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おめでとう、俺。この研究施設のこの筒の中に閉じ込められてから1年が経った。
いや、そこまでめでたくもないか。
硝子越しから薄暗い部屋で忙しなく動いている研究者達を見る。
彼らにとっては記念すべき1年であるからか今日ばかりは研究の手を止め祝いあっている。
彼らが話す内容はどれも俺のことばかりだ。最も、内容が内容なので嬉しくはないが。
あれから1年経った俺の身体を見る。
1年前よりも一回り大きくなっているが動いていないからか少し痩せた感じがする。
改造に改造を重ねられた俺の身体は以前とは全く変わってしまった為、1年前と変わっていて当然なのだ。
「…………」
ここ1年、俺は言葉を発していない。口につけられている酸素マスクがあるからだ。
それ以外にも両手足からは無数の注射や手術の痕が繋がっている。肌の色も太陽光が一切入ってこない地下に閉じ込められているため真っ白になり、さながら化け物のようだ。
………自分で言っておいてだが今のは地味に悲しいな。
だが大きく変わったのはそれだけではない。
以前は黒髪だったが改造の過程で色素が抜け落ち真っ白になってしまった。
そして最も変わってしまったのは心臓付近、胸元だ。
今の俺の胸元には人間にはあるはずのないモノが埋め込まれている。
紅く、澄んだ、結晶が。仄かに、光を放つ、結晶が。人工的な、結晶が。最新兵器の、核が。
これが彼ら男性科学者達が追い求めた『理想』であり、『逆転の鍵(トリガー)』だ。
俺がここに売られた2日後に、その名を世界にとどろかせた最新パワードスーツ『インフィニット・ストラトス』、通称ISによってこの世界は大きく変わってしまった。
宇宙での活動を目的としたパワードスーツというコンセプトで発表されたこれは今までの歴史を大きく覆すようなものだった。
ミサイルが直撃しても耐え抜くことができ、物質の粒子化によってありとあらゆる機械を無傷で運ぶことができ、自由自在に空を飛ぶ。
しかし科学者達はそれを『子供の悪ふざけ』といってまともに見ることもせずに去ってしまった。
それからしばらくしてISは全世界にその名を知らしめた。
なにものかによる全国の防衛システムのハッキング、それによって全世界のミサイルが一か所に発射された。そこにはあのISが浮遊しており、瞬く間にすべてのミサイルを切り落としていった。
これを脅威をみた世界は出せる限りの戦闘機、ミサイルを使ってISを落としにかかった。
だが全世界の最新技術を総動員してのISの捕獲、撃墜作戦を純白のISは無傷で死者を出さずに失敗させたのだ。
これによって世界はISを最強の兵器として認識し、広まっていった。
そして現在、全世界に合計467程度しかないISの核を広げ、知らぬ者のない存在となった。ISは凄まじい速度で発展していった。兵器として。
世界はISの母、篠ノ之束の住んでいた日本にIS学園というものまで作ってしまった。
これによって世界はより発展していった。
しかしISにはある欠点があり、それもまた世界の常識を歪めてしまった。
それはISは女性にしか扱えないという致命的な欠点だ。
これによって
IS=女性しか扱えない=女性偉い
というおかしな式が成り立ち、ISが世界に知られて半年後にはIS学園が作られ、女尊男卑の風潮が広まってしまっていた。
これがISによる世界の改変だ。
研究者達が俺のことを『逆転の鍵(トリガー)』と呼ぶのはこのISが大きくかかわってくる。
俺は世界初の男性IS操縦者として再び世界を正す、勇者として作られてしまったわけだ。簡単に言ってしまえば男性の地位回復だ。
だから俺には最強のISコアが埋め込まれている。
シールドエネルギーを大幅に削り、その対価として、どんな攻撃も効かない最強の鎧を持ったISコアが。
研究者達は俺とISコアを一体化させ、ISネットワークを利用し、ISコアにありとあらゆる戦闘術、ISコアの情報を入れた。それはISネットワークとのリンクが切れない戦闘情報は他のISを通じて更新し続けられる。
一体化させなくとも男性のIS操縦は不可能ではない。
それはISの『制限』を解除するという方法だが、正規解除の方法は、ISの母である篠ノ之束しか知らないことである。研究者が知ることができたのは、ISコアに連続して拒絶反応を起こして、コアの意識や情報諸共制限を消し去ること、それだけである。
しかも脳からの神経などを直接接続しなければならなかった。
よって、コアとの一体化しかなかったのだ。
もちろんながら、拒絶反応を起こした奴もいた。ここに集められた俺以外の実験体の数々だ。
全世界の孤児や奴隷を買収、最悪の場合は店主を殺して奪ってきた人々。彼らは次々と実験室に連れて行かれた。そして、俺の前に入った彼らが戻ってくることはなかった。
拒絶反応で死んだ人間は俺の知るだけで万以上いた。
俺は拒絶反応を示さなかった。だから余ってしまった実験体は皆、廃棄されてしまった。
誰一人、救えなかった。
もちろん俺にも苦労はあった。
いままでISが担ってきた武装の粒子化の維持をしなければならなかったからだ。
そのせいでしばらくの間、不眠状態が続いた。
だが、研究者達の行った脳の急速適応化改造によって、無意識での維持に成功した。
そうして俺はISに適応した肉体に改造されていった。
そして今日、あの日からちょうど1年後に完成した。
この記念すべき(?)日に俺はふと思考へと意識を巡らせてみた。
勇者として作られてしまったとしても高々1人では全世界のISコアから『制限』を解除しきれないんじゃないか?
ならばどうすれば…………
…………
…………
…………そうか。
少し考えれば簡単に分かったじゃないか。
全ての元凶を断てばいいんだ。
例えそれが研究者達の思惑通りになったとしても。
俺をこんな体にしたアイツを、俺をここに送り込んだアイツを、ISを生み出したアイツを、ここで死んでいった実験体の為にも、この手で消してしまえばいいんだ。
俺の勇者としての役目は、ISにかかっている『制限』を解除することにある。ついでで篠ノ之束を殺してしまっても構わないだろう。
俺は目を見開いた。
胸元の結晶が強い輝きを放ち始める。
異変に気付いた研究者達はすぐさま暴走阻止プログラムと己の技術を駆使し、俺を抑えにかかる。だがそんなもの、簡単にすりぬいてゆく。
輝きは強さを増していき、手遅れだと察した者から研究所から逃げていく。
もう、遅い。
次の瞬間、光はこの研究所を中心に2kmを包み、壊滅させた。
クレーターの中心には漆黒を纏った騎士がいた。
騎士は闇夜へと溶けるように空へと消え去った。