63
ズオッ!
尾先から放たれる途方無き衝撃波。強大な閃光線に舞い上がる砂――――――燃える砂塵
――さあ、どうでてくる?
問いかける視線の先には舞い上がる砂塵以外に何もない。
光線の直撃を受け、生身では消滅していても不思議ではなかった。
しかし、確かに感じる虚ろな気配。
戦闘に長けた者のみが感知できる微かな殺気―――まだヤツは生きている。
ククク…
嘲笑う虚ろな声。勿論、笑っているのは一人ではなかった。
――これはどうかな?
「ヘェ…」
感嘆の笑み、問いかけに答えるように黒刃が突き迫る。砂漠から突き生える巨大な刃、剣圧に割かれる砂煙――狭間から月光が降り注ぐ
覇王は不敵な笑みのまま首を傾け躱した。
――これで終いか?
答えないまま次々迫る巨大な刃。無拍子で放たれる死角を含むあらゆる角度からの全包囲攻撃。間合いを必要としない予測不能な攻撃を身を捩り、紙一重で躱し続ける覇王。
強襲の一撃が一撃が"必殺"ものだが、覇王の目は迫りくる刃を見ていない。黒の双眸は閉じられ、意識は
一つのことに執着しない自由奔放な銀河の覇者、ギド・ルシオン・デビルーク。その興味の独占に
覇王は目を閉じ回想する。意識は依然、虚ろな気配へ向けたまま…
******
「地球に着くなりいきなり襲ってきやがって…テメェがトランス兵器のネメシスか…俺を倒して宇宙を戦乱にもどしてーんだろ?」
それは取り敢えずの意志確認だ。質問の答えがYESならば排除。NOであるなら一度は見逃してやってもいい―――ギド・ルシオン・デビルーク王はそう考えていた。
が、しかし
「王よ、お前は稀人おにいたんをどうする気だ?」
答えられたのはそのどちらでもなかった。
電脳世界の砂漠には覇王と変身少女の二人しか居ない。夜の風が二人の間を切り裂くように吹き抜ける。
夜闇に浮かぶ白い月、砂上を靡く二つの漆黒。王と対峙する者、マントと
「あん?マレビト?アキトとかいうガキじゃなくか?そのガキなら危険そうなら排除、そうでなくても排除するがな。なんせ俺様のカワイイむす…」
「そうか。おにいたんは私と同じ存在、偶然に生まれた思念体。この世界で初めて出会えた私の同士だ。此方に居たものを依代に実体化したやり方も、時間の価値観・感じ方さえも同じ―――この私の兄だ」
「ああ?それが何だ?それより俺のむす…」
「そして"稀人"とは"此処ではない何処か別の世界から来た魂の来訪者"のことだ。王よ、お前そんなことも知らなかったのか?ハッ、脳筋のドーターコンが」
「ンだと…ッ!娘が好きで何が悪いッ!」
怒り、爆発――――尾先の光線に舞い上がる砂。拡散し夜闇と同化してゆく漆黒の霧
『ククク、ドーターコンめがキモいんだよ―――宇宙最強はブラコンのこの私だ』
漆黒の霧の向こう、四方から聞こえてくる少女の
「いいだろう、テメェ…相手になってやるッ!」
*******
「…ッ!」
覇王ギド・ルシオン・デビルークが回想した怒りから舞い戻った時、刃が頬を掠めた
「――そんなもんかよ」
怒れる瞳。怒気を孕んだ静かなる声、神速で繰り出されるは拳の連弾。
ガラスの割れる澄んだ音、砕かれる無限の刃――――刃を構成する
「!」
背後の死角、斬りかかろうと迫る虚ろな気配へ向けたものだった
「ォ…――ラァッ!」
振り向きざまに放たれた烈風を伴う拳がネメシスに大穴を空ける
「ぐ……ッ!!」
想像を遥かに上回る衝撃。
途切れつつある意識の中、今度はネメシスが回想する―――
******
「見ろ!おにいたん!この造られた機械のように正確なスマッシュを!」
シュッ!ガコン!
