ソードアート・オンライン ーハートリライアンスー 作:トンカチ
過去編は後ほどやりたいと思っているのでご了承ぐださい。
2024年3月6日。
デスゲームが開始されてちょうど1年と4ヶ月が経過した。
現在の最前線は56層。そして今日パニにて、《フィールドボス》の攻略会議が開かれていた。
アインクラッド各層の圏外フィールドには、フィールドボスと呼ばれる、
ミキは今、攻略組に加わり作戦会議に参加している。
「フィールドボスを村の中に誘い込みます」
ばんっと片手で机を叩きそう言ったのは、《血盟騎士団》副団長、《閃光》のアスナだ。
血盟騎士団のユニホームたる、白と赤を基調とした騎士風の戦闘服を着ている。
SAO内では知らぬ者はほとんどいないであろう有名人だ。
そして、通称《攻略の鬼》とも言われている。
「ち、ちょっと待ってくれ! そんなことしたら村の人たちが……」
アスナの発言に抗議を唱える男のプレイヤーがいた。男は黒髪に黒いコートを着て、背中には黒い片手剣を背負っている。
男の名前は《黒の剣士》キリト。
「それが狙いです。ボスがNPCを殺している間に、ボスを攻撃、殲滅します」
「NPCは岩や木みたいなオブジェクトとは違う! 彼らは「生きている、とでも?」
キリトの言葉を最後まで言わさず、鋭い視線でキリトを一瞥し、続ける。
「あれは、単なるオブジェクトです。たとえ殺されようと、またリポップするのだから」
「俺はその考えには従えない」
「俺もキリトと同じで、その考えには従えない」
ミキもアスナに抗議をする。
「リポップするからといって、殺していいなんて道理はない」
「今回の作戦は、わたし、血盟騎士団副団長のアスナが指揮を執ることになっています。わたしの言うことには従ってもらいます」
彼ら二人を睨みながらアスナは従えと言う。
だがミキは、納得が出来なかった。
「俺は出来ない」
そう言った瞬間、
「あなた! いい加減にしなさいよ! 副団長の言うことが聞けないの!?」
苛立ってミキを睨み付けてきたのは、黒髪ストレート、ミディアムヘアーで6:4のワンレングスにしていて、そしてアスナと同じ白と赤を基調とした騎士風の戦闘服を着ている、血盟騎士団所属のユキだ。
この女性もSAO内では非常に有名人だ。
アスナほどではないが強さは間違いなく、血盟騎士団のトップレベル。そして、アスナに負けず劣らず華麗な容姿をしているのだ。
「納得できないんだ。NPCを餌にしてボスを倒すなんて。キリトが言おうとしたように、NPCは生きてるんだ」
「副団長が言ったようにNPCはただのオブジェクト。 それを生きているだなんて」
彼を
だが、どれだけ嘲られようとミキは納得しない。
「どうしてもというのなら……、俺は攻略に参加しない」
「ミキくん、だったかな? 分かったわ。わたしに従わないのなら致し方ありません」
「副団長!」
ユキはアスナの返答に意義を唱えようとするが、諦め、その代わりにミキをものすごい形相で睨んだ。
攻略会議が終わり、ミキはキリトと一緒に帰ろうとしていると、
「よぉ、また揉めたな」
振り返ると、商人プレイヤーである、エギルがいた。
「エギル」
キリトは声に出してそのプレイヤーの名前を呼んだ。
「キリトと副団長さんはどうしていつも、あーなんだ?」
微笑しながらキリトに話しかける。
「……あーは言ったけど、まさかトップギルドで、攻略の鬼になるとはな」
どうやらキリトは昔のことを思い出しているらしかった。昔といっても1年と少し前のことなのだが。
「それに、ミキもよくあの二人に突っ掛かれるな。本当に攻略に参加しないのか?」
「あぁ、参加しない。納得できないからな」
「ほんと、お前ら二人はお人好しだな」
エギルは笑いながら、ミキとキリトの背中を叩いた。
ーー
2024年4月11日。
現在の最前線は59層だ。
今日はすごくいい天気で、ミキはいつもより遅い時間に迷宮区に向かってしまったのだが、向かっている途中で彼は奇妙な物を見てしまった。
知り合いに良く似た男が気持ち良さそうに、木の下で眠っていて、そして、彼の知っている人に良く似た女が、これまた気持ち良さそうに寝ているではないか。
思い浮かべている人物で合っているとしたら、男の方はまだ分かる。あの男はそういうやつだ、とミキは思い、しかし女の方は考えられない。そんなはずはないと思いながら恐る恐る、ミキは二人が眠っている場所に近づいた。
二人との距離、約1メートル。この距離になってもミキはまだ信じられなかった。男はミキの思っていた通り、キリトだった。だからこそなのかもしれないが、この二人が一緒に寝るなんて、有り得ないことだ。しかし、やはりというかなんというか、女の方はアスナだった。
――もしかして、今日、SAOクリアされるんじゃないの?
