貴方にキスの花束を――   作:充電中/放電中

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R.B.D小話③『ひろびろぜいたく』

「じゃーんっ!これを使えば…【ひろびろバスタイムくん】ポチッとな!」

 

ぎゅ――――――――――――――――――――んっ

 

ララがスイッチを押すと西蓮寺家のバスルームが急激に広がった

彩南高校のプールと同じくらい大きいバスタブ、その倍もあるバスルームが瞬時に出来上がる

 

「おー!こりゃあ凄いねェ」

 

驚く里紗、バスタオルを巻いたまま満足そうに笑っている。この発明品を準備したのはララ、「たまには皆でお風呂入りたいよねェー」と言い出しっぺは里紗だった。

 

「な…!ホントに広がるなんて、こんな非常識メカ…持ってきた入浴剤たりるの」

 

唯は目を見開いて驚いている。身体にはしっかりバスタオルを巻き、ハレンチボディを封印していた。しかしキツくタオルを巻いたおかげで躰のラインは浮き彫りになり、かえって艶めかしい

 

ところで、彼女達がなぜタオルを巻いて入浴するのか?というと…この中に一人だけ男がいるからだ。

 

勿論それは

 

『だいじょーぶだいじょーぶ!オニーサンいてもタオル巻けば大丈夫だからさぁ、ねぇーイイジャンかぁ~ねぇ唯っち~春菜ぁ~』

 

と数分前に皆を説得した男気溢れる里紗ではない。

 

「シャワーまで増えてる…すごい。こんな大きなお風呂見たことない…すごい、ハレンチ常識」

 

里紗に誘われた時、唯はてっきり銭湯に行くものだと思っていた。「で、集合場所は?」「んじゃ春菜んちのお風呂ねェー!」と聞いた時も唯は驚いた。が、まさか銭湯より広い風呂に入るとは想像できなかったのだ

 

「ねぇ、唯っち。ハレンチ常識ってなに?」

「な、なんでもないわよ、別にただ普通に驚いて出ちゃっただけよ!」

「いつもララちぃの発明アイテム信じないもんねェ、唯っちは」

「ふん!ララさんのメカもたまには役に立つのね!」

「でも、ララちぃに頼まないで自分で入浴剤持ってくるとか…庶民的でカワイイジャン♡」

「うっ…!うるさいわね、礼儀よ礼儀!」

「あとさぁ、メカってなんか古くない?アイテムって言えばいいのに。唯ってばJKなのに…プププッ、なぁにテンパっちゃってるのぉ~?」

「うるさいっ!さっきからニヤニヤうるさいっ!里紗のばか!」

 

広いバスルームで追いかけっこを始める里紗と唯、一人さっさと飛び込んでいるララ。広い風呂場は華やかで姦しい。しかし、そんな雰囲気に飲まれない者たちも居た

 

「…美柑、身体を洗ってあげますね」

「アリガト、ヤミさん。私も洗ってあげるね…でも流石ララさんだね。ホントに広くなっちゃった」

 

特に興味を示さないヤミと非常識にも動じない美柑の二人だ。二人は全くのマイペースで互いの身体を洗っている。タオルで器用に身体を隠し、洗いあう芸当は小柄な二人ならではだった

 

「わあ、ホントに広い…これって泳いでもいいのかな?ね、お兄ちゃん」

 

しとやかに微笑みかける春菜。身体にタオルを巻いているとはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしい。緊張を解す為に言った冗談は春菜に少しだけ勇気をくれたようだ、隣に佇む秋人の手をそっと握ったりしている。

 

「…。」

 

しかし表情の動かない春菜の兄、秋人――――能面のような無表情のままにいる。艶めかしい美少女たちに囲まれているというのに瞳は何も映していない

 

「…アキト、どうかしましたか?さてはお腹でも減りましたか?てっきり貴方は一人で騒いで小躍りするものかと…」

 

静かな秋人にヤミも流石に振り返り様子を窺う。さっきからふたりが気になっていたのは内緒だ

 

「…。」

「お、お兄ちゃん、どうしたの…大丈夫?」

 

春菜は秋人の前で手を振ってみるが瞳は虚ろだ。春菜さえ見ずどこか遠くを眺めている、むしろ何も見えていないようだ

 

「アキト、私は貴方がてっきり一人ではしゃいで泳ぐものかと………………もしかして泳げないのですか?」

 

ビクッ!

 

秋人が身体を震わせた。当然それに気付いたのは春菜だけではない、大きなバスルームにはしゃぎつつ様子を窺っていたヒロインたち全員だ。

 

「ば、馬鹿言うな!ハーレムに来てしまったかと思ってだな、あの、なんだ。どうやって遊ぼうかって考えてただけだっての!」

 

震え声で答える秋人、春菜でさえ「お兄ちゃん…ちょっと苦しい」と思っていた。

 

「じゃあこっち来て入ったらぁ~?オニーサン…背中、流してア・ゲ・ル♡」

「コラ!里紗!ハレンチでしょ!胸で洗うなんてハレンチな!」

「いや、そんなこと言ってないし…唯っちする気だったの?」

「えーっ!おっぱいで洗うのー?ンー…こうかな―唯?」

「キャーッ!ララさん!ハレンチ!やめなさい!」

「お~やるねぇララちぃ!にしし、唯っち観念しなさい!この乳がこの乳がぁ~」

「キャーッ!!!」

 

「…で?行かないの、お兄ちゃん。おっきなおっぱいさんが好きなんじゃないの?あ、味なんだっけ」

 

秋人の様子を心配して春菜が微笑みかける。もちろん、目は全く笑っていない

 

隣の春菜がコワイのか、これから始まるだろう水泳教室がコワイのか。秋人の頬にちいーっと汗が流れる

 

「…里紗センパイ」

「あはは!このこのぉ~!ハレンチおっぱいどもめー!…ん、なに?オニーサン」

「自分、焼きそばパン買ってきます」

「お、アリガト。気の利くコーハイくんだねェ、あとで可愛がってあげよーう♡」

 

行ってきます、秋人は踵を返し浴室を出て行く

せっかく春菜も勇気を振り絞ったのに、入浴美少女たちの艶姿に目もくれず軽い足取りで風呂場を出ていこうとする。その姿になんだかモヤモヤとした気持ちが湧き上がってくるのは春菜だけではなかった。

 

「…待ってください、アキト」

「待って、秋人お兄ちゃん」

 

がっしり

 

トランスの大腕で秋人を掴むヤミ、その上から更に春菜が抱きとめる

 

「大丈夫、私が教えてあげるから…泳ぎは得意なんだよ?」

 

と、頼りがいのある笑顔で春菜が

 

「…心配しないでください。溺れて死にかけても救命処置はバッチリです。」

 

と励ましなのか分からない事をヤミが言い、サムズアップしてみせる。

 

「いや、焼きそばパンをだな…っ!おい!ヤミ!ひっぱるな!バカ!コラ!春菜っ!唯!ララ!お前たち!里紗…裏切りモノ!美柑っ!お前までかっ!うぎゃああああああっ!!!」

 

 

目を爛々に輝かせるヒロインたちにお湯につけこまれ、秋人がますます泳げなくなったのは余談である

 

 




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2017/03/18 一部改訂

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