だろう。

 

「お久しぶりですね、お二方。ところで事情をお聞きしても?」

 

固まる空気を気にもとめずにこやかに問い掛けるデミウルゴス。だが、実のところその内心は油断も慢心もしていなかった。

自分は中~後衛型のスキル構成でありそもそも戦闘自体を得意としているわけではない。

 

対してデミウルゴスの目の前で地面に根をはったように動かない男は、フル装備な上に前衛型でバリバリの戦闘職。レベル差があるとはいえ万が一を考えると警戒には値するだろう。そう考えて取り敢えず状況を把握しようと至極優しげに問い掛けたのだ。

 

―――だが笑顔は元来攻撃的なものであるとは誰が言ったか、デミウルゴスの悪魔顔は笑うと怖い。そこに他意はなかったが漆黒聖典の者達を恐怖に陥れるには充分だった。

 

「ナ、ナザリック地下大墳墓の所縁の方とは知らず、も、申し訳ありません! 何卒ご容赦を…!」

 

全員がひれ伏し全力で謝罪する集団。こんな辺境に近いところで数少ないアダマンタイトクラスの冒険者に出合い、あまつさえそれが絶対に敵対したくない勢力の所縁のものだった。そんな不幸すぎる事態に彼等は嘆くばかりである。

 

「謝罪は結構ですよ。それより事情を説明していただけますか?」

 

隊長は機嫌を損ねてはかなわないと、慌てて説明し始める。

 

「その、事情といいましても…前回こちらに出向いた理由と同じでして」

 

要はカタストロフ・ドラゴンロードについての探索である。巫女の次なる宣託を元に出向いたのだ。そしてその途中で運悪く蒼の薔薇と出くわし、素性を詮索されたので戦闘に移行した。そう説明する彼だが、吸血鬼死すべしと襲いかかったのは省いている。そんなことが知れた暁には命が危ないのは解りきっているからだ。

 

「成る程。…しかしこちらの方達はアインズ様の知人。私の目の前で害そうとするならば―――」

「は、はっ、いえ、そのようなことは微塵も考えていません。では、我らはこれにて」

 

そそくさと、もと来た方へ逃げていく漆黒聖典。まるで漆黒のゴキブリのようである。

 

「大丈夫でしたか? 見たところ怪我は無いようですが」

 

なんとも、らしからぬ事をしたものだと自分自身に驚くデミウルゴス。まぁナザリックの者ではないとはいえ人間ではなく吸血鬼であり、シャルティアとも少し仲良くなっていたからだろうと納得する。

 

「あ…は、はい…」

 

脅威は去ったというのにいまだ呆けているイビルアイに疑問を覚えつつも、そろそろ帰ろうかと思案するデミウルゴス。しかしその前にガガーランが目覚め、固まるイビルアイとその前に居るデミウルゴスを見て目を丸くする。

 

だが既に危険は無さそうだとほっとしたところで、打ち付けられた頭の傷をさすり顔を歪める。

 

「―――っ痛ぅ~。最近負け癖ついてねぇか俺達。…で、そっちの旦那が助けてくれたのかい?」

 

状況的にそれしか考えられないだろうが一応問い掛けるガガーラン。デミウルゴスから是という返事が返り、深く頭を下げて感謝を示す。

そしてイビルアイに視線を移したところで、やっと彼女が一言も喋らない理由を察した。デミウルゴスに視線を向け、頬を染めるその様は完全無欠に乙女モードである。

 

「あー…」

 

どんだけ厄介な奴に惚れるんだと呆れるガガーラン。だが強さ的にも寿命的にもありと言えばありなのかと納得する。そうとなれば自分は応援するだけだと、話しかけられずにいるイビルアイに代わって一緒に話でも出来る口実を探り始めた。

 

「なにか礼でもさせてもらえねえか? それとも何か仕事の途中だったりするか?」

「感謝ならアインズ様になさればよろしい。私は貴女方が主の知り合いだからこそお助けしたまで」

 

ついでに今は長めの休暇中です、と続けるデミウルゴス。ガガーランは異形種だらけのいかにも恐怖の組織然としたナザリックで休暇なんてあるのかと驚いた。

そしてデミウルゴスと話す隙をもじもじと窺っていたイビルアイは休暇中という言葉を聞いて攻勢に出る。

 

