貴方にキスの花束を――   作:充電中/放電中

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Re.Beyond Darkness 15.『着火~Determination of two~』

11

 

 

「お待たせ、西連寺さん」

「あ、古手川さん!ヤミちゃん見なかった?」

「ヤミちゃん?見てないわね」

「うーん、どこ行っちゃったのかなぁ…お姉ちゃん困っちゃうなぁ」

 

落ち着かない様子で周りをキョロキョロと見渡す春菜、唯もつられて辺りを見渡す…が、祭りの会場である境内には人で溢れ、とても目当ての小さな少女は発見できそうに無かった。

 

人混みの中では多くの人が手に傘を持っている、キラリと光る水雫―――唯はついと夜空を見上げる。先ほどまでの大雨が嘘のように降り止み、今は薄い雲の隙間からきらりと光る星々が垣間見えた。このまま雲が風に流れてくれれば花火が打ち上がる頃にはきっとキラキラ星と色鮮やかな打ち上げ花火できっと綺麗だろう、と唯の胸は高なっていく、それは自身の中にある初恋の情景と見事にシンクロして……

 

「お祭り周って楽しんでたらヤミヤミもひょっこり出てくるっしょ、ねぇー唯っち♪おっす春菜♪」

「んっ……ちょっと!胸を揉みながら出てこないで!ハレンチな!」

「もう、里紗…遅いよ?」

「ごみんごみん、およ?『せんぱぁい…』ってHな顔してHな声出さない?……アタシのテクもマンネリぎみ?」

 

もみもみもみもみ…とより激しく揉みしだく里紗、唯はその手に非難の手を添え頭を振るう。時間をかけて結い上げた髪が里紗の鼻を擽った。

 

「へっくし!」

「ちょっ!きたなっ!唾飛ばさないでよ」

「ごみんごみん…お二人ともキレーな浴衣姿ですなぁ…誰か見せたいオトコでもいるんスかぁ?」

 

唯にしっしとあしらわれた里紗は春菜、唯の二人を見渡しながらニシシと悪戯っぽく微笑う

 

「うーん…ヤミちゃんどこ行っちゃったのかなぁ…あんなに楽しみにしてたのに…里紗だって妙に気合の入った浴衣姿じゃない」

 

春菜は相変わらず落ち着かない様子で里紗に答える。少し見ただけで分かるほど里紗は艶やかで、学生らしくない…遊び慣れた、弾ける色香があった。ウェーブがかった茶髪でイマドキの女子高生っぽい里紗は自身とタイプが全然違っていて、出会った当初、春菜は仲良く友達になれるか不安だったが、ふたを開けてみればララとは違う意味で大切な友達になっていた。だから分かる、見せたい相手が居るのだろうと、そしてそれは唯も同意見だった。

 

「そりゃ~夏!夏祭りっ!浴衣女子高生とかイロイロ無敵っしょ♪」

「何よ?それ」

 

くるりと一回転して袖を大げさに振り、ニシシと微笑む里紗に春菜は疑問符を浮かべ小首をかしげる。

 

「里紗はハレンチなコトしか考えてないから、聞くだけムダよ西連寺さん」

「なによーソレ。どーいうイミよ?」

「そーいう意味よ」

 

むっと睨みながらグビグビとラムネを飲む里紗、呆れながらそれをジッと睨み返す唯。クラスでよく見かける気安いやり取り…なんだか睨み合う猫ちゃんが二匹いるみたい…つい春菜も苦笑いを溢す

 

「おー!みんな揃ってるー?はーるなっ!ゆーい!リサー!」

「ん?兄上はまだ来てないのか?フィアンセの私が居るのに…夏祭りは賑やかだナ!もぐもぐ」

「先輩方、こんばんは♡」

「ひゃっ…こんばんは、春菜さん、皆さん」

 

ひょっこりといった具合にララが人混みの中から顔を出すと次々と見知った顔が現れる、その中に唯のよく知るよく転ぶハレンチな注意人物、そして自身が淡い想いを抱いた―――失恋相手が見当たらなかった。その疑問を口にしようと…

 

「あれ?結城くんは?」

「そう言えば居ないねぇー結城…ヤミヤミとアヤシイ関係?」

「…それはないんじゃない?」

「なーハルナー兄上居ないのかー?はむっもぐもぐ…」

「ナナはさっきからそればっかりだねー!それにしてもリト、どこ行っちゃったのかなぁ??」

「んッ……お兄さんも居ないんですか?はぁ…」

 

