貴方にキスの花束を――   作:充電中/放電中

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Re.Beyond Darkness 19. 『星夜の晩に舞い降りる~Battle of Darkness Ⅲ~』

33

 

 

閃光の霧が晴れた向こう、秋人は細めた目を―――驚き見開いた

 

すぐ傍に居た少女、いつもの戦闘衣(バトルドレス)を身に纏っていた"金色の闇"の姿はなかった。

 

頭部には鋭利な角。指にも角と同じく尖って触れるだけで切り裂かれそうな長い爪。小柄な躰は線のような黒いリボンで局部のみ隠し、そして彼女が普段絶対履かないような厭らしく食い込んだ下着

 

―――ダークネスが目の前に立っていた。

 

「パパ…」

 

秋人の脳裏にあの時の光景が蘇る。病室で聞いた呟き、ヤミが溢した切ない想い、万感の想いを込められた、呟き

 

『……リ…………ト…』 

 

「――イヴ…」

 

だから秋人はいつもの呼び名で返さなかった。悪魔のような翼を生やし、()のような角を生やす少女の瞳に、赤いルビーの瞳の奥に

 

「パパ……イヴのこと好き?」

「…。」

「…そう、イヴはパパが大好きだよ、ずっとずっと欲しかった…求めていた優しい光…やっとみつけた…あのヒトのおかげでみつけられたよ、だから、ね……」

 

少女の()を見たからだ

 

「もう勝手に消えて居なくなったりしないように――今度は私が消してあげる…。そうすればパパはずっとイヴが独り占め、イヴとパパはひとつになって永遠になる…"はるなおねえちゃん"も手の届かない場所に連れて逝ってアゲる」

 

先ほど見た光。それとは違う妖しい輝きを宿し、じゅるりとイヴは…ダークネスは口の涎を拭った。

 

狂気のルビー()が一度強く光る。

爪に巻き込まれた髪が口に張り付く、鋭い爪が変身(トランス)の光を輝かせながら鋭さを増してゆき、確かな刃を(かた)どって―――

 

水面の光を反射する禍々しき刀身、それは命を奪う為の刃。

 

「イヴ、俺は殺されるわけには…また消えるわけには…」

「さあ、パパ…パパのあっつい(ピー)液、イヴに浴びせてね……♡」

「おふっ!」

 

とんでもない事を口走るダークネスに秋人は思わずむせた

 

「だぁぁ~いすき♡なイヴのパパ♡この躰という器に、パパのあっついどろどろの餡を注いで…二人でたいやきつくろーね♡」

「ハレンチなーッッッ!!!出てこいやコラ!アホしーす!!!」

 

内なる唯があまりの羞恥に絶句していた為、秋人は代わりに力いっぱい叫んだ。

 

呼び声に答えるように震えるプールの水面。更衣室の暗がりからネメシスが闇を集め実体化する

 

「ククク!おにいたんよ!呼んだな!!六人目の戦士!快楽天使!穿()かなくも美しい!ねめしすシースルーッ!ほかほかとろとろ只今参上!」

 

白のスクール水着を身に纏ったネメシスは不遜な笑みを浮かべ、胸を張った

 

「オイ!どういう事だコレは!?」

「名乗りは無視か」

「いいから答えろっての!これはどういうことだ!」

「フ…おにいたんよ、お前こそ鍵だったのだ!」

「ハァ!?」

「お前はこの世界には存在しない、別の可能性の世界、神々の世界からきた稀人だ!言わばそれはこの世界のバグ!バグがバグを引き起こす!当然の帰結だろう!」

「パパ♡よそ見しちゃダメ♡」

「――うおっ!?オイこら!斬りかかってくるな!やめろ!」

「金色のダークネス化にはお前のキスが必要だったのだ!」

「うおおっ!」

 

秋人はすんでのところでダークネスの切り裂き攻撃を躱す。逃げ惑う秋人にネメシスは続けた

 

「私の楽園(ハーレム)計画。この銀河を戦乱に落とし込める第三次銀河大戦の勃発。私、メア、金色の兵力、そしておにいたん…お前の知識を利用して銀河をこれ以上無い程の混沌(カオス)へと落とし込める混沌(・・)楽園計画はお前のおかげで狂わされたのだ!」