「あっ、あの! 休暇中なら…その…」

 

しかし誘い文句は幾つも思い浮かぶのに、口からは出ていかない。数百年を生きる吸血鬼も恋愛に関しては形無しである。

 

「わ……な、長い休暇を出すなんて、すごく思い遣りのある方だなぁ…」

 

挙げ句の果てには明後日の方向へ話を繋げてしまう体たらくだ。しかしこの場合は最高の攻めどころだろう。

 

「その通りです!」

「ひゃっ!?」

 

ずずいと顔を近付けアインズの優しさと偉大さと慈悲深さなどを語り始めるデミウルゴス。それを見てここだ、と判断したガガーランはもう一度取っ掛かりを作ろうと話しかける。

 

「なぁ、イビルアイももっと話を聞きたいみたいだしよかったら少しだけ一緒に行動しねえか? 俺達はこれから南下して村を回って行くんだ。終着点がカルネ村だからナザリックも近いし」

 

少しだけ考える素振りを見せた後、暇をもて余していたので丁度いいですねと提案を受け入れるデミウルゴス。

 

 

 

 

 

アウラも、シャルティアも、アルベドも―――そしてデミウルゴスだって、少しずつ変化している。それはナザリックにとって良い変化なのか悪い変化なのかは、今は誰にも判らない。

だがアインズが彼等の変化を見たならば、笑いながらきっと前者だと断言するだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オデンキングとアインズの魔法講座 3

 

 

 

 

 

コンコン、と扉がノックされる。さして広くもない部屋でアインズとオデンキング、それにフールーダが3人並んで座っていた。

 

「お入りください」

 

アインズが扉の外の人物に声を掛け中に入るように促す。

 

「し、失礼致します」

 

挙動不審に入ってきた禿げ頭の男の名はカジットと言い、ナザリックの情報源の一つである。キョロキョロとしている彼にどうぞお掛けくださいとオデンキングがすすめる。少し笑いを堪えている風なのはみまちがいではないだろう。

 

「では始めましょうか…ベジットさん」

「カジットです」

「失礼、カジットさん。えー、まずは軽く自己紹介を…あと経歴と使える魔法をお願いします」

 

カジットはそれに応え自分の目的である母の復活や、元は法国で信仰系統の魔法を学んでいたがそれでは目的を達することは出来ないと見切りをつけたことなどを赤裸々に語る。

 

「成る程。つまり最終的には蘇生魔法の極みに達することが目標というわけで、アンデッドになることはその一環だと」

「はい」

 

カジットの生きる理由を聞いてひそひそと密談するアインズとオデンキング。

 

「(意外と理由が重いんですが)」

「(人に歴史ありと言いますし、本人が望んでいるのならいいのでは?)」

「(うーん、まぁ、そうですかね…)」

 

彼等が何を目論んでいるか、それはずばり人体実験である。ある程度のレベルに達した人物が種族を変更した時の変化や、レベルを上げる際に指向性を持たせる事が出来るかなど、色々と試したいことがあるのだ。

 

しかしまさに悪の所業といった実験に難色を示したオデンキング。それならばとアインズは人外になりたいと望んでいる人ならいいんじゃないかとある人物を思い出した。

取り引きをした時にその目的はアンデッドになることだったと聞いていたカジットである。連絡を取って提案したところ、それに一も二もなく飛び付いたカジット。

 

多少のリスクはあると説明されたものの自力でエルダー・リッチを目指すよりかは遥かに現実味があると快諾したのだ。

 

「希望はエルダー・リッチと聞いていますがそれでよろしいですか? 何なら吸血鬼やゾンビ、特殊なところだと竜種も出来なくはありませんが」

「い、いえそのままで大丈夫です」

「解りました…では早速実験に移りましょうか」

 

そう言って立ち上がる3人。お茶目で面接風にしたのはいいものの特に意味もなかったようだ。

 

「(なんか罪悪感がちくちくと…)」

「(考えすぎじゃないですか? winwinの関係なんですからもっと気楽に考えましょう)」

「(うむ、研究に犠牲は付き物ですな)」

「(犠牲前提はやめましょう!?)」

 

ひそひそと会話している3人を見て非常に不安にかられるカジットであった。




一応チートオリ主ものですから。美少女が襲われているところに都合よく出くわして颯爽と救ったら惚れられた、そんな展開もあって当然。


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