一人…街をゆく
(なんでこんなことに…)
目線はほとんど地面と同じ。普段のそれと世界が違って落ち着かない…ソレ以外にも落ち着かない要因は山程あったけど…
(
――――春菜は猫になっていた。勿論ララの発明品の仕業である。
「あ、猫ちゃんだぁ~かわいいぃい~♡」
「にゃっ!」
(古手川さん!私!助けて!お兄ちゃん呼んできてっ!お願い!)
――――必死に春菜は叫んだが「にゃにゃにゃー!にゃあああ!」と鳴くだけだった。
「う!…嫌われてる…?やっぱりだらしなくなっちゃう顔がマズイのかしら…大人しくペットショップで見ましょう…はぁ…お兄ちゃん…初恋探し…」
「にゃああぁああ!にゃにゃにゃにゃ!!」
「うぅ……猫まで私をイジメるぅ……もうおっぱいミルクはでないわよぅ…」
去っていく古手川唯。仔猫春菜はその背にいつまでも「助けて!元にもどして!お兄ちゃん呼んできて!」と叫んでいたが奇妙な猫語(?)を発するだけだった。
(うぅ…だれか…お兄ちゃん助けてよ…)
とぼとぼと街をゆく
(にゃんでこんにゃことに…あ、また…言葉まで猫ちゃんになってきてる…うぅ…このまま一生猫…そしたらお兄ちゃんのお世話できない…お兄ちゃんとその……キスもできないにゃ…)
とぼとぼ…と歩き、やがて立ち止まる……ふと――――
「ん?」
「にゃ?」
――――感じなれた雰囲気。ネコ型春菜が首が痛くなるほど上げると目当ての人物…買い食いの途中であった西連寺秋人がいた。片手に串揚げを持っている。
「にゃにゃにゃ!(おにいにゃん!もう!また買い食いして!)」
「お、にゃんにゃん擦り寄ってくる子猫……うへへえへえへへへへにへへへへへかわゆす」
だらしなく顔を緩め、第三者からみてかなり気持ち悪い状態の秋人だったが春菜にはそうは見えない。凛々しい面立ちで優しく春菜(人型)の頭を撫でる秋人に見えているのだった。恋は盲目…というやつである。
「にゃんにゃ…(お兄ちゃん♡)」
「うヘヘへへえへへへ……ん?なんか春菜に似てるな、雰囲気と…この目元とかも。うむ、撫で心地もそんな感じだ」
「にゃ!(!流石私のお兄ちゃん!)」
「手に馴染む小ぶりな胸のようなそんな感じ…イタッ!ひっかくなよ!」
(小ぶりってひどい!せめて"慎ましやか"って言ってよ!小さいは禁句!私だっていつかはララさんみたいにたわわに…凛さんみたいに…なるんだもん)
「いきなり連れて帰ったら春菜…怒るか?」
「にゃにゃ!(そんにゃことないにゃ!)」
「そうか?ならよおし…俺のとこ来い」
「にゃ!(にゃ!)」
「ん…?嫌なんか?」
("俺のとこ来い"……それってプロポーズ…?"俺のとこ来い、
春菜とは言っていない。
「よし、じゃ行くかね、マロンにも紹介しようかいねー」
――――こうして春菜の、
2
「んー…春菜遅いな…もうじき夕飯なのに…ハラ減ったぞ…なぁ"はるにゃ"」
「ふにゃぁ~」
ごろごろとあやされる仔猫。春菜(猫型)の名前は"はるにゃ"なった。春菜はとても喜んだ。猫を見ても自身を思い浮かべてくれることに嬉しいのだ。…恋は思案の外というやつである
「…ただいま戻りました。春菜お姉ちゃん、アキト…ん?なんですか、その猫は」
「にゃー(おかえりにゃさいヤミにゃん)」
「おう、おかえりんりんヤミ…うへへえへへへかわいいだろーねこにゃん」
「…気持ち悪い声を出さないでください、気持ち悪い……アキト、貴方は相変わらずですね」
パタン、と手にした本をたたみ、ぽすっと沈むソファー。ヤミは定位置と化した秋人の隣に腰を下ろした。
「春菜お姉ちゃんは…夕飯はまだですか?」
「まだみたいだな、おいくっつくなっての」
「…いいじゃないですか、別に。眠たいんです…肩くらい貸してください…」
「にゃにゃにゃ!?(ヤミちゃん……嬉しそうなニヤけ顔…あと"お姉ちゃん居ないですしチャンスですね"って聞こえたにゃ)」
にゃにゃぁあ!と今まで大人しく秋人の膝の上で甘えていた子猫"はるにゃ"が不満を訴えるように暴れだす
「お、お、おお…なんか昂ぶってるな」
「ウルサイ猫ですね…お腹でも空いているのでは?二人っきりの邪魔になりますし、さっさと寝かしつけましょう」
「にゃ!?(にゃ!?)」
(そのセリフ!その流し目!お兄ちゃんの愛人みたいだにゃ!ヤミにゃん!……もうお姉ちゃん怒っちゃうんだにゃ!)