戸惑っている間に、春菜に先に言われてしまう。

そしていつの間に買ったのか、わたがしを頬張りながら片手には水飴を控え持つナナが春菜に再び尋ねる。春菜はそれに「こっちで合流する予定だよ?ヤミちゃんと一緒に来るんじゃないかな」と律儀に応えていた。ふむふむ、と頷く一同。ただ美柑だけはそれを「んぁっ!…あんっ!」と悩ましげな声を上げ、肩を震わせながら聞いていた。

 

…美柑ちゃん、さっきから妙に色っぽいけど何かあった?と皆の視線が美柑に集まる。

 

「なんだか、その…下着がおかしいみたいで…替えようと思ったんですけど…あっ…時間、なくて…」

 

自身に注目が集まるのを察した美柑は尋ねられる前に疑問に答えた。先ほどから"兄"とか、"リト"という単語を聞くたびに妙にパンツが食い込むのだ。まるで誰かに触られているような感覚に美柑はどうにも落ち着かなかった。

 

「ハイハイ、ここで立ち止まってたら邪魔になるし、取り敢えず皆で祭りを楽しみましょう」

「おー!いこっ!はるなっ!」

「わっ!ララさん!ひっぱらないでっ!」

「むー居ないのかよ、兄上…仕方ない…オイっ!一緒に探すぞモモ!メアにも手伝ってもらおう!…あ、でもアイツ兄上居ないと知ったら不機嫌になるナ…よし!やっぱり二人で探すぞ!モモ!」

「どうして私が…」

 

仕切り屋、唯の言葉と叩く手を合図に皆の興味は祭りへと手際よく収束していく。―――人で賑わう境内、辺りには食欲をそそる匂い…鉄板焼きの屋台や焼き鳥、たこやき、ナナが手に持っているわたがし、水飴などなど祭り限定の品々が祭りの賑わいに色を添える。マジカルきょーこのお面、水風船…流れる夏の邦楽がスピーカーから微かに聞こえる中、女子たち全員の心は確かに弾んでいた。祭りの夜の雰囲気に飲まれていたのだ。…ただ一人、モモだけが挨拶以外は口を開かないので不機嫌そうであったが…

 

唯は一人、皆の最後尾をゆく。はぐれる者が居ないか見守るために。――生真面目な風紀委員ならではの行動だった。

 

スピーカーから流れ聞こえる祭りの進行状況…七夕祭りをしめる花火が打ちあがるまでにはまだまだ時間があるらしい

 

(それを一緒に…できれば二人で見上げたいわね)

 

ふと、立ち止まって唯は振り返る。――結い上げた後ろ髪がかすかに揺れ、前髪が降りる。

 

そう遠くない過去、姉、その彼と共に祭りをはしゃぎ周った自分の面影…が祭り囃子の中にいるような気がして…

 

(一緒に…二人だけでまわりたいわね)

 

顔にかかる前髪を後ろに流しながら唯はじっと…人混みの、どこか遠くを見つめていた。

 

 

12

 

 

「ねぇねぇイヴ、イヴのパパになってくれた人ってどんな人?さぞかし素敵な人なんでしょうね、だーってイヴが大好きになっちゃう人だものね」

「…しつこいですよ、ティア…さっきからアキトはそうではないと言っているでしょう」

 

ヤミは背の後ろを歩くにこにこぽよぽよ笑顔のティアを見ずに答える。先ほどから同じ問答を二人は繰り返していた。

 

「ふーん、"アキト"って言うのね、イヴのパパは、ね、ね、どんなおじさま?」

「……おじさまではありません、お兄さんです…妹大好きな…本人は妹好きを否定していますが…」

「ふーん、じゃあイヴは"アキトお兄ちゃん"って呼んでるの?」

「…。」

 

(――お兄ちゃん、と呼ぶのは(やぶさ)かではないですよ…ただ…しっくりこないだけです)

 

しっくりくる言の葉、単語、人物標識…正解は既に先程からヤミの背に柔らかく投げつけられていた。

 

(たぶん効果音としては" ぽにょん!"とか"ふにょん!"とかが正しいかもしれませんね…ティア、やっぱり当てつけですね…?その効果音は貴方の巨大な"メロンムネ"のよう)

 

「じゃあパパって呼んでるのね」

「…。」

 

ぼっと耳まで赤くなったヤミ…とっさに心の筆をとる

 

 

「パパ!これあげるっ!」

 

小さな少女、イヴはすっと花をさしだしました。小さな両手に可憐な白い小さな花…

 

「お、くれんのか、ありがとなイヴ」

「ん…」

"   "はイヴの頭をやさしく、でもちょっとだけ乱暴に撫でます…そのくすぐったい感触にイヴは小さくあごを下げ…目を線にして顔をほころばせました。

 

