貴方にキスの花束を――   作:充電中/放電中

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Re.Beyond Darkness 20.『閃光、舞い落ちる少女~Battle of Darkness Ⅳ~』

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"恋する乙女(キミ)は美しい"―――そんな陳腐な詩の一節がモモの脳裏を掠めていた。

 

 

数年ぶり、久方ぶりに再会したララ・サタリン・デビルーク第一王女は随分と綺麗になっていた。

 

「はぁ…、んっ…」

 

宇宙一の美貌を持つセフィお母様、母のそれを色濃く受け継いだお姉様はもともとそこに在るだけで魅力的だった。それは一輪の薔薇のように――――――華やかな花。

 

「んっ…っふ…、あ…ん…ちゅっ」

 

その美貌を恋が加速・上昇させ、お姉様をより美の高みへ押し上げている。そして、そんな恋のお相手は……私にもすぐ傍に。恋する乙女に当てられて、私の恋が咲き始めた。

 

 

――桃の花は花粉がある品種なら勝手に実を作る。でも花粉をつくらない桃の花もある。

 

さて、そんな桃はどうやっては実を作るのでしょう―――?

 

 

その答え、第三王女に恋の花粉はまだ付けられていない、だからお相手を、婚約者候補を…花粉を多く持つ第一王女()からもらって実を作るのだ。

 

こうして姉の花粉を受け取った温室育ちの白桃はリトさんへの、恋の蕾を芽吹かせた。

 

 

の、だけれど――――

 

 

「んふぅ、ちゅっ!ちゅくっ!」

 

キスはすぐに濃厚なものへ移る。誰も邪魔は入らないのに、奪わずにはいられない。

 

薄暗く埃っぽい体育倉庫、人気のない場所で二人は唇を奪い合うように重ね続ける――――否、奪っているのは少女の方だった。

 

モモは秋人の手に指を絡め、マットの上に貼り付けるように押し倒していた。馬乗りになっても少女の体は軽い、だが、それに反して力は地球人など及ばないものがある。

 

「ん、んっ…!」

 

しかし、その力を行使したのは押し倒した瞬間だけだった。それは使わないのではなく使えないのだ。唇の間から唾液が溢れても拭うことさえしない、モモの全ては唇と舌の動きに集結している――――キスに夢中だった

 

「んっんっ!…ちゅっちゅっ!―――ん!――っ!」

 

モモは男女問わず優しく、愛嬌も教養もあるお姫さまである。

 

ファンクラブVMCも彼女を「清楚で可憐・絶対無敵!」と支持しているが、男に跨がって甘い吐息を零しながら情に溺れるその姿は彼らにはとても見せられなかった。

 

感じる度に、果てていく度に、何かが生まれ、育っていく―――

 

 唇に宿る言葉はなく、行先のない愛だけが溢れ落ちる―――

 

―――あの日、初めて口づけを交わした日、自分では聞いたことのないような甘い声を溢して、夢中になって唇を押し付けた日…

 

私は恋を愛しているだけの私自身に気づき、自分の花を咲かせた。

 

快楽の頂に取り残されて朦朧とする中、モモはその日の事をぼんやり思い返していた。

 

「――ふ…あ…ふぁ…まだコレでも解りませんか…?私のほんとうの気持ち…お兄様…、尻尾をいじって心を読んでみます…か?」

「もう十分わかったぞモモ…でも俺はな」

「…言わなくても大丈夫です……お兄様のほんとに好きな、一番大切な方は……――でも、それでも私は貴方の一番になりたい。二番目三番目は嫌なんです…」

「ハーレムを創る気はない」

「いいんです。それで…そのままのお兄様で居て下さいな、それに勘違いをされているのでは?お兄様がハーレムを創り、君臨するのではありません。私が創り、王となるんですから…♡」

 

きっぱりと断ったはずなのに。真向から受け止め、同じように見つめ言い返す桃色の姫君。

その視線に彼女の兄君も少しだけ戸惑いを返す。

 

(私の、私による、私とお兄様だけのハーレムを……♡)

 

熱っぽく細められる瞳、心の裡の呟きはモモにしか聞こえない。

 

