休日なんてあっという間だというのに平日の長いこと長いこと。
まだ昼休みだなんて時間の概念が歪んでいるのではないかと疑うほどである。
授業中とかヤバイだろ、教員の連中は絶対ザ・ワールド使える。
カズと二人向かい合って飯を食い、どうでもいい会話をしたりお互い読書したりスマホいじったり。
日常のテンポである。
「そういやさ、今日生徒会あるんだっけ?」
カズは本から顔を上げずに問いかけてくる。
「知らん、俺に聞くな」
「じゃあ誰に聞けばいいんだよ」
「誰ってそりゃ会長だろ」
「俺会長苦手だから翔太が聞いてきてくんろ」
「俺だって苦手だ、というかあの人のこと苦手じゃない人はほとんどいないだろ」
「まあな~成績優秀、容姿端麗、運動神経抜群、家柄良くて人柄もいいとかもうそれどこの二次元キャラだよ」
カズが思わず、うへ~と呻いている。
「まあそれくらいのハイスペックだからこそ三年にもなって生徒会長なんかになれるんだろうけどな、悪いのは根性と意地だけってね」
「俺らは三年になって生徒会とかやったら留年コース直行だもんな」
普段世話になっている会長に妬み嫉みが多分に含まれた軽口を叩いていると、
「あんたたち会長にチクるわよ」
同クラスで同じ生徒会役員でもある石川が注意してくる。
「別にいいぜ、どうせあの人はこのくらい気にしないだろ」
「だな」
「どっちの方が根性も意地も悪いんだか」
頭痛でもするのか額に手を当てている。
呆れられてるってわかってますよ。
「んで、なんの用事だ?」
何の用なのかを問う。
俺たちは仲良いとはいえ、男子と女子。
常に一緒にいるわけじゃない。
別に同性だからって常に一緒にいるわけではないが。
基本的に生徒会の活動時以外で話しかけてくる場合は用事がある時の方が多い。
だから訊いたのだが、石川は目を細め器用にも口をヘの字にしてから開く。
「なによ、用事がなくちゃ話しかけちゃいけないの?」
「いや、そういうわけじゃなくて……」
その整った顔で凄まれると大変に怖い。美人であればあるほど怒った時の表情は圧力が伴う。
人によってはご褒美なんだろうが、生憎俺にその趣味はない。
両手を上げ降参の意を表す。
ヘルプ! とアイコンタクトでカズに救難信号を出すも肩を竦めながら「やれやれこれだからこいつは」とかなんとか言いながらしっかり無視。
すると石川は、はぁ~と切り替えるように大きく嘆息すると再度口を開く。
「まあ大した用じゃないんだけどね海帆が言っていた、文化祭でやりたいことってなんなのかな~と思ってね」
「んなもん俺たちが知ってるわけが……なくもないか」
一度言葉を区切りニヤニヤと随分と腹が立つ顔を向けてくるカズ。
「んで実際なにやんだよ、嫁さんから聞いてんだろ?」
どうやらこの二人、俺が友恵から先になにかしら聞かされていたというのは何故か共通認識のようだ。
確かに少し聞かされていたし間違ってはいないのだがこのまますんなり認めるのもなんだ、というか誰が誰の嫁だ。
「俺だって知らねえよ」
「照れなくていいって、あんだけ見せつけてくれてるんだ、そろそろ認めてもいいだろ」
そういってカズは口の端を持ち上げる。
「何をだよ、つーか本当に何やるかはしらん、あいつがなんかやりたいことがあるから手伝ってくれっていってきただけだ」
文化祭に何をするかの詳細は知らされていないが、大方こいつらに反対されるだろうから俺に説得するのを手伝ってほしかったんだろう。
まあ実際は友恵一人でやる気MAX、とまではいかないまでもほどほどにまではさせてしまったのだが。俺情けない。
文化祭で何かする、という提案に少なからず俺はワクワクしている。
何せ知り合いだったこいつらと友達になった切っ掛けが体育祭の準備なのだ、あの盛り上がりにくい体育祭でさえ盛り上がったメンバーで、しかも今度は自己紹介から始めなければならないわけでもなく、一緒に何かを作り上げるという指針が初めから決まっているのだ。
楽しみでないわけがない。
