剣をユウリの足元で右に払う。これで態勢を崩し、そのまま畳み掛けるつもりだ。
しかしさすがにそう上手くはいかない。ユウリは軽くジャンプしてそれを避け、懐からナイフを取り出してレイヤの頭上に翳す。だがその前にカリンが右手の指と指の間に挟んだ針を盾にして塞いだ。
「やるね」
「嬉しくない」
ユウリは後退し改めてナイフを構え直す。レイヤも立ち上がり、カリンの傍で剣の切っ先をユウリへと向けた。
やはり相手も相当の数の戦闘をこなしてきたようだ。行動には無駄も迷いも無く、それでいてただ我武者羅に凶器を振り回しているわけではない。的確に急所を狙いに来る姿は、とても人を救うなどと無価値な演説を繰り返す教団の団員のものとは思えないと、レイヤは冷や汗が滴るのを感じた。
だが戦闘慣れしているのはこちらも同じだ。それに心強いことに、カリンも居る。少なくとも撤退させる程追い詰めるのはそんなに難しくないだろう。
問題なのは今何処に居るのか把握し切れていないあの管理人だ。
直感だが、目の前の少年と彼女を出会わせたら面倒になりそうな気がする。
「さっさと諦めちゃえばいいのに。無理は体に毒だよ?」
「五月蝿え黙れ餓鬼」
「酷いなぁ。余程大事なんだね、この組織が。・・・あ、愚か者には愚か者の考えが正常に感じるのか。納得したよ」
「そっくりそのまま返してやるよ。分かんないだろうな、脳みそスッカスカなお前らの頭じゃ。役にも立たない管理人の存在に縋って、自分達でどうにかしようとすら思えない。ある意味、同情するよ」
言い過ぎた、とは思わない。事実を言ったのみである。
真緒と話した時から、レイヤは彼女が悪人のようには感じなかった。
だが、だからと言って五年前に起きたあの事件は真実なのだ。世界の平和などを守っているのが管理人ならば、あの事件を引き起こしたのは管理人の手抜きが問題だとしか考えられない。
真緒の事は嫌いではないが、まだ信じるのは困難だと言える。
「同情するのはこっちだよ。救いの手を差し伸べられているのに、怖がって手を出せない。『我々は誰もが自分の力で生きていける、そんな世界に変える組織』・・・だったっけ?常識知らずの集団じゃないか。この世界を構成する夢を管理してバランスが乱れないようにしているのは、他でもない夢の管理人なんだよ」
くだらない演説は聞き飽きた。レイヤがそう吐き捨てようとした時、それを遮るように低い男の声がユウリの背後から聞こえてきた。
「ユウリ!撤退だ!」
「何故です?早くしないと・・・」
「命令だ。これは私のではなく、現在の夢の管理人である真緒様からのな」
会話の内容に、レイヤは我が耳を疑った。ユウリも先程までの余裕な笑顔は一変して驚きに目を見張っている。
少しの間レイヤとカリンの方を横目で見つつ「しかし・・・」と撤退命令に対して反対しようとしたが、やがて無意味だと思ったのか頷いて了解の意を示した。
ユウリがナイフを懐にしまい背を向けて走り出すより前にレイヤは
「逃げるのか?」
と挑発する。ユウリは一瞬肩を跳ねあがらせたが、何も言わずに撤退して行った。
「マスター、因縁つけられますよ」
「今更だよ。第一、組織の理念すら正反対なんだ。むしろ何で今まで和解の道を探していたのか、自分でも理解出来ねぇ」
レイヤは初めてトリム教団の襲撃を目の当たりにした日を思いながら溜め息を吐いた。和解するべきなんて馬鹿な発言をした自分に対して、ハルヤは怒鳴ったりなどはしなかったもののどこか失望したとでも言いたげに無理だと一蹴していた。
今なら分かる。トリム教団と革命組織、二つの道は平行なのだ。
手を取り合って助け合って・・・なんて、夢物語にしかなり得ない。
「他の奴ら、大丈夫かな」
「大丈夫だと思いますよ。みんな強いし。・・・それよりも、引っ掛かっているところをリーダーに報告して明らかにしないと」
カリンの言う通りだとレイヤは思った。先のユウリとの戦いの中で、どうしても拭えない疑問が芽生えた。もしかしたらこれから革命組織にとって必要な情報になるかもしれない。
報告の為に、レイヤはカリンを連れてハルヤを探しに歩き出した。
お久しぶりです、千羽鶴です!
更新遅くなって申し訳ありませんでした。もう少し早く出来るように頑張ります・・・・・!
そして、閲覧ありがとうございます。なるべく早く革命組織本部での話を終えたいと思います。
それでは、ありがとうございました。