「うぉおおお!?ちょっ、おいコラ!本気か!?イヴ?!」

「変身兵器たちに持たせた意志、そして能力向上(アップデート)。最強を求める兵器としての本質を変質させ、新たな意志を持たせたのはおにいたんのキスだ!ダークネスさえも本来の破壊の衝動、それ以外に持った意志がある!ククク…!暇潰しには最高だ!こんな混沌(カオス)聞いたことも観たこともない!…ってまたシカトか。切なくなるだろ、股間とか股の奥とかいろいろが」

「お前の与太話なんか聞いていられるか!てか撮ってんじゃねえ!」

「心配するな!いつまでも色褪せない想い出がこの手の中に!メモリアルな記念日をデジタルハイビジョンで!画質・音質、ともに最高のカメラ(モノ)を選んできた!」

「誰がそんな心配した!いいからパンツ穿けっての!」

 

秋人が放ったダークネスパンツ(SR食い込みブラック)は綺麗な放物線を描き、ネメシスはしっかと頭でキャッチした。

 

「…おにいたん、白スクの上から黒の紐パンは革新的・先鋭的過ぎではないか?」

「いつか人類が追いついてくる!「なるほど、流石は私のおにいたんだな!」」

「アンタ、さっきから何…?お邪魔虫?パパとイヴの邪魔するの?」

 

きゅ~ぱっちん!と新たに生み出した黒の紐パンを食い込ませ、ダークネスはネメシスを鋭く睨んだ。破壊の化身・ダークネス、その凄みのある視線にネメシスは不遜に嘲笑ってみせる

 

「案ずるな!ダークネス!お前の初の子作りシーンを動画で収めるだけだ!決して邪魔はしない!オカズにするだけだ!そしてうっかり銀河中に拡散・流出させるだけだ!ちなみにタイトルは…」

「…ウザい」

 

グワバッ!とネメシス(白スク)の足元に巨大な口が現れる、大きな口に飲み込まれ消えていくネメシス…

 

「ああぁあああ!せめてカメラだけでもおおおっっ!!」叫び声は闇へと消えた。

 

「さ、邪魔者は消したよ、パパ…おとなしくイヴとひとつになろーね♡」

 

何時の間にか捕らえられた秋人にはダークネスが跨がっていた。

金の艶髪、その()が膨らみかけの胸元へと伸びていく。凶器の両腕は相変わらず刃のままだ

 

殺したいのか、それとも契りたいのか。

破壊の本能と恋慕の狭間でダークネスは混乱しているらしい

 

ダークネスが戦闘衣(バトルドレス)を完全に脱ぎ捨てる、秋人が口を開き何かを叫ぶ、突き刺さった金色の刃が命を奪う――

 

が、最後の一つが為されることは無かった。

 

それよりも早く――――――

 

 

――――――黒いドレスの疾風が吹いたからだ。

 

 

34

 

黒咲芽亜、メアにとって感じ取ったものこそ現実(リアル)だ。

 

多量の砂糖菓子に幸せを感じ、贈り物には嬉しいと感じ、面白いものには夢中になる。感情表現はヤミよりずっと豊かであり、かつ感受性は繊細で敏感だ。

 

そしてメアは快楽や悦楽、その逆にさえ激しく共感できる…―――それは相手の精神(こころ)に自身を同一させる精神侵入(サイコダイブ)が影響していた

 

だからこそ同じ兵器として『同類』と感じたマスター・ネメシスの意志に素直に従っていたし、"兵器としての活き場"を創るという思考に同調したのだ。

 

それは自身が兵器として生きる未来を真剣に見据え、同調したのでない、「なんだか楽しそう、素敵♪」という感覚的なものだった。短絡的とも言えるがそれは違う、まだまだ思考が幼いのだ。

 

思い通りにならないものは邪魔、だから壊す

 

幼さゆえの残虐さもあった。これまで巡った数多(あまた)惑星(ほし)で奪った命はそれこそ星の数

 

――――感じる感覚こそ全て

 

今は身に備わる全ての感覚が秋人を必要とメアは感じていた。

無論、初めからそうだったワケではない。"変身兵器イヴ"の破壊の化身『変身(トランス)・ダークネス』発動の障害となれば排除も辞さないつもりだった。

 

だが、気まぐれで眠る秋人に意志を繋いで呼び戻す手伝いをした時、その考えは変わった

 

 

警戒、友愛、渇望へ―――――――――――――――――――…………

 

 

ドガッ!!

