貴方にキスの花束を――   作:充電中/放電中

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R.B.D閑話『ホンモノ魔法少女、ニセ春菜の偽恋』

この物語は一人の魔法少女の失恋物語である。

 

当然、失恋物語であるから結末で二人の男女は別々の道を選び歩むことになる。

 

ただそれは――――…

 

 

 

「ニセの恋人をつくれ?」

「そ。もちろん偽装よ?ホントの恋はダメだからね?」

「はぁ!?」

「誰でももダメよ?そこそこイケメン且つ有名な人じゃなくて、すぐに別れてくれそうな男ね」

「そんな無茶苦茶な…」

 

朝、芸能事務所でマネージャーにそんな事を言われた霧崎恭子。役作りに偽の恋人が必要となったのだ。勿論そんな相手、恭子には一人しか居ない。

 

 

「それで僕にかい?」

「そ、レンくんなら大丈夫でしょ?お願い」

 

両手を合わせ拝む恭子を呆然と見つめて言い返すルンの双子の兄、レン・ジュリア・エルシ王子ならば誰もが納得だろう。高貴なるイケメンに恭子の身も心も安心安全。信頼の実績だった。

 

「まったく、急用があるからって心配して来てみれば…」

「ごめ~ん…おねがぁい、レンくん」

 

マネージャーに無理難題を投げつけられたその足でレンと恭子は落ち合っていた。二人共学校帰りであった為、制服である。カフェテラスで愉しげにお茶をするデザイン違いの制服二人。傍から見れば、少ない時間を惜しみつつ漸く会えた時間を楽しむ――他校の恋人同士以外の何物でもない

 

「ごめん、出来ない相談だよ」

「え?どうして?別にホントに好きにならなくっていいんだけど?フリだけでも…」

「いや、キョーコちゃんに問題があるわけじゃないんだ」

 

二人の間に漂う沈黙。困った顔と悲しげな顔を向け合う二人の男女は、さながら別れ話をしているかのようだ

 

「ならどうして?友達(・・)じゃないの、わたしたち…」と恭子が口を開く寸前、

 

「僕はララちゃんに身も心も捧げているからさ」

 

フッと爽やか過ぎる微笑のレン。キラーンと歯が光った――――気がした

 

――――レンくんて…たまに空気読めない時あるのよね

 

ハァ…と恭子が深々ついた溜息、それはストローを通って赤いトマトジュースをぶくぶくと泡立たせて

 

「イェーイ!マグマかんせーい♪」

「…キョーコちゃんはいつもソレ、楽しそうにやるよね」

 

自ら頼んでおきながら、特に落ち込んだ様子もなく笑う恭子。むしろ了承して貰わなくて良かったかのようだ。そんな恭子の笑顔にレンも「まったく…」と苦笑いで返している。

 

仲の良い他校の友達同士、笑顔を向け合う美男美女。

周りの客と店員たちは二人が別れなくてよかった、と勝手に安堵していた

 

「んじゃ、私にはムリだったってマネージャーには言っておくよ♪」

「うん、それじゃあまたね。念の為に僕も他を当たってみるよ」

 

ひらひらと手を振る恭子、レンも妹を見守る兄のような面差しで手を振り返し――――ふたりは別れた。

 

 

そして

 

 

「切り裂き凶子ぉ?…ハッ、ずいぶんと猟奇的な名前だな」

「ご存じなかったのですか?意外です…、とにかくイイコなので相談に乗ってあげてくれませんか?先生」

「はぁー、どうしようかね…」

 

少しだけ長い昼休み。学園の自販機に背を預けた秋人はチューっと美柑がくれた"美柑(・・)ラブジュース"を呑んだ。秋人の好みにぴったり合った果実本来の甘さ、口の中で爽やかさだけを残し消えていく。"100%生搾り蜜柑(・・)ジュース"だった。結城美柑から生み出された添加物が一種だけ入っている事に秋人が気づくはずもない。

 