ゴールへ吸い込まれ消える
「くっ!言うだけあって強い…ッ!ゲームマスター(自称)の俺を手こずらせるとは!ってか造られた機械のようにってお前、確か……まあいいけどよ」
「ふっ…くくく!楽しいぞ!なぁ、おにいたん!」
にっこり、無邪気な素の笑顔を浮かべるネメシス。呆れ笑いの兄、秋人
二人が居るのはゲームセンター、エア・ホッケーゲームを楽しんでいた。二人のラリーがある意味凄すぎて見物の人だかりが出来ている。
「しかしなんだ、造られた存在は嫌いなのかおにいたん…んん!ひどい、ねめしすちゃん泣いちゃうし濡れちゃうよ、ぐすん(CV西蓮寺春菜)」
シュッ!ガコ!! ガココッ!
「…きたなっ!!動揺させてるところを狙うとか!卑怯なやつだな!正々堂々こいってっ、のっ!」
シュッ!ガコ!! ガコッ!
「ははは、相手を油断させてからの攻撃はある意味正々堂々、正常位だぞ!おにいたん!」
シュッ!ガコ!! ガコッ!
「ワケのわかんねぇことを…!それに俺は造られた機械だろうが異星人だろうが幽霊だろうが!カワイイ妹ならなんでも愛せる!やっぱりカワイイは正義!ロリロリきゅんかわ妹ねめしすマジ激1000%ラブ!結婚したい!」
「!ホントか!おにいた…」
シュッ!ガコン! ビー! "2-3"
「な…っ!汚いぞ!おにいたん!動揺させてるところを狙うなど卑怯者め…!」
「フッ、なんとでも言いやがれっての!俺が勝てばいいのだ!」
「くく、目的の為に手段を選ばないのは相変わらずだな。しかし、おにいたんよ。おにいたんにとってカワイイのも大事なのだろうが、一番大事なのは"妹"属性なのだろう?私も大概だが、おにいたんもやはり大概だな…くくく、では次はあっちだ!おにいたん!」
「おまっ!結局勝ち逃げかよ!兄より優れた妹が居るはずが…」
「いいから来い!この私が褐色イヴ口内アトラクションでじゅぶじゅぶハァハァ楽しませてやる!」
「こら!ひっぱんなっての!あとそっちはトイレだ!しかも男用!」
******
ふっ、くくく…
思い出し笑いを浮かべながら再構成。
「――させるかよ」
「!」
溢れた微笑が嘲笑だと判断した覇王は怒りを尾先で撃ちつける。それは正しく神速という表現が相応しい衝撃の連打。戦闘を
「か――!は――ッ!」
声すら成らない悲鳴を上げるメネシス、無言で怒涛のラッシュを見舞い続ける覇王。無限に繰り返される止まらない破壊と再生。
「…っ!ぁぐ――!」
ネメシスは破壊された箇所から再構成を急ぐが、次々開く大穴を埋められない。集めた暗黒物質も直ぐに霧散してしまう
「くッ!……」
退避・回避より復元を急ぐがそれも、
「――…!…―――!。……。」
それもやがて限界が来る。破壊と再生、どちらにも
―――降参しろ、テメェの負けだ
瀕死の少女に覇王は再び視線で問うた。破壊し続けた尾先は少女の腹に深々と串刺され、顔がよく見えるように持ち上げられている。覇王の眼には沈黙の、ボロボロの姿となった浴衣少女が映るのみである。
だらりと垂れる四肢は、最早人の形を維持できでいない。
問いかけに答えない
******
「失敗だったわ」
ギドがやっと力の戻った身体で初めて聞いた言葉だった
「あん?何言ってんだセフィお前」
「貴方との結婚の事よ、ギド…――――離婚しましょう」
「…ああ?」
「同意よね、その言葉。はい、離婚成立。それじゃ、出て行くわ」
「オイ待て。娘達はどうする…ララにモモ・ナナは当然俺のものだよな?」
