オーバーロード 四方山話《完結》   作:ラゼ

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結婚式の次の日です。ギルメンになったオデンキングへの、それぞれの反応を書いてみました。


その後

ナザリック地下大墳墓が誇る美しき戦闘メイド集団、その名はプレアデス。一人一人が傾国の美女とも言えるほどの容姿を持ち、そして戦闘においても転移した世界でならばトップクラスの実力を持っている。

そんなプレアデス聖団に所属する内の一人、ナーベラル・ガンマは激しく後悔していた。

 

「どうしよう…どうすれば…」

 

何故彼女がこのように陰鬱な気配を漂わせているか、それは前日の結婚式において敬愛している主の友人に非常に無礼な口を聞いてしまったからだ。

確かに普段から少し思うところはあったものの、正面切って言うほどに嫌っていたわけでもない。それなのに何故か昨日は酷い愚痴をくどくどと溢してしまったのだ。

 

「謝れば…赦して頂けるかしら」

 

どちらかというとオデンキングに許してもらえないことでアインズの耳に入る可能性があることに怯えているナーベラル。またもや失望されるやも知れぬとなれば焦燥が彼女を包むのは当然だった。

 

「ソリュシャンはすぐ謝って赦してもらったって言っていたし、大丈夫よね」

 

ナーベラルよりよっぽど無礼な行いをしたソリュシャンはさっさと謝罪して赦しをもらっていた。普段から割と仲が良かったというのもあるが、やはり性格の違いが大きいのだろう。ナーベラルはうじうじ悩む性格なのだ。

 

「…ふぅ」

 

よし行くかと自分に喝を入れて客室へ向かうナーベラル。なんだかんだでオデンキングが甘いことを知っているため、大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓が誇る至高の41人、その末席に加わり42人目の支配者となったオデンキング。彼は今、非常に悩んでいた。

 

「耐性が低下するのは怖いし…やっぱこっちかな」

 

悩みの元、それはアインズに貰った指輪リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンをどの指に嵌めるかである。

もちろん左手の薬指がどうのではなく、8個までしか付けられない指輪のどれを外すかだ。

それぞれがそれなりの性能を持ち、ステータスを増強するものや耐性を高めるものがあるのだ。どれを外すか悩むのも仕方の無いことだろう。

 

ギルメンの証をわざわざ貰ったからには嵌めておくのが義理人情、それにナザリックに居るならばこれほど便利なものもないだろう。そう考えたオデンキングは遂に外す指輪を決めてつけ直す。

 

「よしっと…ん? はい、どうぞ」

 

ノックの音が響きナーベラルの声が聞こえてきたため入室を許可して、ベッドの上でだらけていた姿勢を正す。

 

「失礼いた…し…っ!?」

 

固まるナーベラル。それは寝起きで髪が崩れているオデンキングを見たから…ではなく、少しはだけている服装を見たから、でもない。

オデンキングがナザリック地下大墳墓の支配者たる気配を発していたからだ。

 

ナザリックに所属するNPCには主のことを間違わないよう、どんな姿を取ろうとも判るように主の気配を感じ取れる能力がある。それが告げているのだ。目の前の男は自分の主であると。

 

「え……あ、え? オ、オーディン様…?」

「そうだけど…どうしたのナーベラルちゃん」

「あ、あの…」

 

口をパクパクとさせて驚愕するナーベラル。もはや彼女には何がなんだか解らない。部屋と廊下の境で固まったまま立ち竦むことしか出来なかった。

そしてそんなナーベラルに、オデンキングに朝食の用意が出来たことを告げにきたルプスレギナが後ろから声を掛ける。

 

「何してるっすか? ナーちゃん。そんなところで…」

「あ、ル、ルプー。その、あの」

 

戸惑うナーベラルに不審なものを感じながらひょいと部屋に顔を覗かせるルプスレギナ。

 

「オーディン様ー。朝食の用意が出来たっ…す…」

 

当然ルプスレギナも気付かない訳はない。だがナーベラルと違って楽観的かつ堅苦しくないのがルプスレギナの長所であり短所だ。すぐにどういうことなのかを察して元に戻った。

 

「オーディン様におきましては至高の御方となられたこと、心よりお祝い申し上げます…っす」

 

なんちゃって。と最後に冗談まじりにいつもの口調に戻る。何を隠そうプレアデスで一番オーディンと仲が良いのは実はルプスレギナなのだ。単に敬語を使わなくてもいいからかもしれないが。

 

「あれ、もう知ってるんだ? 後で驚かそうと思ってたのに」

「ギルドに所属したなら、みんなすぐ解るっすよー」

 

そうなんだ、と納得したオデンキングだが依然固まったままのナーベラルを見ていったいなんなんだと近付いていく。

 

「おーい、ナーベラルちゃん。ほんとにどうしたの?」

 

近付いてきたオデンキングに対してガクガクと体を震わせ、ナーベラルが発した言葉は。

 

「あ、う。し……!」

「し?」

「死んでお詫びを!!」

「ちょっ!?」

「ナーちゃん!?」

 

