クオリアと世界の狭間で。   作:sorack

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出逢い

曇天模様の下、夏休みが始まる直前、一学期最後の授業。

 

授業とはいっても、常でさえ授業なんてやる気がない生徒が、テスト終わりな上に夏休み間近という今現在通常授業を実施したとしても、話し出すか、寝るかの二者択一を教員連中も見越しているのか、はたまた自分たちもテスト採点でしんどいのかは定かではないが、この時間は進路調査表に『進学』の二文字を書くだけの簡単なお仕事だ。

むしろ、このある程度な進学校である高校で進学と書かない生徒がいるのならば教えてほしいくらいだ。

暑いし眠いし早く帰りてーなと思いながら机に突っ伏す。

窓から吹きつけてくる風。

以前の席替えで窓際のさいこうほう(最後方と最高峰、奇跡のダブルミーニング)の席を引き当てた俺は、そんな風に存分に煽られる。

これが太陽爛々どっぴんかーんの時ならば、いざ知らず、こうも曇り空の日にジメジメした生暖かい風を運んでこられても迷惑なだけである。

梅雨はとっくに役目を終えたはずなのに湿気を含んだ温風はどうやら粉骨砕身、勤労に励むらしい。

俺の気分よろしく幾分かジメジメとした湿気と共に僅かに不快感を与えてくる。

手の中にある一枚の紙もそんな風に煽られる。

それに目を落とすと、配布され、すぐ記入した『進学』の二文字。

高校二年生という、この時期にしっかりと学部まで決めている奴は割りと少人数だからか、学部まで記す欄はない。

――別に、大学に行って、やりたいことがあるわけではない。

良い大学に行って幸せになりたいわけではないし、将来への安心として確かな約束が欲しいわけでもない。

そも、そんなことで将来が安泰だ、などと安易に考えるほど、頭が残念でもお花畑でもない。まあ、おそらく自分は大学卒業後は程々の企業で歯車の一部の社畜として日々を過ごすのだろうと、予想はあるけれど。

 

それで良いのかと言われれば案外悪くない気もするという一方で、夢を持ってそれに向かって突き進む格好の良い生き方というのも憧れるわけで。

じゃあなんで進学するんだと言われたら、多分、周りがそうするから、それが普通だから、なんとなく、楽だから、そんな答が口を衝いてでるのだろう。

 

やりたいことが全くないわけではない、むしろやってみたいことならいくらでもある。昔から好奇心は旺盛で効率が良い方だと自負している。

でもやりたいこととやってみたいことは違うし、正直、それをする労力や時間、金銭等々を考えると非常に面倒くさい。

それが怠惰や思考停止だというのは理解もしているし、自認しているところだ。

誰かに糾弾されたところで反論するつもりはない。

だからといって変わるつもりも今のところはないけれど。

まあ、あれだ、高校二年生の夏休みという時期だし、少しばかりは遊ぶのも悩むのも許されるだろう。

 

 

 

……そう思っていた時期が俺にもありました。

あれよあれよ、と月日は流れ、気がつけば夏休み終了という、学生どころか人生的にみても最大級長期休暇の最終日二時間オーバー。つまり午前二時。

しかもまさかの宿題真っ白状態。

気がついたのは、明日、いや日付線跨いでるから今日、久しぶりの登校のため学校に使ってた鞄を開いた、今さっきのことだ。 

見つけた時は流石に十秒近くフリーズした、思考回路が復活したのは正に今である。まさに青天の霹靂。いやある意味、僥倖と言えなくもなくもなくもない……?

そうだよ、今からやればいいんだよ、なんだ、良かった、やっぱ前日の時間割確認は大切だよね!

