少女たちにとって"男女の仲"とは秘め事だった。
だが秘めずに
これはヒロインたちの愛と勇気とちょっとした暴力の物語―――――
「ふう…こんなものかしら…」
一息ついて唯は額の汗を拭った。ここまで集中、三時間以上。身体に広がる心地良い疲労感、キッチンには甘いチョコの香りが広がっている。琥珀色のミルクチョコレートは型に入れられ、あとは冷やし固めるのみだ。
「どれどれ、味見を…―――ん、甘い」
ペロリ、と指先のチョコを舐めとってみる。最近になって心に引っ越してきた"内なる唯ちゃん"も同じ仕草で味見していた
「え…?なに?(内なる)唯ちゃん『どうせお兄ちゃんは他の女にも貰うし、アンタはどうせ渡す方法をあーだこーだと悩むんだから勢いつけて「そしてこれは私からのぶんっ!!」って顔にぶつければイイじゃない』って…そうね!流石唯ちゃん!」
秋人がチョコ(物理)のせいで鼻血を出した、そんなバレンタインデーだった。
1
「いっせんだって♪こえ…あ「あぶないっ!!」」
ベチャッ!
リトの顔面にビターチョコが付着する。すんでのところでスライディングを決めたリトのおかげでフローリングを汚すことは無かった。リトは元・サッカー部、美紺のハートへ華麗にゴールを決めた予感がしていた。
「リト、あ…」
「いてて…気にするなよ美柑、ちょっと背中を打っただけだよ。ん、チョコ美味いな!」
なぜなら美紺はキレイ好きなのである。リトは優しい兄として、美紺のソワソワウキウキの上機嫌を損ねないよう行動したのだ。美柑を責めず顔のチョコを口にするリト、これは流石に褒められて然るべきだろう
―――だが
「リト…アンタなにしてくれてんの!」
「えっ?」
冷たく刺さる美紺の声、ジトッと睨む瞳には涙まで浮かべている
「本命バレンタインチョコ…最初に食べた男の子、リトになっちゃったじゃない!」
「あっ!そういえばそうか…!でっ、でも床に落ちるよりはいいだろ!?」
「床のがマシよ!」
「ひどっ!」
「……もういいよ。それリトにあげるチョコね、オメデトウ。ハッピーバレンタイン」
「棒読み!?当たったの顔だぞ!?それも目の辺り!」
「…何?少ないって言うワケ?チッ、もうちょっとあげるわよ…はいあ~ん」
「み、美紺!あ~んって!嬉しいけど目で食えるわけないだろ!」
「ララさんから本命チョコ貰ったくせに生意気。瞳孔開いてもぐもぐ食べなさいよ、はいカシャ」
「効果音の問題じゃ…っ!美柑、頼むから口に…ぐぎゃああああああああっ!」
リトの視力がほんの少し下がった。そんなバレンタインだった。
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