クオリアと世界の狭間で。   作:sorack

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……お、お久ぶりです。
いやーそのー……申し訳ございませんでした!
エタる気はないから安心してね!(フラグ)

では一応続きです。




潜伏期間。

「じゃあな。ゆっくり寝とけよ病弱君よ」

 人を小ばかにしたようにそういうのはカズだ。

「そう何回もいわなくてもわかってるっての」

 

「なんでもすぐ忘れる鳥頭のくせによくそんなこといえるわね」

 石川はいつものように冗談交じりに、小ばかにするようにいう。

 

「違いない! はははははっ」

 

 ……こいつら……人が風邪で寝込んでるからって好き勝手いいやがって……。

 まあ事実だからそう強く言い返せないのだが……。

 

「お前ら保健室で騒ぐなって、迷惑だからさっさといけよ」

 

 溜息混じりに片手でシッシッと出ていくように促す。

 

「それが楽しい楽しい文化祭の途中でわざわざお見舞いに来てあげた友人にかける言葉なの? そもそもね、あんたのせいで明日の――」

 

「はいはい、じゃあ俺たちはもう行くからちゃんと静養しとけよ~」

 

「ちょ、待ちなさいよ。あたしはまだ」「いいから、はい進んで進んで」「わかった、わかったから押さないで」なんて会話を最後に石川とカズは保健室を出て行った。

 

 ったく、あいつは本当に人のこと心配しすぎなんだよ……。

 

「なにニヤニヤしてるんですか?」

 

「してねえよ、というか……」

 声の主にジトっとした目を向けるも、

「なんでお前は残ってるんだよ……」

 

「なんでって先輩が寂しくないように残ってあげたんじゃないですか」

 作り笑い満開で返される。

 お前の顔は表情コピーしたのペーストできんの? ってレベル。

 

「俺のことはいいからお前も行って――」

 

「お前って呼び方やめてください」

 ムッとした冷たい声が俺の言葉を遮る。

 また熱が出てきたのか、いつもの調子で脳も舌も動いてくれない。

 

「……友恵もさっさと行ってこいよ」

 

 ちっちっちっ、といいリズムに合わせ立てた人差し指を左右に振り、

「先輩はわかってませんね~先輩だけでなく、あの二人にも気をつかったんですよ。私は!」

 などと友恵は力説する。

 

 なにいってんだこいつ……。

 

「あーなんですか、その『なにいってんだこいつ……』っていう顔! やれやれ、これだから先輩は……」

 

 人の心情読んでんじゃねえよ。 というか気を使ってくれたのは友恵じゃなくむしろカズだと思うのだが……。なんてことをいうのも面倒くさいから口にしないけど。

 

「これ見よがしに吐く溜息うぜえ……」

 これがもしポケモンだったら俺は攻撃力あがってピヨってるよ?

「つーかおま――友恵があいつらの何に気を使ったのかは知らんが俺のことを慮ってくれるならさっさと出てけ」

 

「えーせっかく可愛い女の子が看病しにきてくれたのに、そんなこと言うの酷くないですか!?」

 

「看病なのかよ、見舞いじゃなかったの? まあなんでもいいけど俺はピンピンしてるからもういいよ。それともなに、焼きそばパンでも買ってきてくれんの?」

 

「反応がドライすぎますよ! まったくまったく、女の子にそんな態度ばかりとってるとモテませんよ?」

 腰に両手をあてつつ、ぷんぷん! とかそんな感じの効果音が浮かんできそうな怒り方からの、ウインクと前かがみで谷間を強調しつつ上目使いとかパナイっす。惜しむらくはその成長が止まってしまった胸ですね、合唱。

 

「余計なお世話だっつーの」

 既にモテてないしな。……べ、別に泣いてないんだからね!?

 

「それにそんなこと言い出したら、友恵こそ俺にかまってる時間あったら早く行ったほうがいいぞ。好きな相手の一人や二人いるだろ?」

 ニヤニヤとした笑みを意識して浮かべる。

 大丈夫、うまく笑えているはずだ。

 

「なんですか、そんな気持ち悪い笑顔して……」

 俺のニヤついた笑みを目にすると不気味なものをみるように眉根を寄せて身を引いた。

 かと思いきや、

「あ、わかりました! 先輩は私に彼氏ができたらいままでの生活を送れなくなると心配してるんですね!? 安心してください、私に好きな相手なんていませんから! なぜなら私は好きになる側じゃなくて好きになられる側だからです!」

 なんて自慢気に語りだすのだからなんとも愉快な奴だ。

 それにしても「なってもらう」とかではなく「なられる」ってのがこいつらしい。

 いつもの調子に思わず頬が緩む。

 