それくらい異常な光景だった。
それに、二人は何を考えているというのだろうか。ここは圏外なのに、昼寝をするとは。
――まぁキリトらしいけど。
「……仕方ないかぁ。俺が起きるまで居てやるか。こんなことで二人が殺される分けにもいかないしな」
数十分後。
キリトは目を覚まして、隣に、アスナに目をやった。
「なっ……!?」
キリトは目に見えて驚いていた。
「おはよう、キリト」
キリトを挟んでアスナの反対側に座っているミキが、キリトに微笑を浮かべ声をかける。
「えっ、ミキ? あー、すまないな。ありがとう」
「いいよ、別に。今日は気持ち良いからな。だけど、まさか副団長さんがな」
ミキの言葉にキリトは全くだ、と言って頷き、
「まさか、ほんとに寝るとは思わなかった」
「ま、疲れてたんだろうさ」
そう言うと、ミキは立ち上がった。
「じゃあな、後はよろしく」
「そのつもりだよ。寝ろと言ったのは俺だからな」
ミキはその言葉を聞くと背を向け、迷宮区へと足を運んだ。
ーー
ミキが去ってから約8時間弱経った頃。
アインクラッドの空がオレンジ色に染まる頃になって、アスナはようやく目を覚ました。
「……うにゅ……」
アスナはそう呟いたあと、数回瞬きし、キリトを見上げた。
芝生に右手をついてふらふらと上体を起こし、右、左、更に右を眺める。
最後に、隣であぐらをかくキリトを見て――。
アスナは瞬時に顔を赤く染め、
「な……アン……どう……」
「おはよう。よく眠れた?」
白皮の手袋に包まれた右手が、ぴくりと動いた。
しかし、アスナはそこで自制心のセービングロールに成功したらしく、レイピアを抜くことも、逃げ出すこともなかった。
「…………ゴハン1回」
「は?」
「ゴハン、何でも幾らでも1回おごる。それでチャラ。どう」
アスナはなぜキリトが長時間付き合ったのかを理解したのだ。
キリトは
伸ばした両脚を振り上げ、反動をつけて立ち上がったキリトは、
「なら、あいつも呼ばなくちゃな」
「あいつ?」
「ミキだよ」
アスナは首を傾げる。彼女はミキが二人をガードしていたことを知らない。
「あいつ、俺たち二人が寝てる間、守っててくれてたんだよ」
「彼が? そうだったの……、分かったわ」
「じゃあ57層の主街区に、NPCレストランにしてはイケる店があるから、ミキを呼んでそこ行こうぜ」
「……いいわ」
素っ気ない顔でキリトの手に掴まり立ち上がったアスナは、ふいっとキリトから顔を逸らし、大きく伸びをした。
ーー
ミキが迷宮区に潜ってからだいぶ時間が経った頃、キリトから、
奢るから飯食いに行こうぜ。転移門前で待ってる。
というメッセージが届いたので、ミキはちょうどいいと思い、迷宮区を出てそのまま歩いて転移門前に向かった。
ミキは、もしかしたら副団長さんもいるかもしれないな、と思った。彼女とはあまり話したことがミキにはなかった。話すとしても、攻略会議の時だけだ。が、奢ってくれるというのだ。行かないわけにはいかなかった。
転移門前に着くと、案の定アスナがいた。
気まずくなる前にキリトが分かってかしらないが、手短に言う。
「じゃあ行こうか。57層な」
ミキは了解、とだけ言った。
59層から転移門経由で、第57層主街区《マーテン》に移動した、ミキたち3人は、メインストリートを肩を並べて歩いた。すれ違うプレイヤーのうち、少なからぬ数がギョッと眼を剥いていた。アスナにはファンクラブさえ存在すると言われているのだ。その隣をソロプレイヤー二人の男が歩いているのだからそれも当然だ。
どうやら行き先はキリトしか知らないらしく、アスナは視線から逃げることが出来ない。
(キリトのやつ……、絶対楽しんでるだろ)
実のところ、ミキもあまりじろじろ見られたくなかった。キリトみたいに楽しむことは彼には出来ない。
5分ほど歩いたところで、道の右側にやや大きめのレストランが現れた。
「ここ?」
胡散臭そうな顔で店を見るアスナに、キリトは頷いた。
「そ。お薦めは肉より魚」
アスナはスイングドアを開け、ホールドすると、済ました顔で入り口を
NPCウェイトレスの声に迎えられ、そこそこに混み合う店内を移動する間も、ミキたち3人に視線が集中していた。
