貴方にキスの花束を――   作:充電中/放電中

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R.B.D閑話『いつか何処かの、誰かのMerry Christmas』

暗く暖房の効いていない部屋はしんと静まり、私と彼が居た頃の暖かさは無く――――冷えた空間が広がっている。

 

それはいとも簡単に私に"あの頃の私"を想起させる…

 

素足のままリビングを抜け目的地の部屋へ向かう。ひたひたと静かな足音を奏でるフローリング、冷たいドアノブに手をかける寸前…もしあの時と同じように彼が居なかったら…、と息を潜めドアをそっと押し開ける――――

 

部屋にはクリスマスツリーだけがあった、ぽつんと置かれた小さなツリーはオーナメントと赤、青、緑にチカチカと瞬き輝いている。瞬きはあの頃よりも控えめになり、そろそろ買い替えどきかもしれなかった。でも間違いなくこのツリーだけは捨てないし買い換えることもないと思う。

 

(よかった…これがあって…ということは)

 

「何ぼーっとしてんだ」

 

後ろから声をかけられる。振り返ってみると、腕を組んでニヤニヤと私を見ている彼が居た。

 

「ううん…ちょっと、ね」

「ふーん…ちょっと、なんだよ?」

「…思い出してただけ」

「ふーん、何を?」

 

むっと彼を睨む、相変わらずニヤニヤとした悪そうな笑顔…あれは全部知ってる顔だ。そもそも今日、クリスマスイヴの夜にわざわざこの昔のウチに呼び出したのも、このツリーを置いたのも彼だろう。だから私が今、何を考え、何を想い、どうして欲しいかも全部知っているはずだ。彼とはもう短い付き合いではないのだから――――

 

不満をぶつけるように思いっきり彼の胸へ飛び込む。二人して重なり固い床に倒れこむ…ゴンッ!とフローリングを叩く音がした。――――彼が頭を打ち付けた音、痛そうな音に心配になる…でもちょっぴり胸はスッとした。

 

あの時と違い、彼はスーツ

あの時と同じ、私はドレス

 

ほんの少し、時の流れを思い返す、

 

(―――あの頃の私は…確かな絆を新しい絆に紡ぎかえるのが怖かった。もしもあの時、自分の気持ちを、選ばなかったら…)

 

背中に冷たいものを感じ、すっと彼の胸から顔を離し見下ろした。私と同じ色の…優しい瞳をじっと見つめる

 

「…ね、あの頃、私…なんだった?」

「ただの妹」

「…じゃあ、今の私はなぁに?」

「…やっぱりただの妹…じゃなくて俺の妻だな」

「…でしょ?」

 

よくできました、と頬を撫でる。間近に彼の顔がある、薄明かりで見ても私の頬はきっと赤いことだろう。この後の展開に期待している…寒気を感じた分だけ、彼の熱を私は欲しがる…その求める気持ちは躰の中を流れ、芯から火照らせていた

 

「もしかしたらなんかねえよ、俺とお前はずっと一緒だ」

「…。」

 

ほらやっぱり、と思った。私の考えなんてお見通しで、いつだってこうやって私の心も躰も一人占めして――

 

「…痛いだろ」

「お兄ちゃんが悪い。私は悪く無い」

 

むぎゅっと頬をつねる。…彼はとっても不満そう。違う反応…例えば感動に震え、涙で胸に顔を埋める私…なんてのを想像してたのかもしれない、けどそうはいかない、もう十分成長したんだから…涙目にはなってるけど

 

「きゃっ!」

 

くるり、形勢逆転。今度は私が下になる

 

「ぁ…」

 

ゆっくりドレスを脱がされる。あの時も脱がされたけど、こうも優しくはされなかった。腰を浮かせて彼を助ける…そんな私も居なかった。

 

「な、…お前は誰のものなんだ?」

 

ゆるゆると彼の視線が私の躰の上を滑っていく…最後の布一枚になってる私。見られた部分全てが熱を帯び、知らないうちに浅く息を継いだ。

 

「ふ…っ、あんっ…お兄ちゃんの…あなたのものだよ…あなたはぁ…わたしだけのもの…」

 

彼の頭を胸に掻き抱いて耳元で囁く、何度こうして脱がされ見られてもやっぱり恥ずかしい…あの頃から成長してないのかもしれない、慎ましやかな胸には相も変わらず春の芽吹きはまだこないし…

 

もぞもぞと動く彼…ちょっと苦しいのかもしれなかった。それだけ彼が愛おしくて、きつく離さないように、ぴったり離れないように抱きしめたから――――クスッとおかしくなって微笑ってしまう

 

「ふはっ…春菜、…んっ」

 

酸素を求める口を唇で塞ぐ。文句も、意地悪ももう言わせない。くるりと今度は私が上になった。

 

(――――今夜は寝かしてあげないんだから)

 

キスをしながら彼のスーツを脱がす私はあの頃の私と違って、目の前の彼と、お兄ちゃんと同じ悪者キャラかもしれなかった。

 

「ちゅむ……あふ…」

 

そう思うと短い息継ぎの、微かにしか離れない口元に笑みが浮かぶ―――お兄ちゃんも…秋人くんも同じく目を細めて微笑ってる、「生意気になったな」と

 

(またお兄ちゃん目線するんだから…もう、今くらいは私の旦那様目線でいてくれてもいいのに)

 

「…今夜はたっぷりかわいがってあげるわ…あなた…あ、朝まで…」

 

お兄ちゃんの望み通り、生意気をいう。目を丸くする私の旦那様……ややあって弾けたようにあははっと笑った。照れながら私も笑った。くるり、と今度は下にされる

 

「生意気いう春菜には清純ヒロインとしてもう一度導いてやらないとな」

「ぁ…秋人…おにいちゃ……んっ!」

 

―――そのままふたりは深く重なり、愛し合う、ふたりのクリスマスイヴは日が昇っても終わりそうになかった。

 

…終わりの見えない睦み合いをツリーの光だけがどこか呆れたように見守っているのだった。

 




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2015"X"mas限定話でした。


2016/02/02 一部改定

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