「気持ち悪いは余計だろうが、病人ですよ? まあ俺が心配してるかはこの際置いといて、じゃあ好きになられに行ってこいよ。俺は眠いから寝るわ」

 そういって掛布団を肩口まで引き上げ友恵が座っている廊下側とは真逆のグラウンド方面の窓へと顔を向けて横になる。

 

「……え……ま、まあでも眠いなら仕方ないですね。先輩が起きるころにまた来ます」

 

 なぜか戸惑ったような感じの友恵に、俺はそのままの態勢で「おう、楽しんで来いよ。それと別に来なくていいからな」と返した。

 

 すぐに出ていくのかと思いきや一分ほどなるべく抑えられた音でガサゴソと作業してから、友恵はクスッと微かに笑みともいえない音だけをこぼして――見えてはいない俺には、しかし確かに幾度となく目にした微笑が瞼の裏のスクリーンに映った――保健室から出て行った。

 

「……朝から寝てたのにまた寝れるわけねえだろ」

 

 少しいじけたようなつぶやきは誰の耳にも届かずに拡散して消えた。

 それから眠りにつこうと、隔離されている気分になるのも厭わずにベットの四方を囲うように展開する遮光カーテンで外界とのコンタクトを断絶した。

 そうしてベットに横になり目を瞑った。……のが約二十分前。

 

 そもそも八時間ほどしっかりと睡眠をとり、登校して朝からこの時間まで寝てたのに寝れるわけもない。これでまだ寝れたら俺はバカ●ンの父にでもなれるだろう。

 なんて、それも違うか。寝すぎて眠れないのではなく、ただ明日のことが気がかりなだけだ。

 

 なにせ明日は本番。稲高の生徒だけでなく他校の連中、どころか親類縁者魑魅魍魎! はさすがに言い過ぎではあるがとにもかくにも内輪ノリである初日とは違いしなければならなりことや出来ることの幅が広がる。

 そう、このままではナンパしたりデートしたりできなくなるのだ! そんな文化祭は嫌だ! 俺は自宅で一人寂しく布団に包まっているのは嫌だ!

 

 文化祭ってのは『とある女子高の子が友達と一緒にきたんだけどはぐれちゃって、そのうえ携帯の電池も切れてるからどうしようか右往左往しているところに颯爽と現れて友達を探しがてら文化祭の出し物や屋台で楽しませてあげるのだ。そして最後はしっかりと友達たちをみつけてあげて俺が笑顔で「みつかってよかったね、じゃあ僕はこれで」なんてセリフを歯を煌めかせ片手をあげながら吐くのだ。

 すると、

 

「ありがとうございました! あ、あの……よければ今日のお礼に今度ごちそうさせてもらえませんか?」

「そんな……お礼だなんて……。僕は当たり前のことをしたまでですから、あなたのその気持ちだけで十分です」

「でも、それじゃあ私の気が済まないんです!」

「そうですか……わかりました。でも、さすがに男の僕がごちそうしていただくわけにはいきませんのであなたが好きなお店を教えてください。そこでご一緒に食事することでチャラにするということでいかがでしょう?」

 

 って会話イベントが発生してそこから何回か遊びに行って付き合うことになって、さらにその彼女が一緒に文化祭にきていた友達たちに俺がいかに格好良いかを力説してくれ、その集団の中の一人であるガチレズの子が俺に敵愾心を持ち、遠回しに縁を切ろうと直接脅しにくるが俺は屈さずむしろその子をノンケにしてしまい惚れさせてしまう。そこから俺のドタバタラブコメディは幕を開けたのだった……。ポロリもあるよ!

 

 あれ、なんの話してたんだっけ……。ああ、そうそう。だから文化祭ってのはそういうものであるべきなんだよ!

 そのために俺は明日までに風邪を感知させなければならないのだ。風邪を治すにはどうすればいいのか、そんなの簡単である。寝ればいいのさ! 人類の神秘、白血球を舐めちゃいけないよ。さあ旅立たん、夢の世界へっ! でっかいネズミが手を振っているのが目に見えるね、ハハッ! 