微笑む"   "ににこにこしあわせなイヴ。

 

なかよしこよしな父と娘は見渡すかぎりの花畑の中、ふたりの笑顔も花のようでした。

 

 

 

―――なんかしっくりきませんね…別な展開を…

 

「パパ、これあげる…」

 

小さな少女、イヴはすっとバスタオルを脱ぎさりました。可憐な白い少女の躰

 

「お、くれんのか、ありがとなイヴ」

「ん…」

"   "はイヴの頭をやさしく、でもちょっとだけ乱暴に撫でます…そのくすぐったい感触にイヴは小さく肩を震わせ…上目遣いで彼を見ました。

 

微笑む"   "に抱きつくイヴ。

 

なかよしこよしな親と娘はふたりきりのベッドの中、快感に悶えるイヴの花は散るのでした。

 

 

 

 

「…ちょっと、後半のは何ですか…えっちぃのは」

―――心の筆を置き、〆。

「何のこと??」

目の前にはいつの間に追い越してきたのかティアの"メロンムネ"…(かし)げた身体につられ、ぽよんっと揺れる―――ケンカ売ってるんですかティア…私だって変身(トランス)を使えば…

 

「…いえ、別に…こっちのことです…それよりティア…家族に紹介するのは構いませんが、また今度にしませんか?その…ちょっとだけティアに…貴方に相談したいことが…あったりします」

 

視線を泳がせもじもじと身を揺する可愛い娘の言葉にティアはうん、とにこやかに頷いたのだった。

 

 

13

 

―――ではご機嫌よう、アキト

 

迎えにきた親衛隊を従え背を向けるセフィにひらひらと手を振る。

"言いたいことは全て言い終えましたから。"といった具合に話を切り上げ颯爽と街を去っていく背中―――

 

『アキト、美しいこの私が欲しかったら手柄をたてなさい』

『いらないっての』

『いいですか、夫を納得させるような手柄をたてるのですよ』

『たてないっての』

『貴方には何の特殊な能力もない…未来を識っているという事は確かに力ではありますが…それだけでは宇宙の覇者には成れないのですからね』

『ならないっての』

『いいですね?成果に見合う報酬…それは美しい私。文句はないのでしょう?』

 

―――人の話を聞けっての

 

呆れを隠さない視線を投げるが、薄いベールの下の表情は相変わらず読めなかった。かろうじて意地悪く、どこか俺を試すように口元が綻んでいるのだけが見えるだけで…

 

『貴方が何を(こいねが)い、こちらへ残ったのかはわかりません…が、』

 

 

―――手にしたいものがあったからこちらへ居るのでしょう?

 

 

「そりゃ、あるっての…」

 

あるのだ。確かに、

―――春菜が幸せならばそれでいい。ララが幸せならばそれでいい。美柑が幸せならばそれでいい。

 

「…。」

 

唯が幸せならばそれでいい。凛が幸せならばそれでいい。ナナが、モモが―――

 

「…。」

 

―――イヴが幸せならばそれでいい。

 

たとえそれが、そんな幸せに導く相手が俺でなくても…

 

「…ったく、言いたいことばっか言いやがって」

 

俺の悪態が聞こえたのか、ゆっくりこっちを振り向くセフィ。

 

「言っておきますけど、私はハーレムを認めませんからね」

 

ベール越しの可憐な唇の呟きは、きっぱりと透き通った声音でよく場に通った。

 

「俺だって認めてないぞ」

「あら、初めて意見があったわね」

「(自覚あったのか…)」

「失礼な…聞こえてますよ?それになんですか、その目は、私を誰だと思っているのですか?アキト、あなたはセフィお母さんを舐めすぎですよ」

 

ゆっくりこっちへ、再び戻ってくるセフィ。まだ言い足りないことでもあったのだろうか、散々むぎゅむぎゅと、しっとりした胸に抱きしめて慈母のような笑顔を浮かべていたが、―――

 

「…アキト、貴方の中には(かげ)りがあるわ、"自分が好きな相手をほんとに自分が好きになっていいのか"という不安と迷いが…」

「!」

「正確に言えば…"自分が幸せにしてもいいのか"という恐れね、ねぇ、アキト…貴方が好きになった、惚れた女の目はフシ穴?」

「…」

 

―――そんなことはない。

春菜はいつも真実をまっすぐ捉えて、いつだって真剣だ。自分の非を誰かに押し付け責めることなく、誰かの幸せをいつも考えて自分のことは後回し…そんなやつだ。ララも唯も美柑も凛も…俺の知ってるヒロインたちはみんな、みんな、いつだってまっすぐに、自分に正直だ。彼女たちのおかげで今こうしてココに居る