「切り裂き凶子だろ?知らん、誰だその刃物振り回しそうな危ないヤツは。そんなの金色さんで十分間に合ってるだろ…――――まさか新ヒロインじゃないだろうな」

「さあ?とにかくカワイイ女の子ですよ、ララちゃん程ではありませんが、彼女は素敵です」

「まぁ俺の妹よりカワイイわけがないがな…――――ん、底の方に何か文字が…"愛がたっぷりはいってます"美柑…イイコだなぁ」

「ララちゃんもイイ子ですよ先生。そう、まるで宇宙で至高の宝石…」

 

うんうん、と頷き合う二人

秋人が知らない事もムリはなかった。彼の頭の中ではマジカルキョーコはマジカルキョーコなのであって中に人など居ないのだ。つまり女子高校生・霧崎恭子が演じ"マジカルキョーコ"していることなど頭にはない。ヒーローは何時の世にも実在するのだ。

 

 

それから

 

 

「…で?またお前か、ニセ春菜、ニセナめが…」

「…くッ!なんでアンタが…!」

 

――――"イケメン"で"有名なひとじゃなく"て"私とすぐ別れてくれそうな男"…条件を満たしてるからこそ腹が立つというかなんというか…

 

睨む恭子と睨む秋人。虎VS虎の図だった。

偶然なのか必然なのか、放課後レンと恭子が落ち合ったカフェで、あの時と同じ席位置だった。おや?と店員は思っていたが険悪な雰囲気がどこか気安く…「ああ、兄妹ね」とまたも勝手に結論づけている。

 

「んで?何?ウチの春菜をパクってゴメンナサイしたいって?土下座しにきたっての?とりあえず、その萌え袖ファッションから止めてもらおうか、ウソ眼鏡も。そういうのは激ラブ春菜かハレンチ唯、愛天使ララにして頂きたい。『眼鏡、外して…おにいちゃん…じゃま、だから…』とか甘えた声で言われたい」

「ハァ?!なんで私じゃ駄目…じゃない!キモい!気持ち悪い!眼鏡外して何するつもりなのよアンタ!ヘンタイ!シスコン!それになんで私がアンタみたいなシスコンドヘンタイに土下座しなきゃならないのよ!通報するわよ!痴漢撃退用アラーム鳴らすわよ!」

「ふん、やってみろニセナ(・・・)…そのシスコンドヘンタイと二人でお茶しちゃってるとこ、芸能人なキョーコ様の姿を皆に見られちゃってもいいならな。」

「ぐっ…!なんて卑怯な…!燃やしてやりたいわ!」

「へー、ふーん。もやし、お好きなんですか?食べます?すいませー「いらないわよ!店員さん呼ぶんじゃないッッ!」」

 

慌てて椅子から立ち上がり秋人の口を塞ごうとする恭子。それを同じ角度で背を反らし避ける秋人

 

「なによ!触られるのも嫌だってワケ!?あたしがどれだけファンに握手求められると思ってんのよ!」と続けて叫ぼうとするが…――――

自分たちに注目が集まるのを敏感に感じた恭子は叫びかけた口を塞ぎ、サッと座り直した

 

秋人とこうして再会した時から朱色の頬。更に真っ赤になったその顔を、まさか大勢に見られるわけにはいかない。見られるアイドルは自然な作り笑顔が基本なのだ

 

「くぅ…はずか、恥ずかしい…ばか」

 

零す本音。今は自然な霧崎恭子の素顔。ルンの頼れる姉貴分している時でもなくレンと親しい友人の時とも違う、ドキドキと穏やかな幸福の気持ちがブレンドされた心は目の前の男が飲むコーヒーのよう。知らない色の混ざり合った心に恭子は先程から振り回されっぱなしだった。

 

「"もやしたい"なんて…よっぽど"もやし"ラブなんだな。今度言ったらまたすぐ注文してやるよ。あーあ、優しい、なんて優しいんだろうなー俺。春菜もきっと褒めて肉焼いてくれるだろうな。レンから貰ったアレはジュージュー焼いてアレ作って貰おう…――――んふふ」

 