 ……寝れぬ……。

 

 ……無限ループって怖くね? と思考が一周するまでふざけてみても眠りにつけそうもない。

 仕方ない。熱は下がってきているのだしちょっと文化祭の様子でもみてみようかな、友恵たちにばれなきゃ大丈夫だろ。と腰を浮かせようとした時、保健室の扉がガラっと大きな音を立てて開いた。

 入ってきたのは亜麻色の髪を持った可愛い一人の女の子、海帆だった。

 

「はぁ……はぁ……」

 海帆は息荒く肩が激しく上下していた。おそらく走ってきたのだろう。

 

「そんなに慌ててどうしたんだ?」

 少し面喰いながらも訊く。

 

「いや……翔太君が倒れたって聞いたから……はぁ、はぁ……」

 片手を膝について反対の腕で額の汗を拭う海帆。

 

 俺が倒れたと訊いてそこまで全速力で駆けつけてくれるのは非常に嬉しいのだが、尾ひれがついている。

 そのうえ海帆を見た感じ店番をしていたのにほっぽりだして急いできたのだろう。

 なぜそう推測できるのかといえば――。

 

「おいおい、大丈夫か? 俺より海帆のほうが動悸が荒いぜ?」

 

 息を整えている海帆に肩を貸そうと近よるが、寸前で片手の平をこちらに突き出しストップのジェスチャー。だと思う、もしドントタッチミーって意味だったら泣く自信がある。

 

 それにしてもなぜなんだ、なぜ――。

 

 ――黒を基調としたエプロンドレス、頭には簡素だがうっすらとピンクがかっているカチューシャがつけられている。そう、今の海帆は誰がどう見てもメイドといった風貌なのだ。

 いや、もうこれが本当超似合っている。白い肌に黒はよく映えるしそのフリフリなドレスみたいなメイド服はいうまでもなく可愛さの相乗効果半端じゃないし、カチューシャなんか髪の色と相まって最高すぎる。どれくらい似合っているかといわれれば、鬼に金棒、猫に小判、アーサー王にエクスカリバーっていうくらい! いやそれ意味違ううえによくわかんねえな。

 

 そんな馬鹿なことを考えながら特になにをするでもなく、ただ佇んで海帆の酸素供給がうまくいくまで待っていた。

 すると海帆はすーはーすーはーと深呼吸を二回ほど繰り返して伏せていた顔を上げた。かと思いきや次は無言で見つめてくる。……というかこれもう睨んでるな……まあその表情でも可愛いんだけどね。個人的には笑顔のほうが好きですね。

 あれ、もしかして今喧嘩売られてる? これがあの伝説の『なにガンとばしてんねん。あぁ!?』ってやつかな?

 

 テンパった思考などつゆ知らず、または完全に無視して海帆はムッとした可愛い顔をグングンと近づけて――

 

 ちょっと? 海帆さん? ちょっ、本当に何をするつもりっ!?

 

 ――小さい頭を俺の胸に預けてきた。

 

 え? なにこれ、なんのご褒美? 

 

「ぇ……おぁ……」

 

 なんだそれ。自らの喉から漏れた意味を成さない音に内心で失笑がもれる。

 肩に手を置いてかっこうつけるでもなく、頭を撫でるでもなく呻き声上げるだけとかダサすぎるだろ俺……。くっ、童貞力が高すぎる俺では所詮この程度か……私の童貞力は五十三万です。まあよくわからんけど幸せだし、いいか……。

 

 幸せに浸りきっていると、海帆がぽつりと、

 

「よかった……」

 

 そう零した。

 

「な、なにがだ?」

 

 今度はつっかえたがなんとか言葉になってくれた。だが海帆は俺が一生懸命ひねり出した言葉を無視してさらに続けた。

 

「……心配しました」

 

「だから、なにが……」

 

 頭が全く働いていない俺はただ戸惑いをそのまま言葉にするだけで精一杯だ。俺の脳みそマジニート。

 

 海帆はすぐになにかいうでもなく少し俺から頭を離し、背伸びをして頭突き。ではなくおでこを額にくっつけてきた。一秒ほどで離れたが体感的には三十秒といったところだ。

 

「うん、熱もそんなに高くないみたいだね。よかった……」

 

 心底安心といった朗らかな笑みを浮かべる海帆。

 

 ちなみに向き合ったときの顔は熟れ過ぎたトマトのように真っ赤に染まっていた。俺のね。

 

 そのあとは一方的に海帆から友達というか姉のようなお叱りや小言を受けた。

 むしろあんなドキドキさせられたわ思わせぶりな態度を取るわで俺が怒りたかったが役得ということで我慢した。それに『俺以外にそんなことすんな』的なニュアンスのキザなセリフを吐いていいのはイケメンと物語の中だけなのだ。なにより彼氏面してるみたいに思われたくないし(本音)。

 それでも今度からは誰に対してもああいうことはしないほうがいいという旨だけはやんわりと伝えた。

 まあ海帆も遅まきながら自分がなにをしたのか気づいたのか、俺のように顔を真っ赤にしながらもコクンコクンと頷いて了承してくれたから大丈夫だろう。……別に今度からしてもらえないと思うと残念だとか考えてないんだからねっ!?