「うおっ!ヤミVSはるにゃか?!」
――――秋人の目の前で繰り広げられるキャットファイト。ヤミは躱すつもりもないのか"はるにゃ"のひっかき攻撃をぱんぱんっと掌で弾き、"はるにゃ"も負けじと噛みついたり顔に飛びついたりして果敢に攻撃を繰り出していた。
「バウっ?!」
「ん?」
「っ?!」
「にゃ!?」
マロンが舌技練習に用いていたミルク…の紙パックを踏んづけた声
被害者その1、西蓮寺秋人の声
あっさり一人、回避したヤミの声
被害者その2"はるにゃ"の声
が広いリビングに同時に響いた。
3
(は、は……恥ずかしい…お兄ちゃんとお風呂に…あ)
ごしごしごし…と"はるにゃ"の身体を洗う秋人。
(おにいちゃん…前くらい隠して…あ、アレが…男の人の…わたしの…胸…挟める…の?)
しっかり見ている春菜だった
ふっふ~ん♪
"はるにゃ"の目の前には秋人の機嫌良さそうな、満足そうな顔が広がっている
(あぁ、笑顔のお兄ちゃん…カワイイなぁ♡…猫、好きなのかな…マロン…あきられちゃったのかな…?お母さんのウチに送って新しく猫……飼おうかな…んあっ…お、お兄ちゃん!…そこ…だ、ダメぇ…!)
「ん~♪しかしやっぱ春菜っぽいな、心地いい感触…ま、春菜はおっぱい触らせないか…恥ずかしがり屋だし。まぁつつくくらいはさせてくれるが…最近はそれもあんまないなぁー」
(ああぁぁ!…ビリビリが…!あぁぁっ…ダ、ダメ…おに…いちゃぁあんっ…!)
カッ!と春菜の脳裏と浴室に閃光が広がる
「はぁはぁ…はぁ、おにいちゃん…もう…だ…、め…」
「よう、お帰り春菜」
「アキト、春菜お姉ちゃんも居ないですし背中でも…」
火照った躰を抱きしめ、ぐったりする春菜
全部識っていた、笑顔の悪者キャラ
出し抜こうとする、はにかむ妹
が狭い浴室に勢揃いした。
4
こんこんとふたりに正座&お説教される秋人。
かわいい妹、時々ライバルのヤミの事はさておき、乙女たる自分にあんなハジメテな、真っ白な快感を味あわせたお兄ちゃんに妹として言いたいことは山ほどあった春菜。そしてヤミも西連寺家の風紀監督代理として言いたいことがあった。――――ヤミはちょっとうらやましかっただけだったが、
この日、秋人はマロンとふたり、ベランダで寝た。
…マロンがベランダで隠れるように寝たのは春菜が"宅配便"の箱を持っていたことに、どこか不穏なものを感じとったからである。
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2015/12/25 台詞改定
2016/01/06 情景描写改訂
2016/05/21 一部改定