秋人はニヤニヤと笑い満足気だ。頬杖をついてどこかを見上げている、小さく縮こまった恭子は"アンタ覚えてなさいよ…絶対燃やしてやるわ"とでも言いたげにキツく睨んだ。潤んだ瞳は先程から秋人以外見えていない。だから誤魔化すように言ってしまう

 

「アンタ覚えてなさいよ…絶対燃やしてやるわ…!」

「もやし?すいませー「だから店員さん呼ぶんじゃなぁああああいっ!!」」

 

 

そうして

 

 

「はぁはぁ…、アンタと話してると疲れるわ…」

 

どふっと力なくテーブルに突っ伏せる恭子。燃やさないと分かっているのか、脅す度に店員さんを呼ばれ叫ぶ恭子はヘトヘトであった。無論、叫ぶ以外に大量に体力を消耗させているのは、先程からドキドキと高鳴る鼓動のせいだということを恭子はよく知っている。

 

「ハァハァ?何、興奮してんの?」

 

はんっと内なる唯がやるように肩をすくませ鼻で笑う秋人。やや前髪が焦げていた。5回目の"もやし発言"でついに恭子に燃やされたのである。慌てた店員がもやしと消火器をもってきたが、その店員も謎の爆発に見舞われ今はいない

 

「ああ、もういいわ。もういいのよ、そもそもシスコンドヘンタイにカレシ役なんてムリよムリ。まだニワトリとか一個しか覚えられない鳥頭とかそんなのがマシなのよ」

「誰がニワトリだ誰が」

 

ぶつぶつ呟き突っ伏せた頭をようやっと持ち上げ、怪訝な目つきで両手に持ったマンゴージュースを口にする。溜息がストローを通り、(だいだい)色の液をぶくぶくと泡立たせる

 

「硫黄の湯、温泉かんせい…はぁ」

 

やれば上がるはずのテンションも今は何処かへ

 

「なんだそりゃ…春菜と温泉入りたい」

「また春菜ちゃん…君、どんだけ春菜ちゃん好きなのよ…まったく私は困ってるっていうのに。マネージャーにも怒られてせっつかれちゃったし…ニセの恋人かぁ…はぁー」

 

――――まさか恋がこんなに疲れるものなんて思ってなかった。

 

恭子の正直な感想である。

 

恭子は既に目の前の"シスコンドヘンタイ"と地球上全ての箇所でデートし、愛を囁かれていた。

先走る思考にああでもないこうでもないと全力の妄想で飾り立てる。恋をするのはアイドルの仕事より余程忙しい

 

(現実ってお伽話みたいにいかないのね……――――それに、このおバカ男が…秋人くんがロマンチックな事するようには、私に気遣ったりとかしてくれるワケないわよね…)

 

勝手に跳ねては弾み、勝手に落ち込んでは沈む心――――恋をするのは大変ハードだった

 

「…ふん、まぁ引き受けてやるよ」

 

へ、と俯きかけた恭子は正面の男を見やる。

暗い影が差し出した表情(カオ)が呆然としたものに変わる。その表情とずれ落ちる眼鏡をしかし秋人が見ることはない。心配気な表情してたくせにそっぽ向いて隠したせいだ。

 

だから代わりに恭子は、秋人の横顔――――優しく綻ぶ口元の動きを目で追っていた。

 

(……………コイツって意外に優しいのかも)

 

心がまた一度、大きく跳ねた。

 

 

 

 

 

「ぷっくくく…似合ってる。似合いすぎてる…ぷっくくく、あはははは!!!」

『てめぇ…』

 

マジカルキョーコの衣装で恭子はお腹を抱えて笑っていた。目に涙まで浮かべている。彼女を笑いの渦の中に閉じこめ、大笑いさせるのは目の前のニセ恋人…――――ピエール☆小木。ネコ型キグルミを着た秋人だ

 

台本(コト)のあらすじはこうだった。

 

マジカルキョーコの大切な思い出、初恋の少年が悪の組織に捕まりピエール☆小木に改造されてしまった。その恋と失意の想いを涙ながらにキョーコが燃やして解決する――――と、いうもの。

 