 

「それで? 俺が倒れたとかいう誤情報をくれたのはどこのどいつだ?」

 

 訊かなくてもわかるけど。

 脳裏には『え? オレはなにもしらないぜい?』なんて白々しいセリフを吐くやろうがニヤニヤと笑みを浮かべている。

 全く、てめぇは……。マジサンキュー!

 

「う、嘘だったんですか……」

 シュンとした表情を見せる海帆。 

 

「そんなに気にするなって、あいつは面白そうっていう理由だけで平気で騙すからな。ああ、つっても本当悪戯程度だからあんまり邪見にしないでやってくれると嬉しい」

 

 苦々しい思い出が頭を駆け巡るのを辟易としつつそういった。

 だが、

 

「あんなことで嫌いになったりしませんよ~でも、友恵ちゃんがそんな悪戯好きとは意外でした」

 

「え? 友恵?」

 

「? はい、私に教えてくれたのは友恵ちゃんですよ?」

 

 予想とは違う名前が出てきた。

 

「あ、そうだったのか。てっきりカズかと思った」

 

 あいつが悪戯程度にしろ嘘をつくなんて珍しい。

 まあたまにはそういうこともあるか。それとも友恵のことだから俺が寂しくないようにとか余計な気を回したのだようか。なにそれ超ハズイ。なにが恥ずかしいってこんな無条件で俺のことを友恵が考えてくれているなんてことを平然と織り込んでいる思考回廊が恥ずかしい、さすがに自意識過剰だろう。

 

「嘘に踊らされて程度の違いに差異があったにしろ、わざわざ来てくれてありがとうな」

 

 海帆は少し照れくさそうに、

 

「いえ、大事な――」

 

 微笑を零した。

 

「――友達のためですから」

 

 わかってはいたがとびきり可愛い笑顔で友達宣言された俺は心の中でそっと涙を流した。

 

「それで、結局翔太くんは何があってどうして保健室にいるんですか?」

 

 あれ、そういえばまだ説明してなかった。

 それはね……君と保健室でチョメチョメするためだよ! なんてボケをかます隙もくれず、

 

「あっ! わかりました! 文化祭の屋台で食べ過ぎたんですね!」

 

 それはもうかわいいドヤ顔で迷宮入り決定のへっぽこ推理を披露してくれた。

 

 わーすごいすごいよくわかったねーと我ながら見事と思える作り笑いで応じた。

 

 それから起床時にすでに不調を悟っていたこと、それでも無理を承知で登校したこと。友恵はそれを知っていること。彼女が看病すると主張したが俺が気にせずに文化祭を楽しんでこいと半ば無理やり保健室から追い出したとのこと、推測だがそのせいで海帆がここに仕向けられたのだということを話した。

 

「なるほど、だから友恵ちゃんは私をここに呼んだんですか」

 

「推測だけどな、まああとでちゃんと叱っとくから許してやって。店番サボらしちゃった埋め合わせとして明日なんか奢るしさ」

 

「いえ、別に気にしないでください。私は気にしてませんし翔太くんに何もなくてよかったです」

 

 それより、とドキッとしている俺には気づかず海帆は続ける。

 

「明日本番ですよね?」

 

「……」

 

「やっぱり……。どんなに目を逸らしても現実からは逃げられませんよ」

 

 やれやれ、といった様子で面倒見のよい年上のように吐息をこぼす。

 

 この稲星高等学校の文化祭は二日。そして俺たちは文化祭のために急造なうえ一回こっきりなもののバンドを組んで本番に向けて練習していた。その本番が明日に控えているのだ。

 

「ま、まあもう熱もあまりないし明日までには完治するって。大丈夫だよ」

 

「……」

 

 今度は海帆が無言でジト目を向けてくる。

 

「オレ、カゼ、ナオル」

 

「……わかりました、じゃあ信じます」

 

 全く信用していない顔でそんなことをいわれた。

 

「じゃあゆっくり休んでください。私は邪魔にならないようにもう行きますね」

 

「おう」

 

 海帆はドアを閉める前に笑顔でこういった。

 

「私、明日のライブ楽しみにしてますね!」

 

「……明日に備えて寝るか……」

 

 彼女がくるまで寝付けなかったのが嘘のように意識は途絶えた。

 

 それが人と話して優しさをたくさん与えられたからなのか、それとも明日頑張らなければならないという意識が夢の国に誘ったのかは、まどろみに沈んでいく俺の麻痺した脳みそではわからなかった。




前書きで謝罪したけど一人も読んでくれないという可能性のほうが大きいので、もしこんな久しぶりに書こうとしたらキャラの名前全員忘れてて読み返そうとしたけど、つまらなさすぎて作者でも一話の途中でギブアップした物語を読んでくれる奇人がいたら超嬉しいです。
もし感想なんてくれれば咽び泣きます(催促)


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