だがアスナは、馴れているのか堂々とフロアの中央を横切り、NPCに案内された、窓際のテーブルに腰を下ろした。
キリトがアスナの向かいに座り、ミキがキリトの隣に座った。
「キリトが奢ってくれるんだよな?」
ミキはキリトに確認する。もしアスナが奢るというのなら、少々遠慮をしなければならない。だが、キリトなら遠慮せずに好きなだけ頼もうと思ったのだ。
「いや、アスナだよ。そうだよな?」
「なっ……!、ガードされてたのはお互い様でしょ?」
「それもそうだな。じゃあ、ミキは割り勘で」
「ま、まあいいわ」
ミキはそうきたか、と思っていた。
――なら、いつも通りの量を注文することにしよう。
ミキは美味しそうな料理を適量頼んだ。
すぐに届いた飲み物を喉に麗した。
アスナはライトブラウンの瞳でキリトとミキを見て、小さく囁く。
「ま……なんていうか、今日は……二人ともありがと」
「へっ!?」
驚愕したキリトをじろっと見て、もう一度。
「ありがとう、って言ったの。ガードしてくれて」
「あ……いや、まあ、その、ど、どういたしまして」
ミキもキリトに合わせてどういたしまして、と言い、
「まあ、俺はキリトが起きたらすぐに出発したけどね」
と冷静に言ったものの、彼も内心では驚いていた。もしかしたら、顔に出ていたのかもしれない。
ミキは攻略組の作戦会議では、そこまで進言しない。1ヶ月前の作戦会議みたいなことは滅多にない。だけど、キリトはアスナと、あーだこーだとやりあってばかりいるので、意外だったのだ。
アスナは、クスッと笑っていっそう穏やかさを増した瞳を宙に向け、呟く。
「なんだか……あんなにたっぷり寝たの、ここに来て初めてかもしれない……」
「そ……そりゃいくらなんでも大げさじゃないのか」
「んーん、ホント。普段は、長くても3時間くらいで目が醒めちゃうから」
グラスの甘酸っぱい液体で口を湿らせ、キリトは訊ねた。
「それは、
「うん。不眠症って程じゃないけど……怖い夢見て、飛び起きたりしちゃうのよ」
「……そっか」
ミキはアスナの言葉を聞いていると、まるで前の自分のことを言われているような気がした。
「……あんたは、ずっと……」
「ん?」
ミキはふと、言葉を小さく漏らしてしまった。
「いや、なんでもない」
「……そう」
キリトは少し考えるような素振りをして、
「えー……あーっと……なんだ、その、また外で昼寝したくなったら言えよ」
間抜けな台詞だったが、アスナは微笑むと、頷いた。
「そうね。また同じくらい最高の天候設定の日がきたら、お願いするわ」
アスナの笑顔でミキは改めて認識させられた。この女の人はとんでもなく美人なんだと。
ミキはアスナの言葉に便乗して、少し微笑みながら言った。
「じゃあその時は俺も参加させてもらうわ。この世界であんな気持ちよさそうな天候で昼寝なんてしたことないし」
しばらく、キリトとアスナが料理の話に花を咲かせていた時だった。
「……きゃあああああ!!」
突然恐怖の悲鳴が聞こえた。
ミキは眼を見開き、背中にある愛用の両手剣(ただし両手剣にしては大きくなく、片手剣に近い)に手を伸ばした。
同じように、レイピアの柄に触れていたアスナは、鋭い声で囁いた。
「店の外だわ!」
ミキとアスナは出口へと走る。それに続いて、キリトが慌てて二人を追う。
表通りに出ると、再び悲鳴が聞こえた。
アスナは俺とキリトを見ると、全力で声のする方に走り出した。
声が聞こえた広場にミキが飛び込むと、彼は信じられないものを見た。
広場の北側に、教会らしき石造りの建物がそびえている。
その2階中央の窓からロープが垂れ、環になった先端に鎧を着た男が一人、ぶら下がっていた。
鎧の首元にロープが食い込んでいるが、この世界ではロープアイテムによる窒息死はない。
恐怖の源は、男の胸を貫く、1本の黒い
胸からは赤いエフェクト光が血液のように明滅を繰り返す。
つまり、男のHPに連続的にダメージが生じている。
だが、ここは圏内なのだ。そんなことは有り得ないことだ。
ミキとキリトは驚愕から覚めて、同時に叫んだ。
「「早く抜け!!」」
男が槍を抜こうとするが、容易に動こうとしない。
ミキは叫んだ。
「二人は下で受け止めろ!」