切腹致す! と、どこからか取り出した脇差しで腹を切ろうとするナーベラル。ちなみに彼女は腹を切った程度で死にはしない。

 

「止めないでルプー!」

「ナーちゃん、こっちの武器の方が攻撃力高いっすよ!」

「うぉいっ!?」

 

腹黒人狼メイド、ここにあり。そしてすったもんだの末に何とか止めることに成功したオデンキング。また衝動的に死のうとされるのは堪らないと、両腕を自分の両手で掴み事情を尋ねる。

 

「至高の御方に危害を加えかけ、あまつさえ暴言の数々で御耳を汚してしまった罪は命で償うしか…」

「懐かしいな!? というか気にしてないから、死ぬの禁止! 命令です命令!」

 

そんなオデンキングの慈悲に涙を流しかけるナーベラル。昨日までの彼への認識とは120度くらい変わっているが、至高の御方ともなればこうなるのも仕方ないのである。

あまり好意を抱いていなかった人物が敬愛すべき主となり、優しく慈悲をかけてくれた。つまり不良が良いことをした理論だ。

 

しかし、更に場を混沌に落としこむ登場人物が現れた。

 

カラン、と銀のお盆を床に落とした音が廊下に響く。

 

「オーディン様…」

 

戻ってこないルプスレギナを心配してやってきたプレアデス姉妹の長姉、ユリ・アルファである。そして戦闘メイドの中でも一番に沈着冷静で聡明な彼女は、瞬時にこの状況を理解した。

 

支配者の気配を感じるオデンキング。両腕を掴まれて涙を流しかけているナーベラル。傍観しているルプスレギナ。先程廊下の角を曲がる前に聞こえた「命令」の声。

 

総合的に判断すれば答えは一つしかないとユリは考えた。

 

即ち支配者となったオデンキングがナーベラルを無理矢理手込めにしようとし、ルプスレギナにそれを手伝わせようとしているということを。ならば彼女が、妹を大切にする優しい彼女が取る手段は一つしか無い。

 

「オーディン様、宜しければ私がご相手を務めさせていただきます。何卒二人にはご容赦を…」

「!?」

「!?」

「ぶふっ(笑)」

 

最後がルプスレギナなのは明白である。彼女は人狼故の鋭敏な聴覚でユリが近付いてきている事は知っていたが面白そうだと考え、あえて指摘はしなかったのだ。

 

「あ、あのユリさん。何か勘違いしてませんか?」

「そ、そうよユリ姉さん。オーディン様はただ、私に御慈悲を下さって…」

「そうっすよ。無理矢理なんてことはないっすよー」

 

見事な棒読みで誤解を助長させるルプスレギナ。もう一度言うと、彼女は腹黒である。

 

「オーディン様…」

 

慈悲を与える。つまり命の精をおそそぎ申すとでも言っているのかと、ユリ視点では無理をしているようにしか見えないナーベラルを救うため、彼女は行動に移す。

 

「ボ、ボク、一生懸命にい……きゃっ!」

 

素が出て僕っ娘口調になるユリ。無理に迫ろうとした結果、足が絡まりステンと転んでしまった。

彼女を創ったのはドジっ子教師のやまいこである。つまり彼女もそれを受け継いでいるからこそ、この勘違いとドジっぷりなのだ。

 

「ちょ、大丈……ぅおおっ!?」

 

転んだ衝撃で頭が外れてオデンキングの頭にユリの顔面がヒットした。彼女は首無し騎士であり、首に着けているチョーカーで頭を留めているだけなので意外と外れやすいのだ。

 

「オーディン様…」

 

鼻血を出しながらその頭を抱えて尚も迫る首無しメイド。ちょっとしたホラーである。首無し騎士が鼻血を出すかどうかは考えてはいけない。

 

「ひ、ひぃ…」

 

その迫力と光景に後ずさるオデンキング。首無しのアンデッドが人間を追いかけ回す。正統派なホラー映画の絵面だ。だが事実を考えればホラーの上にコミカルがついているのは間違いない。

 

そしてようやくその騒ぎに起き出してきたクレマンティーヌがその光景を見て首を傾げている。

 

「なにこれ…?」

 

鼻血まみれの首無しメイドが相方を追いかけ回し、ドッペルゲンガーはおろおろしながら見ているだけで、人狼がケラケラと笑っている。

 

控えめに言っても、意味不明な状況だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い説得と釈明の果てに、ユリの誤解を解くことが出来たオデンキング。少し疲労感を感じながら配下の者に挨拶回りに行く。アインズは皆を集めて大々的に告知しましょうと提案したのだが、それを拒否してそれぞれの元へ足を運ぶことを選ぶのが小心者であるオデンキングだ。

 

とはいえ新参で人間な自分が新たな支配者だとふんぞり返ると、いらぬ反感を買うかもしれないと思うのは仕方ないだろう。

ちゃっちゃと済ませるか、とオデンキングはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使用してそれぞれの元へ転移し始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Case1 シャルティア