「なーんだつまんねーな~せっかくやる気になったってのに」
カズはその言葉とは裏腹に明らかに楽しみにしている。
いや普通に受け取っても楽しみにしてるか。
「早く決めなきゃ時間ないっていってるのに」
石川もカズと同様、期待やワクワクといった感情が大きそうだ。
だが、それとは別に憂慮しているのも本心だろう。
石川が朝に集合した折りにいっていた通り、俺たちに時間的余裕はそれほど残されていない。
今から一ヶ月と少しで何するかを決定し準備して練習して、納得のいく形にまで持っていこうとするのならば、かなりハイペースにならざるを得ない。
そしてこのメンバーならそこまでやろうとするだろう。
幸いといっていいのかどうか、友恵はやりたいことがあるらしいので、それに期待だが……。あいつのことだ、決して楽なことではあるまい。
さらにそれは自分達がやりたくてやるのだ、生徒会を仕事を疎かにしてよい理由にはならない。
むしろ、自分達が好きなことに時間を使う分、今までより規律を守り教師たちも納得するレベルに行わなければならない。
……なんか大丈夫かな、凄い不安になってきたんですが……
とんとん、といきなり肩を叩かれる。
反射的に振り返ると、頬っぺたに何かが突き刺さった。
「なんの話してるんですか?」
目の前に女神の顔。
いやよくみると海帆だ。
自分の頬に人差し指が突き刺さっているのも忘れ、たっぷり見とれること五秒弱。
「おいおい、海帆ちゅあんがいくら可愛いからってガン見はマナー違反だぜ、翔太君よ」
俺の肩を掴み口の端を持ち上げながらのカズの軽口にはっとする。
「違うっつーのあれだ、びっくりしただけだ」
肩に置かれた手を払い、なんとかそう言い返しながら顔を背けると、視界の隅に海帆の顔が入る。
「か、可愛いって……」
などと赤みが挿した顔を両手で覆いながら口ごもっている。
なんとか意思力を振り絞ってその顔を知覚しないように瞼を使って視界を黒一色に塗り潰す。
欠伸のフリをするのも忘れない。
このままここにいるのは少しばかり精神力が持ちそうにない。
ならばと一人立ち上がる。
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
「ほいほい、いってらっさーい」
カズのからかうようなニヤニヤ顔が、視界に入れなくてもわかった。
廊下に出ると少し気持ちを落ち着かそうと適当に足を前に動かす。
トイレに行くと言った手前行かないと嘘になる。
だからトイレに行こうと思うも、いつも使っているところに行かなければならないこともない。
別に尿意が我慢の限界なわけではないのだ、なんとなく一番近いトイレではなく違う校舎の空いている所にでも行こうと思い廊下を歩く。
行き先もなく校舎内を放浪する。
昼休みなだけあって生徒たちの声は大きいし慌ただしい。
この短い時間を目一杯楽しもうとしているのだろう。
それは高校生活という少ない残り時間を悟りながらも、紛らしているようにも写る。
外をみやれば早弁をして四時間目のチャイムと同時に教室を飛び出していったサッカーをしている奴やまだ少し残暑かな、という体感温度だというのに日向ぼっこでもしているのか校舎のグラウンドに面している階段に腰かけている奴もいる。
だがこの時期からは徐々に校舎内の方が活気づいてくる。
というか既に校舎内のそこかしこで男女入り乱れて足早にバタバタと忙しそうなところもある。
それは別にオバケが校舎内で遊んでるとかコミケが近いとかではない。
というか別にコミケ近くないし。
ただ文化祭の準備をしているというだけだ。
だけとはいえ文化祭とは高校生活の中でもトップクラスに楽しめて青春の一ページに残るイベントである。
前夜祭は皆でワイワイやり、後夜祭でもワイワイやり告白や友達とはしゃぎ倒したり補導されそうになったりする。
なんなら文化祭の準備期間中に仲良くなって付き合う。
そして文化祭が始まれば恋人を自慢するかのように二人連れだって学校中を練り歩くのだ。
べ、別に羨ましくなんかねぇし!
