Fecit-puella フィ-シトゥプエッラ 作:nasari
これはオリジナル作品です、拙い文章ですが優しい目でご覧ください。
プロローグ
20XX,6月24日
❮記録書❯
検体の形成に成功、あとは知能をインプットし、経過を見守るのみ。ここまで長かった、この研究が進めば夢に見たクローンが生産できるようになる。
……上手くいくといいが。
獣の気配も無い北部の山奥に建設された研究所、『人口生命研究所』では、新たな生命の研究が行われていた。
「主任、どうぞ」
研究員の1人の白衣に黒髪の若い男性、アロがデスクに突っ伏す私に声を掛け、コトッと横に淹れたてのコーヒーを置く。主任と呼ばれた同じ白衣を着た青みがかった長い白髪を1本にまとめた髪型で、珍しい翠色の瞳を腕からのぞかせ、私はモソッと身体を起こした。
「あら、ありがと」
グーッと背伸びをして、怠そうに欠伸をする。
「最近徹夜続きでしたからね、お疲れ様です」
「えぇ、でも随分と進んだわ、それに順調よ」
「そうですね、しかし……」
彼はなにやら気まずそうに目の前にある巨大なホルマリン漬けのような容器を見る。その中には約13歳ほどの少女が酸素マスクをつけ、青みがかった白い髪が揺蕩っていた。
「何故検体を女性型にしたのですか?」
「あら、ここの主任は私よ?それに、この研究を進めているのは主に私、自分に近い方が1番いいのよ、それとも、恥ずかしいの?」
悪戯な笑みを浮かべ、彼をからかった。わかりやすくも顔を赤らめた彼はフイッとそっぽを向く。
「ごめんなさい?冗談よ貴方わかりやすいもの」
「……自覚済みです。とにかく、この研究を進めましょう、主任」
私は彼を見ること無く、分かっているわ、と呟いた。
*
20XX,6月25日
❮記録書❯
知能のインプットを中止しようと思う、機械で教えるよりも人と人同士で教育した方が良いと判断した。
「主任!何故、システムを停止したのですか!、これでは時間が掛かってしまいます!」
アロの叫び声が響く、しかし私はそれをものともせず、ツカツカと歩いていく。
「機械だけに教えたら、人では無くなるわ……」
「は?」
「人の感情、それを知るのも、教えるのも、人であるべきよ、だから……」
歩みを止め、クルッと振り返り、言った。
「私があの子を育てるわ」
彼を真っ直ぐに見つめる。彼はすぐに言い返そうとしたが、グッと言葉を飲み込んだ。
「無理について来い、とは言ってないわ、嫌ならこの研究から外れていいわ」
そう言い、研究室へと入って行き、彼はその場に立ち尽くした。
*
20XX,6月26日
❮記録書❯
システムを止め、検体を容器から出した。知能をインプットしていないためか目が虚ろ、歩くのも少し危うく見える、まるで赤ん坊のようだ。これから育てて行こう。
あぁ、服、どうしようか。
白い入院服を着せられ、準備したテーブルと椅子に静かに座っている少女、それに向き合うように座る。そして、頭を抱えた。
「どうしたらいいかしら、普通に赤ちゃんを育てるとは違うし」
さっき容器から出したとき、歩く動作がぎこちなかった、まず、歩かせてみようかしら。と、立ち上がり、少女も立つように促した。少女の両手に自分の手を添え、歩かせようとした。
その時、研究室の自動ドアが開く。そこには、
「貴方……」
「ここまで来て、外れるわけにはいきませんよ」
両手に大きな買い物袋を床に置き、ふぅ、と息を吐く。その中身は食料や女の子物の服が入っていた。
「主任のことですから、こういうの、用意してないでしょう?」
少女を椅子に座らせた。
「そ、それしては随分と準備がいいわね」
「俺、妹がいたのでいろいろ覚えてたんですよ、てか、本来なら主任の方が詳しいんじゃないんですか?、子供2人いるんですよね?」
子供、確かにいるが息子だ。あの子達を思い出すと自然と笑みが零れた。元気にしているかしら、しばらく会っていないわね。
「主任!ほら、まず服を着せてあげてください、俺資料室にいますんで。」
そう言ってそそくさと出ていく。また2人になった部屋で私は少女の頭を撫でて、ふふっと笑う。少女は首を傾げた。さて、なるべく手早く済ましましょう。
*
30分後
「こんなものかしら」
「主任、終わりましたか?」
「えぇ、入っていいわよ」