 

「オーディン様! 遂に吸血鬼になる決心をしたでありんすね!」

「何でそうなる!?」

 

大丈夫、調整すれば下級吸血鬼ではなくもっと上位に! と迫るシャルティアを力の限り抑えつつ必死に拒否するオデンキング。

 

「先っちょ、先っちょだけでいいでありんすよ!」

「刺さる刺さる! ちょ、こらシャル…」

 

ギャーっという叫び声がナザリックに響き渡るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Case2 アウラとマーレ

 

「おめでとうございます!」

「お、おめでとうございます」

「やー、改めて言われると照れるというかなんというか…」

 

シャルティアとは違い素直に祝福してくれるダークエルフの姉弟。オデンキングの首筋に歯形がついているのは触れない辺りが優しさである。

 

「そうそうマーレちゃん、アインズさんがまたお風呂に入ろうって伝えといてだってさ。今度は俺も一緒させてもらうな?」

「はは、はい! 喜んで」

 

顔を赤く染めて嬉しがるマーレ。それを見たオデンキングは本当に男だよなと疑問に思いつつ、自分はノーマルなんだと言い聞かせる。

 

「あ、あの、私も…」

「えっ」

「えっ」

 

支配者になったオデンキングを見て恋する乙女モードが再発動したアウラ。恋に恋するお子さまエルフはミーハーで惚れっぽいのだ。

 

「え、えー…」

 

これが元で後にどたばた騒ぎに発展するのだが、それはまた別のお話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Case3 コキュートス

 

「オメデトウゴザイマス。我ガ忠誠ヲオ受ケトリ下サイ」

「んん、ありがとうコキュートス。まぁ別に今までとそんなに変わるわけでもないから、気楽に接してもらえるとありがたいかな」

「ハッ」

 

今までで一番平穏に終わりそうな予感にほっとするオデンキング。ついでにガガーランとの約束を思いだし、デミウルゴスと親しいコキュートスに恋愛について聞いてみる。

 

「デミウルゴスって恋愛とかどんな感じか知ってる? 実は想い人とか居たりしちゃったり」

「フム…ソウイエバコノ前魅力的ナ女性ニ出会ッタト言ッテイマシタ」

「おお!」

「ナンデモイママデデ最高ノ悲鳴ヲアゲタ犯罪者ダッタト」

「おお…」

 

今は既にスクロールの生産は中止しているため、王都で捕獲した時の犯罪者かな、と推測してげんなりするオデンキングであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Case4 デミウルゴス

 

コキュートスと同じように、デミウルゴスから祝福の言葉を受け取ったオデンキングは直球で聞いてみることにした。

 

「デミウルゴスって恋愛とかしないの? 吸血鬼とか金髪の美少女とかさ」

 

直球どころかデッドボールである。むしろアンデッドボールというべきか。

 

「…イビルアイ嬢のことでしょうか」

「え? あ、いやうん、そんな感じ」

 

何故バレたと本気で思っている辺り、シャルティアに噛まれた影響が出ているのかもしれない。

 

「確かに彼女は長い年月を生きているようですから、貴重な情報源となるかもしれません。…オーディン様がお考えの策、見事に成功させて御覧にいれましょう」

 

彼の二つ名は、深読みのデミウルゴスとかにするべきなのか。オデンキングはそう思った。

 

「あぁ…うん。お願い。いっぱいデートとかしてあげて…」

「はっ」

 

まぁこれはこれでいいかと投げっぱなしにするオデンキングであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Case5 アルベド

 

「あら、やっとそうなったのね」

 

自室を訊ねてきたオデンキングを見て、開口一番でそんなセリフを吐いたアルベド。

 

「あれ、やっとって…?」

「アインズ様の様子を見れば近い内にこうなることは解ってたもの。一応おめでとうと言うべきかしら」

 

なんだかんだでアインズをよく見ているアルベド。その有能さとあいまってバレバレだったようだ。

 

「ただし…!」

「っ!?」

 

息を感じる程に顔を近付け、瞳孔が開いた瞳で睨み付けてアルベドは宣言する。

 

「アインズ様をおいて死んだり、消えたりするようなことがあれば…その時は私が殺すわ」

 

狂気すら感じるその脅迫に、しかしオデンキングは怯まずに宣言仕返した。

 

「じゃあアルベドがアインズさんをおいて死んだり消えたりしたら―――」

 

シャルティアを次の妃に添えるから、とおどけて言い放つ。

 

「…絶対に死ねないわね」

「はは、同じく。死んでから殺されるのもこの世界じゃ無いとは言えないし」

 

笑いあい、空気が緩む。しかしそんな抱き合うほどに近付いている二人の所へ、アインズが非常にタイミングよく入ってきた。

 

「入るぞアルベド………浮気!?」

「えっ!?」

「えっ!?」

 

どたばたな日常は続いていくのであった。




外伝その1です。

新しくまどマギの小説も書いてるのでよかったらそっちもどうぞー(宣伝)

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