オーバーロード 四方山話《完結》   作:ラゼ

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下ネタという程ではありませんが事後的な描写があります。


こんなの絶対おかしいよ

オデンキングとクレマンティーヌがパーティを結成した翌日、夜も更けたころ「漆黒の剣」がエ・ランテルに帰還した。

 

 

「そういや叡者の額冠だっけ?  結局あれどうすんの?」

 

オデンキングがクレマンティーヌに問いかける。

 

「んー、もう騒ぎを起こす必要もないしー、目的の目処もたったからいらないんだけどー…」

 

オデンキングに会わなければスレイン法国の追っ手をかわすために必要な物だったが、庇護者を得て自身も明らかに成長した今では無用の長物である。

 

「それ返せば取り敢えず追っ手も緩むんじゃないのか?」

 

色気に引っ掛けられたオデンキングではあったが出来る限り面倒は避けたい。

 

「んー、どうだろ。そんな殊勝な連中でもないと思うけどなー」

 

数百万に一人の適正しか持たない巫女姫を使い物にならなくしたのだ。

 

国の面子を考えると追っ手がやむというのは考えづらいだろう。

 

「そっか…。あぁー…」

 

「そんだけ強かったら何も問題なんてないでしょー? 何でそんな悲観的になるの?」

 

この娘、割りと脳筋である。

 

「俺は可愛い女の子達と平穏に暮らすのが夢なんだよ。何が悲しくて国に追われる事態に足を突っ込まなきゃならんのだ」

 

まだ追っ手とやらは見掛けていないが時間の問題なのは間違いないだろう。

 

「…へー。今日の朝まで散々楽しんどいてそんなこと言うんだー。ふーん」

 

越えてはいけないラインを易々と飛び越えていく男。

それがオデンキングである。

 

「い、いや、まあ追っ手が来たらちゃんと守るさ、うん」

 

美人局より厄介なものに引っ掛けられた。

 

今のオデンキングの心情はそんな感じであるが、完全に自業自得だから仕方ない。

 

だが後悔はしていない。

 

据え膳を食わないなんてのは鈍感型の難聴系主人公だけでいいのだ。

 

美女に誘われたらついていくのは当たり前。

 

たとえそれが地雷だと知っていても男にはヤらねばならぬときがある。

 

 

 

取り敢えず大後悔しているのを自分自身に誤魔化すように脳内で理論武装していくオデンキングであった。

 

 

 

 

 

痴話喧嘩、ともいえないやり取りをした二人は気を取り直して夜の街へ呑みに繰り出していた。

 

「どこにするー?」

「遠くまで行くのも面倒だしギルドの近くの居酒屋でいいか?」

「はいはーい」

 

何気に仲良くなっている二人である。

 

「そういやさ、そのカジッちゃんとやらはほっといて大丈夫なのか?」

 

「さー? でも叡者の額冠が無かったら大したことも出来ないだろーし、ほっといていいんじゃないかなー?」

 

いかにも興味なさげに言葉を返すクレマンティーヌ。

 

まあ事実ではある。

 

急に姿を消したクレマンティーヌに対しカジットは、所詮は信用など出来ぬ小娘であったかと死の宝珠に負のエネルギーを注ぐ日常に戻った。

 

大方、ドジを踏んで風花聖典にでも捕まったのだろうとカジットは推測している。

ズーラーノーンには仲間意識など欠片もない。

あるのは利用し、利用される関係だけである。

 

 

 

 

 

 

ギルド近くの居酒屋に向かう道すがら、二人は酒が入る前から話を弾ませていた。

 

「で、そのバードマンが言い切ったんだ。「技術の発展は最初に軍事、次にエロと医療に使われるのだ。これはエロの偉大さを物語っている」ってさ。

感動したよ、まさにその通りだって。人間はもっとエロに対して敬意をはらうべきなんだ」

 

「へー。変態に種族は関係ないんだねー」

 

「いや、だから変態じゃないんだって。仮に変態だとしても、変態と言う名の……ん?」

 

「どしたのー?(変態と言う名の何なんだろ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギルド方面から伝説の魔獣に乗った男がオデンキング達に近づいていた。

 

その獣は伝説というだけはあり、目を引く程の巨体に力強い瞳、強者の雰囲気を纏った体で威風堂々と表通りをのし歩いている。

 

そしてその魔獣に跨がるのもまた並々ならぬ強さを感じさせる漆黒の騎士。

 

黒い輝きを放つその立派な鎧の背には巨大な剣が2本くくりつけられていた。

 

男の名はモモン。2日前に登録した冒険者でありながらトブの大森林の主を従えし、銅のプレートとは全く実力が釣り合っていない強者である。

 

 

新人でありながら凄腕の冒険者である二人が、今ついに邂逅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶふぉっwwwちょwwwハムwwwハムwww」

 

「っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険者モモン。真の名は栄光あるギルドと同じ名前である「アインズ・ウール・ゴウン」といい、ナザリック地下大墳墓の主であった。

 

〈ユグドラシル〉からギルドごと転移してきた彼は自我を持って主へと忠誠を捧げるNPC達に最初は驚いたが、戸惑いつつも手探りで彼等との接し方を模索していた。

 

そしてNPC達の狂信と言ってもいいほどの忠誠を理解した彼は、彼等に失望されないよう支配者のロールを取り繕うことに決めたのであった。

 

転移して数日、紆余曲折ありながらもこの世界の情報はそれなりに集まってきていた。

しかし問題が一つ。

NPC達の忠誠心が少し、いやかなり重いのだ。

 

一般人からいきなり天皇にでもなったかのように敬われ、傅かれ、謙られる。

 

この状況、あくまでも一般人(自称)であるアインズにとっては息苦しさを感じるのだ。

 