より演技に感情移入できるよう、ニセの恋人が必要だったのだ。元気で明るい売れっ子アイドルの普段見せない切ない表情(カオ)をカメラが撮影、お茶の間へのファンへと届ける。恭子の人気は急上昇、歌もヒット・チャートを駆け抜けて――――というのがスタッフの思惑だ。

 

「では本番いきますよー!」

「はぁーい!…―――じゃ、頼んだわよ。ピエールシスコン(・・・・)さん…ぷっくく…!笑わせないでよね、ふっくくく…!」

『…ぐぬぬぬぬぬぬ』

 

なにやら篭った声で文句をいう秋人に背を向けひらひらと手を振る恭子。先程から彼女の表情(カオ)は笑顔、いつもの優しく天使のような笑顔は魅力を一層強めて―――恋する天使の笑顔だった

 

そして始まる撮影、始まるちょっと過激な戦闘シーン

 

「そんな…!?」

「フハハハ!オマエにはどちらがホンモノの恋人かわかるまい!」

 

演技を忘れ、素の驚愕を晒すマジカルな恭子。嘲笑う悪役男爵

 

魔法少女が言葉を失うのもムリはなかった。彼女の前にはピエール☆小木が二体いたのだから

 

(こ、こんなの台本に無い!ど、どっちがあのシスコン…まさか秋人くんじゃない方燃やすワケにはいかないし…)

 

台本では"燃やして解決する。"とだけあった。

 

"解決"方法はマジカルキョーコに…霧崎恭子に委ねられているということだ。だから恭子は炎に包まれた初恋のカレ…―――秋人に炎の中で愛を叫ぶ、そう決めていた。

 

せっかちで即物的な少女は果てしない思考、終わらない妄想の果てに確かな現実こそを切望していたのである。

 

それに好きな芝居なら、ストレートに感情を表現できる。恭子はそんな気がしていた

 

「さあ!どうするのだマジカルキョーコよ!」

「くっ!………あのシスコンを見抜くには…――――こうなったら!」

 

ぱちっとウィンク、お色気たっぷりに魔法少女は服の胸元を摘み下へと下げた。細身の体躯にしてはやや大きめの乳房が零れそうに露わになる…

 

ピエール☆小木は親指を立てた。"Good!"

ピエール☆小木は親指を下げた。"Bad!"

 

――――これで初恋の炎が、どちらに向かうべきか分かった。

 

 むほーっ!素晴らしいですぞー!

 アホか春菜のが一番にイイに決まってるだろーが

 

そんな声もどこか遠く聞こえる

 

怒れるマジカルキョーコは直ぐ様服を整え直し、右手に炎を集め…

 

「はぁっ!マジカルフレイム!」

 

気合いの叫び、生まれた灼熱の炎は正確に"ニセモノ恋人"を捕らえ…――――

 

ボウッ!!

 

「「ぎゃああっあああっ!!」」

 

燃やされる二体のピエール☆小木

 

霧崎恭子にはちゃんとどちらがホンモノか分かっていた。分かっていたけれども、親指を下げて"不快"をアピールされるのは流石に腹が立つ。それにきっとキグルミの下の顔は毎度会う時のようにバカにした笑みだろう

 

――――これからコクろうとしてる私に失礼すぎでしょ、バカアホシスコンドヘンタイ

 

だからといって校長もろとも手加減抜きで燃やすのはあんまりである。確かに恭子の読み通り、芝居の中でストレートに感情を表現できていた。燃えるように激しい愛と羞恥、それに不満を――――成程、秋人が言った通り猟奇的な彼女だった。

 

「本日も!燃やして解決♪」

 

カメラに向かってウインク、勝利のVサインを作り向けるのはスッキリ快活な笑み――――残念ながら切なげな表情はこの放送では撮影できなかった

 

 

「お仕事お疲れ様」

「…――――――――てめぇ」

 

マジカルキョーコと"良い感じの松ぼっくり(恭子談)"みたいになったピエール☆小木の中の人、秋人が夕焼けと共に向かい合っていた。

 

「おにーちゃーん!」「…春菜、あちらではないですか?」

 

声に振り向いた秋人に、人だかりから春菜がぴょんぴょん跳ねつつ声をかけてくる。撮影スタッフと見物人の山が邪魔をし、秋人からも春菜からも互いの姿は見えない。見かねたヤミは変身(トランス)で翼を生み出し空へと羽ばたいた。

 

「おーい春菜ぁー!ヤミー!」

 

夕日を背負った、ついに翼を生やした"プリティーマイエンジェル春菜たん(秋人談)"に声を張る。

 

――――きっとプリティーマイエンジェル春菜たんは焼け焦げた兄に優しく声をかけ、ニセナに傷つけられた心を癒やしてくれるだろ!