 

「…そんなことはない」

 

―――そんなことがあるわけがない。

そんな彼女たちが選択を誤るとは思えない。フシ穴だとも思わない。

 

「なら、いいじゃない。自分にとって不幸になるような相手だと思うのならば、貴方なんて最初から選ばないわ」

「…。」

「好きな女に選ばれた自分をもっと信じなさいな、アキト。貴方のどこかに幸せになれる何かを見つけたから、貴方を選んだのですよ…―――

 

チュッ

 

「…なんだよ」

 

―――額にキスを落とされた。

 

「祝福のキスです…女神のように美しいこの私の…ん、ちょっと違うわね、"母たる"女神のように美しい私からの祝福ですよ、アキト。…嬉しいんでしょ?ね、ニヤけているわよフフッ」

 

失礼な、ニヤけているわけがない。ただ嬉しかった。擽ったいような感触…遠い過去、遠い世界で母に同じことをされた記憶と重なっただけで―――

 

「ウフフ、もう。だらしなくニヤけて…いい男が台無しね」

 

むッと睨むようにセフィを見つめる秋人、クスッと口元に手を当て微笑むセフィ…和やかな雰囲気の二人を暖かく見守る親衛隊たち…

優しく微笑むセフィが顔にかかる前髪を後ろに流す…風と共に白く細い指がヴェールが外れさせ…

 

「あっ…!」

「ちょっ…!」

 

穏やかな顔立ちで俺達を静かに見守り、佇んでいた周りの親衛隊が豹変し「うひょー!」とか「むほおっ!たまんねー!」と叫び俺とセフィに走り寄ってくる…「やっべー!ギドマジうぜーし漫画サイコー!ヒロイン全てをメス奴隷に落としこむそんなギリギリアウトな少年漫画家王に!オレはなる!」と、やけに具体的な夢をザスティンは叫んだ。

 

「どどどど、どうしましょう!アキト、なんとかなさい!母さんを、美しい母さんを助けなさい!ああっ!自分の美しさが憎い!」

「オマエな…どうしろって…」

 

ぎゅむ!と俺の胸に胸を押し付けるように抱きつき、おろおろと周りを見渡し怯えるセフィ、ドドド!と猛然とダッシュの親衛隊…「てめえら邪魔すんなァ!王妃を孕ませてメス奴隷にしてギドに叱られるのはオレなんだよ!痛いのサイコー!列車に引かれてフライミートゥーザ・ムーン!」と意味不明なことを叫んで周りの親衛隊諸氏を斬りつけるザスティン。王妃を守るという親衛隊らしい仕事をしていた

 

「ああっ!蹂躙されちゃう!王妃なのに!人妻なのに!大勢に組み敷かれて☓☓☓☓☓にぎらされて咥えさせられながら☓☓☓されてしまうんだわ!」

「…それは流石にまずいな、というかセフィ母さんは凄いな、流石にそんなシーンはなかった気がする…俺も識らないぞ」

「ああっ!愛する息子の前で母さんはまた女に…」

 

さっきから俺をしっかり抱きしめ悶え震えるセフィ。背は同じくらいだからころころと、その絶世の美貌が困惑⇔恍惚と変化させる様子がよく観察できる。…大丈夫なのだろうか、恍惚の割合が多くなってきた。母さん…まさか大勢にソンナコトされるの望んでないですよね?そういえばピーチ姫&オータムのキスシーンに燃えたと言ってたな

 

「そして私はかわるがわる汚らわしい男たちに…んんっ!―――

 

【ヴィーナス王妃】「ん……あむっ…ちゅっ…ちゅ…ふぁ…」

熱く濡れた侵入者に一瞬唇を固く引き結んだヴィーナスだったが、あやすように唇を舐められやがて力を抜いてソレを迎え入れた。

【ヴィーナス王妃】「ちゅっ…ちゅっ…んっ…ふぁ…」

おずおずと舌を絡ませるヴィーナス、…徐々にダイタンになる動き、その快感に蕩けた表情はとても王国を統べる理性的な王妃には見えない

【ヴィーナス王妃】「…ん…っ……ふぁ…」

ふたりの唇に銀の糸が橋をつくる。王妃は感じる余韻にぶるりと身を震わせた

【ヴィーナス王妃】「…いけないわ…っ…こんな事…貴方は娘の恋人なのだから…」

 

見上げてくるセフィ(・・・)の目には非難の色がありありと浮かんでいた。だがその声も表情(かお)も甘く蕩けきっていて心からの本心でないことがオータムにはわかっていた。―――ふたたび唇を重ねる…

