クオリアと世界の狭間で。   作:sorack

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お久しぶりです、前回の続きです。


主人公は初日で躓く。

聴覚が捉えるのはチクタクという秒針が時を刻む音だけだ。

いつも思うけどこの擬音語ってあまり巧い表現ではない気がする。

じゃあどんなのならば納得できるのかと訊かれても分からないが。

もしかしてあれだろうか、昔の懐中時計とかは本当にそんな音がしたのかしら。それともチクさんとタクさんが作ったのかな? チクでーすタクでーす。二人合わせてチクタクでーす! みたいな。いや意味わからんな、それだと芸人みたいだし、そもそも擬音作ったってなんだよ。日本国語を作った方なの?

ひたすらに無意味に上滑りしていく曖昧模糊とした思考に、ため息を一つ吐くことでそれを排出しようとする。

たっぷりと取った睡眠のせいか、それとも生来の昼寝の下手くそさのせいかはわからないが、ちっともやってこない夢の入り口を探すことは諦めて瞼を押し上げる。

すると視界に収まるのは当然のことながら自らの部屋の天井――ではなく、見えるのは白くのっぺりとした平面な天井だ。特長を上げるとしたら円柱の細長い電灯が設えてあることと築何十年かの老朽化のせいなのかシミを多数見受けられるくらいか。そんな天井と熱い眼差しを交換しあうこと数十秒。別にそこを突き破って美少女が落ちてくるということもなく、ひたすらに俺の眼光を受け止めてくれる度量の深さを見せるのみだ。

ぎゅるるる~と間の抜けた音が室内に響く。胃がエネルギー補給を訴えてきているのだ。

この部屋にいるのは俺一人であるから、自身のお腹からだというのは気づいているのだか、動くのが億劫だ。

腹筋に力を入れてぐいんと上半身を起こす。誰か見知らぬ人がみていたら、気味悪がられてもおかしくない。

枕元に置いてあるペットボトルを手に取りキャップを開けて唇につけて一気に傾ける。

ゴクゴクと喉を鳴らして唇の端から水滴が一筋の軌跡を刻んで垂れるのも気にせずに経口摂取。

人が見ていないのをいいことに逆さにして行儀悪く最後の一滴を伸ばした舌で受ける。さらに袖で口の端から伸びている水の線を拭き取る。

スポーツドリンクで一時的に胃を満たした俺は、擬似的な満腹感と引き換えに空にしたペットボトルにキャップをしっかりしてやり、後で分別が面倒になるのも理解していながらも、それをやるのは自分じゃないからいいか。という自己中心的思考が脳内を掠めるがおそらく後で自分でやってしまうだろう。普段の調教の賜物である。そんな思索に鼻白みながらも意識的に排除してバスケットボールのシュートを打つ用量でゴミ箱に投擲する。

少し鋭い放物線を描いたそれは見事にゴミ箱に入った。小さくガッツポーズを作る……実に暇である。

……なんかさ、おかしくない!? なんで俺一人でこんなとこで、こんなことしてんの!? 俺主人公だよね!? 今日文化祭じゃん? そりゃまあ友恵にはあんなちょっとどっちでもいいよ、むしろ面倒臭いからできたら行きたくないかな。みたいな格好つけた感じでいったけど、正直ちょっと行きたかったじゃん!? というか別に文化祭行けなくていいから、なんかしたい。凄い暇なんですけど。

そんなことを思いながらベットの足がギシギシと悲鳴を上げるのも構わずに一人で激しくゴロゴロする。それはもうゴロン族の血が流れてるかと勘違いするほどにゴロゴロする。時のオ●リナやりたくなってきた。

アクションを起こしても誰も反応してくれない虚しさを噛み締めて嘆息すした。先程がぶ飲みしたせいか尿意が体内から出ることを所望してくるので体を起こす。ベットに座ったままでも履ける位置にある上履きに足を通し、御手洗いついでに先程のペットボトルを嫌々ながらゴミ箱から回収して廊下に足を向けた。

立て付けが悪いのか、それとも酷使しすぎたのか少し力を加えなければ動いてくれない引き戸を腕力で少々無理矢理にガラガラと音を立てて開ける。すると制服姿の女子とこんにちは。自分が手をかけようとして独りでに開く扉に驚いたのか少し目を見張る、残念ですがこの学校にはまだ自動ドアは常備されていません。

こちらの姿を認めるとコンマ二秒後には彼女は友好的な笑みを浮かべてきたので、こちらも作り笑顔で対応する。うん、笑顔が世界中に咲き誇っていていいね、今日も世界平和を目指して笑顔満開。ラブアンドピースの精神だね。プロデューサーにみられたら年齢に不相応な渋くてかっこいい声でアイドルにスカウトされちゃうね。

その不自然なほどに笑っている表情をお互い向け合い保持したまま軽く会釈して無言で脇を通る。だが二歩目で後ろに引っ張られる感覚を受けておとなしく足を止める。後方をみやるまでもなく俺の肩がガッシリと掴まれていることが分かった。

 

「何無言で素通りしようとしてんのよ?」

ギリギリと万力よろしく強烈な力でもって俺の肩を掴んで離さない。ちょっと? 俺の肩から変な音聞こえない? ミシミシいってない?