「…去ろうとする妻に泣いて縋りもせず、こんな時でも娘ですか。貴方の娘溺愛ぶりにいい加減ウンザリしてたのよ」
「ああん!?娘大好きで何が悪いッ!!」
ギドはナナが幼いころ書いた自身の自画像(引き伸ばし超特大コピー)を背後に叫んだ。部屋の至る所には昔、ララが作った失敗発明品が所狭しと転がり、モモが好きな危険な触手系植物が蠢いている――――そう、このゴミ屋敷こそが銀河の覇王・ギドの部屋だった。
「好きでも限度があるのよ」
「限度?何言ってやがる…限界なんて決めたらソイツの成長はソコで終いだ」
フンッと鼻を鳴らす不遜な覇王で美の女神の元夫・ギド。言ってることは格好いいが、冷ややかな目でセフィは続けた
「アナタね…。そんなキメ顔でキメ台詞言ったって所詮はドーターコンですからね」
「ああん!?娘大好きで何が悪いッ!!」
銀河を"武"で制したドーターコンは再び叫んだ。妄想しながら悦に浸る笑顔のピーチ姫がプリントされたTシャツ。そして両脇に抱える大量の美少女ゲーム――――彼の愛するとある娘が欲しがっていたのである、当然買い占めに走りゲームショップを"売り切れ"で制した。
「俺は例えどっかの誰かが娘そっくりそのまま化けても瞬時に見抜くくらいに愛している!愛!それの何が悪い!」
「…そう、愛とは素晴らしいですものね…ちなみにソレどうやって見抜くのよ」
「パンツの匂いだ!」
「ハァ…だからアナタ、遠回しに避けられてるのよ…じゃ私も行くわね」
そしてギドは地球にやってきた。目的は当然娘を溺愛する良き父らしく、モモ・ナナの結婚相手と聞いたアキトとかいう男の排除抹殺。真の目的は買ったゲームを手土産にモモを愛でる為である。
しかし、結果としてそれは
『
ネメシスが初めて世界を認識した時、聞いた言葉であった。
『…失敗か』
『また失敗か、実験には失敗もつきもの…というがね』
『次の実験はプロトワンのデータを改良したもので試してみるか』
―――そして奴らは気付いてはいなかった。数年後、己の命を奪うモノを創りだしてしまったことにな…そして、この私も
「パパっていうのはねー、普段は優しくないんだけど、いざという時は自分の身を犠牲にしてでも家族の為に頑張るんだよー」
「へー、パパってすごいんだぁ」
「そうだよー、イヴー?イヴはパパがスキかなぁー?」
「うん!イヴねぇ、パパがだぁーいすきぃ!」
(あれが…)
既に性癖を開花しつつあった幼女・イヴの容姿を参考にネメシスは身体を構成・実体化。そして自らを作った組織のデータにアクセスし、数多の知識・技術を手に入れる。そして…
「…」
「さあ、ついて来るがいい…メア。私がより良くお前を導いてやろう」
「…ぁ」
「案ずるな、私は他の有耶無耶共とは違う、お前をお前自身として扱ってやる。そしてお前の"いちばんほしいもの"お前にしか無い
姉が嫌いで大好き、そしてゆくゆくは誰かにその偏愛を向ける、"ファザコン姉"になど負けない危険で不安定な"シスコン娘"にな!ククク…これぞ
******
「"
「!」
先に
「…――――ッ」
覇王は歯を固く食いしばり苦悶の声を耐え忍んだ。先程まで屍のようだった変身少女、その金色の瞳に光が灯り覇王を見つめている。尾先から自分のモノで無くなる気味の悪い感覚、目の前の少女に侵食され混濁してゆく意識と思考――
―――やらすかよ
覇王の心の
「俺の身体は俺だけのモンだ…ッツ!!!」
それでもはっきり覇王は叫び、宣言する。直後、地鳴りのように響く雷鳴、尾先から覇王の身に落ちる強烈過ぎる雷。銀河を制した肉体、鍛えぬかれた覇王の身ですらダメージを免れない。弾け飛ぶ稲妻、閃光