 

ダークネスに走る衝撃。油断からまともに食らい、真横へ吹き飛ばされた

 

2回、3回と水面上を錐揉みした後、ダークネスの身体はプールの縁に盛大にぶち当たって動きを止めた。真っ直ぐ水平に飛んだ姿はさながら交通事故にでも遭ったかのようだった

 

「せんぱいに手を出しちゃダ・メ♪」

 

瓦礫と共に立ち昇る水飛沫、大惨事にも関わらず暢気すぎるメアの呟き

 

ダークネスへと変身(トランス)した(ヤミ)に得意の突撃銃(アサルト・ライフル)の光弾ではなく、強烈な飛び膝蹴りを決めたのは彼女の()"赤毛のメア"である

 

――――たとえ私のヤミお姉ちゃんでも、せんぱいはアゲないよ♡

 

プールの海に沈み、未だ浮かんでこないダークネスを見ながらメアはそんな事を考えていた

 

*

 

「………ハッキリわかったよ…メア、やっぱりおねえちゃんの邪魔をするんだね…」

 

躰から水を滴らせ、ゆらりと水面上に降り立つ。アレほどの強烈な攻撃を喰らってもダメージはまるで無いようだった。だが不快ではあったのか、頭を振って光りの雫を降り払い猛禽類のような瞳で獲物を睨む

 

「もちろんだよ♡ヤミお姉ちゃん♪」

 

大きく頷き、容易く受け止める彼女の()自身(イヴ)のデータを元に造られた第二世代。それがダークネスの苛々を滾らせ――――

 

「うれしいよメア、初めて会った時から気に入らなかったからね…前に負けたの覚えてないのかな?今度こそおねえちゃんが息の根を止めてあげるよ…――――」

「そう?ありがと。でも、今度はそう簡単にはいかないよ?ヤミお姉ちゃんには絶対元に戻ってもらわなきゃね。私がせんぱいを(とりこ)にできないし、それに…――――」

 

「「―――パパ(コレ)は私の(モノ)!誰にも奪わせたりしないッ!」」

 

激情をぶつける言葉を合図にふたりは同時に地を蹴った。

 

35

 

夜空を斬って流れる二筋の流れ星。

 

都市の青白い仄かな光、その光を躰全身に浴び、燐光を纏いながら二人は追跡・追撃し合う。

 

朱を追う金の光、金を追う朱の光。それは文字通り流れる双つの流星だ。

 

高層ビルを足場に変え、次から次へと飛び移っては宙で刃と刃を交差させる二人の変身兵器(トランス・ウエポン)。打ち合わせる度キィン!と甲高い金属音が響く、その度生まれる、生み出される火花は一瞬煌めき、闇へと消える。

 

光の残響は―――ヤミが見ていた星の瞬きによく似ていた。

 

ギィン!

踏み出し飛び込んだメアの真紅の刃、ダークネスの金色の刃、2つの刃が交差し激しい火花を散らす。

 

「!」

「…」

一瞬力が均衡し、睨み合う二人

 

生み出した金色の刃以外にも空間自体を変身(トランス)させ生み出すワームホールや、ゴーレムなど数多の優れた能力があったが敢えて使わない破壊の化身・ダークネス。

 

なぜならそれは…―――

 

「…っ!」

「……へぇ」

 

軽くいなしたダークネスが不敵に呟いた。

 

―――自身より劣っている者に全力を尽くす必要などないからだ。

 

矢継ぎ早に攻め立て生み出した隙に致命傷を与えに来る真紅の刃、力で弾いて受け流し破壊を招く金色の刃、自らの刃と相手の刃、その動きに没頭していく。地に脚を押し付け、全ての力を速度に変えたメアの一撃は、

 

ガキンッ!

 

「メア…アンタ弱いよ」

 

いとも簡単に防がれた。再び弾かれ、離れる二人の距離

 

「ヤミお姉ちゃんてさ…―――」

 

メアの心の中を探るような視線。声音、滞空を終えた躰はもう一度ビルを強く蹴り―――

 

ガキンッ!

 

「メア…アンタ、パパをどうするつもりなの?」

 

交差する刃。視線と視線。それには答えず問い返すダークネス。同じ事を問うつもりであったメアも僅かに目を細める

 

「私?子ども作るつもりだよ?」

 

さも当然、と言ったように言葉と斬撃を返すメア、「お姉ちゃんもそうでしょ?」と続ける

 

ガキンッ!

 

「ハァ?子どもならイヴがもう既に居るんだけど?」

「関係ないよ?あたし、カラダ丈夫だし…きっといっぱい産めると思う、子孫繁栄は生物としての本能だよ?そんなことも知らないの?ヤミお姉ちゃん」

 

不思議、と小首を傾げるメア。繰り出される鋭い斬撃…スルリと身を捻り交わして―――、

 

ドガッ!!