―――彼女の本質はS()、自身に牙を剥く者に容赦はしない。攻めて快感を得る事ができ、恐怖で支配するのも辞さない、それは心を通わせられる植物にさえも及ぶ――以前、秋人を睨み言い放った言葉がある…"逆さまに吊るしてドライフラワーに…"、"特殊液に沈めてプリザーブドフラワーに…"、"押し花に…"――――それは誰かに採られる前に、自身の手で摘み取り…

 

「…やれるんならやってみろ、モモらしく……大分腹黒い感じに」

「まあ♡私が腹黒いですって…?銀河のプリンセスになんて無礼な…酷いお方…」

 

…―――大切で愛する(モノ)を自身の傍でいつまでも()でる為の行為だ。

 

ふっと鼻で笑う秋人。"やれやれ困った(ヤツ)だ"と言いたげな優しい瞳。その頬を愛おしげに一撫でし、華咲く笑みに妖艶な色香を一層強めて、

 

「…そんな御主人様(・・・・)にはこうしてあげます――――――♡」

 

モモは小さな花びらのような唇を重ね合わせる

 

重ねた唇――――今度もそれはモモが完全に気を失うまで離れることはなかった。

 

 

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何も無かった空間から生み出される巨大な刃。空間の断裂から生み出される刃をモモは難なく躱した。

 

ズゴンッッッ!!!

――鳴り響く轟音と割かれた地は、手加減などしていない事を雄弁に物語っている

 

戦闘開始の合図は無かった。

目の前の王女の変わった気配を嫌ったダークネスは、殆ど無意識のうちに空間を変身(トランス)させ迎撃していた。

 

―――――――そう、まるで焦って早く決着を付けたがっているように。

 

「あら、いきなり雑魚の私に全力ですか?ヤミさんらしくないですね?」

 

うふふ♡と口元のみの可憐な微笑は、彼女の美しい容姿に華を添える。嘲り笑う表情にもどこか漂う女の色香―――二、三と迫る刃をステップを踏むように踊り躱しながら、一つ跳躍するとフェンスに優雅に飛び移る―――

 

"鬼さんこちら♪"と、甘い()笑…誘うように黒い尻尾がふりふりと揺れる。

 

――――どうやら先程のメアよろしく秋人(パパ)の居るこの場から自身を…ダークネスを引き離すつもりらしい

 

「…。」

 

安い挑発だ。頬を引くつかせたダークネスは沈黙を持って受け止めた。自身より強いモノはこの世に居ない、敵と成り得ないモノに全力を使う必要はない、余裕を持ち仕留めれば良い――――だが躰は意志の通りにはいかず、兵器の直感が決着を()いている………断裂の刃はその数を一層増やした。

 

ズバンッッ!と空を斬る刃。

細く長いフェンス上、その上で全身を使いダンスを披露し続ける桃色の姫、次々と襲いかかる暴漢の変身(トランス)攻撃をひらひら躱す。沈黙を守り、秋人の傍から一歩も動かず、断裂の刃のみで攻撃するダークネス。

 

「あら、リトさんだけでなく女の私にも刃物を向けるだなんて…ヤミさんったらコワイんですね、男の子に嫌われちゃいますよ?」

「誰が……パパ以外の男に好かれたいなどと―――ッ!」

 

ズシャッ!と一際大きな刃は空を斬る

激情の波に襲われ、一瞬、秋人から意識を外してしまうダークネス

 

「今だ!じゃあな!ヤミ!兄上は貰っていくぞ!」

「プリンセス…ナナ…ッ!」

 

プールサイドの暗がりから現れる第二王女。ピィイイイイ!!と指笛を鳴らし秋人とナナ自身を大量の猫で運ばせる。モモがダークネスの目を引きナナがその隙に奪う。此処に飛んで来るまでに立てた作戦だった。"イイトコ取り"、"大好きな兄上を敵から横取りする自分"、"カッコイイな!大好きだぞ!ナナ!"と婚約者に見直される自分…ナナの好みにマッチした作戦に双子姫は二つ返事だった。

 

一目散、一直線に逃げるナナ、逃げることだけに専念している…"危ないから助ける"、"スキだからスキ"―――いつだって単純明解を持つ実直なナナは流石、メアの親友だった。

 

「ついでにオイてってやるよ!」

 