トサッ
砂地に響く、軽い音
「ふっ、くくく…」
雷電の爆風に吹き飛ばされながらも、ネメシスは不敵に笑い続けていた。
「…何がおかしい?」
ギドは爆風の後を追い、砂地に倒れ伏すネメシスを見下ろした。
――そういえばコイツには質問してばかりだ、そしてコイツは何も答えてねェ
覇王はふとそんな事に思い至った。
「…私は今までただ退屈を、暇を潰すために時間を食いつぶし生きてきた。生まれてから数年、何の意志も思考も持たず、誰にも気付かれずの日々を過ごし…ひたすら退屈だったのだよ。」
「……?」
いきなり語られる昔話に覇王は怪訝な
「そんな日々が私に時間の価値観・感じ方を希薄なものだと調教したのだろう、だから私は別にいつ消えても悔いはなかった。だが、メアを従え金色の闇を探し、色々見知った旅でかけがえのない兄に出会えた」
「…何の話だ?」
「それからは毎日がとてもとても楽しかったよ。バグった
「…オイ」
「メアをけしかけたことで金色には嫌われたが、まぁそれはそれで良い。事態は既に知らせてある。この場合、金色も協力せざるを得ないだろう。これで私の計画は成る、兵器同士が手を取り合い、共に脅威へ挑むという兵器本来の目的に還れる。それに…」
「オイ、黙れ…!」
覇王が声を荒げると案外素直に少女は口を閉ざした
「さっきから聞いてもいない事をベラベラと…!いい加減俺の質問に答えやがれ!ニヤつきやがって何が可笑しい!!テメェは銀河を戦乱に戻したいんじゃねェのか!!」
「くくく…ハハハ!!可笑しいのは愉しいからだ、デビルーク王…愉しい時は笑うものだろう?」
「だから何が可笑しい!そんな消えかけの躰で時間稼ぎのつもりか!"赤毛のメア"とかいう兵器仲間もココへは入っちゃこれねェぞ!」
二人が戦いを繰り広げた電脳空間は覇王、ギドが全力の力を発揮できるよプロテクトが成されている。モモ・ナナが構築した"とらぶるクエスト"など比ではないほど頑丈な空間。実空間と隔絶したそれは
「それは違う、悪いが残念ながらメアは仲間ではない――…私の大事な下僕だ」
「知るか!なら諦めたってのか?案外殊勝なヤツだったな」
「クク…それも違う。お前はハズレばかり口にするな、残念王め――――だが時間稼ぎというのは正解だ」
「なん…」
―――だと?覇王が問いを重ねる寸前、
爆音と閃光が辺りを揺るがした。
64
「…っ!?」
白い閃光と爆発、吹き飛んだ砂が顔に叩きつけられる
顔を顰めるギドに迫る、特大の黒刃――――を躱せず横頬を切り裂いた
「チィッ…!」
気を外した僅か数瞬、ネメシスは消えていた。虚ろな気配の欠片も無い
(…ふん、イタチの最後っ屁ってやつか?一体何が目的だったんだか。ま、消えちまったならそれも…)
『―――だが時間稼ぎというのは正解だ』
「……!?」
思い返される、消える前のヤツの言葉。今度こそ覇王は驚き、そして気配に振り向いた。
砂地が崩れる衝撃音が未だ鳴り止まぬ中、宙に舞い散る砂の花びら、闇に浮かぶ白く大きな満月をバックに"赤毛のメア"が降り立っていた。
漆黒の双つの瞳が妖しく輝き、蜘蛛のような8つの朱髪が陽炎のようにゆらゆら揺れる。両腕のアサルト・カノンの銃口から昇る白い余韻の煙…
「あ、ごめんヤミお姉ちゃん。はずしちゃった♪」
場にそぐわない暢気過ぎる声
「まったく…役に立たない。これだから妹ってヤなの」
