オーバーロード 四方山話《完結》   作:ラゼ

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本作はシリアスは一切含んでおりません。


漆黒の意思と嗤う骸骨

「あー…疲れた」

 

森の中で気だるそうに薬草を摘んでいる男が一人。

名前はオデンキング。

今は紆余曲折あってオーディン・キニングと名乗っている元〈ユグドラシル〉プレイヤーである。

 

廃人プレイヤーだったわけではないがカンストしたマジックキャスターであり、集めるのが難しいゴッズ級装備を全身に纏っていることからも上位プレイヤーだということが見てとれる。

 

つい先日ユグドラシルから訳もわからずこの異世界に転移してきたこの男が何故こんなことをしているかというと―――

 

 

 

「うーん、もう少しいい依頼とかないでしょうか…。難度40程度の敵ならば余裕を持って倒せるぐらいの実力はあるつもりなんですが」

銅クラスが受けられる依頼に難度の高い魔物の討伐等あるはずもなく、オデンキングはカウンターのギルド嬢に相談していた。

 

言葉は丁寧だが要はいちゃもんである。

確かに言っていることは間違ってはいない、難度40どころか本気を出せばその3倍の難度だって問題なく討伐出来るだろう。

しかし。

 

「本当に申し訳ございませんが、当ギルドの規則でございまして銅クラスの冒険者にはこちらの依頼のみしか受注することが出来ません」

 

ギルド嬢もわかってはいるのだ。

目の前にいるのはまず間違いなく凄腕のマジックキャスターであり、このギルドにある依頼なら難なくこなせるであろうことも。

しかし規則は規則である。

そうぽんぽん破っていては存在する意味がない。

 

「そうですか…では、この薬草採取の依頼をお願いします」

 

ようやく諦めたオデンキングはギルドを後にしてトブの大森林へ向けて出発したのであった。

 

 

 

 

「ホント今更だよなー…」

 

さっさと成り上がってちやほやされたいオデンキングにとって今の現状は不服そのものである。

 

挙げ句のはてに街に強大な悪魔がやってきてそれを倒したりすれば手っ取り早いんじゃないだろうかと不謹慎なことを考えだしていた。

 

 

ちなみにこの男、この異世界にきてからたった幾日も経っていないというのに既に少し性格が変わってきている。

 

この世界に来たばかりのオデンキングならば地道に薬草採取することに文句などなく、それどころかギルド嬢にいちゃもんをつけるなど考えもしなかったであろう。

 

何故変わってしまったのか、その答えはいたって単純明快である。

 

ギルドに限らず、街を歩けばその装備の威容に羨望と称賛、そして嫉妬の感情を隠すことなく向けられる。

 

裏路地で幅をきかせている犯罪者、表通りで肩で風をきって威風堂々と歩く冒険者、この街で何だって思い通りに出来るような権力者。

 

こいつらだって所詮自分が本気を出せば指一本で無力化出来るその事実。

 

そう、人は持った力が大きければ大きい程に自制心を保つのが難しくなる生き物だ。

 

それはオデンキングだって例外ではない、むしろ持っている力を考えれば自制できているといえるだろう。

 

だけどやっぱり人は弱いのだ。

もう転がりだした運命は止まらない。

堕ちてゆく精神に歯止めは効かず、非道な暴力を振るうことの暗い楽しみは宛ら麻薬のような依存性がある。

 

そのうちに男であった時の面影は消えて無くなるだろう。

 

一匹の、狂った獣が、怯える羊達の上で、ただ血に酔いしれるまで後―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな厨二心をくすぐるダークサイド★堕りヌシに、私はなりたい。…わけないな。少し現実逃避してた」

 

辺りには血の鉄臭さが漂い、事切れた小鬼の生々しさを強調している。

 

「うう…意外とグロい…」

 

薬草採取中に襲ってきたゴブリンに驚いてつい腕をおもいっきり振ったら首から上がロケットの如くポーンと飛んでいったの巻

 

「当然発射台の真ん前にいた俺は燃料まみれ、と。こんな大量の血、初めてみたわ」

 

ちなみにロケットは無事に発射台の近くに不時着した。

 

「なんかショックで変な電波受信してた気がする…。

うん、大丈夫大丈夫。俺はいたって健全なロリコンで、紳士で、大人の美女も好きで、ギルドにいちゃもんつけるような最低系オリ主でもない。うん。大丈夫大丈夫」

 

ちなみにギルドでの問答は真実である。

 

「ちょっとリアルな血をみて冷静になれたな。少し浮かれてたみたいだし、いい経験にはなった…のか? 謙虚にいこう謙虚に。「漆黒の剣」の皆さんを見習おう、うん」

 

耳を切り落としたあと薬草採取を再開する、ちょっと謙虚になったNEWオデンキング誕生の瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ナザリック地下大墳墓―――

〈ユグドラシル〉の中でもトップクラスの規模を誇るギルド「アインズ・ウール・ゴウン」の拠点、ナザリック地下大墳墓で一体の骸骨が不気味に笑っていた。

「いよいよ明日か…冒険者モモンとして活動するのは」

 

異形種が殆どを占めるこの「アインズ・ウール・ゴウン」でギルド長をつとめ、ギルドの名を冠した不死の王もまた―――

 

「やっぱり一旦馬鹿にされた後からの実力披露イベントで〈嘘…だろ…〉〈お、俺達は何て奴を馬鹿にしていたんだ…!!〉とかが一番いいよな…ウムム」

 

少し厨二病を患っていた。




この男の守備範囲は6~42です。

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