 

あ…んっ…ちゅっ…ちゅっ…

 

「はっ…俺達は何を…セフィ様!?」「せ、セフィ様が襲われて…!?ん?!セフィ様から抱きしめてるぞ!?まさか浮気?!」「あ、あの聖母のようなセフィ様が…あんな淫らな…」「オレがギドにオシオキされんだよ!誰にもギドは渡さねぇ!…はっ!私は何を…?!セフィ様っ!?アキト殿!?」―――周りがうるさい、正気に戻ったらしい

 

「おい、セフィ、母さん、もう大丈夫みたいだぞ」

「ふあ…」

 

(いかん、こんなとろとろに蕩けきったセフィの表情はとても他の男に見せられない、チャームが無くても暴走させてしまうような色気だし…何よりセフィの立場が危ういだろ)

 

さっとベールで蕩け顔を隠す秋人。キスを続けるのに邪魔だというようにセフィはやや乱暴にベールを取り払った。風に舞い上がっていくベールを慌ててキャッチし再び隠す、サッと取り払う、隠す、ブンと投げ捨てる、拾う、ビリビリ破り捨てる…

 

「母さん、落ち着いてください」

「もう、何よ…早く続きを…」

ぽかぽかと秋人の胸を叩くセフィ。どうどう、と言った風に秋人はそれを諌める。流石にモモとの授業(?)で慣れていた。

 

「あちらをご覧下さい、お母様」

妙に礼儀正しい声を出した目の前の秋人に怪訝な目を向け、背後に視線を移すと…あんぐりと口を開いた親衛隊の面々が居た。

 

ひっ…

 

声なき悲鳴がセフィの喉奥に詰まって―――

 

セフィは逃げるように地球から…秋人の元から去っていった。

 

―――こうして人妻織姫とお兄ちゃん彦星の二人が出会ってしまったことにより、歴史の流れは急激に加速していくことになる。

廻りはじめた運命の輪は、もう誰にも止められなかった。銀河全土に炎は広がり、やがてその炎は、この銀河そのものを焼き尽くしてしまうことになる。

 

 

14

 

うってかわって平和な(?)祭りの会場では、もう幾度目か、喧騒を振り返り足を止める唯が一人、人混みの中で佇んでいた。

 

「唯、ゆーい」

「おっ!お兄ちゃん?!いつ来たの?!」

「今来たんだよ、近くに居たんだっての、何ボーッと子連れ見てんだよ…こっち来いって」

 

人混みの中からクイッと手をひかれた唯は「あっ」と小さく声を上げ、たたらを踏んで秋人の胸に収まった。その胸元を掴み、ぽっと頬を赤く染める唯

 

「ちょっ…ちょっと!強引じゃない!?男の人…誠実な男の人なら優しくその…」

「誠実じゃないし、いーんだよ」

 

ニッと笑う秋人、ぼうっと見上げ瞳を潤ませる唯。傍から見れば不良高校生に(そその)かされるお固い優等生の図に見えるだろう。……むしろそのものだった。

 

「すぐ近く?なんで遅れたのよ皆心配して…あれ?皆居ない??ちょっと!お尻を触らない!ハレンチな!」

「すぐそこの公園でララママに絡まれた、疲れたお兄ちゃんは唯で"妹分"を充電しています…現在5パーセント、活動危険域です」

「はぁ?…んんっ…ちょっと!人!人いるから!」

「なんだ?居なかったらいいのか?…うむ、ムッチリしていい肉感だな」

「そ、そう?ありがと…ってバカぁ!いいわけないでしょ!」

 

―――なんだか切なげな表情で小さな女の子、その姉、彼氏っぽい男の三人を眺めていた唯、その顔は泣きそうに曇っていた。そういう顔を唯にはしてほしくない。できれば切れ長の目でキリリと睨んでツンツン怒ってばかりの妹でいてほしいのだ

 

「と、とにかく人気のない場所へ…あっ…んっ」

「なによ!私を連れ込む気!?ハレンチな!」

「そ、それは私の台詞でしょ!ハレンチでだらしないのはお兄ちゃんじゃない!」

 

そ、それにいつもは自分から…その…してくれないじゃない、と俯きつぶやく唯。秋人はそれに"人妻分"で淀んだ心を"妹分"で満たして補給しないとな、と応える。何よソレ?と剣呑な眼差しを向けながら唯は首を傾げた。

 

「よっしゃ、一応、充電したぞ20パーセントくらい、1時間くらいはもつだろ」

「だから何をよ?たった一時間しか持たないわけ?ならもうちょっと充電したら?」

 

