貴方にキスの花束を――   作:充電中/放電中
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R.B.D特別小話 『金色さんの心休まらない休日-中編-』

1

 

 

一般に飲食店は週末が混雑する。

 

それ以外にも"お祭り"や"有名アイドルによるライブ"などがある日も大勢のお客で混雑する。

そんな日は当然、スタッフも座席も足りなくなる。

 

特別なイベントに休日が重なれば、そりゃあもう激しく混み合うのだ。

 

しかし、

 

客で混み合う日も"クリスマス"となれば皆バイトに出たくないものである―――特に女の子は。

 

 

というワケで―――

 

 

「「「「「「「「「おかえりなさいませ、ご主人さま」」」」」」」」」

 

「「「「「うおぉおおおおおおおおおおおぉぉぉおおおおおおおんッッッッ!!」」」」」

 

 

コスプレ喫茶は大いに繁盛していた。

 

出迎える女性陣の華やかな声は、あっという間に男たちの野太い歓声に飲まれてしまう。木霊する雄叫び声はビリビリと窓を震わせる程だ。

 

それもそのはずこの店は彩南で――いや、宇宙で選りすぐりの美少女達がもてなしてくれる店である。助っ人美少女軍団の噂はすぐに広がり、店の前には客達が長い列を作っていた。

 

「注文決まったら呼んでねー!お客さまー」

「お姉さま、『ご注文がお決まりでしたらお声がけ下さい、お客さま』ですよ?」

「あ、ごめんねーモモ…また間違えちゃった」

「うふふ、申し訳ございません。お客さま」

「いっ、いえ!とんでもないです!」

「ケッ、モモのヤツぶりっ子しやがって……オイ!オマエ!姉上たちにヘンな事したら許さないからなッ!!」

「ひぃ!めっ、滅相もないです!そんなこと絶対しません!」

「はぁ…もう、ナナったら…」

 

必要以上に睨みをきかせるナナにモモは密かに溜息をついた。

先程からナナはこんな調子で肩肘張ってばかりいる。慣れない接客に張り切って頑張っているようだが、同時に緊張もしてるらしい。先程からモモは姉のララよりナナのフォローで忙しかった

 

「こら、ナナ!お客さまが怯えちゃうでしょう?胸もブーストしてあげたのに、ちっとも接客しないんだから」

「うっ、うるさいぞモモ!アタシだってちゃんと働いてるダロ!」

「どこがよ、キバ見せてないでちゃんと笑顔を見せなさい。」

「これ以上アタシに何をどうしろって言うんだよ!」

「だ・か・ら、清涼飲料水のCMの白いワンピースが似合う女の子みたいに笑顔で接客しなさいって言ってるでしょ」

「ケッ、そんなぶりっ子モモみたいなの絶対イ・ヤ・だ!!」

「なんですって…!」

 

バチチチッッッ!!!

 

睨み合い、火花を散らす双子姫――モモとナナは助っ人として参戦して以降、こうして飽きもせずケンカを繰り返している。

 

「ふふ、二人とも張り切ってるねー!」

 

一方、長子のララはというと、内心ではしゃいでいる妹たちを優しい眼差しで見守っていた。とんでもなくセクシーな(・・・・・)姿で。

 

 

高いピンヒールと編みタイツ。

 

白いカフスと銀のチョーカー。

 

長いウサ耳と丸い尻尾。

 

 

――原点にして頂点、正統派のバニースーツ。

 

 

華奢なピンヒールで歩くたび、豊か過ぎる胸とうさ耳がふるふる揺れる―――自覚のない色香が逆に魅惑的な"ブラックバニー"のララである。

 

黒光りするぱつぱつのバニースーツが、ララの白く木目細やかな肌の美しさと巨乳をこれでもかと強調していた。

 

「ナナもそこそこ人気あるんだから、いい加減ちゃんと接客しなさい!胸もブーストしてあげたんだから!胸もブーストしてあげたんだから!」

「なんで2回も同じこと言うんだよ!さっきからシツコイぞ!アタシはアタシの仕事をしてるんだッ!」

「はぁ…まったく、ナナってやっぱりお子さま――あ、お皿お下げいたしますね(ニッコリ)」

「……ケッ、二面相ぶりっ子」

 

モモとナナの二人もまた、バニースーツが良く似合っていた。

 

モモのボブカットの豪奢なピンクブロンドが挑発的なピンクのスーツに良く映える。しとやかな微笑みが愛らしく、桃のように柔らかな肢体が艶やかな色気を放っていた。

 

