貴方にキスの花束を――   作:充電中/放電中

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短編集
R.B.D小話①『俺が春菜』


プシュー…!

 

「こ、これ…」「おー」

 

舞い散る桜吹雪の中、二人の男女がカプセルから現れる。髪の色は黒、瞳の色は紫。困惑しきった青年の方とは裏腹に少女の方は楽しそうだ。桜満開の電脳空間公園内には彼らを含む四人の男女が揃っていた。

 

「どうかなー?春菜ー?」

「ど、どうって…お、落ち着かないよ、ララさん」

 

秋人(・・)は答えた。普段とは全く違う弱々しい口調で心細そうにみえる。視線を彷徨わせ、おどおど怯える様子は普段は見ない愛らしい姿だった

 

「どうかなーお兄ちゃんは?」

「うむ、グッドだ!ふっふっふ!ぐふっふっふっ…!」

 

春菜(・・)は答えた。清楚な美貌に不敵な笑みを浮かべ、手をワキワキと開いたり閉じたりしている。身体の感覚を確認しているらしい、時折溢す悪役めいた笑いが不審過ぎる春菜だった

 

「やったー!じゃあ成功だねっ!」

「ああ、よくやったぞララ!褒めてやる!!ぐふっふっふ…!」

「うぅー…なんか恥ずかしいよ、お兄ちゃん。あとそのヘンな笑い方やめて…」

 

ふたりの身体は入れ替わっていた。勿論、飛び跳ねて喜ぶララ’s発明品のしわざである

 

「よっしゃヤミ!しっかり撮っておけよ」

「…仕方ありませんね」

 

カシャ!カシャ!

 

ニヤリと笑う春菜がヤミへ不審なポーズをとる。ヤミは不満げな表情でそれをカメラにおさめていた。今回は『じゃんけん』により撮影役を仰せつかったのだ。身体の交換に参加できないのはチョット悔しいが、内心ほっとしていた。

 

「アキト、写真を撮るだけが目的なら、春菜に直接頼めばいいじゃないですか」

「お前な、春菜がこーんなポーズで」

「…はい」

「こーんな事してくれると思うか?ぴらり」

「……………………………………………………………………………………………無理ですね」

「だろ?だから俺が…」

「アキト!み、見てる私が恥ずかしいので足を閉じて下さい!」

「あ、撮ったか?」

「…。」

 

カシャ!

 

ハレンチで卑猥過ぎるポーズの春菜を撮影するヤミ。本心ではえっちぃすぎる格好の春菜を撮りたくないが、仕事としっかり割り切っているのである。愉しそうにはしゃぐララと話しながら、様子を窺う秋人は顔面蒼白になっていた。あられもない姿の自分が見えたからだ

 

「…そういえば気づいた事があるんだが」

「?なんですか」

「制服の腰のあたりがちょっとキツいな、苦しい」

 

「Σ(゚Д゚;)」

「あはは!お兄ちゃんの顔おもしろーい!」

 

「逆に胸の方は少しスースーして…痩せたか、春菜」

「…………………………………………………………………………ぷっ」

 

「…。( ゚д゚ )」

「あははは!すごいねー!どうやってそんな顔するのー?こう?」

 

その辺でよせばいいのに、隠していた乙女の秘密を暴かれ、失意の海にぶくぶくと沈んでいた春菜の心は次の発言で天元突破に浮上した。身体は全ての音を置き去りに加速して

 

「よし、これは直に触ってみるしかな―――ごはっ!?!?」

 

「ひっ!」「きゃっ!」

 

殺し屋、金色の闇は見た。疾風の如く現れた何者かの一撃で春菜の身が桜の花びらより軽やかに舞い、そのまま桜の幹に激突し崩れ落ちる姿を。

 

「…ヤミちゃん、カメラ」

「は、ハイ、どうぞ…」

「あと、なんにも聞いてないよね」

「…ハイ」

 

ララは見た。目の前から秋人が居なくなったと思ったら、ヤミに優しく微笑んでいる。そんな秋人だが目は全く笑っていない、はっきりいってコワイそれは妹である春菜特有の笑顔だ。春菜の精神が乗り移るだけで、こんなにもヤミちゃんが従順になるとはララは思っていなかった。冷や汗を流し、強張った笑みを浮かべる殺し屋のヤミちゃんなんて初めて見たのだ

 

 

その後、元の身体に戻った春菜が頭の激痛に涙し、同じく秋人がカメラの紛失に嘆き涙したという。なぜカメラが無くなり何が起こったかなんて、ヤミちゃんは何も知らない

 

 




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