逃げに徹するナナはデダイヤルを手に取る、ナナとダークネスの間を割くように出現する巨大なイカとタコ。ヤミの苦手な"にゅるにゅる"…だがダークネスは苦手ではなかった。大好きなパパの"にゅるにゅる"した舌が躰を這うのを想像したら…と昂ぶる躰を止められない、が。今は痺れ始める躰と頭で考え、把握すべき事があった。"敵"のコトを、だ。此処へ着てパパとイヴの…自身たちの"愛"を邪魔する者達……それは全員が全員とも――

 

「――――――――妹…」

 

最初にイヴとパパの間を邪魔したのはメア…―――自身の妹。

次に現れたプリンセス・モモ…―――双子のナナの妹。

プリンセス・ナナ…―――双子でララの妹。

 

破壊の化身・ダークネスにとって"敵"とは、真に破壊スべきものとは何なのか、しっかりと認識した瞬間だった。

都市の光を纏い、闇へと消えるモモの背は追わず、ダークネスは視線と意識を愛するパパの運ばれた方角へと指し向ける。"にゅるにゅる"が自身に迫りくるのを尻目に呟いた。

 

「―――逃がさない…」

 

どれだけ離れていようとも関係無かった。彼女には他の兵器にはない空間を渡る術がある。

虹色に輝くワープゲートで破壊の化身は秋人の下へ()んだ。

 

 

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「助けにきたよー!お兄ちゃん!」

「ララ!」

「また妹…ッ!」

 

ギリリ…!と歯噛みするダークネス。ナナから秋人を受け取り、跳躍、反重力ウイングで大きく空へと舞い上がるララ。ここまでデビルーク三姉妹の見事なコンビネーションだった。ナナと秋人の下へ転移してもモモが妨害し、ナナはひたすら逃げに徹する。いくらダークネスが惑星そのものを破壊せしめる力を備えていても、油断を誘い、隙をつき、混乱させてしまえばその力を大きく封じることが出来る…―――

 

これでは妹共にパパを獲られる!―――焦るダークネスが吼えた

 

「ソレ!返してよ!パパはイヴの!」

「お兄ちゃんはパパじゃないもん!」

 

答えを告げヒュンッ!と風を切り高速で飛翔するララ、後を追うダークネス。桃色の髪、金色の髪が共に橙色に輝き、ララの制服スカートが眩しい光をそよめかせる―――――――――――――

 

―――朝が、彩南町に訪れようとしていた。

 

日の出の時刻、朝焼けの光に包まれ始める街を飛び回る二人のチェイス。それは一度も交わることがない―――暴風のようだった。

 

ワープゲートで転移すればもっと速かったが、何故かこれ以上の力を使ってはならない気がして躊躇(ためら)うダークネス。

 

ララが風を切って飛んでいる空、そして今向かっている陽光の方角、そこは自身と、パパと、姉の住居がある。どうやら其処へ辿り着くのが真の目的のようだった。

 

―――これで"はるなおねえちゃん"まで来ては堪らない……ッ!

 

今度は先ほどとは逆に、意志が兵器の直感を凌駕し、焦りと怒りの頂点へと至ったダークネスは全力を出す決断を下した。

 

「…今ハッキリわかったよ、ううんホントはずっと前から気づいてた……―――"妹"こそがイヴの敵…ッ!パパとイヴの、"父娘(おやこ)"の恋路を阻む…お邪魔虫!!」

 

ピタリと急停止、

シュウウ…!と光を集め白む星空の下に輝く巨大な柱が出現した。

天を穿つように輝き立ち昇る柱は………――――やがて巨大な刃となる

 

―――怒り狂ったダークネスは惑星ごと、敵ごと、叩き斬るつもりなのだ。

 

 

40

 

春菜は夜風を一人、浴びていた。そよ吹く風が、髪留めと前髪を撫でていく…

 

夜風…と言っても、既にもう白みつつある空に朝の空気。いつもより早く起きて家を出ただけの事だった。そっと門を押し開く―――

 

場所は西蓮寺家…――――ではなく、結城家だった。

 

大事な事を告げにララの元へ訪れたのだ。告げるには朝が良いと、なぜかそう思っていた。

 

結局はララに手紙を書き、リトに後を頼んだのだった。

 