まあそんな急造カップルの大半は三ヶ月以内に別れるしね!
一人で校内を放浪しながらもフッフッフッフッなどと気色悪い笑い声を口の端から垂れながし薄暗い嫉妬の炎に身を焦がす。
そんな時だ、後ろから風が吹くように、自然に声が耳にするりと入ってくる。
「一条先輩! 何してるんですかっ?」
次いで襲ってくるのは後ろから誰かが抱きついてくる感覚と甘い香り。
「いってーな、つーかお前なんでこんなところにいるんだよ」
ジロリと顔を少しだけ振り返り視線だけをそいつに向ける。
いや今体ごと正面にしちゃうとその俺のジョニーがジョニーで、つまり翔太の翔太がちょっとスーパーに荒ぶってあらせられてご乱心というかそんな感じ候。
視線の先には幼馴染みである、友恵がいる。
まあ見なくてもこんなスキンシップしてくる奴こいつくらいしかいないから誰かはすぐにわかるんだけど、なんなら俺の場合友達がほとんどいないから見ないでもわかる。
なにそれ悲しすぎる。
「それはこっちの台詞ですって」
だからそのちょっと上目使いやめろ。
「生徒会役員によるパトロールだ、文化祭で浮かれたリア充が校内で羽目外しすぎてたらお縄にしてやろうとな」
ニヤッと片方の口角を上げ格好良い笑み(自分のイメージでは)を浮かべる。
「うわ~どんだけ世の中のカップル妬んでるんですか先輩、その笑顔正直引きます」
蔑んだ目をしてホールドしていた両腕を外すと、スススっと二メートルくらい後ろに下がる。
いや離してほしかったけど、その反応は正直傷つきます。
「冗談だよ」
「いやわかってますけどね、それで本当は渚先輩を怒らせでもしたんですか?」
ニュートラルの表情に戻ると離れた二メートルを歩み寄ってきて自然に歩いていくから横に並び歩く。
「いやまあそのなんだ……」
流し目で俺を捉えてくる横からの瞳は問い詰めるでもなく、ただ確認するように視線を向けてくる。
「まあ言いにくいことならいいですよ、別に」
そういってもらえると正直助かる。
気恥ずかしくなって教室から逃げてきた、なんて流石に格好悪すぎる。
「そいつは助かる、それはそうと友恵はなんでこんなとこいるんだ?」
「え~自分は言わないのに私にそれを聞くんですか?」
それもそうだな。
「まあいいですどね、というか別に意味なんかありませんよ? なんとなく一人になりたい時もありますし」
「そういうもんか」
「そういうもんです」
気持ちはわかる、とはいえない。
お世辞にも友達が多いとはいえない俺がそんな気持ちを理解できるわけもないだろう。
「でもそれじゃ、俺と一緒にいるのも気遣いさせるだろうーー」
からまた放課後な、と続けようとしたら、唐突に、
後ろから誰かが俺と横を歩く友恵にいきなり肩を組んでくる。
またか、と思う気持ちと今度はもっと面倒くさい人に捕まった、と思う気持ちが同時に湧いてくる。
その腕の主はガシっと力強く俺たち二人を確保する。
「労働力発見!」
親しげでからかうように響くその声は女性特有の甘さを持ち、幼さも感じる。
「お二人さん、もし暇なら少しばかり付き合ってくれないかい?」
「「是非お断りします」」
「おかしくない!?」
ガーン! という効果音がつきそうなまでに悲壮感溢れる表情である。
むむむ、とかなんとかいいながらトテテテと五メートル程先に足を進め振り返り後ろ歩きになると、手を合わせてそれを掲げながらもウインクを一つ飛ばし懇願してくる。
「この通り!」
どの通りだよ。
ちらりと隣で歩いている奴の顔を伺う。
仕方ないですから手を貸しますか、といいたげな顔をしている。
まあ友恵一人に手伝わせるのもあれだし、と誰に対する言い訳なのかわからないことを考えつつ嘆息してから口を開く。
「昼休みいっぱいだけですよ」
「そうきてくれると信じてたよ、愛してるぜ二人とも!」
「そんなインスタントな愛はいらないのでやることやってください」
辟易としつついう。