髪を下ろした双子のナナは快活さよりも無垢な幼さが際立ち、うさ耳がジャストフィットである。双子揃いのバニースーツも正反対の性格と相まって良いコントラストを生み出していた。

 

デビルーク三姉妹は三人共が元々気品を感じさせる美貌の為、エロティックなのに下品さのないハイソな極上バニーとなっていた。

 

「とにかく、アタシはアタシの仕事をやってる!それでいいダロ!」

「…ナナの仕事ってば、突っ立って睨んでるだけじゃない。それじゃ接客にならないわよ」

「男がハレンチなことしないか見張ってるんだ!それに、アタシだってお皿とか片付けたりするダロ!」

「ちゃんと笑顔で接客もしなさい。今のままだと、ペタンコ胸を寄せて上げただけのツン猿ナナじゃないの。ちっともバニーさんじゃないわ」

「な、ななななんだとッ!!!!!」

 

本気のケンカに発展しそうな時、ララがやんわり笑った。

 

「モモ、ナナ、バイト終わった後のケーキって楽しみだねー」

「!そうだった!バイト終わったらケーキ食べ放題だった!」

「食べ放題じゃなかったと思うけど……確か豪華商品のプレゼントもあるんでしたね」

「うん、確かにそうだったねー。プレゼントってなんだろうね」

 

ララはこういう時無理に(なだ)めたり、押し付けがましく仲を取り持ったりしない。けれど、ララがニコニコしながら言うだけで双子姫の表情は明るいものに変わる。

 

「あのー、すみませーん」

「ン?呼んだか?ちょっと待ってろ!――モモ!さっさとバイト終わらせるぞ!」

「そうね――って、ちゃんと接客しなさいってば!」

 

デビルークバニーは三姉妹の仲の良さとセクシーな可愛さで大人気だった。

 

 

「まったく、ララさんってば料理運ぶの忘れてるじゃないの」

 

そして、クリスマスバイトといえばこの人、ミニスカサンタ(うささ耳仕様)の古手川唯である。唯は今年もツーピースのサンタコスチュームを着て例年通りバイトしていた。

 

去年よりも際どさが倍増したコスチュームは、豊か過ぎる谷間はおろか、膨らみの上半分まで見えてしまっている。気になって胸元の位置を調整するも唯の豊満な胸は一向に隠れない。あれこれ試行錯誤したが、唯は半ば諦めてしまっていた。

 

「ああもう!さっきから忙しすぎでしょ!服も動くとすぐにズレちゃうし…っ!」

 

更にスカートの丈も膝上30センチとかなり際どいものだった。

 

ほんの少し屈んだだけで、下着が丸見えとなってしまう短すぎるマイクロミニスカート。これに唯は試行錯誤の末に黒ストを採用。下着の露出だけは防備していた。

 

「古手川さんってば、何をふてくされるんですかねー?相変わらずエロい太ももしてますかねー」

 

同じサンタコスチュームの新井紗弥香がニヤリと笑った。

明るい髪色とはつらつと輝く瞳、飛び跳ねるような可愛さは正に女子高生――しかし、浮かべている笑みはエロい中年親父のそれだったが。

 

「新井さん…貴方はさっきから私のところばっかり来てますけど、仕事してるんですか」

「んー?私ってばめちゃめちゃ仕事してますかねー?」

「それを今、私が訊いたんです!」

 

バンッ!とテーブルに叩きつけるように配膳しながら、唯は文句を続けた。ちなみに乱暴に料理を出された方の客は恍惚とした笑みを浮かべている。少し崩れた料理もご褒美でしかなかった

 

「…新井さん。次から次へとお客さんが来るから、私も貴方も話してる暇はないはずですよね?」

「黒ストってのが逆に太ももをツヤツヤさせてエロいですよねー。流石、エロを追求し続ける痴女川(・・・)さんですかねー」

「誰が痴女川ですか!古手川(・・・)です!話を聞きなさい!」

「えー?なんですかねー?」

 

今までは敢えて視線を合わせていなかった唯が、キッと紗弥香を睨みつけた。

「キャー!こっわーい!人斬りの目をしてますかねー!」とワザとらしく怯える紗弥香にますます唯の柳眉が上げる

 

「オーダーも次々来て、お客さんもひっきりなしに来て、ちゃんと動かないと皆が困るんですから!貴方も真面目に仕事して下さい!」

「私だってちゃんと働いてますよー?忙しいから古手川さんが見てないだけで」

「それなら私の邪魔をしないで下さい!」

「それにあんまりコーフンしちゃうとぉ、また(・・)パンツ見えちゃいますよー?」

「っ!」

 