 

期待する秋人だ。

 

「あ、お兄ちゃんここに居たんだ………どうしたの?また悪い事したの?その頭、燃やしたスチールウールみたい」「…ぷっ!春菜、お姉ちゃん…言い過ぎですよぷっ、くっ!…ふふっ!」

 

ストンと着陸。同時に本音、春菜とヤミが秋人の前に。

 

秋人の大切な家族二人は慰めという言葉を知らない、無垢過ぎる天使だったようだ

 

「お、おま…お前ら…!俺がレンから貰った肉の為に頑張ったというのに…!」

 

顔を夕日と同じように赤くし、現れた大切な二人に何やらギャーギャー文句をいう魔法少女・マジカルキョーコのニセ恋人

 

金髪の小さな女の子が微笑いながらも髪でハサミを作り、自身によく似た少女が宥めすかしながら焦げた毛先を切りそろえていく――――

 

それを恭子は揺れる瞳で見つめていた

 

 

終わりに

 

 

「じゃあな、もう会いたくないぞニセナ」

「ふん、私もよシスコンドヘンタイ。妹さんのとこから戻ってきて精神とか大丈夫なの?」

 

あざ笑うマジカルキョーコのマントが強い風に吹かれ、たなびく

 

「ふん、言ってろ。じゃーな」

「はいはい、じゃーね。ちょっと、そのキグルミで帰るの…?ちゃんと直して返しなさいよね」

「おま…っ、オマエが燃やしたんだろ、なんで俺が…!」

「はいはい、悪かったわよ。向こうで君の大好きな春菜ちゃんが怖い目で睨んでるから早く行ってあげなさいよ」

 

風に乱された横髪を抑えながら少女は言った

 

「…バイバイ」

「じゃーな」

 

最期に向けた笑顔は優しい笑顔だった。「じゃーな」「バイバイ」もう一度手を振る

 

「…」

 

魔法少女は、去りゆく男に向ける――――降り出しそうな曇り空のような切ない表情(カオ)を周りのスタッフやファンに見られていることに気付かない。

 

 

ニセ恋人と魔法少女

 

二人の恋はこうして終わりを告げた。

 

これは魔法少女(・・・・)の失恋物語。

 

当然、失恋物語であるから結末で二人の男女は別々の道を選び歩むことになる。

 

ただそれは――――…

 

 

「ま、あたしゃ関係なかけんね」

 

いつか何処かで、テレビで聞いた謎の方言を呟いた。

夕日と、その茜色へと発せられた呟きは男の背中へとぶつけられている。恭子は纏った衣装を脱ぎ捨てる。マントに帽子、ふわりと宙に脱ぎ捨てられたマジカルキョーコの衣装、魔法少女の衣装。その下に母校の制服を身に纏った霧崎恭子がいた。

 

――――ぜったい私が一番だって言わせてみせるんだから

 

浮かべる笑みに先程までの陰りはない。一度、霧崎恭子の瞳が強く光る。強い意志を宿した、想い人と同じ色の瞳が

 

「あたしの方がホンモノで、あっちがパクリだってぜぇったい言わせてやるんだから!」

 

 

ただそれは、現役女子高生アイドル・霧崎恭子の恋が始まる為に紡がれた…――偽恋物語だった。

 




感想・評価をお願い致します。

2016/03/31 一部文章改訂

2016/04/01 文章構成改訂

2016/04/06 一部改訂

2016/04/28 一部改定

2016/07/14 一部改訂

2017/03/20 一部改訂

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