 

「――生意気…ッ!」

 

メアを下方へと大きく蹴飛ばしプールの海へと叩きつける。

空中で何度も錐揉みし、やがて水面へとぶち当たって動きを止める。巨大な噴水が設置されたかのように盛大に上がる水飛沫。先ほどのシーンをキャストと天地を入れ替え再現したようだった。それを興味なさげに一瞥した後、目を細めたダークネスは何かを思い立ったようにふと、呟く―――

 

それもアリかもしれない、と。

 

「そういえば熱い(ピー)液…オトコのヒトがイくのは出すことであって殺して逝くコトとは違うんだっけ……昔ティア(ママ)に聞いたような…?」

 

プールに落とされ冷えた躰に適度(・・)な運動、立ち昇る水柱をみて生理的欲求を訴え始める躰。加えて食い込んだ下着の奥にも湿り気を感じ、先程から脱ぎ捨てたくて堪らなかったのだ。

 

「…ン?」

 

――――――子孫繁栄は生物としての本能だよ?

 

答えるように先ほどの言葉が破壊の化身・ダークネスの脳裏を掠める。綺麗な眉を寄せあげると、"ひとつになるには命を摘み取るより他にもある"―――――――――と、唐突に気がついた。

 

物理的かつ精神的に一つになる方法…視線の先には彩南高校校舎、その屋外には躰が訴え求める施設――――混濁していく意識と思考……―――――――――

 

 

ぐちゅっ…ぬぷっ……

 

「どう?パパ…イヴのお口…気持ちいいでしょ…あむっ…」

「う…イヴ…」

 

目細め微笑う少女、口元の涎、白い頬…その柔らかな素肌にかかる長い金髪を後ろへ流し行為を続ける…熱心に咥えてねぶり続け…

 

「んぶ…だって私のナカに入ってくるんだもん…キレイにしとかなきゃ」

 

一度だけ僅かに唇を離し、ちろりと見上げ呟いた。漆黒の薄いキャミソールドレスの肩紐が激しい躰の…というより頭の抽送により、片方だけ外れている。

 

ぬちゅるっ、ぺちゅっ、じゅぷっ!…じゅるる…!

 

肌蹴た胸元を隠すこともせず、再開される水音。この場でその躰を見ているのは彼女が愛を向ける男だけ、見られて何も困ることなどなかった。むしろよく見て欲しいと思ってさえいた。その方が元気に跳ねるから。

 

少女は時折見上げながら、態と淫猥な音を立てる。小さく狭い空間によく響くそれは、情欲を刺激する淫らな音だ。だが此処では…あまりによく響きすぎた。パパと呼ばれた男は少女の頭を押さえつけるが、クスリと微笑み返されるだけだった。小さな口をめいいっぱい広げながら、頬張りながらのその笑顔は幼い見た目に反し堪らなく淫らな笑みだ。ゴクリと鳴った喉音に、喜色を浮かべる少女は抽送を続け……

 

じゅちゅ…じゅる…じゅるるっ…!

 

「なぁ…最近ヤミちゃん可愛いよな?俺、ああいう小さい子も好きかもしれない」

「ロリコンかよお前…たしかあの子チョー強いんだろ?確か銀河一、とか」

「マジかよ…じゃあアレか、いい雰囲気になっても押し倒したりとかできないのか」

「アホ、お前なんかといい雰囲気になれるかよ」

「ああん!?お前、蹴飛ばすぞ!」

「うわっばか!手についたろうが!」

 

薄い扉…それ越しに聞こえる男子の話し声…個室のトイレでは扉を閉めても上は開放され下には隙間、いとも簡単に声が届くのだ

 

「ぷあっ……ねぇ、パパ…聞いた?イヴ人気者みたいだよ?ヤキモチ妬いちゃう?」

「ば、バカ、声が…」

「聞こえちゃったらどうしよう…でもバレてもいいよね、イヴが誰のモノかハッキリ皆に解るから…でもパパはイヤ…かな‥?…父娘でこんなことしてるの知られちゃったら…もう此処へは居られないね…あ、ピクピクしてきたよ…ふふっ…イヴのナカ…えっちぃあそこに入りたいのかな…?」

 

「んん!きたぁ♡!」

 

 

「…――――パパの(ピー)液…そうか、殺しちゃったらもう出せないじゃない」

 

