事件発生の話となります。
「と、いうことだよ」
場所は公園。時刻は昼であるにも拘らず、街の中心から離れたこの場所には子供一人の姿すら無い。
そんな場所で、真緒達はコウから今何が起きているのかを聞いていた。
ちなみにユリは先程から真緒の近くに居て、コウが丁寧な説明をしている間にもずっと邪魔・・・もとい、可愛い悪戯を真緒に対して繰り返している。彼女を止める唯一の方法は暴力だが、被害者である真緒は不本意ながらも世話になった女性にそんな事は出来ず、されるがままだ。
だからその役目は、基本的にコウが担う。
「おいユリ、マオちゃん困っているだろ、やめてやれよ」
「え〜!折角久々にマオちゃんに会えたのに〜・・・って痛い!」
ユリの額にコウの手から放たれた小石が勢い良く命中する。あまりに綺麗な軌道に、レイヤ、カリン、ルカが歓声を上げた。
「おおーじゃない!女の子はまだしも、男の子に関しては殴るよ⁉︎」
「ああ、典型的な女尊男卑思考の奴か」
「察しが良くて助かるよ」
先のユリの額に向かって小石を投げたコウの言葉に、レイヤは呆れた表情を見せる。しかし、ユリが女尊男卑思考なのは事実なのだ。
コウ曰く、ユリは特に夢の管理人に優しい対応をする事が多いのだという。
コウとユリはどこかの世界の誰かが見た「不老不死の体」の夢から生まれた珍しい存在で、死ぬことが無い。だからこの世界で唯一歴代の管理人と顔見知りで、ユリに関してはどんなに生意気な管理人だったとしても優しくしていたようだ。
ここからは真緒の推測だが、きっと彼女には分かるのだろう。普段こそふざけた言動が多い彼女だが、その観察眼はコウのそれに劣らないどころか、余裕で上だといえるかもしれない。
だから、分かるのだ。夢の管理人ならばきっと誰もが抱えていたであろう、心の闇を。
「まぁそれは置いといて。つまり、王子様が突然居なくなったから、祭りでもないのにこんなに騒がしい・・・まとめるとこういう事になるけど、それでいい?」
「ああ、そうだな。体の弱い方で、昨夜会った時もふらふらだったから、自分一人で外出出来るわけがないのに・・・」
カリンの確認が正しい事を肯定すると、コウは心配そうに顔を暗くし、目を伏せる。
北の国の王子には、真緒も一度だけ会った事がある。その際も彼は確かに何度も咳をしていた。
たった一度、そして挨拶をして少しの間他愛のない世間話をした程度だが、それでも真緒でも割と好感の持てる少年だった。それ以来此方に来る時は会わなかったためだいぶ前に忘れてしまっていたが。
穏やかで大人しく、礼儀正しい。同い年の真緒どころか普通の市民にさえ敬語を使い、常に相手を傷つけてはいないかと気を遣う。短い時間でもそれだけの善人ぶりがよく分かる、北の国の王子。
誰かを傷つけたり、誰かに迷惑をかけることを何よりも嫌う彼が自分の意志で姿を消した理由を、そして目的地を、敢えて考えるとするならば、それは恐らく。
(戦争を止める為に、南の国に行った・・・)
まさかとは思うし、あり得ない。しかし、今は何が起こっても不思議ではない。事実、この世界で戦争が起ころうとしているのだ。
そうであるならば止めなければいけない。自ら戦争を止める為に他国へ赴くのは、彼の仕事ではない。
「行かなきゃ、面倒になりそうだね」
「行くって、何処に?」
ルカの疑問に、真緒は無表情で「王子様を探しに、だよ」と短く答えた。
ありがとうございました!
次回、王子様を捜索します。