勿論忠誠を捧げられること自体は嬉しさを感じるし、かつての仲間達が作った設定が実際に動き出したことには感動を覚える。

 

しかし重い。具体的にいうと腰から美しい羽根を生やす美女からの愛が重い。

 

そんなこんなで少し息抜きでもしたいな、と思案したアインズは天啓とばかりに良策を閃いた。

 

情報収集のため冒険者としてこの世界を調査する。

 

そんなNPCに大反対を受ける策を、支配者ロールで若干ごり押ししたアインズ。

 

結局供を一人付けることを条件に折れたNPC達。

 

それが冒険者モモンの旅立ちの始まりであった。

 

 

 

それからは中々に楽しい日々が続く。

 

お互いを信頼しあっている仲の良いパーティ「漆黒の剣」。

 

アインズから見れば初心者だったかつての自分達を思い出して微笑ましさを感じる彼等との出逢い。

 

ゴブリンやオーガ達との戦闘、魔獣との邂逅。

 

拍子抜けするような部分も多々あったものの未知の世界を自らの足で踏破していくというのはやはり楽しかった。

 

たとえ「はじめてのおつかい」ばりに裏でお膳立てが整えられていてもだ。

 

そして初めての依頼を完遂しエ・ランテルに戻ってきたアインズは手懐けた魔獣―――ハムスケを自分が管理する魔獣だと登録するためにギルドで手続きをしていた。

 

「(しかしこの巨大なジャンガリアンハムスターが賢王だの伝説だの呼ばれていて、他人から見れば素晴らしい魔獣に見えるってのは正直慣れないよなあ…)」

 

「どうかされましたか? モモンさ―――ん」

 

供にとついてきたナザリックの戦闘メイドの一人、種族ドッペルゲンガーのナーベラル・ガンマが心配そうに問いかけてくる。

 

「む、いや、何も問題ないとも、ナーベ」

 

この美しいメイドも少し頭痛の種だったりする。

 

アインズに対しては最高の忠誠を見せるこのメイドも、こと人間と話す時には蔑みや見下しの感情を隠しきれていないのだ。

 

冒険者として活躍する予定のモモンにとってこれはいただけない。

 

だが人間社会に紛れこめる人材というのはナザリックでは驚く程に少ない。

 

「(そうだ、少し対人関係に不安のある新人が部下についたと思えばこれくらいなんてことないさ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギルド員に写生されているハムスケを見てアインズは軽く溜め息をついた。

 

自分の感性ではこの可愛い系のハムスターに騎乗して街を歩かせるなんて羞恥プレイ以外の何物でもないが、他人から見れば立派な魔獣に跨がる勇壮な戦士であるらしい。

 

登録も終わり「漆黒の剣」と合流するためギルドを出たアインズ一行。

 

「さ、殿。拙者の背にお乗りくだされ」

 

ハムスケが伏せながら申し出てくる。

 

「(やっぱりかー…)ああ」

 

こうなることは予想していたがやはり気が乗らない。

 

しかし横のナーベラルを見ても、当然だとばかりにアインズがハムスケに跨がるのを待っている。

 

部下の期待は裏切らない優しいアインズであった。

 

 

 

 

 

「(大丈夫だよな、実は馬鹿にされてたりしてないよな?)」

 

キョロキョロ辺りを見回しているのをバレないように慎重に周囲を確認するアインズ。

 

 

 

 

 

道の端にいる冒険者らしき男が感嘆の声を上げながらアインズを見上げる。

 

 

「(良し)」

 

 

家の窓からこちらを見つめる少女の、キラキラした目がアインズに突き刺さる。

 

 

「(良し良し)」

 

 

 

母親に手を繋がれた子供が凄い凄いと興奮した様子ではしゃいでいる。

 

 

 

「(良ーし良し良し。なんか自分でも格好いいような気がしてきた。フフフ、住民どもよもっとおどろくのだー)」

 

 

 

上等な装備に身を包んだ女と、その相方らしきこれまた素晴らしい装備をしたマジックキャスターであろう男が近づいてきた。

 

 

 

「(フハハハハハハハ、さあ驚愕し)」

 

 

 

 

「ぶふぉっwwwちょwwwハムwwwハムwww」

 

「っ!?」

 

 

 

アインズは一気に頭が冷えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

マジックキャスターらしき男がハムスケに跨がっている自分を見て吹き出したのを見たアインズは羞恥心が湧きあがる。

 

「(やっぱ恥ずかしいんじゃないかーーーー!!  黒歴史がまた増えたぁーーー………あぁ)」

 

緑光と共に上限突破した羞恥心が抑制された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前方から巨大なジャンガリアンハムスターに乗った男が近づいてきた。

 

何を言っているのかわからないと自分でも思うが事実である。

 

「ううんっ、ごほっごほっ…ぶふっ…ごほんっ!」

 

一目見て吹き出すなんて失礼すぎる。

 

そう思ったオデンキングは誤魔化すように咳き込む。

 

 

 

「モモン様、少々お待ち下さい。すぐにあの下等生物をぶち殺してまいりますので」

 

「へ?」

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今のナーベラルに理性はほとんど無かった。

目の前の男は我が主人を見て笑ったのだ。

至高の41人の内、ただ一人残って下さった慈悲深き御方を笑ったのだ。

それも下等生物の分際で。

許せない、許せない、許せない、許せない。

早く殺さなければ。

この男の生存は絶対に許されない。ありえない。

 

狂気とも言える激情がナーベラルを駆け巡り、その拳が男の顔を捉えようとした瞬間。

 

 

 

  ―――――――ガキンッ―――――――

 

 

 

鈍く輝くスティレットを突きだした女によってその拳の軌道を無理矢理変えられた。




1日で2つの地雷を踏んだ男。その名はオデンキング。

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