プールから浮かび上がろうとするメアの気配、それをきっかけに揺らぐ思考の流れと漆黒の双翼を消し、ダークネスは元の居場所…秋人の待つ、彩南高校プールサイドへと降り立った。

 

 

36

 

「さ、邪魔者は消したよパパ。イヴの…女の子の一番恥ずかしい部分、その奥の奥で暖めてる卵あげるからね♡」

「あのな、イヴ。俺はシスコンだがロリコンじゃないんだ…それにイヴ、お前ホントは…」

 

メアをネメシスと同じくワープさせたダークネス、先程より過激さを増した台詞をスルーする秋人。内なる唯は布団を被り猫のように丸まってしまっている。心を閉ざした唯を兄として慰めないわけにはいかないのだ。ちなみに秋人自身、無意識にあっさりシスコンを認めてしまっている事に気づいていない。

 

「知ってるよ、だって妹じゃなかったから他の女に手を出しても…イヴには手を出さなかったんだもんね……?」

 

ほんの僅かな不快感を滲ませる声音、それがハッキリとした不平不満に変わる前にツウ――と頬から血が流れる。頬の白を伝う紅、それは恐ろしい程に赤く美しい、鮮血。

 

「お兄様の帰りが遅いので…迎えに来て正解でした♡」

 

父娘の間にふわり降り立ち、浮かべる微笑

ヴン…と静かな駆動音を響かせ漆黒の反重力ウイングが消滅する。星夜に優雅に降り立つ姿は舞い降りた天使のようにも死神のようにも見えた。

 

「…どっから湧いてきたの?もうお邪魔虫はいらないんだけど?」

 

ぺろり、とダークネスは頬の血を舐る。秋人を護るように立ちふさがる介入者の視線から視線を外し、頬を傷つけた棘のある花、それから黒と緑の縞のソックス、足元から介入者を捉える。最後にもう一度落ちている黒薔薇に目を向けた後、黒薔薇(それ)に酷似した相手を睨み返した。

 

「人を害虫か何かのように言わないでくださる?綺麗な花に這い寄る虫は駆除したくなりますので…知ってました?私、植物が大好きなんです。電脳空間に植物園を持ってるくらいなんですよ?」

 

ふわりと可憐な笑み。まるでその微笑を中心に花畑が広がるような整った笑顔。銀河を統べる第三王女としての美貌と品性を十分備えたプリンセス・スマイル。普段の"金色の闇"には、"破壊の化身・ダークネス"には到底できないような愛想・愛嬌を振りまく笑顔

 

「なら、やっぱりアンタ害虫じゃない。イヴのパパに纏わりつく雌の…ひっつき虫。前にベッドについてた女の匂いアレ、アンタなんでしょ?」

 

それを全く意に介さず、ダークネスは鼻で嘲笑った

 

「さあ?なんのことでしょう?」

 

頬に指を当て小首を傾げる、どこかを見上げる視線の先にはっきりと見えたのは情愛の色。恋する乙女の美貌に今度こそはっきり不快感を滲ませて

 

「プリンセス………アンタもイヴの邪魔するワケ?ウザい。やっと姉妹同士の殺し合い(話し合い)が終わったんだから、関係ない(・・・・)女は引っ込んでてよ」

 

ダークネスは突き放すように言い放った。

 

関係(・・)ない(・・)…―――?」

 

それをゆっくりとした呟きで返す、背後の秋人に一度だけ意識を向けた後続けて

 

「―――ここに居る方は私の、私だけの大切な御主人様(ヒト)なんですけど…?」

 

そして、その場の空気が一変した。

 

ダークネスの前に立つ者に変わったところはない。だが、纏っている空気が一瞬で激変していた。まるで、これまで押さえつけていたものを解き放ったかのように。

 

外気に晒されている肌がチリチリと焦げつくのを感じる。背筋に戦闘の緊張が走る

 

これは殺気だ。ダークネスに物理的な圧力さえ感じさせるほどの濃密な殺気が目の前で噴き出ていた。

 

現れたのは一人の少女。桃色の髪に紫青の瞳。

 

"大戦の覇者(・・) ギド・ルシオン・デビルーク"――――その()

 

モモ・ベリア・デビルーク

 

 




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2016/02/24 改訂&再投稿

2016/05/21 一部台詞調整

2016/10/20 一部改訂

2017/03/19 一部改訂

2017/05/13 一部改訂

2017/08/12 一部改訂

2017/10/03 一部改訂

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