瞬時に赤くなった唯はスカートの裾をバッと押さえつけた。

短すぎるスカートは白いふわふわの裾がやたらヒラヒラして、油断をすると中身が見えてしまいそうになる。黒ストで防備はしていても、唯は非常に落ち着かなかった。

 

「こんなハレンチな衣装…っ!用意したのは貴方でしょ!?」

「そうです。犯人はこの私、新井紗弥香が用意しました。気に入りましたかねー?キャー!パチパチパチ!!」

「褒めてませんッッ!!!!歩く時もスカートに余計な気を使うから動きにく…――ちょっと待って、新井さんあなた、また(・・)って言わなかった?」

「拍手してましたかねー?」

「さっきよ!さっき!その前!」

「言いましたかねー?ああ、そういえば言いましたねー」

「も、もしかして私のパン………下着、見えてたの?」

「古手川さんの純白パンツなら、私、もう何度も見ちゃいました。むしろ見飽きたくらいですねーやっぱり痴女ですかねー?」

「!!!??」

 

唯は赤くなったまま絶句した。

 

「白パンなのに黒ストで隠せてると思っちゃうところが、古手川さんのカワイーところですかねー、まぬけなパンチラサンタさん…キャッ♡」

 

トレイで口元を隠し、ミニスカサンタの紗弥香が目を細めて笑っている。乙女のように可憐な微笑みだが、言っていることは案外黒い。

 

「あと、私が古手川さんにちょっかい出してたのは先輩に『さり気なくフォローするように』って頼まれたからですよー?私の仕事増やさないでほしいですかねー」

「すみませーん!注文したいんですけどー」

「はいはーい!ただいまー!」

 

真っ赤な顔で恥ずかしさにぷるぷる震えだした唯を放置し、紗弥香は去っていった。

 

涙目で見送る唯が見たものは、ヒラヒラ揺れるスカートとチラッと見える"カラフルな毛糸パンツ"……いわゆる"見せパン"。女の唯が見て、それはいやらしい感じはない。

 

しかし、黒ストの透けパンは―――

 

「どったの?唯っち、固まっちゃって」

「……ふぇっ、りしゃ…」

「うん?一体どうしたってのよ、泣きそうな顔しちゃって…手かどっかぶつけちゃった?」

 

もう一人のミニスカサンタ、籾岡里紗が声をかけた。普段は不真面目な学生だが、意外に仕事は真面目にこなしている。唯は知ることはなかったが、一番仕事をしているのは彼女だったりもする。

 

「っく…、り、りしゃもはいてるの…?」

「あん?何の話?」

「毛糸の、その、ぱぱん…」

「ああ、毛糸パンツのこと?下に穿いてるわよ?流石にこれは短すぎだしねー」

「…ふえっ……」

「笛?」

「びえええええん!私も毛糸パンツほしいいぃいいいいい!!」

「え!?なになに、イキナリなによ?!」

 

―――唯はこの冬、里紗と毛糸パンツを買い行くことが決まった。

 

 

一方、その頃―――

 

 

「なんで俺がこんな目に……!」

 

秋人はひたすら皿を洗っていた。

洗っても洗っても、洗った先から汚れた皿に戻ってまた増える。ついさっき洗い終えた皿の山たちも、すぐさま汚れた皿の山と変わっていた。

 

「ホントに終りがあるのか!?この作業…!」

 

秋人は流し場の水桶の中に皿を放り込み、ただひたすら皿を洗っていた。軽く汚れを落として、皿洗い用のスポンジでゴシゴシと洗う。

 

これを何も考えられなくなるまで繰り返し、繰り返し繰り返し、繰り返し、繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し……やったのか!?光が、広がって―――

 

「アキト、ちょっと味見して貰える?はい、あーん」

「………んぐ、あつっ!ほふほふほひほふ!」

 

覚醒寸前だった洗い場担当、秋人の口に出来上がったばかりの品が放り込まれた。箸で摘んだ先にあった品は『鳥の唐揚げ』。一般的な家庭料理だが、店のメニューにはなかった品である。

 

「味の方はどうかしら?」

「…ウマい!普通にウマいと思う。内なる唯も『唐揚げコロコロおいしいな』って微妙なコメントしてる」

「そう?フフッ、それなら良かったわ。では、これもメニューに入れようかしら」

 

そう言ってセフィはころころと笑った。

 

「アキト、そこに置いてある料理はつまみ食い用ですから好きに食べなさいね?」

「イヤッフゥウウウ!!」

 