え?いいんですか?やっぱハレンチですよね唯さんてば…

えっ

 

「一先ずはいいんだっての、で、行くぞ、唯…お兄ちゃん腹減った、たこ焼き、お好み焼き、素敵なコナモノたちと祭り限定品が俺に食されるのを待っているッ!」

「え?!あっ!ちょっと!引っ張らないで!こら!人混みを走るなんてマナー違反しないっ!」

二人は手を取り祭り囃子の中を駆け出した。何度も肩が人にぶつかる唯、よろけながらも秋人の手を離さずしっかり握り、ついて行く……それは唯の中の思い出とまるっきり同じであった。

 

祭りの喧騒の中、

"金魚すくい"に悪戦苦闘する唯をバカにする秋人の笑顔を、

"りんごあめ"の食べ方がよくわからない、と言う秋人にあめを舐めながら今度は唯がバカにした笑みをこぼしたことを、

"たこやき""お好み焼き""今川焼き"こうしてふたりでお腹いっぱいになるまでたくさんの屋台物を頬張ったことを

 

それを唯は永遠に忘れない。

 

―――忘れた初恋の情景は、今確かに、それをなぞるかのように上書きされたのだった。

 

 

15

 

 

「よう、お待たせ」

「ごめんなさい、お待たせ皆、はぐれたりした人いない?みんな居るのかしら?はぐれたらダメって言ったじゃない…全く、これ食べない?焼きとうもろこし」

 

おそーい!コッチコッチ!お兄ちゃん!もう、遅刻です…お兄さん。ういーっすオニイサン、あ…お兄様…

青白い都市光と月のないキラキラ光る星空だけの薄暗闇で、次々と声をかけてくる妹たち…

 

「あにうえぇっ!」

「おぉうっ!」

 

どかっ!と顔にぶつかるペタンコだけども柔らかい感触…ナナ、顔に飛びついてくるなよ…ネメシスみたいに溺れはしないが、ちょっと苦しいぞ

「ぅん~あにうえぇ…くんくん…ん…イイ匂いぃ~オスっぽい匂いだぞ…クラクラする」

「そりゃ男ですし…」

 

ぷす

 

<< せんぱい >>

(なんだよ)

<< こづくり >>

(また今度な)

<< やくそく >>

(守るっての)

 

―――夕暮れの教室で戦闘衣(バトルドレス)を身に纏うメア…躰を抱きしめ衣服を乱れさせ、縦長の可愛らしいお(へそ)が顔を覗かせると、紅い唇を赤い舌でペロリと舐める…ますます艶を放つ唇…頬の朱が増しこちらへ流し目を…

 

(イメージ映像みせんなっての)

<<ぶー…はぁい>>

 

すっと抜き取られるメアの朱い髪の糸。ナナの後ろにニコニコと無邪気な笑顔を見つける、浴衣姿でペロペロとチョコバナナを舐めるメアが居た。手をパタパタと開いたり、閉じたり…

 

や・く・そ・く♪

 

「分かってるっての…はぁ…」

「はふぅ…ん?!へっ!?あっ!ダメだったぞ!?まだ赤ちゃんは!!」

 

自分から飛びついたのにサッと身を翻しメアの側へと戻るナナ、メアは無邪気な笑顔で困惑顔のナナの頭を撫でる…大丈夫?赤ちゃんは入れて出さないとできないよ?ナナちゃん。へ?入れる??ナニをだ??

 

クラぁ!はぐれたの唯っちっしょ!ハレンチボディが抜け駆けかぁ!ちょっやめっ!里紗っ!と相変わらず唯をもみくちゃにしている里紗…ふと目があう。みずみずしい笑顔だった。目が笑ってなかったが…グロスを塗った薄い唇が動く

 

<ぷ ら す さ ん じぇ ん え ん ♡>

―――マジか

 

今月の支払い分を考えても減らない借金…秋人のついた溜息が夜空に溶ける。―――むしろ女子高生お姉さまのオシャレに費やした時間や浮ついた気持ちのことを鑑みれば安いものであったことを秋人は知らない。

 

その溜息を合図にしたように、夜空に次々と花火が咲き誇りだす、はっと皆は…ビルの屋上から見える――まっくろな夜空を彩る閃光――ドーンッ!と地鳴りのような大音。光るきらめく、花、花、花……またシュッと音がして火の玉が空へ駆け上がっていく…それに心を奪われる。

ライム色の小さい花が一つ、二つと広がり、そして夜空に光が弾ける――赤、緑、紫の三重の光の輪が広がる。遠い境内からもすぐ近くからも湧き上がる歓声。大きな破裂音は身体をビリビリと震わせ、花火の名残はバリバリ…と小さな音を残して薄い雲を張る夜空に溶けていく―――