 

「いやちょっと今は悪の手下(尿意)を葬りさらなければ――」

 

「何、わけわかんないこといってるの、いいから寝ときなさい」

ため息混じりにそういって俺の腕をとり、グイグイ引っ張ってくる女子に連れ立っている男が声をかける。

 

「ちっと待てって、翔太の奴トイレだとさ」

 

「え? そうなの?」

よくわかったな、という驚愕と、さすが自称中二病罹患者、という賞賛(?)のどちらを口にするべきかという、ピングーのイントネーションはどちらかという議論に匹敵するほどにどうでもいい選択肢が一瞬頭を掠めて、結局無言で顎を引く。

 

「じゃあ早くそういいなさいよ」

呆れてそういい拘束していた腕から手をパッと離す。

開放されると踵を返してトイレに向かう。すると先程俺の意を汲んで伝えてくれた男が三歩ほど後をついてくる。男性の大和撫子とか全然嬉しくはないのだが、それに違和感を覚えることもなくトイレにたどり着き無事体内のショッカー(隠喩)を退治する。

 

「はぁ~……」

ついつい意味のない呻き声のようなものが口から漏れる。トイレなだけにね! ……なんか死にたくなった。

一人で己のギャグセンスのなさに自己嫌悪に陥っていると隣で同じく用を足している男はこちらに目も向けずに、

 

「そんなに限界まで我慢してたのかよ」

そういってくる。だがそいつも俺と同じくらいに開放感を覚えているようだ、かなり我慢していたのだろう。

 

「俺は単に面倒だったんだよ、体起こすのが。お前こそなんでそんなに我慢してんだよ」

 

「おいおい今日は文化祭だぜ、トイレだって混んでるっての」

うん、文化祭。そんなこと言われるまでもなく知っている。だからこそベットがあるというのに、あの部屋にいるのが嫌なのだ。普段なら頼まれてもないのに仮病を使って喜んでベットに眠り伏しているところである。そのあと今話している奴が同じく仮病を使って二人で騒いでいるところを保健室の先生に呆れられ、担任に怒られている未来を幻視するレベル。

そんな実体験にも近い、というか事実、日常的に繰り広げられている出来事を追憶していると、不意に少し離れた校舎内やグラウンド、体育館やそこら中から喧騒が、意識的に排除していたそれが耳に入ってくる。在校生しか参加できない初日だからか、内輪ノリとでもいうべき気楽で愉快な雰囲気が学校中を包んでいる。

ずっと一人で横になっていたから気にしないようにしていたのだが、思えば至極当然のことだ。文化祭なのだから。そう考えてから俺は何をしてるんだという虚脱感に蝕まれる。トイレにある大きめの窓の前に佇み外を眺める。

視線の先にはストラックアウトがある。野球部が運営しているのか、それともただクラス内の野球部員を助っ人と起用したのかは知らないが、上背があり引き締まった身体を泥臭そうなユニフォームに包んでいる男が客寄せのパフォーマンスとして投球を行っていた。その高いリリースポイントから放たれる球は見事に一から九まで用意されたうちのど真ん中の五番を射とめた。

それを尻目に何人かの女子が声を張り上げて通る人に声をかけるキャッチの役目を果たしている。ちなみにこちらは普通に制服である。一見したところ残念ながら親しい友達しか集まっていないようだが。

他にもPKや屋台やヨーヨー釣りなど、一風変わった、というか何かが確実に間違っている気がする大小様々な出し物が軒を連ねている。

ただぼうっと眺めているとふいに首もとに重みがかかった。

 

「なーに黄昏てんだよ」

 

「うっせー黄昏てない」

肩を組んできている男を一瞬たりとも見ずにすげなく切り返すのと同時に腕を回して肩にかかる重みを振り払う。

 

「不貞腐れてる、の方が正しいか」

カラカラと笑う、男に不思議と苛立ちは感じない。だからといって素直に肯定してやる気もないけれど。

 

「んで、体調どうだ?」

俺が無視したのも気にせず横目にこちらの様子を伺ってくる。

 

「俺は元から元気だよ。なんなら今すぐにでもあのストラックアウトやらPKやらを総ナメにしてきてやろうか?」

 

「やめとけやめとけ、また朝みたいに倒れて、友恵に怒られる……いや泣かせちまうぞ」

 

獰猛に歯を剥いてやる気がみなぎっていることを示すも、朝の一件を持ち出しニヤニヤと茶化すような笑顔で止められる。

その言葉に今朝の出来事を思い起こされ、得も言われぬ顔になっているのを自覚しながらも平静を装った。

そんな俺の様子に満足したのか、元から興味がないのか特に追撃はない。

 

「さってと、そろそろ戻りますか」

 

「……そうだな」

 