前方五メートル程にいる女性は後ろ手で組み器用にも後ろ歩きのままクスクスと面白そうに笑い声を上げている。
その姿を視界正面に捉える。
その人は美というのを体現したかのようだ。
髪はどこか宇宙を宿しているかのような艶やかな漆黒。
目鼻立ちは緻密なバランスで配置されたとしか思えないほどに美しい。
その大きな瞳は澄み渡り、こちらに向けられているとはいえ本当に俺が写っているのか疑わしくなるくらいに綺麗だ。
小さな顔の下にある細身の身体は制服に包まれている。
細身とはいえ女性らしさを感じさせる胸部にはほどよい膨らみがある。
そこから繊細な括れを通り美しい曲線を描きスカート越しにでもわかるほどに、つい視線が持っていかれそうな形のよい臀部。
それらから伸びている、しなやかな肢体はスラッとしていて特にスカートとニーハイの間から覗く絶対領域など最高だ。
この人こそ三年生にもなって生徒会に入るだけでなく会長に就任した完璧超人である。
「ごめんごめん明日から頑張るって、それはそうと二人とも何をしてるたんだい? デートかい?」
実に信用できない、どこぞの作家のようなことをいう会長である。
申し訳なさげに両手をその豊満な胸の前で合わせて、可愛く桃色の舌をペロッと出してウインクまでつけて軽く謝罪。
それから小さな頭を横にコテンと傾けながら質問してくる。
普通の奴がやるとそれら一連の動きがイラッとくるはずが、わざとでも正直超可愛いから許す。
「散歩してたらたまたま先輩をみつけたのでちょっと付き合ってもらってたんですよ」
苦笑しつつ、ないないとばかりに首と手を左右にふる友恵。
ちょっと? 真実だけどそんなに否定されるとなんか悲しいんですけど?
このままこの話題が続いても俺が悲しい思いを募らせる未来しか見えないので軌道修正する。
「ところで、手伝うって何をすればいいんですか?」
うっ、と一瞬嫌な顔つきになると、苦笑いしつつ、視線を言いづらそうに口を開く。
「いや~ちょっと書類がさ、溜まっちゃってさ?」
「またですか、なんで先輩たちは仕事をしないんですか……」
まだこれからするというのに、すっかり疲れたような友恵に申し訳なさが混み上がってくる。
帳尻を合わせる時に奮起するのは大体友恵と石川の二人である。
ご、ごめんね? あ、明日から頑張ります!
そんなやりとりをしながらも歩いていると生徒会室に到着。
生徒会長がいつも使っている机の上にはアニメのようにこんもりと、というわけではなくリアルに参考書三冊分程度の量が綺麗に積まれている。
「これ絶対昼休みいっぱいでは終わりませんよ」
げんなりしながらいう。
「放課後も手伝ってくれるなんて流石だね」
などとどう解釈したらそうなるのかさっぱりわからないことをいい放つ会長を蹴飛ばしたくなりながらも自制心を強く保ち、紙の束に挑むのであった。
それから無駄口もそこそこに三人でひたすら紙の束を片付けていると、予礼を知らせるチャイムが放送口から聞こえてくる。
「もうこんな時間かよ、まあでもけっこう終わったし、後は放課後にやろう」
「そうですね、授業遅刻は嫌ですし」
「本当に放課後も手伝ってくれるのかい!? ありがとう二人とも!」
「はいはい感謝はいいですから、早く行きますよ?」
サッと施錠を済ませる会長に、こういうところはちゃんとしてるんだなと関心する。
「これは貸し一個ですからね?」
冗談のつもりで言ったその言葉に、しかし会長は、
「もちろん!」
ニコッと美しい満面の笑みで答える。
笑顔一つ向けられるだけで、手伝うのも悪くないかとと思えてくるのだから美人は卑怯だと思いました、まる。
更新遅くてすみません、俺は悪くない勝手に過ぎていく時間の流れが悪い。
とかなんとか言い訳してみたけど、あれだな、この小説どうせ読んでる人が三人もいないな。
もし読んでくださっている方がいたなら感想もらえたら嬉しいです。
批判コメでも待ってるぜ。