「…。」

 

春菜は無言で歩みを進め…――――一際明るい朝焼けの光を背に感じ、振り向いた。

 

其処に有った光の柱は、何故か春菜には自身の敵を断ち切ってくれるような、そんな必死な光に見えた。

 

 

41

 

 

背に伝わる圧迫感と威圧感に振り向くララ、視線を光の柱に向けたまま呟く

 

「お兄ちゃん」

「…なんだよララ」

 

腕の中の秋人はここまで何も言わなかった。ずっと何かを考えているようだった。

 

だけれど、

 

「力を貸してね」

「おう、ブチかましてやれララ」

 

朝陽にけぶる余裕の笑み。そんな気配を胸に感じる…それは胸の奥を暖かにする、背を押してくれる心の太陽。兄が一緒にいてくれるならば、ララはいつでも自由に限界を超えた力が出せる―――そう確信があった。

 

「よおおし!やっちゃうよー!」

 

朝特有の静寂を割く、暢気で元気な声

意気込みと共に浮かべた笑顔、その下に滾る意志、最大火力のビームを放つ準備に入るララ。バチチチ…!と雷に似た光の火花が尾先に集まる。

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん」

「なんだよ」

「私もお兄ちゃん大好きだよ、春菜とおんなじくらい!」

「そっか、サンキュな」

「うん!」

 

尾先の光は一層強まった

 

「―――消えろ!お邪魔虫!」

「―――目を覚ましてヤミちゃん!」

 

ダークネスが剣を薙ぐ、何もない宙を光剣が切り裂いた瞬間、地平より昇りきった太陽よりも巨大な光の塊が生まれ――――――

 

ズガッ!

「ッ!」

「…!!」

 

交わりぶつかり合った光と光がビリビリと大気を大きく揺るがす。銀河の覇者デビルークの地力を一番に受け継いだララ、破壊の化身・ダークネスが生んだ白い閃光は、瞬く間に全てのモノを包み込んだ。

 

「ッツ!」

「うぎぎぎ…!!」

 

ララが放った全身全霊をかけた渾身の尻尾ビーム。そこからもう一歩、力を生むべく両手をマンションにつき踏ん張る…

 

「大丈夫…ッ、心配…ッしないで…ッ!…皆は…私が…ッ!」

「心配してるように見えんのか?」

 

ララは今度こそ秋人の顔を間近で視た。

 

先程からある余裕の笑みは、決して先を識っているから生まれたものではなく、ララ自身を信じているから、だから今も胸にある兄のそれは―――心配ではなく、信頼から生まれた笑みだと―――

 

「…もう、ッ…―あ―はっ――少しくらいは心配してくれてもッ…!」

「はは、頑張れな、ララ」

 

―――そう理解した瞬間、湧き上がる喜びに、心と躰その双つが激しく共鳴しララは思わず身震いする。

 

あはは、と兄へ向け最高の笑顔で答えようと、押し付けている胸を今度は押しのけようとする…が、手汗の為に壁を滑り…――

 

「んちゅっ!」

 

唇と唇が重なり…――――

 

 

白い閃光が、弾けた。

 

 

42

 

ララと秋人、ダークネスが共に落ちた先、そこは木々に囲まれた自然公園だった。

 

「…そんなナリじゃ次は相殺できそうにないね…うっ、」

 

追ってきた破壊の化身は、ガクリと地に膝をつく。自分の失態にギリッと歯噛みする。ずっと感じていた違和感は…鈍い痛みと痺れが躰の自由を奪う…蝉の鳴き出し声が、木霊するように聞こえていた

 

「……ようやく効きましたね♡」

 

木の影から姿を現すモモ、ダークネスの視線の先、其処には…その手には出会った時にもあった黒く、美しい薔薇。

 

「――――無理もありませんわ、ゼラスの薔薇…その棘に含まれる麻痺毒は強力ですから…例えヤミさんが強力な変身兵器だとしても…時間をかけて蔓延させ、力を使い果たせば効くでしょう…ステータス異常は強力なボスに最も有効な手段なんですから♡」

「クッ…」

「さて……―――では皆さんお待ちかねのオシオキショーターイム!と逝きましょうか♡」

 