そんな感じに現実逃避しながらも視線を壁に掛けてある時計に向ける。

長針が指すのは真上、短針が指す示す数時は……

うん、知ってたよ、今もう午前二時ですもんね、朝に家出るのは……うん、徹夜しても、どう考えても間に合いません、本当にありがとうございました。

そう結論づけて、とりあえず先生に対する言い訳は起床後の自分に任せるとして、夢の世界へと旅立った。

 

※※※※※※※※※※※

 

スマホの目覚まし機能でアラーム音がけたたましく鳴り響く。

意識が覚醒した時、寝る寸前のことを思いだし、本気で休もうかと思案して十秒。だが、今日は始業式、初日から休んだら後でアイツがうるさいよな……それに生徒会あるだろうし、押し付けたら後で面倒だし行きますか。

そう思いアラームを止め布団という人類史上最強のダメ人間製造機から抜け出す。

まあ始業式だし、宿題は忘れましたでいけんだろ。後は誰かの転写すればいいし、問題は写してもいいという奴がいるかどうかなのだが……

そんなことをぼんやりと考えながらも、歯を磨き顔を洗いパンを焼いてる間に着替え、朝食を取り、家を出る。

両親は既に仕事に出ているのでいつも通り施錠を忘れるなかれ。

ちらとスマホで時間を確認すると、久しぶりの登校だからか、宿題が懸案事項となって気分が下がっているのか、時間配分がうまくいかず少しばかり遅れ気味。

いかん、せっかく布団からパージされたのに遅刻しちまう。

そう思い小走りで学校に向かう。

久しぶりの制服に暑苦しさを感じながらも、足を動かしていると、血の巡りがよくなってきたのか、心拍数が上昇していくと共に少し楽しくなってくる。汗も気にならなくなり、風切り音がどんどん鋭くなり、少しずつ加速していく。もっともっと速く、うぉぉぉぉぉ! 最高にハイってやつだぁぁぁぁぉぁ! そんな風に胸中で一人盛り上がっていると、いきなり横から軽い衝撃。

突然のことで転びそうになったものの、反射的に道路に手をつきなんとかセーフ。

「悪い、大丈夫……か……」

小走りとはいえ、速度が乗りかけていた時に、ぶつかったので相手も大丈夫かと思い、謝罪しながらも振り返り、確認すると、思わず言葉が途切れる。

唖然とするほどの美少女である。

肌は初雪のごとく白く、パッと見で分かるほどに吸い付くような決め細やかさ。

髪はセミロングでピョコピョコと縦横無尽に跳ねている、どうやら重力に逆らう元気な髪の毛のようだ。太陽光に照らされているからだろうか、少し明るい亜麻色にみえる。おそらく地毛なのだろうが、なにこれなんかキラキラしてる粒子がみえるよ?