先程から様々な形でサポートしてくれているセフィに秋人は気づいていないが、(セフィ)は満足そうである。政務に多忙な母は息子とのレクリエーションを思う存分楽しんでいた。

 

「セフィさん!追加オーダーです、お願いします」

「あらあら、皆さんホントによく食べるわね。了解よ」

 

二人がいるキッチンへ舞い込むのは洗い物だけでなく、当然ながら料理の方も追加オーダーが山のように届けられる。その全てをセフィは一人でこなしていた。

 

焼きもの、揚げもの、蒸しもの――全てが同時に進められ、料理は味も見栄えも完璧なものである。一体なぜ彼女がココでバイトしているかなど、訊くだけ野暮である。

 

 

銀河一の美女・美少女が働くこの店では

 

「料理が上がったわ、お願いね」

「「「「はーい!」」」」

 

セフィが作り!!

 

「お待たせしましたご主人さま、手作りハンバーグですよ(ニコリ)」

「ケッ、モモのヤツぶりっ子ばっかりしやがって…」

「ナナちゃーん!こっち、この料理を運んでお願いっ!私、いま動けないから…」

「えっ!?アタシかっ!?よく分かんないけど、アタシに任せとけ!!」

 

バニーさんズが運び!!

 

「えヘヘーお願い、お兄ちゃん」

「うおぉおおお!やってやる!やってやるぞ!落ちろぉおお!」

 

秋人が洗う!!

 

 

――という伝説の黄金ラインが出来上がっていた。

 

 

「そして、唐揚げに喜んだはいいものの…洗い物で両手塞がってるから食えないな」

「それならお母さんが食べさせてあげるわ。食べたくなったら声をかけてね」

 

手元から一瞬目を離して、セフィはやんわり微笑んだ。

 

「食う時には『かあちゃーん』って呼べってのか?それはそれで恥ずかしいな…」

「あらあら、照れ屋さんね、アキトは…キッチンはお母さんしか居ないでしょう?誰も聞いてないわ」

「むぬぬ…!しかし、誰か来る可能性もあるわけで…でも腹は減ったし、美味いものは食いたい、だが洗い物は手を止めたらすぐに溜まるし……だがしかし!!」

「秋人さん、これもお願いします――何を悩んでるんですか?」

「おおっ?」

 

唸っている秋人に一人のメイドが声をかけた。

 

「よろしければ、メイドの美柑がお手伝いしますよ?」

「おお、サンキュな…って珍しくテンション高いな、美柑」

「ふふ、この服って戦闘服って感じで…捗りまくりです」

 

ぶいっとピースサインを作るメイドの美柑。弾けるような笑顔の上でうさ耳が揺れている。

 

美柑が着ているのはミニスカートにフリルの付いたエプロン、リボンで装飾されていて全体的に華やかな印象を与えるメイド服。胸元が強調されたデザインは彼女のスタイルの良さを最大限にアピールしている。セットになっている白いオーバーニーソックスも美柑の脚を美しく飾っていた。

 

「美柑さんや…手を使わずに食べるにはどうすればいいだろうか」

「手を使わずに…ですか?」

「これはもう口だけで行くしか方法が…っ!」

「犬みたいになりますね、それはちょっと止めたほうが…他の方法、うーん」

 

年齢の割に落ちついた雰囲気の"うさ耳メイド少女"、美柑が小首を傾げた。指で唇を押し上げる仕草が何とも言えず愛らしい

 

「やっぱり、誰かに食べさせてもらうのが手っ取り早いと思いますけど…」

「やっぱそれしかないのか…――はっ、つまみ食い用の料理は作戦か…!?」

 

秋人の背後でセフィがニヤリと黒い笑みを浮かべた。セフィは先程から"息子(秋人)に甘えられる"というシチュエーションを故意に作り続けている。

 

そう、唐揚げはセフィが秋人を餌付けするという目的の他に、お皿を下げてきたララや春菜が秋人へ食べさせることでイチャイチャへの心理的ハードルを下げる――という作戦があったのだ

 

「それにしてもどうしたんですか?いきなり」

「実はな、かくかくしかじかうまうま」

「なるほど、ここの唐揚げって"まかない"だったんですね。」

「ああ、いつでも食べていいらしいぞ」

「では、美味しそうなので遠慮なく」

「あっ!」

 

小さめの唐揚げを一つ摘むと、美柑はなんだか見せつけるようにもぐもぐ咀嚼する。

 

悪戯な笑みから驚き、そして歓喜へと美柑の表情が目まぐるしく変わる。そうして、白い喉を反らし「ん~っ!」と悩ましげな声で啼くと

 