「ぶー…お姉ちゃんヒドイ。だって仕方ないじゃん、ネメちゃん近くに居たんだもん。当たったら危ないじゃない」
朱髪を弾ませ頬を膨らませるメアの横、
「あんなの別に要らないじゃない…でも、まあいいよ。メアが大事にしてるならお姉ちゃんもチョットは大事にしてあげる、この場所に繋がる道標として役に立ったし……でも、今はそれよりも――」
圧倒的なプレッシャーを放つその存在。
頭部には鋭利な角、指には触れるだけで切り裂かれそうな長い爪。華奢な身体を隠しきれていない、線のような漆黒の
先程まで戦っていた変身少女とはまた異なる黒衣の使者。風に靡く両翼から漆黒の羽が踊り散る――覇王ギドはザスティンからの報告で存在は知っていたし、
「アンタが私のパパを攫ったのね…――――塵一つ残らないと思って」
「金色の闇…ッ!」
暗黒の翼と金髪を靡かせる月夜の少女は、砂漠に舞い降りた天使のようにも死神のようにも見えた。
65
電脳世界で戦闘が始まる少し前、平和な現実世界では――――
「ただいまー…」
気だるげな声で呟き、秋人は慣れた様子で自宅へと戻った。
「あ、おかえりなさい。お兄ちゃん」
ぱたぱたとスリッパを鳴らし玄関の兄へと走り寄る春菜。料理の途中だったのであろう、エプロンで手を拭きながらの登場であった。幸せそうな穏やかな微笑みでの出迎えは台詞さえ違えば新婚の妻にしか見えない
「お、あ。た、ただいま春菜」
「?おかえり、お兄ちゃん」
そんな可憐な様子に秋人は緊張し、顔を強張らせる。やや上ずった兄の声に春菜は不思議そうに瞬きした。まさかアノ秋人が自身に緊張し動揺しているなど夢にも思っていない
(どうかしたのかな、ヘンな秋人お兄ちゃん。いつもなら「なんだそのふざけた普通の格好は!スク水エプロンくらいやれっての!」くらいは言ってくるのに…)
(春菜ってこんな可愛かったっけ!?)
ふたりは珍しく全く別々の事を考えていた
「あ、いや、あの…――ただいま春菜」
「うん、おかえりなさい、お兄ちゃん」
大丈夫?とでも続けるように小首を傾げる、秋人にとって一番大事な存在、妹…――――春菜。
「あー、いや、あれだな。暑いな春菜、もう夏だな」
「?そう?今日はだいぶ涼しいし…もう秋っぽい空気だよ、明日はまた暑くなってプールに行くには丁度いいみたいだけど」
「そ、そうか。そうだな、あははは…」
頬を染め、視線を彷徨わせる春菜にとって一番大切なひと、兄…――――秋人
「ほんとに大丈夫?なんだかヘンだよ?お兄ちゃん…」
「いや、なんでもないぞ!春菜がスゲー可愛くてイイ匂いがして、細身で腰のくびれが色っぽくて制服エプロンスカートから伸びる曲線美がたまらなくキレ…って俺は何言ってんだ!」
「もう、お兄ちゃんそんな事考えてたの?この格好ならいつも見てるじゃない、どうしたの…あ、」
遅れて春菜もようやく気づく。気づくと同時に俯き桜色に染まる頬、
「お兄ちゃん…秋人くん、もしかして照れてるの…?私に」
「う…!」
俯き視線を兄へと彷徨わせる春菜も、熱っぽい視線を受け取る秋人も、ふたりとも顔は熟したリンゴのように、既に沈んだ夕日のように真っ赤だ
『想いは言葉にしなくては!わたし!春菜さんの恋を応援しますです!』
『春菜にもちゃーんと言ってあげてね!お兄ちゃん!』
ふたりの脳裏に応援者の声が響く
「あの…秋人くん、あのね…私…」「あのな春菜、俺、その…」
もじもじと身を捩り、声を震わせる春菜。困ったように視線を彷徨わせる秋人
――――ちゃ、ちゃんと言うよ!お静ちゃん…!