傍らにいた男――カズはこちらに背を向けて扉まで歩み開け放つ。そのまま廊下に出ると未だ外を見つめている俺に早くこいと促してくる。

 

「おい、早くこいよ」

 

「わかってるっての」

 

俺は眩しい日の光から目を逸らすと、あの退屈な部屋に戻るために窓の外に背を向けた。

 

 

 

「遅い」

保健室の扉を開けた途端に鋭い言葉がとんでくる。後ろ手で扉を閉めつつ口を開く。

 

「トイレくらいゆっくり行かせてくれよ」

先程訪ねてきたところと俺がトイレ行くのに保健室を出た時が偶然重なり、こんにちはした女の子――石川の短い単語でぶつけてくる不満に対して平素な態度で反論する。このくらいは挨拶のようなものだ。だが次に続いた切迫した声には少しばかり驚いた。おくびにも出しはしなかったが。

 

「先輩、おとなしくしててください!」

 

「いやゆっくりどころか行くのさえ却下されちゃうのかよ……牢獄でももう少し自由にさせてもらえると思うぞ……」

 

ため息混じりにそういうものの、いつもより真剣味が強い友恵――友恵も石川やカズと一緒に来ていた――の口調に、何故か歯切れの悪い俺の言葉は語尾が消える。

 

「自己管理できてなかった上に、体調不良を報告してなかった時点で、隠してたんだから先輩は罪人みたいなものです!」

なんだその無茶苦茶な論法は。だがここで反駁してもめんどくさいこと請け合い。ここは耐えの一手が妙手。と考えていたが、意外なところから援護口撃(造語)がくる。

 

「大丈夫だって、俺がしっかり監視してるからさ」

 

「そのためについて来てたのかよ……」

 

「そりゃあそうだろ」

 

肩を竦めてこちらに意味ありげに一瞥くれるカズは、その言葉とは裏腹に、俺のことを監視しておくということよりも、俺がこうして叱られた時、というか友恵が暴走とでもいうべきいちゃもんをつけてきた折に宥める余地を作るためについてきてくれていたのだろう。よく考えればカズがトイレを我慢していた理由『文化祭だから混んでいる』というのもおかしな話なのだ。なぜなら今日は在校生のみで開かれている。つまりは全校生徒が闊歩しているということである、確かにいつもよりはトイレも込み合っているであろうことは予測できる。だがいくら雑然としている学生が自由に用を足せる状況だとしても、できないほどではない! よってカズ、お前の発言は嘘だ! などと心の中でカズに人差し指を突きつけて一人逆●裁判ごっこに興じる。それにしても本当に気味が悪いほどに気が回る奴である。頼もしい限りだ。

 

「だから友恵には、この風邪を引いてるにも関わらず身体に鞭を打つということを理解していながら、無理をしてトイレの窓からヒラヒラと風にたゆたうスカートの下を見ようとして頬を赤く染めていたことを除けば報告することなんてなにもないのでございますことよ」

 

……味方ならっていう枕詞をつけるべきでした。

 

「いや違う違う。あれだよ、グラウンドでやってるストラックアウトとか出し物とか色々あるだろ? ああいうの、いいなっと思ってみてただけだよ。それにしても屋台とか外なのに食いもんいっぱいあるのな、砂とか大丈夫なのかな。あ、そうだ! もしよかったら友恵一緒に行か……ない……か、ぁ?」

 

俯いているせいで表情を窺えない友恵に必死に言葉をぶつける。

なんの反応もないのを不審に思いながらも確認するのを心が拒否する。恐怖心の方がよっぽど優っているのだ。

凍りついた時の中で唯一動くことを許された、友恵は大きく息を吸って、俺に大音量で怒鳴る――ということもなく深く重いため息を吐いて、呆れた顔を覗かせる。

 

「何をいってるんですか、先輩はここで寝ててくださいっていってるでしょう」

 

「お、おう。そうだな、悪かった」

 

どうやら助かっ――

 

「あ、でも治ったら約束通り奢ってもらいますね」

 

「お、おう。……でも多分俺が風邪から治った時には文化祭終わってると思うぞ?」

 

「もちろん外ででいいですよ。そうですね、駅前にあるケーキのお店で許してあげます」

 

――たわけでもなさそうだ。俺のお財布が精神の代わりに犠牲になっただけのようです。

そもそも奢るなどといった覚えは全くないのだが、そんなことをいっても仕方ない。ここはおとなしく払ったほうが良さそうです。

 

とりあえずはあの楽しそうな笑顔で満足するということで。




まさかの状況説明すらきっちり出きなかった……さらにメインヒロイン不在……理由は次回出てくるはずですので、気長に待っていただければ幸いです。
そろそろお気づきの方も多いと思いますが、作者は基本的に文字がかさみまくるタイプの書き手です。しかも台詞ではなく地の文が。書きたいことばかりが増えていくのに時間が……俺は悪くない受験が悪い。……来年も受験生かな(白目)

感想待ってます。
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