資料室だけドアノブのついたドアを開ける、はじめは慎重にだったが、少女の姿が見えドアを全開にし、目を少し見開いた。
淡い水色のチュニックのトップスに同じ色の白いフリルのついたキュロット、全体的にフワッとした印象。それと、なにより……。
「あら?見とれたの?」
主任の笑いを含んだ声にハッと我に返った。少女を初めて見たときにも思ったが、綺麗な顔立ちをしている。そして何より主任に似ていた。
「あの、この子のモデルって」
「え?私よ?言ったでしょう?自分に近い方がいいって」
傍から見れば親子にしか見えない、顔もそうだが、特徴的な青みがかった白髪も同じだ。
「ほらほら、次は何をすればいいのかしら?」
「あっ、えっとさっきは何をしていたんですか?」
「あぁ、この子上手く歩けないみたいだから練習?しようと思って」
なるほど、だから両手繋いでいたのか、納得した。歩けないというのは不便だ、やはり普通に歩けるようになっておくべきだろう。
「分かりました、では、さっきみたいに立たせて、歩く練習しましょう。」
「分かったわ、はい、立ってねー」
先程のように手を取り、1歩づつ、1歩づつ、歩みを進めた。
*
20XX,6月27日
❮記録書❯
昨日歩行の訓練を開始し、充分検体の歩行可能となったため本日は発声練習を開始する。
「はい、繰り返してください、あ、あー」
「わぁ、あ、あー」
「そうそう、あー」
「あー」
「うん、あ、い、う、え、お」
「あ、え、う」
「あ、い、う、え、お」
「あ、い、う、え、お」
「そうそう!」
五十音の表を見せながら発声させ、文字もある程度覚えさせるように訓練している中、主任は何やらずっと記録を書いてはそれを見ている。
「主任、どうしたんですか?」
「この子は、学習能力が優れているのね、少し練習しただけですぐ習得する、これなら普通の会話なんて、簡単に出来るようになるわ」
流石、クローンとして造られただけのことはあるか。俺は次の行を指し、発音して見せながら主任の話を聞く。すると、不意に、
「ねぇ、今何巡目?」
「え?4巡目ですけど」
主任はパタンと記録書を閉じると俺の隣に来て、真っ直ぐ少女を見つめる。
「私の名前、まだ言っていなかったでしょう?、私はアモル、はい、言ってみて」
少女はキョトンとしながらも、高く澄んだ声で、「あも、る、あもる……」と繰り返した。
主任は満足したような表情で少女の頭を撫でた。そこからしばらく主任の名前を繰り返した。
*
20XX,6月31日
❮記録書❯
語学の訓練に移行し、簡単な計算、軽く医学を学ばせて始めた。この子の驚くべき学習能力のおかげで進みが早い、しかしまだ言葉を繋ぐのが難しいのか単語で話す。これは普段の会話で直すしか無いだろう。
「主任!ちょっと!」
慌ただしく研究室に入って来たアロは私に封筒を渡した、手紙が入っているのだろうか?。しかし、私宛の手紙という事に不安を覚え青ざめながら中身を開けた。だが、中身を見て、ホッと胸を撫で下ろした。
「ど、どうしたんですか?」
「大丈夫よ、ただの実家からよ。もう、あんなにあわてているから、何事かと思ったわ」
「すみません、主任宛なんて珍しかったのでつい、それで、中身はなんですか?」
封筒の中には手紙ではなく写真が何枚か入っていた。写真の1枚を彼に渡した。
「これ、息子さんですか?」
写真は全て私の息子達だった、どれも2人で写っている。私と同じく青みがかった白髪、翠の瞳、同じ顔、双子の兄弟、片方は笑顔に溢れ、片方は無表情だ。
「良かった、元気そうだわ」
「へぇ、そっくりですね」
「双子だもの」
「いやいやそうじゃなくて、主任に似てますよ」
「あら?そうかしら」
写真を見ていると、テーブルの方からあの子が歩いて来た。すると、私の手元の写真を覗き込んだ。
「これは、私の息子よ」
「むすこ?」
「そう、大切な私の息子」
私は知らず知らずのうちに笑みを浮かべていた。
「あと少しで14歳になるのよ」
「誕生日ですか?」
「えぇ、7月7日が2人の誕生日なの、祝ってあげたいけど帰れるかしら」
笑みとは一転、悲しい表情になる。私は今まで何回祝ってあげられただろうか、実家に帰ることも少ない。それでも、あの子達はとても嬉しそうに私を迎えてくれる、私は何も与えられていない、あの子達には、何も……。
「そんな事無いと思いますよ。」