ミキは2階まで登り、ロープを切るため教会の入り口を目指して駆けていく。
「「わかった!」」
二人は叫び返し、ぶら下がる男の真下へと走る。
しかし、半分ほど走ったところで、無数のグラスが砕け散るような音とともに、ポリゴンが霧散した。
無数のプレイヤーは悲鳴を放つ。
「アスナ!」
「分かってる!」
二人は驚愕しながらも、眼を見開き広い広間に視線を集中させた。《デュエル勝利者宣言メッセージ》を探すために。
プレイヤーがHPにダメージを受け、死に至るのは完全決着モードのデュエルしかない。
だから、男が死ぬと同時に、ウィナー表示が出現するはずだ。
「……どこだ」
キリトが呟く。
システムウインドウが出ない。
「みんな! デュエルのウィナー表示を探して!!」
アスナは大声でそう叫んだ。プレイヤーたちはすぐさま視線を周囲に走らせた。
だが、発見の声はない。ウィナー表示は30秒しか出現しない。もう残り、15秒程しかない。
ならば建物の内部か、とキリトは思ったが、それならばミキが見ているはずだ。
そう考えた瞬間、窓からミキが見えた。
「ミキ!! ウィナー表示あったか!?」
ミキはキリトを見て、首を降る。
「無い! システム窓もないし、中には誰もいない!!」
「……なんでだ……」「……どうして……」
キリトとアスナは呻き、数秒後、誰かが小さく囁いた。
「……ダメだ、30秒経った……」
ーー
キリトとアスナは建物の奥にある階段を駆け上がった。
2階には4つの部屋があり、3つの部屋をキリトの索敵スキルの探知で、潜んでいるプレイヤーを探したが、いなかった。
二人は問題の4つ目の、ミキがいる部屋に足を踏み入れた。
「教会の中には、他には誰もいない」
キリトが報告すると、ミキは即座に頷いた。
「そうみたいだな」
「
「俺とミキの索敵スキルを無効化するほどのアイテムは、最前線でもドロップしてないよ。それに、念のため、教会の入り口に、プレイヤーに隙間なく立ってもらっているんだ。透明化してても出る時に接触で自動
「そうだね……解った」
「これを見てくれ」
アスナが頷くと同時に、ミキが部屋の一画を示した。
そこには、簡素な木製のテーブルが設置されていた。《座標固定オブジェクト》だ。
その脚の1本に、やや細いが頑丈そうなロープが結わえられている。一度結べば、ロープの
黒光りのロープは、空間を横切って、南側の窓から外に垂れている。
「うーん……」
キリトは
「どういうことだ、こりゃ?」
「普通に考えれば……」
アスナが同じく小首を傾げて答えた。
「……あのプレイヤーのデュエルの相手がこのロープを結んで、胸に槍を突き刺したうえで、首に輪を引っ掛けて窓から突き落とした……ってことになるのかしら……」
「見せしめのつもりか……?」
「いや、でも、それ以前に」
ミキは息を吸い込み、明瞭な声で告げた。
「ウィナー表示がどこにも出なかった。広場にいた数十人が誰も見つけられなかったんだ。デュエルなら、必ず近くに出現するだろう」
「でも……有り得ないわ!」
アスナは強く反論した。
「《圏内》でHPにダメージを与えるには、デュエルを申し込んで、承諾されるしかない。それは、あなただって知ってるはずよ!」
「……勿論、知ってるさ」
ミキたちは、顔を見合わせたまま沈黙した。
やがて、アスナが二人を見て、言った。
「このまま放置は出来ないわ。もし、《圏内PK技》みたいなものを誰かが発見したのだとすれば、早くその仕組みを突き止めて対抗手段を公表しないと大変なことになる」
「……俺とあんたの間じゃ珍しいけど、今回ばかりは無条件で同意する」
「俺も賛成だ。……もしそうだとすれば圏内でもプレイヤーたちは怯えなくちゃならない。そんなことは、決してあってはならないんだ」
ミキは眼を細め、どこか遠いところを見ていた。
ここではないどこかに。
そして、深く悲しい表情をしてアスナに同意した。
「なら、解決までちゃんと協力してもらうわよ。言っとくけど、昼寝の時間はありませんから」
「してたのはそっちじゃないか……」
「キリトもしてただろ。30分ぐらい」
キリトの呟きにミキが笑いながら言う。もう、ミキは哀愁の表情はしていなかった。