――――ちゃんと言ってやるっての!!見てろよララ、お兄ちゃんは決して優柔不断で迷ってばかりの結城リトみたいじゃ…あ――――
俺が春菜を幸せにしてもいいのか?リトではなく、春菜の兄の俺が……――――
秋人は目を瞬かせ、眼前で口ごもる可憐な乙女、春菜の顔を眺めた。
(……――――綺麗だ…)
見るもの全てを元気にさせる、太陽のような美貌を持つララとも、儚げな妖精を思わせるヤミの美貌ともまた違う、穏やかで優しい月灯りの美しさが春菜にはある――――それは見た目だけじゃなく、内面からくる事も秋人はよく知っていた。知っていたけれども、こうも間近でしっかり見たことは無かったように思う
(俺、やっぱ…)
そんな美しくて清らかな春菜を独り占めして良いのだろうか、元々は春菜とリトをくっつけようとしていたのに。なによりも誰よりも春菜の幸せを望んでいるのに…――――俺が幸せになっていいのだろうか、それで春菜は幸せになるのだろうか
「あのね…秋人くんのこと私…」
「あのな春菜、やっぱ俺、」
ピンポーン
ふたりの告白を割くように鳴り響くベル、突然の音にビクッと肩を震わせる西蓮寺兄妹
「ったくこんな時に…誰だっての」
嫌な予感に扉を開くと、そこに居たのは金髪青眼の騎士・ザスティンだった。
「すいません、こんな遅い時間に…アキト殿」
「なんだ、またセフィかと思っただろ。漫画家志望剣士のザスティンか、またなんかアドバイスくれってか?」
「いえ、そうではなく…いえ、そんなところです。ちょっとこちらへ、大事な話が…」
ちらと秋人の背後、春菜に視線をやったザスティンは扉の外へ秋人を手招きする。
「ったくなんだっての……」
秋人はそれに従いザスティンに続き玄関を出た、ザスティンとの漫画談義、それは春菜にはちょっと刺激の強いえっちな話なのだ。もし聞かれたら春菜は質問攻めしてくるだろうし、こっそり実行しようとしてくるだろう――――扉を閉める前、春菜に目で合図を送る
(ちょっと、待ってろ、話はまた今度な)
(うん…待ってる)
「で?なんだ?また萌えエロシチュエーションについて聞きたいのかっての」
バタンと締めたドアに背を預け、溜息を吐く秋人がやや疲れたように尋ねる。春菜にドキドキして緊張していたのだ。
「いえ、それも勿論お聞きしたいのですが、今回はそうではなく…――――御免」
「あ?じゃあなんだって……ぐ!」
腹部に走る激痛、秋人の意識が暗転した。
65
――――クソッ、メンドくせぇ…ッ!
覇王は内心苛立っていた。無論、表情もソレに準じたモノになる
「ふふ、オジサンこっちこっち♪」
「ッ…!――ラァッ!」
迫りくる真紅の刃、振りぬかれる神速の拳。ぶつかる2つに甲高い金属破砕音、衝撃に割かれる砂塵と暗黒の霧
スピードこそがメアの武器。一撃の重さは当然自身程ではない、しかし神速に届かずとも速度と手数が尋常でなく、矢継ぎに攻め立て隙を生み、そこに背後で威圧・警戒する金色の闇が最大火力の剣戟を叩き込む。そういうコンビスタイルのようだった
「メア、ちょっと邪魔。おっさん今度はこっちだよ」
「…チィッ!」
ガッッッギィイインッッッ――――!!!!
甲高い金属音、拳に感じる強い衝撃―――チッ…!
赤毛のスピード・リズムに慣れた頃、こうして金色の闇が前にくる。そうして金色の闇が放つ剣戟のリズムに慣れれば、今度は赤毛のメアが前にくる。双子のように息のあった
「ほらほら、こっちこっち――♡」
「ウオラァッ―――!」
重く、固い大剣と交わる度、拳に強い衝撃が伝わってくる。金色の闇の真の実力はまだ把握できないが、恐らくは自身と同程度。そして自身も攻撃よりも防御の姿勢をとることが多くなっている。まして今現在が
「あは、きたきた♡」
「♪」
「――ッ!」
ズオッ!
尾先から
……を隠れ蓑に
「クッ…!」
朱、黒、金の大刃が覇王に迫る――――避け……られるか!無茶苦茶だ!