「……声に出ていたかしら」
「はい、出てましたよ、主任は家族の事になると自身が無くなりますけど、そんな事無いですよ。充分立派な母親です」
真剣な眼差しで、私を見つめてハッキリと言った。彼のこんな素直さが時折羨ましくなる。私がクスッと笑うと彼は頬を膨らませた。
「主任、俺は別にふざけて言った訳じゃないですよ?」
「ふふっ分かってるわ。あぁごめんね?あなたを置いてけぼりにしちゃったわね」
キョトンとした瞳でジッと私を見ていたこの子の頭を撫でながら微笑む。
「むすこ、すき?」
驚いた。この子から質問されるなんてこと今まで無かったものだから反応が遅れ、変な間が空いてまたキョトンとした顔で首を傾げられた。
「……えぇ、好きよ、愛してるわ」
今鏡を見たら私は満面の笑みでしょうね。それを自覚するくらい、私は幸せな気分になった。
「あもる、むすこ、すき、あろ、このこ、も、すき?」
今度はアロも驚いたみたいね。で、なんで私を見るの?それと、『この子』というのは自分のことみたいね。
「大好きよ、2人とも」
そう言って私は2人をギュッと抱き締めた。アロは驚いて固くしてる、ふふっ。
「ちょっ!?主任」
「ごめんなさい?でも本当よ、貴方には感謝してるわ、ここまでついて来てくれて」
「よしてくださいよ主任、それに、大切なことが1つありますよ?」
「ん?」
私は2人を離した、そして彼はこの子の頭に手を置いて、言った。
「この子の名前、まだ決めてないですよ」
あっ、と私は声を漏らす。アロは呆れた顔で私を見る。すっかり忘れていたわ、そういえば決めてないじゃない。
「そういえば……」
「あえてかとも思いましたがやっぱりつけてなかったんですね」
「このままでいいと思ったのよ」
「それじゃあ呼ぶ時不便じゃないですか。さて、何にしましょうか……」
名前を考えようと顎に手を当てるポーズをとる彼だが、それに私は待ったをかけた。
「なんですか主任」
「実はね、外に慣れる訓練?というかね、その、ちょっとこの子を家に連れて行きたくて、それでね……」
この案を言えば彼はまた呆れるかしら、それでも、私はこうしたいと思ったのよ。モゴモゴとしていた口を開き、ハッキリと言った。
「私の息子達に名前を決めて貰いたいの」
*
20XX年,7月1日
❮記録書❯
無記載
どうして、こんな事になったのかしら、いえ、今はとにかくこの状況をどうするか考えなければ。
7月1日早朝、まだ朝日も登らず薄暗い。そんな中、突如、この研究所は強襲された。
パスワードを知らないと開けられない扉は爆破され、真っ白な通路はその白さを思い出せないほど黒ずんだ。武装をした人間の銃などのカチャカチャ擦れる鳴る音と走る音が響く。
緊急用脱出通路で外になんとか出たが、研究所から少し離れた木にもたれかかり、その様子を心配そうに少女が見つめる。
「っつ!」
「あもる、だいじょうぶ?」
「えぇ、平気よ、貴方だけでも逃げて」
少女は頑なにブンブンと首を横に振る。意地でも離れないつもりらしい、だが、今は、今だけはその意地は折れてほしい。
「お願い、言うことを聞いて、このままじゃ、貴方も危ないのよ?」
首を、横に振る。さっきよりも多めに。その直後、ガサガサと複数の足音が聞こえる。私は力一杯に突き飛ばした。
「早く行きなさい、このまま下にくだっていけば道に出るわ、そこに私の弟とその車があるはずよ、私の名前を出しなさい、そうすれば助けてくれるはずよ」
足音はどんどん近づく、少女は立ち上がり、慣れない足を動かし離れて行った。足音がすぐそばまで近づいた。さっき、強襲を受けた時、アロは私達を庇って撃たれて死んでしまった、私も足に一発撃たれている。
痛む足をなんとか動かし、足音と向き合う。私を見つけるやいなや銃を構えた。
(お願い、弟となんとか合流して、そして、生き延びて……)
その直後、急にあの子達の顔が浮かび、涙が流れた。今年こそは一緒に祝ってあげるって言ったのにね。
(ごめんね、マギ、ナイト、約束守れなかったわ、でも……)
── 愛してるわ、ずっと……
複数の銃声が山に木霊した。
いかがでしたか?
え?文章がおかしいし面白くない?
失礼したしました、これから様々な人の作品を見て精進いたします。
これからよろしくお願い致しますm(*_ _)m