 

手すりから身を乗り出し、打ち上がる花火にはしゃぐララ…その隣、花火ではなくじっと俺を眺めていた春菜と目が合う、声をかけるタイミングを見計らっていたらしい…その顔に浮かび上がる苦笑いを見つけた。つい、と刺された視線を追うと目当てのちびっこ少女がいた。散々春菜を"お姉ちゃん困っちゃう!"な状態にしておいて呑気に隅っこで美柑とふたり、花火を見上げていた。

 

「よ、美柑…久しぶりだな、ヤミサマもお久しぶりでーす、どこ行ってたんスかねー…ワタクシ探しまくりましたよ?」

「はい…ホントに久しぶり…逢いたかった、です…あき…お兄さん…あんっ、またぁっ」

「…。」

ぷいっとそっぽ向くヤミ、うるうると潤んだ瞳の美柑、震える声…浴衣似合ってるぞ、ありがとうございます…お兄さんの為に着てきましたから…んっ、褒めてもらえて嬉しいです…マジか、ありがとな、キャストオフさせたい。はい、いいですよ…ふふっいつでもどうぞ…と会話を続ける。ヤミは変わらず夜空の花火をぼうっと見上げていた。

 

「ったく。どこいってたんだっての…春菜が心配してたぞ、春菜が」

「…頭をぐりぐり乱暴に撫でないでください、アキト…古い知り合いに会っていたんです、懐かしい…遠い過去の―――」

「へー、おー、花火きれーだなードーン!だっておい、ははっスゲースゲー三連発!たまさんやー!」

「…聞いておいて興味ないんですか」

 

じと…と恨めしそうにヤミが見上げてくる。明らかにふてくされている…珍しい。こういう控えめに訴えてくるヤミは初めてだ…美柑も困ったように苦笑いで肩をすくめた

 

「なんかあったんか?」

「別に…どうせ言ったって貴方は話を聞かないでしょう」

 

三重の牡丹が次々と夜空に咲いていく。 間近で見上げているせいか腹の奥まで響くような心地良い破裂音と共に。一同は瞳を輝かせながら打ち上げ花火をただ見ていた。夜空の下、花火の鮮やかな色とりどりの光たちが、薄暗闇の中、ヤミの輪郭をぼんやり浮かばせる

 

「言ってみろって」

「…。」

「なぁ、ヤミってばよ」

「…。」

 

ちらっと顔を見た。くるり、と―――

 

「ん?」

「…。」

 

―――掌に掌を重ねあわせる。重なりあう肌から広がる、伝わる温もりと満たされていく心…幸福な、しあわせな、暖かな…ひだまりの気持ち

 

―――ティア、貴方の言っていたことは間違いではありませんね…

 

『なぁんだ、そんなことかぁ…いいイヴ?触れてみてごらん、そうやって感じたことが答えだよ?』

 

すっと名残惜しそうに手を離し、ヤミはふるふると長い金髪を揺らし…空気を読んで離れた場所で見守っていた美柑のところへ戻っていく―――秋人は「ん?」と首を傾げヤミの背を見る…一度だけ振り返ったヤミと目が合うがプイッと目をそらされ、もう一度首を傾げる秋人…そんな様子をヤミの親友である美柑は微笑ましいものを見たように優しく眺めていた。

 

「お兄ちゃん」

「何なんだアイツは…遅れて悪かったな、春菜」

「ううん、いいよ、ヤミちゃんとはお話した…?私たちより先にお祭りに来てたみたい、お母さんみたいな人にあったんだって、誰だろうね?」

「…そっか、ったく散々心配させやがって…呑気に美柑と花火見てんじゃねぇっての」

「ふふっ心配したんだ、お兄ちゃん」

 

春菜と共に夜空を見上げる…またドーン!と音がし花火が咲いた。活動的な夏の高揚、祭りの夜の興奮、

 

「心配なんかするかっての」

「もう、素直じゃないよね、お兄ちゃんは」

 

2つの高揚感は二人の胸を高鳴らせていた。

 

光輝く色とりどりの花達は春菜の浴衣姿をぼんやりと反射させる、ほっそりしなやかなラインを描く春菜の全身像はとても綺麗だと秋人は思った。特にくびれた腰のラインは清純清楚な春菜にしてはゾクリとする妖艶な色気があり―――

 

「別に心配してないんだっての」

「ふふっ…お兄ちゃんのうそつき」

 

――思わず抱き寄せたい程だった

ぷいっと目線を花火へと移す秋人。どこかそわそわと落ち着かない気持ち、高揚する気持ちには祭りの賑やかな喧騒以外のものが多分に含まれていた。

 