砂塵を突き破る予測・回避不可能な瞬間攻撃、先ほどのネメシスの攻撃も同じそれであったが、それさえ最早生ぬるい。今襲い来るそれはまるで針のむしろ、針の嵐である。糸先ほどの隙間もない攻撃を避けられるはずもなく、覇王は瞬時に迎撃を選択
「…――ラァッ!」
甲高い金属音、朱、黒、金の大刃が迫った順に次々砕かれる。舞い散る破片が色鮮やかに場を包む――――が、瞬時に今度は逆の順、金・黒・朱の大刃が迫り…
―――メンドくせぇッっってんだよ!
「…オラオラオラオラオラオラオラオラァッッ!!!!」
―――避けられないなら砕くまで、砕いて終わらないなら終わるまで砕くまでッ!
砕かれる重金属の刃たち。神速で振るわれ続ける拳の連打。砕かれたことが
「オラオラオラオラオラオラオラオラァッッ!!!!」
破壊し続ける覇王は確かな疲労を感じながらも瞳には闘志を宿し続けていた
が。
「うっわ、おっさんマジ汗臭そう…パパの汗なら舐めても平気だけどアレはないよねぇ、メア」
「うん、そうだねヤミお姉ちゃん。なんか必死って感じでキモチワルイね♪」
「…虚しいヤツだな。愛娘たちにはウザがられ、年頃の少女たちにも白い目でみられる…ある意味マゾ豚なら萌える展開だがな。それにしても必死な形相だ、ククク…頑張れよデビルーク王。迎撃しなければザクっと死ぬぞ?無残にな…プッ、ククク」
その精神を砕くかのような嘲笑う。笑いの主は生み出す刃の速度も威力も落とさず、言いたい放題な
「消えてェらしいなァァッ!テメェらッ!」
「あは、またきたきた♡」
「♪」
「――ククク…」
怒り、爆発――――尾先の光線に舞い上がる砂。覇王を爆心に直ぐ様距離を取る漆黒の
怒りは人から冷静な判断を奪い去る。それは相手に多くの隙を与え…普段は気づくはずの変化も気付かせない。そう、力の暴風を無作為に撒き散らす覇王の身が縮んでいる事にさえ―――
「ふぁぁあ、ねむ。何度も何度もビームばっかりでイヴもう飽きちゃった。やっぱりデビルーク人て脳筋?」
「ああ、それならさっき私が言ってやったぞ、金色」
「なあんだ…じゃ、もう怒ってこないかも」
「かもしれんな」
「でもなんかプルプル震えてるよマスター、ヤミお姉ちゃん。オジサン、おしっこでも我慢してるのかな?」
「テメェら…もう我慢ならねェ…ッ!」
身体が子どもサイズとなっているにも関わらず、一体どれほどの力を秘めていたのか、ギドを中心に風が巻き起こる。
「おお、遂に全力を出すようだな…あのザマであんなのを打てば、ドーターコンは完全に力を使い果たして赤子になるか死ぬだろうな」
「どうしよう、困ったねーヤミお姉ちゃん♪」
「アンタたち…少しはピンチって感じしないの?まったく…仕方ないね。このクサイおっさんはパパ狙ってたけど、真犯人は別に居るみたいだし。なによりココにはパパ居ないみたいだし…」
目を閉じ全身から力の練り上げに集中する覇王。精神をえぐるように破壊する三姉妹たちの毒舌も効果がないようだ。こうなっては余計な牽制は最早不要、必要なのは――――
「…んじゃ、サクッと殺っちゃおうか。この空間もバキッと壊して攫われたパパを探さないと、春菜お姉ちゃんも心配してたしね。ちゃんと協力しなさいよアンタたち」
「ククク…良いだろう。だが私はもう疲れたのでメアの中で寝る。おやすみ、グー」
「あ、マスターずるいっ!私もヤミお姉ちゃんの背中で一回おやすみ、ぐー」
「あ、ちょっと!しがみつかないでよメア!おっさんにおっぱい見えちゃうじゃない!」
「だってホントにもうねむ…おやすみヤミお姉ちゃん…」
「…もう、まったく役に立たない妹たちなんだから!もういいよ、イヴ一人でやっちゃう」