ピッと操作しデダイヤルから出現する鳳仙花。モモはフフフ、と邪悪たっぷりに口元を歪める

 

「…これはジュダ星の"キャノンフラワー"打ち出される砲弾は、ヒトであれば一発で潰れたトマトに変えてしまう……そんな素敵な危険指定種…♡」

「…。」

「あら、ヤミさんったらカワイイ眼…♡そんなに睨んでなぁんて反抗的なんでしょう…でも動けないでしょう?うふふ♡許してなんてあげませんよ…?私の愛する御主人様を串刺して標本にしようとしたんですから、少しくらいは痛い目に遭って頂かないと………ふふっ―――――では、まずはいっぱ…ふぁああああん!」

 

突然上がる甲高い嬌声、痛みに備え瞑ったダークネスの目が開かれた

 

「ああんっ!ごっ御主人さまぁ…♡尻尾は…らめですよぉ…っ♡んんっ!せめてもっと感じる別のところ…をぉっ…!ああっ!」

「…何しようとしてんだお前は、標本にしたいのはモモ…お前の方だろーが」

「そっそんな…ぁっ!そんあことぉ…♡」

「ほら、ララを頼んだぞ、ロリっ子になっちまった。ララ・ロリリン・デビルークだな」

 

秋人は胸に抱いた幼い少女…限界以上の力を使い、すっかり子どもの姿になったララを手渡した。

 

「あわっ!お姉様!」「オーイ!ヤミから逃げ切ったのか!?おわっ!姉上っ!ヘーキか!?」

「…――――」

 

放心の表情でぽーっとしているララ。双子姫は思わず顔を見合わせる、いつも天真爛漫で元気な姉の、こんな艶っぽい顔を見るのは初めてだったからだ。ナナは心底疑問に首を傾げたが、モモはなんだか嫌な予感がしていた。

 

「あの…お兄様(偽)もしかしてお姉様に何か…キス的な何か…なさいました?」と尋ねたが、秋人は膝を着き自身を見上げるダークネスだけを見つめ、答えない。それは秋人とヤミがプールサイドで口づけを交わす時の姿と、立ち位置と姿勢を入れ替えたものだった。

 

「いいか…イヴ…いやヤミ。よく聞けよ…――――俺はな」

 

潤んだ瞳に情愛の熱と狂気の光を宿したダークネスはゴクリと息を飲み込んだ。五月蝿く鳴き始めたはずの蝉達の声は、今度はどこか遠く、静かに聞こえていた。

 

 

43

 

「お前は俺をシスコンだと思ってるだろ…だがそれは違う!ホントに違う!」

「…何を…パパはシスコンで…妹を集めようと…美柑も春菜も妹…手を出していないのは妹でない女ばかり…だから私は…――――」

 

見つめ合う秋人とダークネス。真剣とした表情で自身の事を睨むアキトは凛々しく……顔を赤らめてしまう

 

「俺はシスコンじゃねぇ!ロリコンだぁあああああッ!!!!」

「!」

「そして俺がキス以上が出来ないと思ってるだろうが大間違いだッ!今からそれを証明してやる!」

「なっ…!パパ…ッ!」

 

 

むかしむかし、ある森に仲良しこよしな父と娘が居ました

 

「ダメだよ…パパ、イヴとパパはおやこだよ…っ!」

「そんなの関係あるものか!」

 

パパはイヴを抱きしめると可憐な唇、それに口づけました

 

「んんっ!んっ!ふぁっ…ぱぱぁっ!だめっ、んっ!!」

 

イヴとパパは唇でつながったまま。イヴは大した抵抗もしないまま、ゆっくり服を脱がされていきます、それはまるで木々の緑の中、一輪の花の蕾が開花していくような、そんな可憐で淫らな光景でした

 

感じる擽ったさがだんだん気持ち良くなっていくイヴ、触れられる躰も髪もそのどこもかしこも心地がよくって

 

「んんっ!あ…」

 

小刻みに与えられる刺激にイヴは熱を含んだ切なげな息をこぼし、ちゅっと鎖骨に吸い付かれました

 

「んあっ!」

 

急に強くなった刺激にイヴはたまらず全身を震わせます、それはまるでびゅうと風を切って空を舞い飛んでいるような…

 