…それはまた春菜も同じで…

 

「…綺麗だな」

「…うん、ありがと…お兄ちゃん」

 

―――それはこの夏、初めての浴衣を身に纏った春菜のことであった。春菜には秋人が自分を褒めてくれた事をちゃんとわかっていたのだ。春菜は俯き、頬をうっすら朱に染め上げ…

 

「ん?」

「…」

そっと、秋人の手を握った、白魚のように滑らかな指が、無骨な男の指に絡むように…

 

重なった手は優しく、だがしっかりと握り返された。共に高鳴る胸の鼓動、

 

夜空にまた。花火が上がる…シュッ…と上がり、腹奥に響く音を奏で散っていく―――

ふっと目を合わせるふたり…名残の音と共に眩い橙色の花火の残響がお互いの頬を、その静かで、澄んだ表情(かお)を、全身をぼんやりと暗がりに浮かび上がらせる

 

春菜…

秋人お兄ちゃん…

 

薄く、夜空にけぶる微笑みを浮かべる春菜…どこか儚げなその微笑は、春菜の片頬を照らす花火の名残りのようだと、秋人は思った。

 

知れず、ふたりは手を強く握りあう。…まだ足りない。

くいっと反対側の手を引かれる、見ればジトぉ…と美柑が見上げていた。

 

「ずるーい!はるなっ!お兄ちゃんとイイフンイキだったね!なんか声かけづらかったよー!」

 

ぴょんっとララが秋人の背に飛びつく、浴衣仕様に唯同様、長いピンク髪をまとめ上げた髪が揺れずに跳ねた。

 

「うおっ!ララ…ったく重いぞ」

「えぇー!?重い!?今日はペケ居ないよー?んあっ!チョットーリサー!やんっ!くすぐったーい!」

「おにょれ…次から次から次へと…ワガママボディーのララちぃまで手籠めッスかぁ?オニイサン…ぷらすにしぇんえん…」

―――マジか

「こら!ララさん!里紗!ハレンチな行為は控えなさい!男子に二人して抱きついたりしないッ!もっと学生らしく健全な…」

「♪」

「オイ!メア、撃ったらダメだぞ!?落ち着け!」

「…メア、アキトに手を出したら今度こそ許しませんよ」

「や、ヤミさんも落ちついて、ね…あうっっ!―――

 

止まっていたかのような時間の流れは慌ただしく動き出す、騒ぎ出す屋上に、ぼわっっっぅ!と辺りに煙が立ち込め―――

 

はっ?!え?!なになにー?こっちにも花火ー?ケホッケホッ、なによコレ…メア、敵ですか?んー分かんない、誰かな?楽しみ♪あははは…このタイミングで…

 

「美柑!兄ちゃんは例え西蓮寺のお兄さんでも許さないぞ!まだ小学生なんだから健全な…」

 

全裸のリトが。

 

「健全な……」

 

タラリと汗がリトの頬を伝う…それはぶわっと瞬時に全身から湧き上がった。ちょっと大きくするリト

 

「…ナニしてんの」

 

ジロッと、なれた様子で見下げる美柑。肩車された美柑は文字通りリトを見下げている。心理的にもそうだった。

 

「「「「「…。」」」」」

 

ヒロインたちに様々な色の目で見られるリト…視線には驚きだとか、困惑だとか…ちょっと可哀想すぎじゃないか、と秋人は思ったが口にまでは出さなかった。しっかり春菜の目を塞いでいる。

 

あれ、リトのちっちゃい

 

―――ララ、まじまじ見てるんじゃありません

 

溜息をつく代わりにこんなことをした妹…モモを剣呑な目で見つめる…ビクッと肩を震わせるモモ

 

交わされるアイコンタクト、その背後では猛然と猛威を振るう美柑とヤミのオシオキと罵声が木霊していた。秋人は思う、こんなトラブルばかりの日常も悪く無い、と。ヒロインたち…妹たちが誰を選ぶのかは知らないが、それまでは優しく見守っていよう、と。

 

傍らの春菜はモモの情報と今夜観た光景が繰り返し脳裏に浮かび上がっていた。ぎゅっと知らず握り締めた手は優しく握り返された。その愛しい感触に春菜の決意は固まるのだった。




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2016/01/26 一部台詞改訂


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【 Subtitle 】

11.晴れ(ぎぬ)ゆらめく宵の口

12.水も()り得ぬ親子の蜜月

13.背中を押されたローリングストーン

14.秋に色づく夏夜の青春

15.夜空に弾ける花火のように


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