溜息を溢しながら金色の闇は翼を広げて宙へ浮かび、片手を真っ直ぐ月へ掲げた。
直後、光の柱が生み出される。圧倒的存在を放つ光柱はやがて巨大な剣となる。夜闇の砂漠を真昼の明るさが満たし、浮かび輝く月すら霞む程だ。
覇王も光の熱を顔に、圧倒的パワーを感じたのだろう――――瞳を開き、二人は叫んだ。
「……三人まとめて消し飛びやがれえッッ!!!」
「……ア・ン・タ・が、ねッ!!!」
咆哮と共に巻き起こる風は烈風と化し、光は最高潮に達したと同時、
「…ラァッッ!!!!!」
「―――ッ!!」
二人の放つ必殺の一撃がぶつかり合う。金色の闇が破壊の光剣を薙ぎ、覇王は破滅の烈風を全てに撒き散らした
自身の持ちうる能力で最大・最高の一撃。ぶつかり合う光と風、激しい地鳴りと衝撃波。砂の大地が崩れ、二人を中心に竜巻と雷電が巻き起こる。
銀河破壊級の攻撃を空間が支えうるわけもなく、空間が震え無数の罅が入っていき――
「オラオラオ、ラァァ!!まだまだ俺の力はこんなもんじゃねェぞぉお!!!」
「うわっ!ウッザ!…くッ、早くっ、く・た・ば・り・な・さ・い・よ、ね!!」
限界を突破し威力を増す光と風。砂漠は光・風・砂のみで満たされ、パワーをぶつけ合う二人からも互いは見れない
「うおらあああッ!まだまだァアアア!!」
「あー!もうっ!暑苦しいっ!!ホントにウザい!早くイヴはパパに甘えたいのに!もう!ちょっとはメアもロリも手を貸しなさいよ!」
「ふぁあ…お姉ちゃん、ねむ…おやすみ……」
(やれやれ…)
史上、コレほどのパワーを出したことはない銀河の覇王と変身少女・最終形態。更新した限界を更に越え、激突する光と風。激しく震え続ける空間は最早2つの衝撃に耐えられそうもない、破壊されるのも時間の問題だ。
「ウォオオオ…!!!「お父さま♡ロリロリきゅんかわ娘のモモ・ベリア・デビルークが踏みつけて昇天させてあげますわ♡」!モモ…――――!」
一瞬のドーターコンの油断
「!――――じゃ・あ・ね!」
大きく押し返す光、巻き付く烈風。2つの銀河破壊級の力、それをまともに受けとった―――覇王で、ドーターコンで、ネメシスの声をホンモノの
「ぐおぉおおお!そんなモモもおとーさんは愛しているぞおおおおお!!!」
異次元の彼方へ吹き飛んでいった。
「ふぅ………ゴミはゴミ箱に。パパがいつも言ってるもんね。」
こうして覇王の進撃は失敗に終わった。
「さ、イヴもパパのとこに跳ばないと…うーん、どこいっちゃったのかなぁ、見つけたらタダじゃおかないんだから」
失敗の原因、それはターゲットが宇宙一危険な殺し屋少女、変身兵器たちを手懐けていたからであり、また本来は人知れず秋人を強襲するはずだった計画も彼の元妻の、銀河でその明晰さを知らぬものの居ない元王妃が妨害していたからである。
そう、秋人を攫った真犯人。その人は――――
「ふふ、アキト。最後の踏ん切りのつかない貴方に――――お母さんヒントをあげますからね」
「セフィ…」
一面まっ白の、白亜の空間の中。銀河を統べる元・王妃の黄金の額飾りがきらりと光った。
感想・評価をお願い致します。
2016/05/17 一部改定
2016/05/19 一部描写・台詞改訂
2016/05/22 一部改定
2016/05/25 一部改定
2016/05/26 戦闘描写改訂
2017/07/16 一部改訂
2016/08/07 一部改訂
2016/06/02 一部構成改訂
2016/07/06 一部改定
2016/10/22 一部改定
2017/02/18 一部改定
2017/03/06 一部改訂
2017/06/14 一部改訂
2017/12/29 一部改訂
2018/01/21 一部改訂