与えられる快感が、イヴの意識を、だんだんパパへの気持ちを曖昧にしてきました。パパとして好きなのか、男の人として好きなのか…――――

 

「…さあ、イヴ、言ってごらん…本当の気持ちを…」

「あ…」

 

見つめる視線、見つめ返す瞳。抱きしめられて背中を撫でられるイヴは大切なパパをぎゅっと抱きしめ…

 

「パパァ!だいすきぃ!」

 

弾け飛ぶ快感の閃光の中、胸の裡、心からの愛を叫びます。

 

パパでも、男の子でも、そのどちらもで好きでいいと気づいたイヴ。押し付けた可憐な唇。

 

飛んだ空からゆっくりゆっくり高度を落としていく…そんな歓喜の浮遊感、イヴの金の髪とパパの黒髪が互いの頬に当たる感覚。パパの固い腹筋とイヴの柔らかいお腹が当たる感触、抱きしめ、抱きしめ返される全身…――――それが何故かとても現実的で…――――

 

 

 

「…いつまでやってるんですか、アキト」

「いてっ、」

 

ぽかりと小突くヤミ。

 

「えっちぃのはきらいなんです…から」

「お、もどった」

 

押し倒している秋人の腕の中、しっかり抱っこで向かい合うヤミはこうして目が覚めた。少し乱れた戦闘衣(バトルドレス)…―――こぼれた胸を咄嗟に抑え隠す。

 

既にいつもの朝食の時刻を通り過ぎ、登校前といった頃。蝉の声が元気に響く中、ふたりの父娘はとある路上に寝転んでいた。

 

「まぁ戻ったならいいんだけど」

「言っておきますが…!」

「なんだよ?」

「あれはお手洗いで歯磨きの練習をしている父娘の図であり、決してえっちぃものではありませんから!口にしていたのは歯ブラシです!」

「?何の話だ?」

「いっいえ、ただ知っておいて下さい、それだけでいいです…っていつまでくっついてるんですか」

「はいよ、悪かったな」

 

すっと抱きしめたヤミを離す秋人。少しだけ残念そうに目を伏せたヤミは、それでも身体を離し立ち上がった。

 

いつもと違うヤミの姿。僅かにしか肌を隠さない布地に食い込んだ下着。

後ろから見ればヤミのカワイイお尻は丸見えだろう。だけれどヤミの目の前にいる男は特に変わった様子はない。…例えば大好きな猫を見る時のような、気持ち悪い声をだしてへらへら笑わないし、姉にえっちぃ真似をする時のようにニヤついてもくれない。あまつさえ「徹夜かよ、ねみーなー…ふあああ」と欠伸と伸びなどしている

 

なんだか一世一代の告白をした後だったのに。腑に落ちないヤミ、すっと戦闘衣(バトルドレス)の埃と皺を払い、身支度を整えてから声をかけた。

 

「あの…ぱ…アキト、」

「なんだよ?」

「こういう格好はその…どうでしょう……か?その…娘の入学式に参列する父…の気分ですか?」

「なにいってんの?始まりすぎだろ小学校」

 

同じ高校に通うにもかかわらず、秋人は勝手にヤミを小学生にした。

むっと器用に眉を寄せ上げ、ぼすっと胸に飛びつくヤミ

 

「いてっ何すんだよ」

「父の気分になりませんか?…なりますよね?私に「パパ」と呼んで欲しかったり…するでしょう?」

「ヤミ…お前な、またダークネスなの?」

「…角、ないでしょう…キスしない限りは変身(トランス)しません、それより呼んで欲しいなら呼んであげても…「お兄ちゃんたち何してるの?」…――――。」

 

「はっ春菜おねえちゃん…!こっこれはっ!」

 

突然の声に驚いたヤミは咄嗟に愛するパパをアスファルトに放り捨てた。ごんっ!と秋人は頭をしたたか打ち付け、薄れゆく意識…――――

 

「それはまた後に説教(お話)するとして…秋人くん、私、結城くん側につくね。」

 

 

―――ウチの西蓮寺春菜は何を言ってるんだ

 

 

意識の暗転していく中、秋人の呟きは五月蠅い夏の空にとけてゆくのだった。

 

 




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2016/02/18 一部構成改訂

2018/05/18 一部改訂

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