輪郭はシャープで、それでいて尖った印象は受けない。むしろ、柔そうな肌で童顔な印象だ。年下だろうか。

唇は形がよく薄い、そのくせぷっくりとしていて保湿性が高そうで柔らかそうな桜色。

印象深いぱっちりとした大きな瞳は、今はぶつかったことに驚いているのか、真ん丸になっている。

まるで世界一の腕を持っている人形製作者が誇る、最高傑作かのような出来栄え。

俺がその大きな、そしてどこまでも綺麗で澄んでいる瞳に釘付けになっていると、どうやら相手の方が先に再起動したらしく

「す、すみません! 大丈夫ですか!? 本当にすみません!」

などと言いながらぶんぶんと、それはもうロックバンドのライブ中かのように頭を振りながら平謝り。

「いや、こっちこそごめん、急いででさ……って、もしかして、君……稲高の生徒?」

顔が可愛い上に声も可愛いから、すっかりそれに目がいかず、気がつかなかったが、よく見れば同じ高校の制服だった。

俺がそう問うと今度は急停止。

地面とにらめっこしながら活動停止をしてるから、どうかしたのかと思い覗き込もうと頭を下げると、

次の瞬間、

「はい! もしかしてっ!?っ!?」

急上昇してきた後頭部と音をたてて衝突した。

「いたっ!? 」

「いっつ!?」

お互い二度目の衝撃と痛みで悶えながらも、彼女の方がダメージが少ないらしく

「す、すみません、二度もぶつかってしまうなんて」

自分の後頭部を擦りながら、俺の鼻頭を心配そうな表情で見つめてくる彼女に、痛みを感じながらも少しどぎまぎする。

「だ、大丈夫大丈夫、俺丈夫だけが取り柄みたいなとこあるから!」

などと、痛みを我慢しつつ、少し無理しながら胸を張る。

すると、俺の鼻先からドロッとした熱を持った何かが伝う感覚。

それを見ていた、目の前の美少女は、あわあわと、自身のポケットまさぐると、ポケットティッシュを差し出す。

「ち、血出てます! これで拭いて、鼻に詰めといてください!」

「ん、あんがと」

可愛い女の子の前で鼻にティッシュを詰めている姿なんていう、痴態を晒すのは如何なものかと思わないでもないが、これだけお互いに間抜けなところを見てしまったので、なんともない。何よりこの子ならばそんなことで人に対する好悪に変化があるとは思えない。完全なる勘だが。

鼻血が出ているということは、どうやら俺の鼻先に彼女の後頭部がジャストミートした衝撃で、鼻内の毛細血管が切れて血が溢れてきたらしい。

 

とりあえず、差し出されたポケットティッシュを受け取り、それを鼻に詰めると血は止まり、話を戻そうと思い

「そういや、結局、稲高の子なんだっけ?」

「はい! そうなんです! あなたも稲瀬高校の生徒なんですよね!?」

何がそんなに嬉しいのか、ここから少し距離があるとはいえ、ここなら十分徒歩圏内なのだから同じ高校の生徒に会っても別に普通なはずなのだが、ぴょんぴょん跳ねている。可愛い。

あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~

あまりのハイテンションと可愛さにつられサムズアップで応えてしまう。

「おう!」

「実はですね!」

そのままのテンションで説明を始める彼女。顔の作りも、さることながら表情がコロコロと変わり見ていて飽きない、これぞ百面相。声も表情も体の動きもかなり忙しい子である。

 

そうして説明を聞き終えると、なるほど彼女が何故あんなにダッシュで、こんな朝っぱらから駆けずり回っていたのか分かる。そして同時に確実にその目的は達成されないことを悟った。

どうやら、この謎の美少女改め、結城海帆――なんと同学年だった――は、

俺――一条翔太も通う、稲星高校に転入してきたらしい。

そして始業式である今日は、本来ならば少し早めに登校して、学校に着いている必要があったのだが、まさかの寝坊。髪の毛が元気なのも納得である。

よってダッシュを決行、遅れた分を取り返そうとしたようなのだが、結果は俺とぶつかって、すってんころりんした上、こんな茶番劇じみたことを行っていたせいで、既にタイムオーバー、ゲームセットといったところだ。俺とぶつからなくても、間に合わなかっただろうけれど。

「あ~……悪いことしたな、ごめん」

それでも何故か決まりが悪く、頭をガシガシ掻きながら謝罪。

「いえ、こっちこそすみません、私が走っていたのが悪かったんです」

「いや俺もギリギリだったから走ってし」

「じゃあお互い様ということで!」

にっこり微笑みながらそう言われ、思わず見とれそうになりながらもなんとか自己セーブして一言返す。

「そうだな」

ニヤニヤしそうな自分の顔を無表情にするのは難しいので、努めて笑顔に保つ。

「ところで、もう間に合わないけど、どうする?」

「う~ん、そうですね……」

結城はほっそりとした指を一本立て、自身のこめかみに持っていき、思案中。

そんな姿も実に可愛い、目の保養をしていると、何か思い付いたのか。

「どうせだから、この街を案内していただけませんか?そうしながら少ゆっくり登校しましょう!」

俺が聞いたのは、先生にどう言い訳するかについて問うたつもりだったのだが、どうやら結城は違ったらしい。

それに子供が悪戯をするような笑顔で言われたら、俺に選択権などあるわけがない。なんなら、壺とか絵画とか宝石とか買っちゃう、まあ財布に800円しか入ってないけど。

「そうだな、どっちにしろ遅れるだろうし、それなら後から街を探索する分を空いてる今に当てた方がいいしな、急がば回れともいうし」

「いや、意味わかんないですよ」

我ながら意味不明なことを口走り、結城がクスクスと微笑む。

いや、違うんだって。

俺ってばある程度、端正な顔立ちで悪くないって言われるのに、自分の顔に自信がないし彼女だって、年齢=彼女いない歴という昨今の高校生にしたら、どうなんだっていうぐらいのレアでスペシャルで稀少な奴だから、緊張して、話さなきゃ! ってなるんだよ……いや、告白されたことはあるんですけどね?いや、本当だって、まあ小学生に何度かと中一の時に一回だけなんですけどね、ええ……