「おいしいっ!これってば、すっっごい美味しいやつですよ!」

「お、おお…」

「すごいです!から揚げは私も得意料理だったんですけど…異次元の美味しさでした」

「…俺は普通にウマいとしか言えなかったが……完璧な食レポを見せつけられてしまった」

「配膳する他のお料理もきれいだし、どこの三ツ星料理店かと思ってましたけど…まさかこんなに美味しいなんて…」

「…聞いてたら、なんかすっごい腹へってきた…美柑、俺にそれを食べさ…」

「あのっ!セフィさん!」

「?なにかしら」

「すっごい美味しいです!よかったらコツを教えてください!」

 

主婦の血が騒いだのか、興奮気味の美柑がセフィを羨望の眼差しで見つめている。珍しくきょとんとするセフィは"あてが外れた"といった表情だ。

 

「勿論いいですよ。美柑さんにはララたちがお世話になっていますもの」

「やったっ!ありがとうございます!」

 

ガッツポーズをする美柑に微笑みで答え、セフィたちは料理について熱いトークを始めてしまった。

 

あれこれ質問する美柑にセフィは料理を作りながら丁寧に答え、まるで本当の親と娘のような雰囲気になっている。まあ、ハッキリ言って秋人が簡単に入れ込めるものではなかった。

 

ぐぅ~

 

「……洗い物します……」

 

暗い瞳の洗い場担当、秋人は流し場の水桶の中に皿を放り込み、ただひたすら皿を洗いはじめた。軽く汚れを落として、皿洗い用のスポンジでゴシゴシと洗う。

 

これを何も考えられなくなるまで繰り返し、繰り返し繰り返し、繰り返し、繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し………落ちろっ!この汚れめっ!…分かるまい!この泡を通して出る力が!

 

 

***

 

 

「ね、ね、ヤミおねえちゃん!私、やっぱりメイド姿が一番好みかも♪」

「…メア、変身(トランス)で服をころころ変えるのはやめなさい」

 

メイドのヤミがテーブルを拭きながら冷たく告げた。冷たいと区別がつくところが昔と大きく変わったところである。

 

「えー、だって面白いんだもーん♪それに私ってば遊撃隊でしょ?」

「…初めて聞きましたが」

「バニーはナナちゃんたちデビルーク組、サンタはハレンチ先輩たち二年生組、メイドはヤミお姉ちゃんと美柑ちゃんと、センパイの妹の三人組でしょ?」

「…なるほど、メアは変身(トランス)でどこの組にも入れるワケですか」

 

テーブルを片付けながら、ヤミは妹へチラリと視線を向けた。メイドのメアがくるりと回ってスカートを翻している。楽しげに回り続けるメアの姿は、ヤミから見ても天使か妖精が踊っているようにみえた。

 

「くるくるくるくるくる~♪」

「…目が回りますよ」

 

どこで話を聞きつけたのか、飛び入り参戦となったメアはこうしてはしゃぐばかりだが、誰にも咎められることはなかった。メア甘やかされる末っ子気質なのである。

 

「それよりメア、気づいていますか?店の周囲を覆う妙な気配に…」

「んー、キッチンの方から妙な気配がするけど?」

「…それは十中八九、アキトでしょう。皿洗いしすぎて悟ったとか"にゅーたいぷ"など言ってましたし…それではなく、外の方です。」

「んー……そうだねーいっぱい居るねー♪」

 

沢山のお菓子を前にした時のようにメアは楽しげに笑った。

 

「…ちょっと面倒なので、メアも手伝って下さい」

「りょーかいっ♪」

 

テーブルを片付け終えたヤミにメアはおどけて敬礼してみせる。しかし、それも一瞬の事、次なる興味を見つけたメアは窓の外へと目を向けた――月が見えている。白い月光が街へ降り注いでいた。

 

「わー!眩しいー♪お月さまだよ、ヤミお姉ちゃん」

「…ええ、キレイですね」

 

落ち着きのない妹の姿にヤミはフッと口元を綻ばせると、そのままキッチンへ去っていった。秋人にそれとなく注意しておく事と、ただ単に会いたいに行ったのだ。

 

 

「んー明るすぎるから、わたしは満月より三日月のほうが好きかなぁー♪」

 

一人、夜空を見上げるメアの眇めた瞳には妖しい輝きが宿っていた。

 

 

 

 

つづく

 




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【自サイト別作品連載中】
http://ju-den.online/

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2018/01/08 一部改訂

2018/01/11 一部改訂

2018/01/12 一部改訂




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