「じゃあ行くか、海帆」

精一杯の勇気を出して、名前呼び。

最初から年下だと決めつけて敬語を使っていなかったから出来たことである。

流石に手を差し出すことは出来ないけれど、俺にしたら十分いっぱいいっぱいだ。

「はい!」

ニコっと微笑む顔は最高に可愛い。

彼女の周囲にだけ、そういう結界が張られているかのようだ。むしろ彼女がその雰囲気を無意識に放出しているのだろうか。

二人で肩を並べて、ゆっくり歩き始める。

先程までは暑苦しく思っていた太陽も制服も全く気にならない。

可愛い女の子との出逢いで、ここまで変わるとは我ながら現金な奴である。

それでも前向きになれるのは良いことだと思う、プラス思考って便利な言葉。

それからゆっくりと海帆に街の案内をしながら、学校に続く道を進む。

オススメの店、そこの道は近道だとか、あちらのスーパーは何が安いだとか、ここは知り合いの友達の本屋なんだとか、オススメのポイントがあるから今度連れて行く約束をしたりとか、まあ、他にも他愛もない色々な話をしながらも、どんどん学校に近づく、二人きりの時間が終わるのが寂しくて、口を動かして、わざと少し遠回りをして案内しながらも、歩を進める。

海帆も大げさに体や表情や声を喜怒哀楽に変化させ、普通の人からしたら、俺の振り回すと言っても過言ではない、テンションについてきてくれる。

そうしている間に俺も寂寥感など忘れていた。

ただ楽しい、可愛い、などという淡い想いが胸中を染めている。

驚いた顔も悪戯好きなような笑顔も考え事をしている時の仏頂面もふとした拍子に溢す微笑みも、最高に可愛い。

己の顔も海帆の顔も、変なハイテンションのせいでか、はたまた俺は照れも手伝ってか、血行が促進されたおかげで頬が朱に染まっている。

 

 

そうした、ハイテンションのまま、いつの間にか学校に到着していた。

海帆は職員室に行くべきなのだろうが、担任もクラスメイトも教室にいるだろうから、という理由で、俺たちの教室に行く。

ちなみに始業式の時だけ使用される、デカイ掲示板で全学年全クラスのクラス名簿を貼り出されているのを確認してところ、俺の名前はもちろん、海帆の名前もしっかりと入っていた。どうやら我が校の教員連中は意外にも仕事が早いらしい。

そして、同じクラスということで、ただでさえハイテンションだった二人がさらに上がり、もう空でも翔べそうな程に上がりきった俺たちは――特に俺 ――二段飛ばしで階段を駆け上がり、自分達の教室を発見、手を掛けようとした、次の瞬間、ドアが開き中から一人の女教師が出てくる。

とても見知った顔であり、俺の去年の担任。

突然開いたドアに目を白黒している俺たちの前で、その人は満面の笑みで青筋を立てるという器用な表情を浮かべている。

あ、これアカンやつや……

ハイを突き破り、天元突発していた俺のテンションは冷水をぶっかけられたかのように、ローさえ下回り今やニヴルヘイムといったところ、それとは反比例するかのように思考の回転速度が上がっていく、コンマ二秒でどう足掻いても、終わったと悟った俺は素直に頭を下げたのだった。

 

俺自身忘れていた宿題のことで、さらに怒られ、罰を与えられたのは想像に難くない。




とあるCMを見て、それに感動して感化されて、衝動で人生初めて書いた物語。……物語?
つまり何が言いたいかといえば、甘口で見てくれとかではなく、書き溜めもなければ、プロットも設定もなし、ということ。
それでも続きを望んでくれる人が一人でもいれば、亀更新でも書き連ねて、主人公と共に走り続ける覚悟です。

感想くれてもええねんで?
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